後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

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第四章

ソフィアの真意

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「随分とおぐしが伸びられましたね」

専属侍女となったリズルがイズミルの髪をくしけずりながら言った。

「そうね、切り落としてからもう10ヶ月になるもの」

「それじゃあ伸びられるはずですね。今日は髪を結い上げられますか?」

「うーん…寒いから下ろしたいところだけれど、邪魔になるから一つに編み込んでサイドに流そうからしら」

「わ、素敵ですね。ではそのようにいたしますね」

「ええ、お願いね」

イズミルがグレアムの側で働き出して早10ヶ月が過ぎていた。

季節は真冬で王都は白く雪化粧を纏っている。

ユニコーンの封印箱から出てきた王室規範の一部の翻訳も終え、今はリザベルと恩師グレガリオにより新しい規範の草案作りに移っていた。

それについてはイズミルは関わっていない。

あと2ヶ月で廃妃となる妃が携わっても仕方ないと、イズミル自身が遠慮したのである。

今は側近や侍従たちの手伝いを主な業務としてやっている。

しかしイズミルには新たな恩返しという
ミッションがある。

ソフィアをグレアムの新しい妃として
迎えられるよう、その為の根回しや準備が必要だと思ったからだ。

まずはソフィア自身の意思を確認したい。

妃となれば女性騎士にはなれない。
ソフィアに夢を諦めさせる事になるのだから、やはり本人の意思を確認しなければならないだろう。

そしてそれはリザベルよりもイズーとしてイズミルが聞いた方がソフィアは本音を語り易いはずだ。


〈でも、ソフィアも以外と満更ではないと思うのよね。そしてグレアム様も……〉


イズミルがそう思うのには理由があった。

このところよく、グレアムがソフィアに
剣の稽古を付けているのだ。

国王自ら剣の指導をするなどと、普通では考えられない。グレアムがよほどソフィアを気に入っている証だ。

そしてその時のソフィアの表情。

尊敬の念の中に微かな熱を感じるのだ。

〈これは……誰かが背中を押せば上手くいくのではないかしら?〉

グレアムに恋するイズミルが恋敵の背中を押すなどと、傍から見れば正気の沙汰ではないと思われるかもしれないが、そもそもイズミルは恋敵にもならない存在なのだ。

同じ土俵にすら立てないというかなんというか……

だからもう開き直って二人の応援をする事にしたのだ。
下男フットマンたちが使っていた、
“ヤケクソ”と表現してもいいかもしれないが。

とにかくグレアムとソフィアが無事に結ばれるよう、イズミルなりの手助けをしたいと思っている。


イズミルは早速、
ソフィアに聞いてみる事にした。

今日は近衛騎士団長のバイワールに稽古を付けてもらっていたソフィア。
(それだけでも凄い)

その稽古の後、休憩中のソフィアにそっと声をかける。

「ソフィア、ちょっといいかしら?」

「どうかされましたか?」

「ちょっとソフィアに尋ねたい事があるのだけれど……」

「なんでしょう?」

「迂遠な言い回しは得意ではないから、 
 単刀直入に聞くわね?」

「はい」

「ソフィアは……陛下の事をどう思っているの?」

「どう、とは?」

「男性として、恋情を抱いているのかどうかという事」

「だんっ……!?れんっ……!?」

思いもよらない言葉を聞いた所為でソフィアは思わず後ろにのけ反った。

「驚かせてごめんなさい。でもとても大切な事なの。陛下の女性不信は貴女も知っているわよね?」

「は、はい……」

「陛下はこの8年、全く女性を近付けなかった。それなのに貴女には最初から普通に接して、今なんて剣の稽古を付けるまでに貴女の事を特別に想っておられるわ、それは本当に凄い事なのよ」

「でもそれはイズーさんの護衛として鍛えて頂いているというか……」

「それはきっと建前よ。気恥ずかしいからそう言っておられるのよ。ソフィア、貴女はどう?陛下の事をどう思っているのか本心を聞かせてほしいの」

「どうしてですか?どうして私に?」

「陛下に受け入れられている未婚の女性が貴女しかいないからよ。そして妃になれるのはそんな貴女しかいないわ」

「えぇっ!?わ、私が妃にっ……!?」

「貴女には騎士になりたいという夢がある。その夢と陛下の将来、どちらの未来を取りたいのか真剣に考えてみては貰えないかしら……?」

「どちらかを……」

「急がなくていいわ。でも出来ればあと2ヶ月の内には答えを聞かせてくれると嬉しいわ」

「どうして2ヶ月以内なんですか?」

「わたし、四月になったらここを去るの」

「えっ……!?」

イズミルはこれを告げるべきなのかどうか迷ったが話せる範囲でソフィアには話そうと思った。

「今の夫とはもともとわたしが20歳になったら離縁する事になっていたの。夫婦とは名ばかりの関係だったし。心機一転、別の国にでも嫁ぎ直そうかと思って……」

「イ、イズーさん……なんと言っていいのか……正直驚きました。離縁ですか……」

イズミルは少し困ったように微笑んだ。

「ふふ、そうよね、ごめんなさい。
ねぇお願いソフィア。妃の件、考えてみてくれないかしら……」

イズミルに請われて、ソフィアは約束をした。

自分なりに考えてみると。
その上で返事をすると。


しかし考えてみるとイズーには言ったものの、ソフィアにはイズーの方がよほどグレアムに特別に想われているように思える。

剣の稽古を受ける事になったのも、イズーを守り尚且つ自身の身も守るにはまだまだ力量が足りないと判断されての事だった。

足りないのであれば補えば良いと、
グレアム自身が稽古を付けると言い出したのだ。

でもイズーが既婚者となると、
二人が結ばれのは難しいだろう。

たとえイズーが離婚したとしても、結婚歴のある女性は妃になれないとこの国の法律で定められているのだ。

ソフィアはため息を吐いた。

少し前までの自分なら、こんな事で迷うなどと考えられなかった。

以前の自分なら迷わず騎士としての人生を選んだであろう。

だけどグレアムという個人の為人ひととなりを知れば知るほど、異性として好ましく感じているのもまた確かなのだ。

私はどうしたいのだろう?

本当の私はどうなりたい?

騎士か妃か……?

ソフィアは自身の分身といっても過言ではない剣を眺めた。

自分の身長に合わせて特別に作られた剣だ。

名だたる名工の作で、この剣に恥じぬ自分でいようと常に心掛けてきた。

妃となればこの剣を置くことになる……。

ソフィアはイズミルと別れた後も、

自宅に戻った後も延々と考え続けた。

大切な剣を抱きしめながら……。


そして考えに考えて、一つの答えに辿り着く。

〈そうね、私は……〉



一方、イズミルはソフィアからの回答を
待つ間にドレス選びに余念がなかった。

ソフィアが妃となる事を承知してくれたのなら、すぐにでもこのドレスをオーダーしなくてはならない。 


ソフィアがグレアムの妃になると公の場で公表する時に着るドレスだ。

国民の誰もが待ち望んだ慶事だ。
素晴らしいドレスでなければならない。

そうなればいくら日にちがあっても足りない。

お披露目は夏の夜会がいいだろうと思う。

ハイラントの社交シーズンで一番大きなものとなる、イズミルが最初で最後のファーストダンスを踊ったあの夜会が。

その時、もうそこに自分は居ないが、
せめてもの手向けとして手掛けたドレスを置いてゆきたい。

イズミルはそう考えていた。


























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