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サイクスの効率化編
第22話 - 大食漢(グラトニー)
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「ったく、やってらんねぇぜ」
ライオンの鬣の様に小麦色に染められた髪に、よく日に焼けた筋骨隆々の若い男が建設現場の休憩所で座り込む。
男の名は樋口 兼。小野建設で建設作業員として働く26歳だ。
「なぁ、超能力を使えない俺らが肉体労働やっててあいつみたいな超能力者が現場監督だったり、建築家だったりすんのっておかしくね? なぁお前も思うよなぁ、泉?」
現場監督である中田 淳の方を顎で指しながら3歳後輩の泉 浩介に声をかける。
「いや、あの僕は超能力使えるんですけど……」
「オメェは力仕事やってっから良いんだよ。てかお前サイクス量少ねぇから俺らとあんまり変わんねぇから良いんだよ」
そう言って樋口は泉の背中を大笑いしながら叩く。泉は迷惑そうに横目で樋口を見る。
「ほら、樋口さん続きやりますよ」
「へいへい」
2人は再び持ち場に戻る。
「(けっ、サイクスがあるか無いかで扱い変わるのなんて納得いかねぇぜ。元々サイクスなんて存在しなかったんなら俺らの方がオリジナルじゃねーかクソ)」
樋口はふと現場から遠くにそびえ立ち、微かに視界に捉えることが出来る巨大な建物に目をやる。
「(あれがサイクス第二研究所だな……あぁいう頭が良い連中がサイクスは素晴らしいとか何とか言って声高に言うからいけねぇんだよチクショウ。腕っぷしなら自信あんだけどなぁ。あいつらのサイクスを奪えねぇもんかなぁ)」
樋口の中でサイクス第二研究所に対する憎しみが増していく。また、日頃から感じている一般人と超能力者との差にもイラつきが収まらない。
ここ最近よく夢を見る。夢の中では自分は超能力を使い、これまで妬んできた連中に恨みを晴らしている。初めの頃は超能力者に対して嫌悪感を抱いているにも関わらず夢の中ではサイクスを使っていることに矛盾を感じていた。
しかし今では寧ろ自分を犠牲にして超能力者になり非超能力者を救う救世主であるかのように感じている。
「(これが現実になったらなぁ)」
安全管理の為に現場を廻り、鉄骨を"超常現象"を使って支えながら指導をしている中田の背中を睨みつける。
「(クソが)」
樋口は自身の内側から何か熱いものを感じ始めた。同時に酷い空腹感が広がった。
「(腹……減ったな……)」
空腹に耐えられず樋口の目が血走る。目の前の中田の肉体から食欲を唆る光る何かが見え始める。
「(何だ……中田の身体の周りから何かが流れてるのが見える。何だあれ。美味そうだな……食いてぇ……)」
––––"大食漢"
樋口の身体から溢れ出したサイクスがまるで意思を持っているかのように動き出す。それは人の口を模した形へと変貌し、中田のサイクスに食らいついた。中田のサイクは大半を食われ、それは樋口のサイクスに融合した。
中田は自分の身体に異変を感じる。
「(何だ……? サイクスが……)」
鉄骨を支えていたサイクスが微弱になり限界が近付く。
「まず……」
瞬間、鉄骨が中田の頭上に落下する。
現場が騒然とする。
その中で樋口は満腹感に幸福を感じていた。
「(何だこれ……こんな美味いモン今まで食ったことねぇ)」
樋口は他の超能力者にの方を見る。これまで見えなかった生命エネルギーのようなものが見えるようになっている。
「(これが……サイクスか……?)」
その日、樋口兼と同じ現場で建設業者として働く超能力者13名のうち中田を含めた4名はサイクスのコントロールを失い事故により死亡、残り9名は身体の不調を訴え病院へと搬送された。
#####
瑞希は訓練室Aで目を閉じて直立して静止して動かない。
15分後、瑞希の全身から汗が噴き出し、瞼が震え始め、膝をつく。
「ハァ……ハァ……」
激しく息を切らし、体内に留めていたサイクスが一気に放出される。そこで瑞希は再び目を閉じて肉体の周りに留めようと取り組む。
