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【第3章】
■第60話 : 広瀬と八尾、その過去③
広瀬と八尾との出会いから1年後。
特に決められていたわけではないが、広瀬グループの人間が自然と集まる喫茶店がある。
その名は『ロージー』。
『マルサン』のすぐ近くにあるこの店は、いつの間にか彼らの暗黙の溜まり場となっていた。
夕方頃、いつものように『ロージー』で溜まっていた伊藤と他3人。
そこへ、突然八尾が入ってきた。
入ってくるなり、険しい表情で伊藤に質問をする。
「おい伊藤、ヒロちゃんは?」
ぶっきらぼうに広瀬の居所を聞かれ、やや不快そうな顔で伊藤が返事をする。
「……さぁ、用事があるっつって朝から隣町まで行ってるらしいけど。
そろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「ふーん……。そっか。まあいいや。
それはそうと、お前ら、もうちょっと頑張れよな!
なんでこんな時間で既に4人もここに溜まってんだよ? まだ夕方だぜ?
特に伊藤、お前3日連続で基金に助けてもらってんだろ。
しっかりしろよ。
グループ内じゃ、俺よりも古株じゃねぇかよ!」
ムッとした顔ですぐさま言い返す伊藤。
「仕方ないだろ! 設定5・6に座って負ける分にはよ!
それに、今日はこれからコイツらと飲みに行く予定だったんだよ。
だから早めに上がったんだ。
ヒキが強いだけで勝ててるお前が偉そうにすんなっ!」
「あんっ? 連敗喰らってる状態でへらへら飲みにいくだと?
けっ、いいご身分だな!
だったら、のうのうと基金から金受け取ってんじゃねぇよ! 断れよ!
俺なんか、ほとんど受け取ったことねぇぜ? 負けないからな」
「だからそれは、一時的なヒキの差だって言ってんだよ!
何年か経ちゃ、この差は自然と埋まってくんだ!」
「へぇ~、早く埋めてもらいたいもんだな」
「お前っ……」
憎まれ口を連発してくる八尾を、今にも掴みかかりそうな勢いで睨みつける伊藤。
しばらく睨み合いが続いたが、伊藤の方から視線をはずし、ふっと力を抜いた後、他の仲間たちの方に向き直った。
「はぁ、まあいいや。
いつまでもこんなヤツに付き合ってんのもバカらしい。行こうぜ、みんな」
伊藤に促されるまま他の3人も立ち上がり、一斉に店を出て行く。
去っていく4人の背中に、大きな声で言葉をぶつける八尾。
「ふん、負け犬どもが!
負けてんのにヘラヘラ飲みに行ってんじゃねぇよ!
何がヒキの差だ! それが収支に繋がるんだから、ヒキだって実力だろうが!
お前らも早く、俺みたいに借金全額返済しやがれ! ザコどもがっ!」
かなりキツい言葉だが、もはや皆慣れたものなので、そのまま無視して行ってしまった。
その時、入れ違いで『ロージー』に一人の男が入ってきた。
「……や、八尾さん。み、みんなどっか行っちゃいましたよ?」
「おう、信次か。
いいんだよ、ほっとけ。あいつら全員能無しだ。
このグループで本当に能力があるのは、ヒロちゃんと俺だけだ。
まあ、まだまだ俺もヒロちゃんには遠く及ばないけどな」
「た、確かに広瀬さんは凄いですもんね!
ス、スロもそうだけど、に、人間的にも憧れちゃいます!」
信次の言葉を聞いた八尾は、まるで自分が褒められているかのごとく顔を綻ばせる。
「ああ、ヒロちゃんほど器がデカい男はいねぇって。
俺もいつか、あんな人間になりてぇなぁ」
「や、八尾さんならいつかなれますって!
お、俺、広瀬さんと同じくらいに八尾さんを尊敬してますし!」
「お? お前、分かってんじゃん!
ほんとなぁ、早くそうなりてぇよ。対等の存在である『友達』にさ。
まだまだ返しきれないくらいの恩があるし、そもそも立ち回りに関して世話になることもあるくらいだからなぁ。
まだまだ頑張らねぇと!」
信次の言葉に気をよくし、その後も饒舌に喋り続けた。
八尾がグループに入って1年。
収支の方は、グループ内でもトップクラスを誇っていた。
しかし、元来のその性格が災いし、周囲からの評判は最悪だった。
広瀬と信次を除いては。
広瀬は、そう簡単に人を嫌う男ではないし、それ以前に八尾は、広瀬にだけは常に敬意を払っていた。
自分を借金地獄から救ってくれた恩人であるし、スロの腕もピカイチなのだから。
そして広瀬としても、八尾のスロに対するひたむきさを好んでいた。
信次は、常に強気で我が道を行く八尾に、畏敬の念を抱いていた。
自分と正反対の性格を持つ八尾に、知らず知らずのうちに惹かれていたのだった。
人は、自分にないものを持っている人間に自然と惹かれる傾向がある。
とはいえ、大多数には嫌われていた八尾。
やはりグループ内での立場は悪く、いつ大きなトラブルに発展するかわからない状態だった。
それでも八尾は「広瀬に次ぐ実力者」だと自認していたので、何か大きなトラブルがあっても全然平気だと思い込んでいた。
そして、さらに月日は過ぎる――
特に決められていたわけではないが、広瀬グループの人間が自然と集まる喫茶店がある。
その名は『ロージー』。
『マルサン』のすぐ近くにあるこの店は、いつの間にか彼らの暗黙の溜まり場となっていた。
夕方頃、いつものように『ロージー』で溜まっていた伊藤と他3人。
そこへ、突然八尾が入ってきた。
入ってくるなり、険しい表情で伊藤に質問をする。
「おい伊藤、ヒロちゃんは?」
ぶっきらぼうに広瀬の居所を聞かれ、やや不快そうな顔で伊藤が返事をする。
「……さぁ、用事があるっつって朝から隣町まで行ってるらしいけど。
そろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「ふーん……。そっか。まあいいや。
それはそうと、お前ら、もうちょっと頑張れよな!
