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第四章
全てボンボンの所為なのじゃよ (でもグレアム目線)
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「おかしい……」
諜報に長けた我が国の暗部からの報告書を睨みながら俺が呟くと、側近のランスロットが聞き返してきた。
「何がおかしいんです?イズーの旦那について暗部を使ってまで調べさせた報告書に何か不審な点でも?」
俺は報告書を机の上に乱雑に置いた。
そして眉間のシワに手を当てる。
「不審も何も、何も出てこんのだ」
「何も?というと?」
「太王太后の母方の祖国、ローラントのアリスタリアシュゼットシュタイン家を調べさせても、居るのか居ないのかわからないような、ボヤけた存在しか掴めないらしい」
「そんな事ってありますか?」
「普通はあり得えん」
イズーの婚姻がどうも普通ではないらしい。
賢人グレガリオの話では13歳の時には既に嫁いでいたらしいが正式に契りを交わしていない。
いわば白い結婚というやつだ。
しかもどう見ても夫とは没交渉のようだし。
イズーの夫がどういう奴なのか。
グレガリオの話では碌でもない奴らしいが。
暴力を振るう奴なのか、妻の扶養を放棄するような奴なのか。
いずれにせよ彼女が不幸な結婚生活を強いられているのなら、助けてやらねばならない。
そう思い、暗部を使ってまで調べさせたというのに……。
実態を掴めないとは何事か……。
「………超大物の匂いがするな……」
「え?」
「ウチの暗部が調べても何も出てこないのだぞ。
国家元首レベルの人間でないと、そうはならんだろう」
「イズーがどこかの国の側妃か何かかと仰るんですか?」
「少なくとも公爵位クラス以上のな」
「いや普通に考えて無理でしょう。そんな高貴なお方の妃が働きに出るなんてあり得ませんよ」
「それもそうだな……」
解せぬ。わからぬ。
もしや未亡人とか!?
いやそれならそうと言うだろう。
もう直接本人に確かめるか……?
しかし何と言って聞くんだ?
「キミの夫が気になるからどんな奴が教えてくれ」とかか?
いやそれは失礼すぎやしないか?
俺が自分の思考の海に浸っていると、
ランスロットが徐に告げてきた。
「そうそう、太王太后様からのご伝言です。第三妃のイズミル妃の退城の日が2か月後に迫っていると。最終日には必ず後宮に来て、見送りをしてやって欲しいとの事です」
「……そうか。とうとう2か月後か……。
再嫁先はもう決まったのか?」
「それはお聞きしてませんね。後で確認しておきます」
「そうしてくれ。
……支度金等、充分な事をしてやって欲しいとおばあさまに伝えといてくれ」
「…………かしこまりました」
「なんだ?」
「いや……少しお変わりになられたなと
思いまして……」
「そうか?」
「ええ。考え方も、もの腰も柔らかくなられたような気がします」
「……そうか」
この頃思う。
以前はどうしてあんなにも頑なに全てを
拒んでいたのか。
今はどうしてこんなにも全てに対して寛容でありたいと思うのか。
◇◇◇◇◇
「ふぉっふぉっ……陛下、ちょ~っと困った事になってしまいましての……」
今日の分の政務も済み、
そろそろ自室へ戻ろうかと思っていたその時、グレガリオが申し訳なさそうな、
いや、そうでもなさそうな口調で話しかけてきた。
この男のこういう時はなんだかイヤな予感がする……。
「………なんだ?何をした」
「ワシはなんもしとりませんぞ。
いやはや愛弟子の奴がの」
「イズーがどうした?」
「昔、あの子がまだ14歳くらいの頃にですな、ボンボンを食べてみたいと言っておりましてな」
「それがどうした」
「今回、手土産に持って来てやったのですわ、そのボンボンを」
「その前にボンボンとはなんだ!?」
俺のその問いかけにランスロットが答えた。
「チョコレートボンボンの事ですか?
チョコの中にお酒の入ってる」
グレガリオはランスロットに向けて両ひとさし指を向けた。
「そう、それ♪それ♪」
「そのチョコボンボンがどうした。
それとイズーがどういう関係があるのだ?」
「ズーちゃんがね、なんか元気がなかったから、ボンボンをあげたんじゃよ。そしてズーちゃんは食べたんじゃ、ボンボンを3つ………」
そこまで聞いて、
俺はもうイヤな予感が的中した事を悟った。
「…………まさか酔っ払ったとか言わんよな?」
「そのまさかだったりして☆」
「おいっ」
「それでの、ワシの部屋で今、気持ち良さそ~に漂ってるんじゃよ」
「「漂ってる?」」
俺とランスロットの声が重なった。
「ワシにはどーする事も出来んから
回収してもらえんかのぅ」
「回収ってあなた……」
ランスロットがため息混じりに言う。
俺はすぐさまグレガリオが寝泊まりをしている部屋へと向かった。
一応ノックをしてドアを開ける。
その次に目に飛び込んで来た光景に目を見張った。
「あ、陛下~
どーなされたのですか~?陛下もふわふわしに来られたんですか~」
俺の目の前で頬を真っ赤にしたイズーが
ふわふわと宙に浮いて漂っていた。
どうやら風の精霊で浮遊しているらしい。
そんなに高くは浮いてない。
俺の頭と同じくらいの高さだ。
「………おいグレガリオ、
イズーは何個ボンボンを食べたと?」
「ふぉふぉっ♪3つかな」
ボンボン3つでコレか!可愛いか!
