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夏休み後編
第97話 - 覚悟
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町田が2回目の"煙が目にしみる"を発動した直後、和人は痛みを押さえながら立ち上がり周りの近藤の部下の排除に向かう。
「("私とあなたの秘密"を発動していても周りの連中からは花さんの姿のまま見えている。リスクを失くすためにも周りを排除しなければ)」
和人は花の行動を見て直ぐさま自身の超能力を発動し、花と近藤の1対1の状況を作り出した田川の瞬発力に驚嘆する。
「(正直に言うとサイクスの潜在能力だけを見れば花さんにも町田さんにも田川さんにも俺は負けてない。けど……)」
百道浜から始まった一連の出来事において3人との大きな差を身に染みて感じている。
*****
「霧島、お前しばらく徳田にくっ付いとけ」
藤村は課長室の椅子に座り、机に雑に置かれている大量のMT (マテリアル・タブレット: 各事件ごとにデータがまとめられているタブレット型資料)やその他、電子機器を面倒くさそうに掻き分け、煙草を灰皿に押し付けながら和人に告げる。
「あ、はい」
少し驚いた様子の和人を見ながら藤村は「ニッ」と笑いながら尋ねる。
「何か不満か?」
和人は少し考えた後に答える。
「いえ、関係も長いことを考えると瀧さんなのかなと思っていましたので」
藤村は頬杖を突き、もう片方の手でライターの蓋を開閉させて遊びながら答える。
「今のお前には徳田の方が学ぶべきことが多いぜ。あいつの立ち回り、判断力。しっかり見とけよ。力のごり押しはそれを学んでからで良い」
*****
「(俺は右腕を失った近藤に手も足も出なかった。けど花さんは有利な状況を作り出してあの近藤を圧倒している)」
和人は煙に紛れて手下の1人を気絶させながらレンズで花と近藤の様子を窺う。
その後の10分間の花と近藤が攻防を繰り広げる中、和人も花と同じく決定打が無いことに気付いていた。
「(花さんは地下シェルターを単独で制圧しつつ、近藤組の主力ほぼ全員を相手にしている。また、前日までは別の任務にあたっていた。流石にサイクスの消費が激しい。田川さんが不在の今、近藤に最後の一撃を与えられる超能力があるのは俺の"弓道者"しかない。でも……)」
––––俺に出来るのか?
自身の超能力の使用を最小限にしつつ、打撃のみで近藤は和人を圧倒した。それによって生じた和人の精神的ダメージは果てしなく大きい。
また、近藤を圧倒する花。その高次元な戦闘に果たして自分が通用するのか。
「花さん……!!」
心が挫けそうになる和人が視界に捉えたのは"私とあなたの秘密"が維持出来なくなり、近藤の前で無防備に片膝をつく花の姿。
「(行かなきゃ……!)」
そう思いながらも近藤の左拳に込められたサイクスの強大さに足がすくみ、身体が硬直する。
「(動け……! 動けよ!)」
––––"決断しなよ"
突然、和人に何者かの声が響き渡る。
––––"じゃないと全てを失うことになるよ?"
声の主を確認する前に和人の脳裏に様々な顔が浮かぶ。両親の顔、高校の友人たちの顔、瀧の顔、花の顔、そして瑞希の顔。
町田が3度目の"煙が目にしみる"を放つとほぼ同時に和人のサイクスが跳ね上がる。そのサイクスを一気に両手に集中させる。
––––"弓道者"・"穿通"
和人が現在持つ5種類の矢の内で最も殺傷能力が高く、チャージ時間によって威力が増加する。5秒以上の時間があれば人間の身体に風穴を開けるのに十分な威力を発揮する。故に和人はこの矢を人間に対して放つ勇気をこれまで持つことが出来なかった。
「(俺がやるんだ!)」
目の前の強敵、窮地に立たされた師の姿。そしてこれから幾多も経験するであろう困難に対する"覚悟"が和人に"勇気"をもたらし、サイクスと呼応する。
––––新たな第一覚醒超能力者が誕生した
和人が纏う黄色いサイクスは町田のスモーク内でも眩い輝きを放つ。
「そんな隙の大き技、当たるはずないやろ」
近藤がそう言い終わらないうちに大型コンテナ船の船底より、黒い特異型サイクスが大量に溢れ出る。その強大なサイクスはコンテナ船にいる誰もが経験したことがない不穏を含んでいた。
––––ズズズ……
特異型サイクスは瞬く間に大型コンテナ船全体を包み込み、その場にいる者達全員を釘付けにする。
––––キイイィィィ!!!