なんでこんな時間で既に4人もここに溜まってんだよ? まだ夕方だぜ?
特に伊藤、お前3日連続で基金に助けてもらってんだろ。
しっかりしろよ。
グループ内じゃ、俺よりも古株じゃねぇかよ!」
ムッとした顔ですぐさま言い返す伊藤。
「仕方ないだろ! 設定5・6に座って負ける分にはよ!
それに、今日はこれからコイツらと飲みに行く予定だったんだよ。
だから早めに上がったんだ。
ヒキが強いだけで勝ててるお前が偉そうにすんなっ!」
「あんっ? 連敗喰らってる状態でへらへら飲みにいくだと?
けっ、いいご身分だな!
だったら、のうのうと基金から金受け取ってんじゃねぇよ! 断れよ!
俺なんか、ほとんど受け取ったことねぇぜ? 負けないからな」
「だからそれは、一時的なヒキの差だって言ってんだよ!
何年か経ちゃ、この差は自然と埋まってくんだ!」
「へぇ~、早く埋めてもらいたいもんだな」
「お前っ……」
憎まれ口を連発してくる八尾を、今にも掴みかかりそうな勢いで睨みつける伊藤。
しばらく睨み合いが続いたが、伊藤の方から視線をはずし、ふっと力を抜いた後、他の仲間たちの方に向き直った。
「はぁ、まあいいや。
いつまでもこんなヤツに付き合ってんのもバカらしい。行こうぜ、みんな」
伊藤に促されるまま他の3人も立ち上がり、一斉に店を出て行く。
去っていく4人の背中に、大きな声で言葉をぶつける八尾。
「ふん、負け犬どもが!
負けてんのにヘラヘラ飲みに行ってんじゃねぇよ!
何がヒキの差だ! それが収支に繋がるんだから、ヒキだって実力だろうが!
お前らも早く、俺みたいに借金全額返済しやがれ! ザコどもがっ!」
かなりキツい言葉だが、もはや皆慣れたものなので、そのまま無視して行ってしまった。
その時、入れ違いで『ロージー』に一人の男が入ってきた。
「……や、八尾さん。み、みんなどっか行っちゃいましたよ?」
「おう、信次か。
いいんだよ、ほっとけ。あいつら全員能無しだ。
このグループで本当に能力があるのは、ヒロちゃんと俺だけだ。
まあ、まだまだ俺もヒロちゃんには遠く及ばないけどな」
「た、確かに広瀬さんは凄いですもんね!
ス、スロもそうだけど、に、人間的にも憧れちゃいます!」
信次の言葉を聞いた八尾は、まるで自分が褒められているかのごとく顔を綻ばせる。
「ああ、ヒロちゃんほど器がデカい男はいねぇって。
俺もいつか、あんな人間になりてぇなぁ」
「や、八尾さんならいつかなれますって!
お、俺、広瀬さんと同じくらいに八尾さんを尊敬してますし!」
「お? お前、分かってんじゃん!
ほんとなぁ、早くそうなりてぇよ。対等の存在である『友達』にさ。
まだまだ返しきれないくらいの恩があるし、そもそも立ち回りに関して世話になることもあるくらいだからなぁ。
まだまだ頑張らねぇと!」
信次の言葉に気をよくし、その後も饒舌に喋り続けた。
八尾がグループに入って1年。
収支の方は、グループ内でもトップクラスを誇っていた。
しかし、元来のその性格が災いし、周囲からの評判は最悪だった。
広瀬と信次を除いては。
広瀬は、そう簡単に人を嫌う男ではないし、それ以前に八尾は、広瀬にだけは常に敬意を払っていた。
自分を借金地獄から救ってくれた恩人であるし、スロの腕もピカイチなのだから。
そして広瀬としても、八尾のスロに対するひたむきさを好んでいた。
信次は、常に強気で我が道を行く八尾に、畏敬の念を抱いていた。
自分と正反対の性格を持つ八尾に、知らず知らずのうちに惹かれていたのだった。
人は、自分にないものを持っている人間に自然と惹かれる傾向がある。
とはいえ、大多数には嫌われていた八尾。
やはりグループ内での立場は悪く、いつ大きなトラブルに発展するかわからない状態だった。
それでも八尾は「広瀬に次ぐ実力者」だと自認していたので、何か大きなトラブルがあっても全然平気だと思い込んでいた。
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