ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第122話 : 神崎真佐雄と伊達慎也

2005年1月9日、夜。

東口にある高級居酒屋『げんた』にて、土屋グループによる翌日の勝負の為の壮行会が行なわれていた。

参加しているのは、実際勝負の場に同行する土屋・丸島・吉田・柿崎の4人に、優司を加えた計5人。
要はいつもメンバー。

「いよいよ明日だな! どうだ調子は?」

飲み始めて2時間が経過。
完全に出来上がっている丸島が、勢いよく優司に問いかけた。

明日があることだし、そもそもこのメンバーで楽しく飲めるはずもない優司は、いつものようにチビチビと焼酎を舐めていただけ。
もちろん、あまり酔っていない。

「ああ、調子はいいよ。明日も問題なく打てるし」

特に無愛想でもなく愛想よくもなく、といった感じで答える優司。

この連中といる時の優司は、極力感情を殺していた。
そうしなければ、とてもまともな神経ではいられない、と思っていたからだ。

「そうかそうか! 調子いいか!
 じゃあ、ほれ、もっと飲めって! 景気づけだ、景気づけ!」

調子に乗って酒を強引に勧める丸島を諫める土屋。

「待てよ丸島。こいつには明日もあるんだ。あんまり飲ませようとすんな。こいつが負けたら、俺達だって困るんだからな。
 なあ夏目? 明日のこと考えて控えめにしてんだろ?
 さすが、意気込みが違うな!」

「……まあね。待ちに待ってた勝負だし、そりゃ意気込むよ」

「とにかく頼むぜ。今回の戦利品はデカいからな。
 何しろ、お前が勝てば神崎たちは二度とこの街で打てなくなるんだ。
 お得意の『勝った方が30万』ってのは今回無いけど、その分、お前が勝ったら俺から報酬を渡すからよ。
 金額は期待してていいぞ。30万なんつーはした金じゃねーからよ!」

負けた方は、二度とこの街のホールで打たない。
この条件は、優司も事前に聞いていたことだった。

まず最初に、神崎が土屋にこの条件を提示した。
負けた方がこの街を出て、二度とこの街のホールには近寄らないようにすること、と。

土屋は、神崎からのこの条件を大いに喜んだ。

神崎がいなくなれば、西口のホールが手薄になる。
そうすればもっと打ち子を増やして西口に派遣し、さらに稼ぎを大きくすることができる。
こう目論んでいたのだ。

土屋は、神崎に勝った後のこうしたビジョンについて上機嫌で語り続けた。

しかし、そんな様子をやや冷めたテンションで聞き流している優司。

すぐに優司の様子に気付き、土屋が問いただす。

「おい、何を黙ってんだ夏目?
 まさか、神崎との勝負に自信がないとか今更言い出すんじゃないだろうな?」

優司は即答する。

「自信は今までと変わらずあるよ。じゃなきゃ、ここまで勝負に拘らないし。そこについては問題ないよ。
 俺は絶対に勝つ。設定6をツモる勝負で負けたりなんてしない」

「前々から凄い自信だな。
 でもよ、勝負ホールはあの『ミラクル』だぜ。お前も、ずっと避けてたホールだろ? あんなところじゃ立ち回れない、って言って」

「あそこは確かにやばいよ。おかしいことばっかしてくるし。読みづらさはハンパじゃない。
 でも、それはお互い様だよ。条件が同じなら、別に問題にはならない」

「おお~、言うじゃんよ。
 ま、それを聞いて安心したぜ。 自分を鼓舞する意味もあるんだろうけど、本心から『絶対に自分が勝つ』って信じきってるように聞こえるしな」

「…………」

「確かに、お前にはそれが出来る力があると俺は見てる。でもな、くれぐれも油断とか慢心はするなよ? 相手も相当手強いことは確かだからな」

「言われなくたってわかってるよ」

土屋の懸念を一言で受け流し、中身が1/4ほど残っている自分の焼酎グラスを持った。
ロックで注文したが、届いてからだいぶ経っているので既に氷が溶けきっており、すっかり薄くなっている。

グラスを持ちながら、優司は物思いに耽った。

(言われなくても油断なんかするかよ。相手は神崎なんだ。この街のスロッターみんなが認めるような存在である、あの神崎なんだ。油断や慢心なんて、したくてもできない。
 きっちり全力でぶつかって……もちろんきっちり勝つ。
 目押しとか、他の部分では譲っても、設定読みならどんな形であろうと絶対に俺が勝つ!
 というか、ここまできたら勝たなきゃいけないんだ! 絶対に!)

