後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

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第四章

どうか側に……

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突然の王命にて後宮から出るなと告げられたイズミル。

〈王命……な、何故?〉

侍女のターナとリズルも狼狽えている。

「どうしたのでしょうか?
 いきなり王命だなんて……」

リズルがはっとした様子でイズミルに言った。

「イズミル様っ、もしやご身分を偽ってお側に上がられた事が発覚したのでは!?」

「え、えぇ!?」

リズルの言葉を聞き、ターナがイズミルに言う。

「姫さま、その可能性が高うございます!今、捕縛の為に騎士がこちらに向かっているのかもしれません!」

「えぇ!?」

イズミルはただ驚くばかりであった。

リズルが半ば叫ぶように言う。

「イズミル様!逃げましょう!
王命は聞かなかった事にして、このまま城を出ちゃいましょう!」

それにターナが同意する。

「その方がよいでしょう。
私がここに残り、時間を稼ぎます。リズル、姫さまを馬車までお連れして。頼みましたよ!」

「ちょっと待って、
まだ捕縛されると決まったわけではないわ」

イズミルが二人を宥めるもターナとリズルはイズミルの身の安全を守ろうと必死になり過ぎて取り付く島もない。

太王太后宮の侍女も王命だと告げに来たはいいが事情が飲み込めずオロオロしている。

「国王陛下の突然の王命なんて嫌な予感しか致しません!!姫さま、どうかこのままお逃げ下さいませっ!」

「でも……」

なかなか立ち去ろうとしないイズミルを見かねてリズルがそっと手を取る。

「失礼いたします。イズミル様、
 さぁ参りましょう……!」

リズルにそこまでされ、仕方ないと歩き出そうとしたその時、

遠くの方から大きな声が聞こえた。

「待て!!そこを動くなっ!!」

「……!」

イズミルにとってこの世で一番好きな声。

声がした方を見やると、
廊下の突き当たりの所からグレアムが急ぎこちらに向かって来るのが見えた

〈グレアム様っ!?〉

国王の姿を認めてしまってはリズルもターナもどうする事も出来なかった。

ただ二人、イズミルの前に盾になるように立ち塞がった。

「リズル、ターナ……」

グレアムは走ってはいなかったものの、
かなり早歩きでこちらに向かって来る。

後ろからランスロットとマルセルが
追って来ているのが見えた。

二人、後宮の扉付近にいるイズミルを見て仰天している。

「っイズーっ!?」

「あなた、どうしてここにっ!?」

その声を背にグレアムはずんずんとイズミルに近づいて来ていた。

ターナはきつくグレアムを見据え、
リズルは半泣きにながらも両手を広げて
イズミルを守ろうとしていた。

イズミルはターナとリズルを下がらせた。

「ありがとう二人とも、大丈夫よ。
もし咎を受けるとしても陛下はお優しい
方だもの、酷い事はなさらないわ」

「っでもっ……!」

「国王陛下の御前よ、お下りなさい」

尚も引き下がろうとしないリズルをイズミルは敢えて強い口調で嗜めた。

リズルが不敬と捕えられるのは忍びない。

それに……

グレアムは怒っている感じではなさそうだ。

過去にグレアムに雷を落とされた事もあるイズミルにはわかった。

あれは……あの表情は焦っておられる?

そうしてグレアムはイズミルの目の前に立った。

グレアムの額に薄らと汗が滲んでいる。

「陛下……」

イズミルはカーテシーをし、礼を執った。

グレアムは何も言わず、
一心にイズミルを見つめている。

声を発したのはマルセルだった。

「ちょっ……どういう事!?
なぜイズーがこんな所にいるの!?」

ランスロットが静かに言う。

「………まさか」

そこへ必死な様相のリズルがグレアム達に言った。

「お待ち下さい、国王陛下!
イズミル様があのようにされたのには理由わけがあるのです!どうか、どうかイズミル様をお許しくださいっ!!」

「リズル……」

イズミルがリズルを見やる。

そんなリズルを見てマルセルが素っ頓狂な声をあげた。

「アレっ!?キミって、イコチャイアでイズーを助けてくれた侍女さんだよね!?なぜここに?……っていうか、イズミルって……」

それを聞き、リズルも驚いた顔をした。

「あ!わたしの頭を撫でてくれた側近さん…!」

そんな周りの声など届いていない様子でグレアムがぽつりと呟いた。

「イズミル……」

「!」

本当の名を呼ばれ、イズミルは大きく目を見開く。


グレアムが静かな声で皆に告げた。

「二人だけで話がしたい。皆、別室で待つように」

イズミルもターナに告げる。

「ランスロット様とマルセル様をお連れして。
お茶の用意もお願いね」

「……かしこまりました……ではお二人共こちらへ」

ターナが側近二人を連れて再び後宮内へと入って行く。
リズルも渋々それに従った。

「陛下はこちらへ」

イズミルはそう言い、グレアムを自室へと案内した。

グレアムに上座のソファーを勧めたが
グレアムは座ろうとはせず、
イズミルの前に立ったまま微動だにしなかった。

「陛下?」

いつになく真剣な眼差しにイズミルは何事かと心配になってしまう。

グレアムが微かに震える手で、
イズミルの両手を握った。

「……!」

そして声を押し出すように話し出した。

「……おばあさまから全て聞いた……」

「そうなのですね……
身分を偽り、名を偽り、勝手に後宮より出てお側に上がりました事、誠に申し訳ありませんでした……」

「違う。そうじゃない、謝るべきは俺の方だ。本来なら何を置いても守るべき妃であるキミを長年において放置してきた俺の方だ……!本当に、すまなかった……!」

「何を仰せですっ、それは違います。
陛下は後宮を閉じられるとされた際に、不干渉となる事を事前に告げられました。それでも良いと受け入れたのはこちらでございます。陛下がお気になされる必要はございません」