インナー・サイクスの維持、持続が切れた後のアウター・サイクスへの切り替えの訓練だ。
「上達してきてるわよ」
花は瑞希の肩を優しくトンッと叩く。
瑞希は少し頷き、息を整えてジャージの上着を脱ぎ、スポーツブラが露わになる。和人の前では恥ずかしさがあり上を脱いだりしないが、彼は体術の訓練を別室で行っている。インナー・サイクスとアウター・サイクスの上達度、武術への経験度を考慮して別のプログラムが組まれている。
「1枚脱ぐだけでも大分体感温度違いますねっ」
瑞希が汗をタオルで拭きながら花に話しかける。
「そうね。大分感覚が変わると思うわよ」
瑞希が少し考え事を始める。
「どうしたの?」
「いや……何だか私のサイクスに似てるなって」
「どういうこと?」
瑞希は少し考え、
「普段は上着を着てる感じでp-Phoneを出した状態はそれを脱いでる感じ。軽さも違うし何だか温度も違う感じするし」
瑞希はそう言ってp-Phoneの出し入れを繰り返しながらサイクスの感覚を確かめる。
「(何だか掴めてきた?)」
瑞希は立ち上がって200PBの状態でアウター・サイクスを始めた。それを見た花が目を見開く。
「(一気に瑞希のサイクスの安定感が増した!?)」
瑞希はそのままp-Phoneを発動しそのままアウター・サイクスを切り替える。これまでより遥かにスムーズに移行した。
「瑞希……!?」
「先生!」
瑞希が笑顔を向ける。
「何だか洋服のイメージだとやりやすいかも!」
瑞希は超能力の特性上、2種類のサイクスを扱っている。200PBは上着を着用している状態、50PBはその上着を脱いだ状態というイメージを持つことでサイクスの安定感が増したのだ。
「(感覚を掴んだのね。瑞希は2種類のサイクスを扱うために単純に他の超能力者の2倍の作業量。こんな2週間ちょっとで掴むなんてとんでもないわね)」
「瑞希、疲れているかもしれないけどその感覚を完璧に自分のものにしましょう!」
「はい!」
瑞希は目を閉じ、この感覚を逃すまいとアウター・サイクスに集中し始めた。
ライオンの鬣の様に小麦色に染められた髪に、よく日に焼けた筋骨隆々の若い男が建設現場の休憩所で座り込む。
男の名は樋口 兼。小野建設で建設作業員として働く26歳だ。
「なぁ、超能力を使えない俺らが肉体労働やっててあいつみたいな超能力者が現場監督だったり、建築家だったりすんのっておかしくね? なぁお前も思うよなぁ、泉?」
現場監督である中田 淳の方を顎で指しながら3歳後輩の泉 浩介に声をかける。
「いや、あの僕は超能力使えるんですけど……」
「オメェは力仕事やってっから良いんだよ。てかお前サイクス量少ねぇから俺らとあんまり変わんねぇから良いんだよ」
そう言って樋口は泉の背中を大笑いしながら叩く。泉は迷惑そうに横目で樋口を見る。
「ほら、樋口さん続きやりますよ」
「へいへい」
2人は再び持ち場に戻る。
「(けっ、サイクスがあるか無いかで扱い変わるのなんて納得いかねぇぜ。元々サイクスなんて存在しなかったんなら俺らの方がオリジナルじゃねーかクソ)」
樋口はふと現場から遠くにそびえ立ち、微かに視界に捉えることが出来る巨大な建物に目をやる。
「(あれがサイクス第二研究所だな……あぁいう頭が良い連中がサイクスは素晴らしいとか何とか言って声高に言うからいけねぇんだよチクショウ。腕っぷしなら自信あんだけどなぁ。あいつらのサイクスを奪えねぇもんかなぁ)」
樋口の中でサイクス第二研究所に対する憎しみが増していく。また、日頃から感じている一般人と超能力者との差にもイラつきが収まらない。
ここ最近よく夢を見る。夢の中では自分は超能力を使い、これまで妬んできた連中に恨みを晴らしている。初めの頃は超能力者に対して嫌悪感を抱いているにも関わらず夢の中ではサイクスを使っていることに矛盾を感じていた。
しかし今では寧ろ自分を犠牲にして超能力者になり非超能力者を救う救世主であるかのように感じている。
「(これが現実になったらなぁ)」
