【完結】王配に選ばれなかった男の妻となった私のお話

キムラましゅろう

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祝賀の夜会にて①

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王国第一王女であったミラフィーナ。
彼女は今日、王位継承権第一位のもとに即位し、それにより数代ぶりである女王の治世が始まる。

その即位式の後すぐに婚姻の儀が執り行われた。
そしてルキウスのお姫様だったミラフィーナは、伴侶パートナーと共に新たな人生を踏み出したのである。

即位式と婚姻の儀、いずれもハリエットは隣に立つルキウスの様子をチラ見で窺っていたが、彼は終始ハンカチを片手に涙ぐんでいた。

「殿下っ……ご立派です……!」
「なんて美しい花嫁姿なんだっ……」

と何かにつけて感動し涙を流すので、
『貴方、ご自分の妻の花嫁姿は覚えてる?どうせ記憶の端にも残ってないんでしょ』
と嫌味のひとつでも言ってやりたくなったが、また怯えられるだけなのでやめておいた。
それに……式典参列用の正装姿のハリエットを見て、ルキウスは耳まで真っ赤に染め上げて「うっ……美しいよっ……」と褒めてくれたのでまぁ良しとしよう。

そう思った途端にルキウスから、
「殿下……じゃない、陛下の花嫁衣裳はみんなでデザインを考えたんだ……」
などと内輪の情報を開示された。
今度は思わず「椅子取りゲームのひとつしかない椅子のデザインを決めるような作業ね」
と声に出してしまう。
またデリカシーのない事を言ってしまったと内心焦るハリエットだったが、以外にもルキウスは「キミは上手いこと言うねっ……」と言って笑ったのでほっと胸を撫で下ろした。

そして夜になり、祝賀会でもある夜会に出席する。

今夜の主役であるミラフィーナと王配のファーストダンスをホールの片隅でルキウスと共に眺めた。
ミラフィーナが踊る様子を熱心に目で追うルキウス。
「次のステップは陛下が苦手とするチェンジステップなんだが……大丈夫かな……」
と不安げに見守るルキウスの隣で、ハリエットはただ黙って君主夫妻のダンスを見守っていた。

ルキウスが心配したステップも踏み外すことなくダンスを終えた女王と王配に、皆が祝福と賛辞の拍手を贈る。
安堵の表情を浮かべながら手を叩くルキウスに、ひとりの青年が話しかけてきた。

「ルキウス、久しぶりだな」

その青年を見たルキウスが明るい声を発する。

「スタンリーじゃないか。王宮を出て以来だな、元気にしていたか?」

ルキウスがスタンリーと呼んだその青年のことは、もちろんハリエットも知っていた。
かといって直接的な面識はないのだが、彼もルキウスと同じ王配候補であったことからその存在を知っているのだ。
スタンリー・バイラス。
バイラス侯爵家の三男である彼が、生家に戻った後に婚約を結んだ話は依然耳にしない。

「兄の執務仕事を手伝っているよ。……キミは早々に結婚んだな」

──ん?

ルキウスにしてみれば確かにその通りではある。
未練たらたらのルキウスの尻を叩いて最短の婚約期間を経ての婚姻だったのだから。
だがそれを他者が口にするのはどうなのだろう……。

「僕がいつまでもウジウジとしていたからね。スタンリー、紹介するよ。僕のつ、妻、ハリエットだ。ハリエット、彼はバイラス侯爵家のスタンリーだ」

妻のところで吃るのが残念ではあるが、紹介を受けてハリエットは笑みを浮かべてスタンリーに挨拶をした。
スタンリーは侯爵家の人間だが、彼は三男でハリエットは伯爵家の当主である。
立場が上であるハリエットからスタンリーに声をかけた。

「はじめましてバイラス侯爵令息、ハリエット・オーラウンです。以後お見知り置き願いますわ」

ハリエットの挨拶を受け、スタンリーは流れるような動作で彼女の手を取り、指先に口付け落とす形式を執る。

「はじめましてオーラウン女伯。僕はスタンリー・バイラス。貴女の夫となったルキウスとは、東方の国の言い回しをするなら“長年同じ王宮の飯を食った仲”というやつですよ」

「ふふ。存じ上げておりますわ」

東方流の表現を聞き、ハリエットは微笑んだ。
ルキウスの祖父がちゃぶ台(ローテーブル)を返す姿が頭に浮かぶ。

そんなハリエットを見て、スタンリーがルキウスに言う。

「美しい女性だな、ミラフィーナ様とはまた違う雰囲気だが良かったじゃないかルキウス」

その言葉を聞き、ルキウスは声のトーンを落としてスタンリーに告げた。

「スタンリー、もう気安く今までのような呼び方はしない方がいいよ。陛下はこの国の君主となられ、僕たちは臣民のひとりなのだから」

「それでも僕たちはミラフィーナ様にとっては誰よりも特別さ。それに何よりもキミはミラフィーナ様の一番のお気に入りだったじゃないか。そんな堅苦しいことを言ったら、寂しがられるんじゃないかな?」

ほほう。
一番のお気に入りとな。

二人の話を聞きながら、ハリエットはふむふむと心の中で相槌を打つ。

「正直、王配に選ばれるのはキミだと思っていたんだがなぁ。ミラフィーナ様の周りに居た人間全ての者がそう思っていたはずだよ」

スタンリー・バイラス。彼は少々あけすけ過ぎやしないだろうか。
こんな、誰が聞いてるかわからない場所で敢えて口にする必要のない事を言う。
世間に揉まれずに生きてきた空気の読めないお坊ちゃん……ハリエットは彼をそう評した。

「それでも、選ばれたのは僕じゃない」

「ルキウス……」

「キミだってそうだろ?僕たちは選ばれなかった」

「うっ……ミラフィーナ様っ……」

ルキウスのその言葉にスタンリーの瞳が潤んだのを見てハリエットはぎょっとした。
おいおいお坊ちゃん、まさかここで泣くんじなないだろうね?
ここにも乙女が居やがったぞ……。
と文官時代に培われた腹黒ハリエットが心の中で毒く。

どこか別の場所……テラスにでも誘導した方がいいだろうかと思ったその時、
まさかの雲上人から声を掛けられた。

「久しいな、二人とも」

高めだが涼しげな声色が鼓膜を震わせる。

「女王陛下っ……!」

女王ミラフィーナが夫となった青年を従えて、ハリエットたちの側へと近付いてきた。








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