後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

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外伝 イズミルと後宮の隠し部屋

呪いの真の恐ろしさ

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グレアム君は八歳だから夜寝るのが早い。

とくに今日はピクニックに行ったので疲れて夜の七時過ぎには眠ってしまった。

グレアム君就寝後、イズミルは側近達に緊急招集を掛けた。
もちろん王宮に戻って来ていたグレガリオにもご足労願う。

イズミルは皆に解呪の方法の内容を告げる。

イズミルから聞かされた皆は一様に安堵して見せた。

「なんだ……そのような事で良かったのですか。安心しました。これでいつでも解呪が可能となり、陛下は元のお姿に戻られますね」

ゲイルが心底嬉しそうに言った。
それを聞きながらマルセルが軽口を叩く。

「まぁあの生意気なワガママ王子然とした陛下も面白かったから、お別れとなるとちょっと寂しいよね」

「お小さい頃の陛下はあのような感じだったんですねぇ。しかし八歳にしてはかなり聡明であらせられる。さすがは我が国の君主だ」

皆、口々にイズミルの報告を良いものだと受け取っていた。

しかし最側近のランスロットだけはイズミルと同じ表情を浮かべ、何やら思案しているようだった。

グレガリオがイズミルに告げる。

「……されどズーちゃんはそれこそが難解な解呪法だと思っているのじゃな?」

「え?」「なぜ?」

意外な発言に皆がイズミルを見遣った。

「私も妃殿下と同意見です……」

ランスロットが重い口を開く。

イズミルはランスロットの言葉に頷き、皆の方へと向き直った。

「ダンテルマの王族への怨みは想像以上に重いものだったのだと痛感しておりますわ……解呪方法は呪いを掛けられた者にしか解けない、どんな強大な魔力を持つ優秀な術者であっても解けない、そんな呪いを後世の王族に遺したのですから」

様々な解呪方法。
中には強い古の魔術を用いた方法もあったにも関わらず、呪いは解けなかった。

その事からも外部からの解呪干渉ではダメなのだろうと考察していたが、今日のグレアムの様子を見て思い至ったのだ、解呪の鍵は呪いを掛けられた本人にあると。

呪いを掛けられ姿を変えられた本人が、強い意志で呪いを拒絶し相殺する。

要するに本人が
「本来の姿に戻りたい。だから呪いなんて無視して戻っちゃおう」的な意志があれば簡単に呪いは解けるのだ。

そう、本人の強い意志さえあれば……。

『イズミルは……大人の俺に会いたいと思うか?』

今日、湖のほとりでそう言っていたチビグレアムの表情が忘れられない。

『本当は俺とでなく、大人の俺とピクニックに来たかったか?』

ーーグレアム様………。

寂しそうな、孤独を感じている声色。

もっと幼く物事ものごとが理解出来ていないくらいの年齢か、
あるいはもっと成長して冷静に判断出来る年齢だったのなら、グレアムは直ぐにその事を受け入れて自ら呪いを解いただろう。

ーー自我が芽生え、自尊心が傷付きやすい年齢をわざわざ設定したんだわ……

イズミルはこの呪いの本当の恐ろしさを知り、背筋が凍る思いをした。

「今の段階では、グレアム様自身に呪いを解く意志はないと見受けられます」

イズミルの言葉に皆が目を見張る。

ランスロットがそれを肯定した。

「私もそのように判断しております。現状、陛下自身が今のご自分に満足されておられます」

「そんなっ……それはただ単に大人の時のご自分の記憶が無いからだろうっ?」

「記憶が無いからこそ、今の陛下の記憶がご自分の全てなのですよ」

ランスロットがそう言うと、グレガリオが言葉を継ぐように嘆息した。

「……元に戻れと言われても、今の陛下にしてみれば、お前さんは消えろと言われているようなものじゃろうのぅ……」

イズミルは自身の膝の上で重ねていた手をきゅっと握った。

必要なのはお前じゃない……その現実は八歳の子どもには酷すぎる。


ーーどの陛下も等しく大切な陛下だと告げた気持ちに偽りはないもの。


イズミルは皆に告げる。

この場での最高位は国王の正妃であるイズミルだ。


「幸い、国内の状勢に憂いはなく内政も安定しています。そして皆のおかげで政務も滞りなく行えておりますわ。……もちろん国王の不在は国力の低下に繋がり、一刻も早く陛下にはお戻り頂きたいのが正直なところですが……」

『イズミル!』

『頭を撫でてくれイズミル』

イズミルの脳裏にあどけないグレアムの笑顔が浮かぶ。

イズミルは言葉を続けた。

「今しばらくこのままで。陛下がご自分の意志で元に戻ると考えて頂けるようになるまで様子をみたいと思います」

「しかしそれではいつになるか……」

ゲイルが異を唱えようとするも、グレアムの心理的にはその方が良いと判断したのだろう。
最後まで告げる事はしなかった。

ここに居る皆が
あの幼いグレアムも大切にしたい、その思いがあるのだ。

イズミルと同じ気持ちなのだ。

皆一様に静かに頷いて、イズミルの決定に従った。



話し合いの後、イズミルはチビグレアムが眠っている部屋へと行った。

小さなルームランプが淡く光る室内で、すやすやとよく眠るグレアムの頬を指の腹で触れた。

「ふふ。お可愛らしい寝顔」

イズミルは柔らかい丸みのある頬に優しく口づけを落とす。

「明日は何をして遊びましょうか、グレアム様」

イズミルはいつまでも健やかに眠る小さな夫の寝顔を見つめていた。
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