後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

文字の大きさ
74 / 83
外伝 イズミルと後宮の隠し部屋

ダンテルマの思念

しおりを挟む
新たに見つかった隠し部屋の封印を解き、慎重に扉を開けたイズミルの目に飛び込んで来たのは、
一連の呪詛やトラップを仕掛けた超本人、数百年前に実在していた国王の側妃であったダンテルマその人の姿であった。


「え……そ、そんな……まさか……」


当然、イズミルは俄には信じられなかった。
幻覚ではないかと何度も見直す。

そんなイズミルの様子を怪訝に思ったグレアムが声を掛けて来た。

「どうかしたのか?イズミル」

「え?だって……」

イズミルはまた視線を室内に移す。

するとグレアムもイズミルの視線を辿るように室内に目をやり、そして訊いてきた。

「室内に何かあるのか?見たところ古い朽ち果てそうな寝台の骨組みが置かれているだけのようだが……」

「えっ?」

どういう事だろう。
グレアムにはダンテルマの姿が見えないという事か。

それにイズミルにはダンテルマが座しているのは、豪奢な飾り彫の美しい真新しい寝台にしか見えないのだけれど。
それを朽ち果てかけた骨組みだけの寝台とは……


グレガリオやランスロット、マルセルも誰の目にもダンテルマの姿は見えていないようなのだ。

イズミルがもう一度ダンテルマに視線を戻す。

すると彼女は大輪の薔薇が咲き綻ぶような笑みを浮かべ、ひとさし指をそっと自身の唇に当てた。

黙っていろという事なのだろう。

どうやらダンテルマの姿はイズミルにしか見えず、部屋の設えもグレアム達とは見ているものが違うのだと理解した。

イズミルはそれ以上は何も告げず、形だけ室内を調べてからこの部屋に異常は無いとした。



ーーこれはきっと、わたくしだけが向き合うべき事なのだわ。

イズミルは直感的にそう思い、とりあえずグレアム達とその場を後にした。

そして改めて一人、

誰にも知られないようにして先ほどの隠し部屋へと戻った。

何故そうしたのか、自分でも分からない。

でも何故か、そうしなければきっとダンテルマは何も語らない。
そう思ったのだった。

再び扉に何か細工をされていないか確かめて入室する。

するとそこにはやはり、ダンテルマと思われる女性がベッドに座していた。


イズミルは彼女に話しかけた。


「貴女は……ダンテルマ様ご本人だという認識でよろしいでしょうか?」

ダンテルマは微笑みを浮かべたまま頷いた。

そして、
「如何にも。私がアズラム王第七妃、オ=ダンテルマよ」
と言った。

しかしその声は目の前のダンテルマから発せられたものではない。

耳を介してではなく、直接脳に語り掛けられている感覚だった。


イズミルは背筋を伸ばし、ダンテルマと向き合う。

「わたくしの名はイズミル。第三十五代、グレアム王の正妃にこざいます」

「三十五代……随分時が進んだのね。私の姿が見れるのだから、貴女が王妃だという事はすぐにわかったわ。だってこの部屋は元々、王妃や一の寵妃でないと開けられない仕掛けにしておいたのだもの。そしてこの部屋を訪れた妃にのみ、私と対話出来るようにしておいたのよ」

「何故わざわざそのような手の込んだ事を……」


イズミルがそう言うと、ダンテルマは悪戯な表情を浮かべて答えた。

「さぁ?ただ、ここまで一人でやって来れる胆力のある妃としか話す気はなかったもの。それだけの事よ」

「話す……何故数百年前に亡くなった貴女とこうやって話す事が出来るのかしら?」

「だってそうなるように術を掛けたもの。魂の一部をこの部屋に定着させて、後世に遺したの。私という人間の存在を知って貰うために」

「貴女という存在……」

ダンテルマはイズミルに微笑み続けながら語る。


「そうよ。私という存在を、正しく理解できる妃にのみ、私の最高傑作の呪詛の解呪方法を教えてあげようと思ってね」

「最高傑作の……呪詛っ?」


ダンテルマの口から発せられた聞き捨てならない言葉にイズミルを目を丸くした。


まさかまだこれ以上に大きな呪詛を仕掛けているというのか?


イズミルはダンテルマを凝視する。


ダンテルマはイズミルのその様子を満足そうに見つめていた。












しおりを挟む
感想 509

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...