「そんな事はない。
あの時の俺は自分の事しか考えていなかった。幼いキミの事を何一つ思いやってやれなかった……それは間違いなく俺の罪だ……」

「違います!あれだけの事があったのです……!あの時の事は幼いながらも具に見ておりました、陛下のお心が如何に傷つけられたかわかっておりました。それでもわたくしは、恩義を返したいという自分の望みを優先させたのですっ、後宮を完全に閉じる事が出来ず、いつまでも陛下のお心を苦しめたわたくしが悪いのですっ……!」

「違うっ!キミは何も悪くないっ!
悪いのは、間違っていたのは全て俺だ!」

「陛下の方こそ、それは違います!
陛下は何も悪くはございませんっ!」

互いにそこまで言い合って、二人はふと気がついた。

お互いの両手をしっかり握り合って、さっきから違う違わないと互いに一歩も譲らない。

なんだか可笑しくなって同時に吹き出した。

二人一緒に笑い合ってる間もグレアムの手が離される事はなかった。

一頻ひとしきり笑い終えた後、
グレアムがイズミルの前に跪いた。

「陛下!?」

イズミルが驚いてグレアムを立たせようとする。

しかしグレアムの熱を孕んだ真剣な眼差しにはっと息を呑む。

「……イズミル、
キミが俺の側で働くようになって、俺の毎日がどれほど楽しくて色鮮やかなものになったか、キミは知らないだろう」

グレアムは強くイズミルの手を握りしめながら言葉を紡いでゆく。

「いつしか俺の心の中はキミでいっぱいになり、
キミが既婚者と知っていた俺がどれほど身を焦がれる思いをしたか、キミは知らないだろう」

「陛下……」

「キミが突然消えて、どれほど焦ったか、
どれほど心配したか、どれほど辛かったか、
キミは知らないだろう。そして……」

グレアムは軽く手を引き
イズミルの体を一歩分、跪く自身に近づけた。

「そして、キミが俺の妃だった事を知り、俺がどれほど神に感謝したか、どれほど嬉しかったか、キミは知らないだろう……!」

「陛下っ……!」


これは、夢なのだろうか。

あんなに遠く、手が届く事はないと思っていた彼が自分の手を握り、跪き、自分の欲しかった言葉を紡いでくれる。

イズミルの眦からぽろりと涙の粒がこぼれた。


「イズミル、こんな本当にどうしようもない俺だが、一度はキミを捨てようとした本当に愚かな俺だが、どうかもう一度機会チャンスを与えてくれないかっ……?
キミを生涯愛し、守り抜く権利を、もう一度俺に与えてくれないかっ……?」

「ふっ……うっ……くっ……」

イズミルの瞳から止めどなく涙が溢れ出す。
漏れる嗚咽を堪えきれなかった。

「愛してるんだイズミル。
キミを、キミだけを愛してる。どうしようもなくキミだけを……!どうか、どうか愚かな俺を許し、これからも俺の妃として共に生きて欲しい……!」


「グレ…アム様……」


気付けば体が動いていた。

イズミルはグレアムの胸に飛び込んでいた。
首に腕を回し、きつく、きつく縋るように抱きついていた。


「イズミル……!」

グレアムが強く抱きしめ返してくれる。

涙が溢れて止まらなかった。

あんなに遠かったグレアムの存在が今、
本当に近くに感じる。

物理的な距離じゃない、
きっと心の距離の問題なのだろう。


「グレアム様…わたくしも、わたしもずっとあなたをお慕いしておりましたっ……本当に本当にずっとお側にいてよいのですか……?」

「頼む、ずっと側にいてくれ……
そしてキミを愛する人生を俺に与えてくれ」

その言葉を聞き、イズミルは何度も何度も頷いた。

あぁ…

こんな幸せが待っていてくれたなんて……

イズミルはグレアムの腕の中で涙を零し続けた。

温かい。

嬉しい。

もっともっと、グレアムの事が大好きになる。

イズミルはそれを言葉にして伝えた。


「でもきっと、わたしの方がずっとグレアム様の事が好きです」

「時間の長さでは敵わないが、想いの深さは負けやしない。俺だって負けないくらい、キミが好きだ」

「いいえ!私は本当にグレアム様が大好きなんです!10歳の頃からずっとですよ!」

「はは、そうだったな。キミが俺の事がどれほど好きかは、チョコボンボンで酔った時に散々教えてくれたからな」

「え?なんですか、それ…き、聞いてませんわよっ……」

酔っ払った時の事を何も覚えていないイズミルが慌てた様子を見せる。

「そしてその時、どれほど好きかを態度で示してくれたんだ」

「え?」

態度?何を?と聞き返そうと顔を上げたイズミルにグレアムの影が落とされる。

グレアムからの初めての口付けは
そっと触れるだけのものだった。


「大好きだからこうするのだと、
あの時のキミが教えてくれたんだ」

「~~~~……!」

イズミルの顔が見る間に真っ赤になってゆく。

あの時、自分がそんな事をしていたなんて……!

イズミルは恥ずかしすぎて
グレアムの胸に顔を埋める。

グレアムは再びイズミルを包み込むように優しく抱きしめてくれた。


幸せだった。

その後もずっと

二人は互いを抱きしめ合い、

想いが通じ合った喜びを感じていた。



















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