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【第4章】
■第83話 : 入れ替わる形勢
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「あれ……? な、なんで優司君が……」
優司と広瀬が指定された自販機の前へ着くと、鴻上の言った通り既に飯島由香が来ていた。
その傍らには、鴻上が腕を組みながら立っている。
飯島は何も聞かされていなかった様子で、何故ここに優司が現れたのかも理解していなかった。
「やぁ、久しぶり……ってことないか。この前あったもんね」
「……」
「鴻上からは何にも聞かされてなかったんだ?」
「聞かされてなかった……って、何を……?」
「そりゃ言えないよな。
飯島をエサにして俺とスロ勝負することなんて」
「な、何よそれ……?」
黙って様子を見ていた鴻上が、焦って割って入ってきた。
「おい……お前、急に何バカなこと言ってんだっ?」
「鴻上、お前もバカだよな。俺のくさい芝居に引っ掛かってさ。
さっさと飯島をこの場から帰しちまえばよかったのに」
「お、お前っ……」
怒りで顔を歪めている鴻上を無視し、飯島に向かって説得を始める優司。
「これでわかっただろ飯島?
こいつは、飯島をエサにして俺にパチスロ勝負を挑んできてたんだよ!
俺はこの街じゃ名の知れたスロッターで、そんな俺に勝てればいろいろメリットがあるとでも踏んでたんだろ。
それで、俺はこいつと無理矢理勝負をさせられた。しかも、俺はわざと負けなきゃいけなかったんだよ。
もし俺が勝ったりしたら、飯島を風ぞ……い、いや、大変な目に遭わすって言ってな!」
あえて、具体的にどうしようとしていたかは伏せた優司。
もちろん鴻上を思いやってのことではなく、飯島のショックを少しでも和らげるために反射的に取った行動だった。
飯島は、まくしたてるような優司のこの説得に気が動転しているのか、何も言えずに固まっている。
広瀬はおとなしく状況を見守っていた。
やや苦々しい顔をしながら。
あらためて、優司が飯島に強い口調で問いかける。
「飯島! これでわかっただろ? な?」
「バカだなぁ。
そんなデタラメ、由香が信じるわけないだろ?」
つい先ほどまで爆発しそうな怒りを抱えていた鴻上が、いつの間にか冷静さを取り戻し、さりげなく会話に入ってきた。
「うるさいぞ鴻上! お前は入ってくんなッ! 今は飯島と話してんだ!」
「……って言われてもなぁ。そんなデタラメを、おとなしく聞いてられるほど大人じゃないんだよね、俺も。
君が最後に一度どうしても由香に会わせて欲しいって頼むから、泣く泣く聞いてやったのにさ。
この仕打ちはないんじゃない?」
「白々しいぞッ……。今更遅いんだよ!」
「いや、今更遅いとか言われても……。
なぁ由香、彼って昔からこういう人なの?」
「え……? あ……。うーんっと…………」
「俺のイメージとだいぶ違うなぁ。
こんな輩みたいな難癖をつけてくる男だったなんて。
いくら由香に未練があって、なんとかヨリを戻したいと思ってるにしても、ちょっとこれはないでしょ。
最後に一度由香に会いたい、っていう彼の願いなんて聞かなければよかったね。
ほら、優司君には一度相談に乗ってもらったじゃん? だから断わりきれなかったんだよね」
鴻上は、優司と初めて会った公園での一件のことを持ち出し、体裁を取り繕った。
「おい飯島! そんなヤツの虚言に付き合うのはよせって! 俺の話をちゃんと聞けよ!」
「…………」
困惑した表情で固まる飯島。
その姿を見た広瀬は、心の中で「まずいな」と呟いた。
第三者として場を俯瞰していた広瀬は、優司が圧倒的に不利な立場になってしまったのを察した。
客観的に見れば、一人興奮している優司と、ただイチャモンをつけられて戸惑っている鴻上、という構図になっている。
広瀬は思う。
(しょうがない。やっぱり来てもらうか)
広瀬はこの場からスッと離れて携帯を取り出し、待機させていた女へ電話をかけた。
◇◇◇◇◇◇
(くそっ……落ち着け俺!