改めて強く決意し、残っている薄まった焼酎を一気に飲み干した。



◇◇◇◇◇◇



同時刻。
西口にある隠れ家的なBAR『ディスク』。

ここで、神崎と伊達は二人で静かに飲んでいた。

さすがの神崎も、勝負を翌日に控え少々落ち着かず、つい伊達をこのBARに呼び出したのだ。

「で、明日はどのメンバーで行くんだ?」

伊達が神崎に聞いた。

「あんまりゾロゾロと行ってもしょうがないでしょ。俺と慎也と……あとは、サトルとノブくらいでいいんじゃないの?」

「4人か。ま、そのくらいが丁度いいか。
 ……それにしても、あの『ミラクル』でやるのかぁ。あそこで6を掴む勝負なんて……大丈夫か?」

「まあ、なんとかするさ」

「おいおい、この街を出てくかどうかを賭けてんだろ? 随分のんびりしてんなぁ。相手は、10回以上も設定読み勝負をしてきて無敗の夏目だぜ?」

「別にのんびりはしてないよ。
 ただ、焦ってもしょうがないしさ。充分な準備をした上で、当日にベストを尽くすだけだよ」

「真佐雄の実力は知ってるから、特に心配はしてないけどさ。グループの人間も、お前が負けるとは全く思ってないらしいし。
 既に土屋たちを追い返したような気分にすらなってるよ」

「それもどうかと思うけどな。別に100%の自信があるわけじゃないし。
 ……ま、なるようになるよ」

神崎はそう言って、自分のグラスを一息に空けた。

「背負うのは真佐雄だし、万が一真佐雄が負けても俺達には何も言う権利はないけどね。完全に任せてるだけだし」

伊達も、神崎に従って自分のグラスを空けた。
そして、二人とも同じものを注文した。

再び伊達が喋りだす。

「それにしても……この土壇場で意外な訪問者が来たもんだよな。しかも二人も」

「ああ。いろいろ起こるもんだな、こういう大きいイベント事の前には。そういうもんなのかな?」

「さぁね。
 っていうか、どうするんだ? 特に『あの人』から言われた件は」

「もう動いたよ。ここへ来る前に会ってきた」

「えっ? そうだったのかっ?
 動きが早いなぁ。
 ……それにしても、よくそんなにサクっと動いてやるもんだな?」

「『あの人』だって、無償でいろいろ動いてんだしさ。
 それにしても、ホントお人好しだよなぁ。あんなに有名人なのに」

「…………」

「そんなあの人まで動いてるんだから、俺だってそれくらいはするべきだろ。そもそも、この勝負を受けたきっかけだって、同じゴーストスロッターとしてのよしみでの救済が目的でもあるわけだし」

「まあ、理由は何でもいいんだけどさ……。
 それにしては賭けるモンが大きくないか? 俺達全員がこの街から出てくかどうかが決まるわけだし……」

「うん、わかってる。だから負けないよ。
 さっきはあんまり自信持った言い方はしなかったけど、内心では絶対に勝とうと思ってる。ってか、勝つのは絶対に俺だ。勝たなきゃ何も始まらないしね」

神崎の自信に満ちた言葉を聞き、安心したように言葉を漏らす伊達。

「ああ、そうだな。お前が負けるところなんて想像ができない。
 ……もちろん、さっき言った通り、万が一負けたってそれはしょうがないし。文句言う奴なんて誰もいないよ。今まで、散々真佐雄におんぶに抱っこだったからなぁ」

伊達の言葉に、神崎はテレくさそうに笑った。

「で、もう一人の方はどうするんだ真佐雄?」

「そっちも、別に断わることもないから、頼んできた通りにやってやるつもりだよ」

「そっか……わかった。じゃあ、俺もそのつもりでいるよ。
 ……とにかく、明日だな」

「ああ、明日だ」

その後二人は、しばらく言葉を発することもなくチビチビとブランデーグラスを口に運んでいた。 
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