TRACKER

セラム

文字の大きさ
163 / 172
番外編②後編 - GOLEM / SHADOW編

番外編②-26 – 霧島流心武源拳

しおりを挟む
「如何にも。俺の名は内倉祥一郎だ」

 内倉はそれまで身体を覆っていた赤い鎧を解き、それまで装着していた石のようにゴツゴツした無表情の仮面を取って瀧に告げる。

「やけに素直じゃねーか」

 瀧は内倉を真っ直ぐに見つめながら言う。

「ふっ……。もう足掻いても無駄だろう。徳田花を最初に逃した時点でな」

 少し穏やかな表情を見せる内倉に対して瀧は複雑な心境を持ちながら尋ねる。

「牧田くんがDEEDの連中に……乱暴に扱われていたのを見て冷静さを失ったってのは本当か?」

 内倉は黙ったまま答えようとしない。

「何故……そんな人間的な側面を見せる? お前たちは相手に情なんて送らないだろう?」

 内倉は瀧の話を聞きながら少しだけ笑い、言葉を発する。

「分かっているんだろう? 暇潰しさ。俺たち十二音は常に心の渇きを嫌う。心に潤いをもたらすために自分たちが不利になることだってやるさ。暇しない方を選択するのさ」

 瀧は内倉の返答に対して納得しない。

「それなら何故俺と合わせるように闘った? 牧田くんの身の安全や周囲への被害を考えてじゃないのか? そもそも楽しむのが目的ならばDEEDなんて利用せずに一般人を襲って血を集めりゃ良いじゃねーか。月島の妹を気にしたんじゃねーかって話が出てたが、たかだか15歳だぞ?」

 瀧の中で消化しきれていなかった疑問が一気に溢れ出す。内倉はそれを黙って聞いている。その表情はまるで学校生活に不満を持つ生徒をたしなめているかのようである。

「何なら教師なんかに拘らなくたって良かっただろ? それに血だってそんなに大量に必要ないだろ?」
「必要なんだよ」

 内倉はここで初めて瀧の話を遮り、更に語気に力が籠る。

「もうお喋りは終わりで良いか? これからは本気でやれる」

––––ゴゴゴゴ……

 内倉のサイクスが赤く力強く輝きだす。

「何故、俺がさっきまでお前のペースに合わせた戦闘をしていたか疑問に思っていたな?」

––––"俺の血となり肉となれマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン"

 内倉の屈強な肉体がうねり、赤く染まって巨大化した筋肉の表面を内倉の圧倒的なサイクスが覆う。その力強さは先ほどまで瀧が対峙していた内倉と同一人物とは思えないほどの殺気を孕む。

「本気を出せない強者を相手に勝利してもただの恥だろう?」

 内倉の顔がサイクスで具現化された赤い鎧で覆われる。

「これで言い訳出来ないぞ? 本気で来い。捻り潰してやるよ」

––––ゴゴゴゴ

 瀧は内倉の挑発には動じないもののその纏われた強大なサイクスに対して瀧も膨大なサイクスで持って対峙する。

––––"血と汗の結晶レッド・ドラゴン"

 瀧は右手に真紅に輝くガントレットを構える。"血と汗の結晶レッド・ドラゴン"に込められているサイクスもまた、D–2ビルでの戦闘とは比較にならないほどに強力である。

「(分かったよ。それなら拳で語り合おうぜ)」

 瀧の表情に少しの笑みが浮かんだのを見て内倉は僅かに身震いする。

「!」

 瀧はこれまでの構えを変える。

 左足を大きく前方に踏み出し、前膝を90度に曲げた立ち方である前屈立ちの状態となる。半身の体制で"血と汗の結晶レッド・ドラゴン"が装着された右拳を握って腰の位置に置き、左手を広げたまま内倉に向けて構える。

霧島流きりしまりゅう心武源拳しんぶげんけんめい

 これまで力強く放出されてきた瀧のサイクスが静かに美しく、滑らかに身体中を駆け巡る。

––––"霧島流心武源拳"

 霧島和人の祖父、霧島浩三が25歳という若さで月島姉妹の祖父、吉塚仁と共に考案。30歳過ぎて完成させる。(仁は煩わしいという理由で道場を持つなどの後進を育てる役割を拒絶、心武源拳の生まれでもあった浩三に任せた)
 『武の源流は心である』という心武源拳の教えの"心"の部分と『サイクスは感情と密接に関係する』という事実とを結び付け、心武源拳とサイクスを融合させた新たな武術を編み出した。

「コォォォォ……」

 放出される静かなサイクスとは裏腹に湯気が発生するほどに瀧の肉体が烈々たる闘志をみなぎらせる。

 アウター・サイクスはサイクスを肉体の周りに留めて無駄な消費を防ぐ技術、インナー・サイクスはサイクス全てを体内に留めて自然消費を完全に抑え、且つ更に消費したサイクスの回復を促す技術である。

 心武源拳においてこれら2つの技術を応用する。
 
 アウター・サイクスによって肉体の周囲に留まらせているサイクスを限界まで圧縮し、サイクスの密度を高める。
 一方で体内サイクスにおいては心身を鎮めてフローを穏やかにすることで身体中にサイクスが満遍なく行き渡るように努める。そして鎮めた心身に"武"の精神を込めることでサイクスを活性化させ、密度を高めた体外サイクスとの共鳴を引き起こし、強靭な肉体と精神を創り出す。

 この技術を霧島流心武源拳では『めい』と呼び、サイクスの消費を抑えつつ同時に消費サイクスを回復、防御力を高めつつもより強力な攻撃を可能とする。また、その静かなサイクスは対敵から次のサイクスの動きが読まれ辛く、より効率的で迅速な超能力の発動をも可能とする。

 霧島流心武源拳は僅か40年程度と歴史の浅い武術であるもののこうした技は門下生でなくとも知る者、会得する者は多く日本のサイクス戦闘に多大な影響を与えている。

「(霧島流心武源拳の門下生か。それであっても肉体から湯気が立つほどの"鳴"とは……!)」

 "鳴"の会得には弛まぬ努力が必要で誰でも会得できる技術ではない。また、会得できたとしても持続時間に個人差が生じたり、発動に時間がかかったりする。
 実際、サイクス量の多くない花は持続時間が短く更に発動にもかなりの時間を要するためにアウター・サイクスとインナー・サイクスの切り替えの方が寧ろ効率的であるため"鳴"をほぼ使用しない。一方で瀧は発動に一定の時間が必要であるが、その強力さと持続時間の長さから積極的に取り入れる。

 仁と浩三は"鳴"を得意としており、常に発動して生活している。故にサイクスの静けさとそれに内包する覇気の溝に気圧される者たちが続出している。

「俺はお前たちの技術など知らん。が……」

 内倉の肉体が更に強度を増す。

「似たことは出来るぞ」

 瀧と内倉の2人は互いに不敵な笑みを浮かべ、直後、衝突が開始された。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

神様の許嫁

衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。 神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。 一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。 ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。 神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。 *** 1部完結 2部より「幽世の理」とリンクします。 ※「幽世の理」と同じ世界観です。 2部完結 ※気まぐれで短編UP

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

処理中です...