なんでこんなにムキになっちまうんだよ。
飯島のことだからか? やっぱり俺はまだ飯島を……
って、今はそんなことどうでもいい!
早く……早くなんとかしないと……)
優司は軽い錯乱状態となってしまい、冷静な判断力が失われつつあった。
広瀬が被害者二人を用意してくれているのも忘れてしまうくらい。
鴻上が、落ち着いた口調で言葉を放つ。
「優司君。由香はもう俺の彼女なんだよ。
悔しいのはわかるけど、こんな方法で取り返せるとは思わない方がいいよ?」
「お前ッ……いい加減にしろッ……」
「そんなこと言わ――」
「いい加減にするのは優司君の方でしょっ?」
鴻上が返事をしようとしたタイミングで、飯島が優司を睨みつけながら言葉を発した。
「い、飯島……」
「一体なんなの?
この前といい今日といい、なんでそんなに健自のことを悪くいうのっ?
何も知らないくせに」
「ぐっ……。またこのパターンかよ……。
なんで……なんでわかってくれないんだよッ!」
「わかるわけないでしょ!
優司君は、健自のことよく知らないじゃない。
そんな、よく知りもしない人に対して散々悪口言う気持ちなんてわかるわけないよっ!」
「そうじゃない! そんなんじゃないんだよッ!」
続く二人の口論。
鴻上は、二人の様子を黙って見ている。
時折優司の方を見ては、飯島にバレないように軽くニヤつきながら。
そんな鴻上の様子に気付き、悔しさを募らせる優司。
(鴻上ッ……くそッ……くそッ……勝ち誇った顔しやがって……
なんで……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
なんでこうなっちゃうんだよ……)
沸き上がってくる果てしない絶望感。
気を抜いたら、涙が出てきてしまいそうだった。
そんな状態になりながらも、飯島との口論は続いた。
「ちゃんと話を聞いてくれ」「聞く必要はない」といった趣旨の口論を。
しかし、その時だった。
「はい、お二人さん、そこまで」
広瀬が二人の間に割って入る。
後ろには、二人の若い女が立っていた。
一斉にその二人の女を見る一同。
すると、鴻上の表情がみるみるうちに変わっていった。
優司と広瀬が指定された自販機の前へ着くと、鴻上の言った通り既に飯島由香が来ていた。
その傍らには、鴻上が腕を組みながら立っている。
飯島は何も聞かされていなかった様子で、何故ここに優司が現れたのかも理解していなかった。
「やぁ、久しぶり……ってことないか。この前あったもんね」
「……」
「鴻上からは何にも聞かされてなかったんだ?」
「聞かされてなかった……って、何を……?」
「そりゃ言えないよな。
飯島をエサにして俺とスロ勝負することなんて」
「な、何よそれ……?」
黙って様子を見ていた鴻上が、焦って割って入ってきた。
「おい……お前、急に何バカなこと言ってんだっ?」
「鴻上、お前もバカだよな。俺のくさい芝居に引っ掛かってさ。
さっさと飯島をこの場から帰しちまえばよかったのに」
「お、お前っ……」
怒りで顔を歪めている鴻上を無視し、飯島に向かって説得を始める優司。
「これでわかっただろ飯島?
こいつは、飯島をエサにして俺にパチスロ勝負を挑んできてたんだよ!