安全管理の為に現場を廻り、鉄骨を"超常現象"を使って支えながら指導をしている中田の背中を睨みつける。
「(クソが)」
樋口は自身の内側から何か熱いものを感じ始めた。同時に酷い空腹感が広がった。
「(腹……減ったな……)」
空腹に耐えられず樋口の目が血走る。目の前の中田の肉体から食欲を唆る光る何かが見え始める。
「(何だ……中田の身体の周りから何かが流れてるのが見える。何だあれ。美味そうだな……食いてぇ……)」
––––"大食漢"
樋口の身体から溢れ出したサイクスがまるで意思を持っているかのように動き出す。それは人の口を模した形へと変貌し、中田のサイクスに食らいついた。中田のサイクは大半を食われ、それは樋口のサイクスに融合した。
中田は自分の身体に異変を感じる。
「(何だ……? サイクスが……)」
鉄骨を支えていたサイクスが微弱になり限界が近付く。
「まず……」
瞬間、鉄骨が中田の頭上に落下する。
現場が騒然とする。
その中で樋口は満腹感に幸福を感じていた。
「(何だこれ……こんな美味いモン今まで食ったことねぇ)」
樋口は他の超能力者にの方を見る。これまで見えなかった生命エネルギーのようなものが見えるようになっている。
「(これが……サイクスか……?)」
その日、樋口兼と同じ現場で建設業者として働く超能力者13名のうち中田を含めた4名はサイクスのコントロールを失い事故により死亡、残り9名は身体の不調を訴え病院へと搬送された。
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瑞希は訓練室Aで目を閉じて直立して静止して動かない。
15分後、瑞希の全身から汗が噴き出し、瞼が震え始め、膝をつく。
「ハァ……ハァ……」
激しく息を切らし、体内に留めていたサイクスが一気に放出される。そこで瑞希は再び目を閉じて肉体の周りに留めようと取り組む。
インナー・サイクスの維持、持続が切れた後のアウター・サイクスへの切り替えの訓練だ。
「上達してきてるわよ」
花は瑞希の肩を優しくトンッと叩く。
瑞希は少し頷き、息を整えてジャージの上着を脱ぎ、スポーツブラが露わになる。和人の前では恥ずかしさがあり上を脱いだりしないが、彼は体術の訓練を別室で行っている。インナー・サイクスとアウター・サイクスの上達度、武術への経験度を考慮して別のプログラムが組まれている。
「1枚脱ぐだけでも大分体感温度違いますねっ」
瑞希が汗をタオルで拭きながら花に話しかける。
「そうね。大分感覚が変わると思うわよ」
瑞希が少し考え事を始める。
「どうしたの?」
「いや……何だか私のサイクスに似てるなって」
「どういうこと?」
瑞希は少し考え、
「普段は上着を着てる感じでp-Phoneを出した状態はそれを脱いでる感じ。軽さも違うし何だか温度も違う感じするし」
瑞希はそう言ってp-Phoneの出し入れを繰り返しながらサイクスの感覚を確かめる。
「(何だか掴めてきた?)」
瑞希は立ち上がって200PBの状態でアウター・サイクスを始めた。それを見た花が目を見開く。
「(一気に瑞希のサイクスの安定感が増した!?)」
瑞希はそのままp-Phoneを発動しそのままアウター・サイクスを切り替える。これまでより遥かにスムーズに移行した。
「瑞希……!?」
「先生!」
瑞希が笑顔を向ける。
「何だか洋服のイメージだとやりやすいかも!」
瑞希は超能力の特性上、2種類のサイクスを扱っている。200PBは上着を着用している状態、50PBはその上着を脱いだ状態というイメージを持つことでサイクスの安定感が増したのだ。
「(感覚を掴んだのね。瑞希は2種類のサイクスを扱うために単純に他の超能力者の2倍の作業量。こんな2週間ちょっとで掴むなんてとんでもないわね)」
「瑞希、疲れているかもしれないけどその感覚を完璧に自分のものにしましょう!」
「はい!」
瑞希は目を閉じ、この感覚を逃すまいとアウター・サイクスに集中し始めた。
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