その特異型サイクスの宿主を瞬時に理解し、更に覚醒した和人は直ぐさま頭を切り替え、近藤に矢を当てることに集中。その矢の輝きは更に増し、強力なサイクスを孕んだまま近藤に一直線に放たれる。
「ぐぬうぅぅ!!」
近藤も例外なく黒いサイクスの影響で身体が固まるものの、目の前に迫る脅威に対して我に返り、回避することを諦めて咄嗟に全てのサイクスを纏って受け切ることを選択した。
強力な矢を受け止めることに成功した近藤ではあるものの、足に込められたサイクスが足りず、徐々に後ろへと押し出される。
「(クソ……! 抑えられん! 足にサイクスを移すと身体を貫かれて寧ろ致命傷になる……!)」
第二覚醒で強化された肉体を得た近藤であっても和人の矢はそれを凌ぐ力を宿し、無慈悲に近藤を襲う。
「チッ」
近藤はあらゆる方法を考えつつも和人の矢に押し切られ、そのまま船を破壊しつつ海へと吹き飛ばされた。
和人を含めたその場の全員が近藤の行方を目で追い、勝利を確信する。和人は弓を放った姿勢のまま彼方を見つめる。
戦闘による衝撃で足下に落としていた和人の携帯が黒いサイクスを纏っていた事実をこの場にいる者たちは誰も気付いていなかった。
#####
コンテナ船内・居住区7階
既に瑞希は萌と結衣が捕らわれていた部屋を特定し、鎖を解くことに成功していた。その場に座り込んで上着を気を失っている結衣に羽織らせ、同じく気を失っている萌の2人を優しく抱きかかえていた。
その優しい所作とは裏腹に、月島瑞希の震えるその身体からは悲しみと怒りを内包したサイクスが2人を傷付けた者を求めて徐々に船内を侵食していった。
「("私とあなたの秘密"を発動していても周りの連中からは花さんの姿のまま見えている。リスクを失くすためにも周りを排除しなければ)」
和人は花の行動を見て直ぐさま自身の超能力を発動し、花と近藤の1対1の状況を作り出した田川の瞬発力に驚嘆する。
「(正直に言うとサイクスの潜在能力だけを見れば花さんにも町田さんにも田川さんにも俺は負けてない。けど……)」
百道浜から始まった一連の出来事において3人との大きな差を身に染みて感じている。
*****
「霧島、お前しばらく徳田にくっ付いとけ」
藤村は課長室の椅子に座り、机に雑に置かれている大量のMT (マテリアル・タブレット: 各事件ごとにデータがまとめられているタブレット型資料)やその他、電子機器を面倒くさそうに掻き分け、煙草を灰皿に押し付けながら和人に告げる。
「あ、はい」
少し驚いた様子の和人を見ながら藤村は「ニッ」と笑いながら尋ねる。
「何か不満か?」
和人は少し考えた後に答える。
「いえ、関係も長いことを考えると瀧さんなのかなと思っていましたので」
藤村は頬杖を突き、もう片方の手でライターの蓋を開閉させて遊びながら答える。
「今のお前には徳田の方が学ぶべきことが多いぜ。あいつの立ち回り、判断力。しっかり見とけよ。力のごり押しはそれを学んでからで良い」
*****
「(俺は右腕を失った近藤に手も足も出なかった。けど花さんは有利な状況を作り出してあの近藤を圧倒している)」
和人は煙に紛れて手下の1人を気絶させながらレンズで花と近藤の様子を窺う。
その後の10分間の花と近藤が攻防を繰り広げる中、和人も花と同じく決定打が無いことに気付いていた。
「(花さんは地下シェルターを単独で制圧しつつ、近藤組の主力ほぼ全員を相手にしている。また、前日までは別の任務にあたっていた。流石にサイクスの消費が激しい。田川さんが不在の今、近藤に最後の一撃を与えられる超能力があるのは俺の"弓道者"しかない。でも……)」
––––俺に出来るのか?
