TRACKER

セラム

文字の大きさ
96 / 172
夏休み後編

第94話 - 信頼

しおりを挟む
––––"煙が目にしみるスモーク・ゲッツ・イン・ユア・アイズ"!

 町田が使用する自然科学型超能力。両手の平を擦り合わせることで発動する超能力で周囲を煙で包み込む。発動する際、大きな破裂音と共に閃光が発生し、スモークグレネードとスタングレネード両方の役割を果たす。
 連発は不可能で、10分間のインターバルが必要で1日に4度しか使用することが出来ない。また、発動前に目と耳にサイクスを集中することで影響を避けることが可能である。

 町田は瑞希、和人、金本にこの超能力の存在を事前に共有し、近藤組に追い込まれた場合に発動することを伝えていた。

 しかし、誤算があった。

 エレベーターから姿を現した近藤とその部下2人はレンズを初めから使用していたために目くらましの影響を受けなかった。

「(なっ、爆発音!? 爆弾でも仕掛けられたか!?)」

 近藤は耳にサイクスを集中させていなかったために破裂音の影響を受けて一瞬怯むものの瑞希、和人、町田の3人がその場から離れた様子を視界に捉える。そしてただ1人、別方向へと向かう影を見る。

「(孤立しとるあいつをやるか)」

 瑞希は迷いなく階下へ続く階段に向かう。

「背中がガラ空きやぜ、お嬢ちゃん!」

 近藤がサイクスを込めた拳で瑞希を殴りかかりに向かう。瑞希は尚も振り返ることなく走る。

––––"弓道者クロス・ストライカー"・"雷光ライトニング"

 瑞希と近藤の間にあるスペースに矢が刺さり、眩ゆい光を放つ。

「何や!?」

 和人は直ぐに距離を詰めて顔面に右ストレートを見舞う。近藤が一瞬、怯んだ隙に階段の方へと目をやると瑞希が少し微笑みながら何かを呟いたのを見て和人も短い瞬きで応じ、近藤を蹴ってその勢いで距離を取った。

「痛ェな……」

 最後の蹴りは左手で防御したものの初めの拳を諸に受けており、近藤はペッと血が混じった唾を地面に吐き出す。

 事前の打ち合わせでは町田の超能力が発動したら全員で同じ方向へと逃れて態勢を整える予定だった。
 しかし、発動直前、和人の"第六感シックス"と瑞希のサイクスはエレベーターの中にいた近藤たちのサイクスを感知していた。

––––今、船内部の警備は手薄

 2人は近藤が上甲板に現れたことで人質である結衣と萌の警備が手薄であると理解する。どちらが行くか話し合う時間は無かったものの、瑞希が階段へと向かう様子を見た和人は瑞希の思惑を悟り、近藤の足止めに徹した。

「(和人君ありがとう)」

 瑞希は和人の考えを察知、和人からの援護を信じて振り返ることなく真っ直ぐに階下へと向かった。

「弓矢の超能力か」

 近藤は軽く咳払いした後に和人に相対あいたいする。

「恐らくは殺傷能力の高い矢もあるんやろうけど、避けられるのを警戒して目眩しの矢にして接近戦で時間を稼いだんやろ?」

 片腕を失った近藤だがそれでも尚、力強いサイクスを纏う。

「俺が背中を向けた時に強い矢を放たなかったこと、後悔するばい」

 そう言うや否や和人の目の前に現れ、左手だけでラッシュを見舞う。そのスピードとパワーは和人に反撃の隙を与えず、"弓道者クロス・ストライカー"をも発動させる時間を与えない。和人の鳩尾みぞおちに前蹴りを思い切り見舞い、その勢いで和人は吹き飛ぶ。

「おう、そっちは気ィ付けえよ」

「!?」

 仕掛けられた機雷の方へと誘導されており、衝撃機雷が起動、和人にダメージを与える。

「ハァ……ハァ……」

 既に和人は息切れし、近藤の強さに驚愕する。

「(強い……! 片腕を失って明らかに消耗しているのにこの強さ。万全な状態だと勝ち目が無いかもしれない)」

 近藤の戦法は単純である。和人の超能力ちからが弓矢であることに気付いた時点で発動する隙を与えないように近接戦へと持ち込む。また、物質生成型超能力者である事とサイクスがまだ未熟である事からも身体刺激型である自身に分があると判断した。

「(時間はかけてられん)」

 海中での戦闘から完全に回復しきっていないため、なるべく素早く処理することを念頭においている。近藤は和人が皆藤を処理した超能力者とは見なしておらず、その超能力者との戦闘を踏まえてなるべく温存しようと考えている。

 近藤は再び和人との距離を詰めて打撃と機雷で追い詰め、やや一方的な展開が続く。

「(あと約5分!)」

 和人は町田の超能力発動までのインターバルを意識しながら近藤の連撃に耐える。

––––"火力増強銃バースト・ショット"!

 コンテナ船へと辿り着いた田川の射撃が2人の間を横切る。

「今度は何や!?」

––––"弓道者クロス・ストライカー"・"衝撃インパクト"!

 一瞬の隙を突いた和人が衝撃の矢を近藤の腹部に命中させる。

「このクソガキがああ!」

 近藤が咆哮を上げた直後、上り切ろうとした血が捉えた影によって一瞬止まる。

「皆藤! おま……」

 続く言葉を発する前に近藤は、皆藤の右腕に逆手持ちで持ったナイフが振り向きざまに自分の胸に伸びてきていることに気付いた。近藤は躱すことに成功するも包帯が巻かれた右腕に刺さる。
 
「ぐうぅっ!」

 止血した傷口から再び血が流れ始める。

"弓道者クロス・ストライカー"・"捕獲シーザー"!!

 近藤の身体6箇所からサイクスの筋が伸び、それが結合して和人の右手へと向かう。和人はそれを掴むと従来通りに両手で弓矢を模して近藤に矢を向け、自分のサイクスを更に込めながら撃ち放つ。

 その矢は近藤に直撃し、眩い光を放ちながら近藤の身体を包み込む。

「(数が少ないけど……! 頼む! これで何とか止まってくれ!)」

 和人はそう願いつつ近藤の様子を静観する。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

神様の許嫁

衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。 神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。 一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。 ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。 神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。 *** 1部完結 2部より「幽世の理」とリンクします。 ※「幽世の理」と同じ世界観です。 2部完結 ※気まぐれで短編UP

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

処理中です...