「彼女が酒に弱いとは知らなかったのか?」
「だって~一緒にお酒なんか
呑んだ事ないんじゃもーん☆」
それを聞き、ランスロットが呆れながら言う。
「もーん☆じゃないですよ。陛下、私は水を持って来ます。この場をお願いたします」
「……ああ」
「じゃ☆ワシもこれで♪
年寄りには荷が勝ち過ぎてますからの~」
と言いながら、グレガリオは80歳とは思えないダッシュで去って行った。
それのどこが荷が勝ち過ぎてるって?
まぁいい。
他の者にこんな状態の彼女を見せるわけにはいかないからな。
俺はイズーに静かにゆっくりと話しかけた。
「イズー、降りなさい、危ないだろ?」
「え~~なんですか~?ど~してですか~?と~ってもいい気持ちなのに~~」
そう言って、俺に構わずご機嫌に浮遊し続ける。
このままでは埒があかないので俺はイズーの元へと行った。
そして彼女へ向けて両手を広げる。
「イズー、おいで」
「………陛下……」
とろんとした表情のイズーが俺の事を見つめる。
「ほら、おいで。落ちたら危ないだろ」
「陛下ぁぁ」
イズーはそう言って、俺の首にしがみついてきた。
「……!」
おいでと言ったのは自分だが、
イズーのその行動に思わず驚いてしまう。
それでも丁度いいと横抱きにして捕獲する。
「今、ランスロットが水を持って来るからな」
「うふふ……陛下がこんなに近い~」
そう言ってさらにぎゅうぎゅうと俺にしがみついてくる。
「こらやめろ酔っ払い」
「酔ってなんかいませんわ」
そんな上気した頬と潤んだ瞳で何を言う。
「酔っ払いの常套句だな」
「まぁ~~……
でもふふ、ゆるして差し上げます。だってわたし、陛下の事がだぁぁい好きですからね」
「……それはどうも」
「あ、信じてませんね、
ホントのホントに陛下の事が大好きなんですよ、ほら……」
そう言った次の瞬間、
イズーが俺の唇にそっと触れるだけの
キスをした。
「……………………………え?」
諜報に長けた我が国の暗部からの報告書を睨みながら俺が呟くと、側近のランスロットが聞き返してきた。
「何がおかしいんです?イズーの旦那について暗部を使ってまで調べさせた報告書に何か不審な点でも?」
俺は報告書を机の上に乱雑に置いた。
そして眉間のシワに手を当てる。
「不審も何も、何も出てこんのだ」
「何も?というと?」
「太王太后の母方の祖国、ローラントのアリスタリアシュゼットシュタイン家を調べさせても、居るのか居ないのかわからないような、ボヤけた存在しか掴めないらしい」
「そんな事ってありますか?」
「普通はあり得えん」
イズーの婚姻がどうも普通ではないらしい。
賢人グレガリオの話では13歳の時には既に嫁いでいたらしいが正式に契りを交わしていない。
いわば白い結婚というやつだ。
しかもどう見ても夫とは没交渉のようだし。
イズーの夫がどういう奴なのか。
グレガリオの話では碌でもない奴らしいが。
暴力を振るう奴なのか、妻の扶養を放棄するような奴なのか。
いずれにせよ彼女が不幸な結婚生活を強いられているのなら、助けてやらねばならない。
そう思い、暗部を使ってまで調べさせたというのに……。
実態を掴めないとは何事か……。
「………超大物の匂いがするな……」
「え?」
「ウチの暗部が調べても何も出てこないのだぞ。
国家元首レベルの人間でないと、そうはならんだろう」
「イズーがどこかの国の側妃か何かかと仰るんですか?」
「少なくとも公爵位クラス以上のな」
「いや普通に考えて無理でしょう。そんな高貴なお方の妃が働きに出るなんてあり得ませんよ」
「それもそうだな……」
解せぬ。わからぬ。
もしや未亡人とか!?
いやそれならそうと言うだろう。
もう直接本人に確かめるか……?
しかし何と言って聞くんだ?
「キミの夫が気になるからどんな奴が教えてくれ」とかか?
いやそれは失礼すぎやしないか?