自身の超能力の使用を最小限にしつつ、打撃のみで近藤は和人を圧倒した。それによって生じた和人の精神的ダメージは果てしなく大きい。
また、近藤を圧倒する花。その高次元な戦闘に果たして自分が通用するのか。
「花さん……!!」
心が挫けそうになる和人が視界に捉えたのは"私とあなたの秘密"が維持出来なくなり、近藤の前で無防備に片膝をつく花の姿。
「(行かなきゃ……!)」
そう思いながらも近藤の左拳に込められたサイクスの強大さに足がすくみ、身体が硬直する。
「(動け……! 動けよ!)」
––––"決断しなよ"
突然、和人に何者かの声が響き渡る。
––––"じゃないと全てを失うことになるよ?"
声の主を確認する前に和人の脳裏に様々な顔が浮かぶ。両親の顔、高校の友人たちの顔、瀧の顔、花の顔、そして瑞希の顔。
町田が3度目の"煙が目にしみる"を放つとほぼ同時に和人のサイクスが跳ね上がる。そのサイクスを一気に両手に集中させる。
––––"弓道者"・"穿通"
和人が現在持つ5種類の矢の内で最も殺傷能力が高く、チャージ時間によって威力が増加する。5秒以上の時間があれば人間の身体に風穴を開けるのに十分な威力を発揮する。故に和人はこの矢を人間に対して放つ勇気をこれまで持つことが出来なかった。
「(俺がやるんだ!)」
目の前の強敵、窮地に立たされた師の姿。そしてこれから幾多も経験するであろう困難に対する"覚悟"が和人に"勇気"をもたらし、サイクスと呼応する。
––––新たな第一覚醒超能力者が誕生した
和人が纏う黄色いサイクスは町田のスモーク内でも眩い輝きを放つ。
「そんな隙の大き技、当たるはずないやろ」
近藤がそう言い終わらないうちに大型コンテナ船の船底より、黒い特異型サイクスが大量に溢れ出る。その強大なサイクスはコンテナ船にいる誰もが経験したことがない不穏を含んでいた。
––––ズズズ……
特異型サイクスは瞬く間に大型コンテナ船全体を包み込み、その場にいる者達全員を釘付けにする。
––––キイイィィィ!!!
その特異型サイクスの宿主を瞬時に理解し、更に覚醒した和人は直ぐさま頭を切り替え、近藤に矢を当てることに集中。その矢の輝きは更に増し、強力なサイクスを孕んだまま近藤に一直線に放たれる。
「ぐぬうぅぅ!!」
近藤も例外なく黒いサイクスの影響で身体が固まるものの、目の前に迫る脅威に対して我に返り、回避することを諦めて咄嗟に全てのサイクスを纏って受け切ることを選択した。
強力な矢を受け止めることに成功した近藤ではあるものの、足に込められたサイクスが足りず、徐々に後ろへと押し出される。
「(クソ……! 抑えられん! 足にサイクスを移すと身体を貫かれて寧ろ致命傷になる……!)」
第二覚醒で強化された肉体を得た近藤であっても和人の矢はそれを凌ぐ力を宿し、無慈悲に近藤を襲う。
「チッ」
近藤はあらゆる方法を考えつつも和人の矢に押し切られ、そのまま船を破壊しつつ海へと吹き飛ばされた。
和人を含めたその場の全員が近藤の行方を目で追い、勝利を確信する。和人は弓を放った姿勢のまま彼方を見つめる。
戦闘による衝撃で足下に落としていた和人の携帯が黒いサイクスを纏っていた事実をこの場にいる者たちは誰も気付いていなかった。
#####
コンテナ船内・居住区7階
既に瑞希は萌と結衣が捕らわれていた部屋を特定し、鎖を解くことに成功していた。その場に座り込んで上着を気を失っている結衣に羽織らせ、同じく気を失っている萌の2人を優しく抱きかかえていた。
その優しい所作とは裏腹に、月島瑞希の震えるその身体からは悲しみと怒りを内包したサイクスが2人を傷付けた者を求めて徐々に船内を侵食していった。
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