俺はこの街じゃ名の知れたスロッターで、そんな俺に勝てればいろいろメリットがあるとでも踏んでたんだろ。
それで、俺はこいつと無理矢理勝負をさせられた。しかも、俺はわざと負けなきゃいけなかったんだよ。
もし俺が勝ったりしたら、飯島を風ぞ……い、いや、大変な目に遭わすって言ってな!」
あえて、具体的にどうしようとしていたかは伏せた優司。
もちろん鴻上を思いやってのことではなく、飯島のショックを少しでも和らげるために反射的に取った行動だった。
飯島は、まくしたてるような優司のこの説得に気が動転しているのか、何も言えずに固まっている。
広瀬はおとなしく状況を見守っていた。
やや苦々しい顔をしながら。
あらためて、優司が飯島に強い口調で問いかける。
「飯島! これでわかっただろ? な?」
「バカだなぁ。
そんなデタラメ、由香が信じるわけないだろ?」
つい先ほどまで爆発しそうな怒りを抱えていた鴻上が、いつの間にか冷静さを取り戻し、さりげなく会話に入ってきた。
「うるさいぞ鴻上! お前は入ってくんなッ! 今は飯島と話してんだ!」
「……って言われてもなぁ。そんなデタラメを、おとなしく聞いてられるほど大人じゃないんだよね、俺も。
君が最後に一度どうしても由香に会わせて欲しいって頼むから、泣く泣く聞いてやったのにさ。
この仕打ちはないんじゃない?」
「白々しいぞッ……。今更遅いんだよ!」
「いや、今更遅いとか言われても……。
なぁ由香、彼って昔からこういう人なの?」
「え……? あ……。うーんっと…………」
「俺のイメージとだいぶ違うなぁ。
こんな輩みたいな難癖をつけてくる男だったなんて。
いくら由香に未練があって、なんとかヨリを戻したいと思ってるにしても、ちょっとこれはないでしょ。
最後に一度由香に会いたい、っていう彼の願いなんて聞かなければよかったね。
ほら、優司君には一度相談に乗ってもらったじゃん? だから断わりきれなかったんだよね」
鴻上は、優司と初めて会った公園での一件のことを持ち出し、体裁を取り繕った。
「おい飯島! そんなヤツの虚言に付き合うのはよせって! 俺の話をちゃんと聞けよ!」
「…………」
困惑した表情で固まる飯島。
その姿を見た広瀬は、心の中で「まずいな」と呟いた。
第三者として場を俯瞰していた広瀬は、優司が圧倒的に不利な立場になってしまったのを察した。
客観的に見れば、一人興奮している優司と、ただイチャモンをつけられて戸惑っている鴻上、という構図になっている。
広瀬は思う。
(しょうがない。やっぱり来てもらうか)
広瀬はこの場からスッと離れて携帯を取り出し、待機させていた女へ電話をかけた。
◇◇◇◇◇◇
(くそっ……落ち着け俺!
なんでこんなにムキになっちまうんだよ。
飯島のことだからか? やっぱり俺はまだ飯島を……
って、今はそんなことどうでもいい!
早く……早くなんとかしないと……)
優司は軽い錯乱状態となってしまい、冷静な判断力が失われつつあった。
広瀬が被害者二人を用意してくれているのも忘れてしまうくらい。
鴻上が、落ち着いた口調で言葉を放つ。
「優司君。由香はもう俺の彼女なんだよ。
悔しいのはわかるけど、こんな方法で取り返せるとは思わない方がいいよ?」
「お前ッ……いい加減にしろッ……」
「そんなこと言わ――」
「いい加減にするのは優司君の方でしょっ?」
鴻上が返事をしようとしたタイミングで、飯島が優司を睨みつけながら言葉を発した。
「い、飯島……」
「一体なんなの?
この前といい今日といい、なんでそんなに健自のことを悪くいうのっ?
何も知らないくせに」
「ぐっ……。またこのパターンかよ……。
なんで……なんでわかってくれないんだよッ!」
「わかるわけないでしょ!
優司君は、健自のことよく知らないじゃない。
そんな、よく知りもしない人に対して散々悪口言う気持ちなんてわかるわけないよっ!」
「そうじゃない! そんなんじゃないんだよッ!」
続く二人の口論。
鴻上は、二人の様子を黙って見ている。
時折優司の方を見ては、飯島にバレないように軽くニヤつきながら。
そんな鴻上の様子に気付き、悔しさを募らせる優司。
(鴻上ッ……くそッ……くそッ……勝ち誇った顔しやがって……
なんで……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
なんでこうなっちゃうんだよ……)
沸き上がってくる果てしない絶望感。
気を抜いたら、涙が出てきてしまいそうだった。
そんな状態になりながらも、飯島との口論は続いた。
「ちゃんと話を聞いてくれ」「聞く必要はない」といった趣旨の口論を。
しかし、その時だった。
「はい、お二人さん、そこまで」
広瀬が二人の間に割って入る。
後ろには、二人の若い女が立っていた。
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すると、鴻上の表情がみるみるうちに変わっていった。
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