俺が自分の思考の海に浸っていると、
ランスロットが徐に告げてきた。
「そうそう、太王太后様からのご伝言です。第三妃のイズミル妃の退城の日が2か月後に迫っていると。最終日には必ず後宮に来て、見送りをしてやって欲しいとの事です」
「……そうか。とうとう2か月後か……。
再嫁先はもう決まったのか?」
「それはお聞きしてませんね。後で確認しておきます」
「そうしてくれ。
……支度金等、充分な事をしてやって欲しいとおばあさまに伝えといてくれ」
「…………かしこまりました」
「なんだ?」
「いや……少しお変わりになられたなと
思いまして……」
「そうか?」
「ええ。考え方も、もの腰も柔らかくなられたような気がします」
「……そうか」
この頃思う。
以前はどうしてあんなにも頑なに全てを
拒んでいたのか。
今はどうしてこんなにも全てに対して寛容でありたいと思うのか。
◇◇◇◇◇
「ふぉっふぉっ……陛下、ちょ~っと困った事になってしまいましての……」
今日の分の政務も済み、
そろそろ自室へ戻ろうかと思っていたその時、グレガリオが申し訳なさそうな、
いや、そうでもなさそうな口調で話しかけてきた。
この男のこういう時はなんだかイヤな予感がする……。
「………なんだ?何をした」
「ワシはなんもしとりませんぞ。
いやはや愛弟子の奴がの」
「イズーがどうした?」
「昔、あの子がまだ14歳くらいの頃にですな、ボンボンを食べてみたいと言っておりましてな」
「それがどうした」
「今回、手土産に持って来てやったのですわ、そのボンボンを」
「その前にボンボンとはなんだ!?」
俺のその問いかけにランスロットが答えた。
「チョコレートボンボンの事ですか?
チョコの中にお酒の入ってる」
グレガリオはランスロットに向けて両ひとさし指を向けた。
「そう、それ♪それ♪」
「そのチョコボンボンがどうした。
それとイズーがどういう関係があるのだ?」
「ズーちゃんがね、なんか元気がなかったから、ボンボンをあげたんじゃよ。そしてズーちゃんは食べたんじゃ、ボンボンを3つ………」
そこまで聞いて、
俺はもうイヤな予感が的中した事を悟った。
「…………まさか酔っ払ったとか言わんよな?」
「そのまさかだったりして☆」
「おいっ」
「それでの、ワシの部屋で今、気持ち良さそ~に漂ってるんじゃよ」
「「漂ってる?」」
俺とランスロットの声が重なった。
「ワシにはどーする事も出来んから
回収してもらえんかのぅ」
「回収ってあなた……」
ランスロットがため息混じりに言う。
俺はすぐさまグレガリオが寝泊まりをしている部屋へと向かった。
一応ノックをしてドアを開ける。
その次に目に飛び込んで来た光景に目を見張った。
「あ、陛下~
どーなされたのですか~?陛下もふわふわしに来られたんですか~」
俺の目の前で頬を真っ赤にしたイズーが
ふわふわと宙に浮いて漂っていた。
どうやら風の精霊で浮遊しているらしい。
そんなに高くは浮いてない。
俺の頭と同じくらいの高さだ。
「………おいグレガリオ、
イズーは何個ボンボンを食べたと?」
「ふぉふぉっ♪3つかな」
ボンボン3つでコレか!可愛いか!
「彼女が酒に弱いとは知らなかったのか?」
「だって~一緒にお酒なんか
呑んだ事ないんじゃもーん☆」
それを聞き、ランスロットが呆れながら言う。
「もーん☆じゃないですよ。陛下、私は水を持って来ます。この場をお願いたします」
「……ああ」
「じゃ☆ワシもこれで♪
年寄りには荷が勝ち過ぎてますからの~」
と言いながら、グレガリオは80歳とは思えないダッシュで去って行った。
それのどこが荷が勝ち過ぎてるって?
まぁいい。
他の者にこんな状態の彼女を見せるわけにはいかないからな。
俺はイズーに静かにゆっくりと話しかけた。
「イズー、降りなさい、危ないだろ?」
「え~~なんですか~?ど~してですか~?と~ってもいい気持ちなのに~~」
そう言って、俺に構わずご機嫌に浮遊し続ける。
このままでは埒があかないので俺はイズーの元へと行った。
そして彼女へ向けて両手を広げる。
「イズー、おいで」
「………陛下……」
とろんとした表情のイズーが俺の事を見つめる。
「ほら、おいで。落ちたら危ないだろ」
「陛下ぁぁ」
イズーはそう言って、俺の首にしがみついてきた。
「……!」
おいでと言ったのは自分だが、
イズーのその行動に思わず驚いてしまう。
それでも丁度いいと横抱きにして捕獲する。
「今、ランスロットが水を持って来るからな」
「うふふ……陛下がこんなに近い~」
そう言ってさらにぎゅうぎゅうと俺にしがみついてくる。
「こらやめろ酔っ払い」
「酔ってなんかいませんわ」
そんな上気した頬と潤んだ瞳で何を言う。
「酔っ払いの常套句だな」
「まぁ~~……
でもふふ、ゆるして差し上げます。だってわたし、陛下の事がだぁぁい好きですからね」
「……それはどうも」
「あ、信じてませんね、
ホントのホントに陛下の事が大好きなんですよ、ほら……」
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