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王配からの提案
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女王ミラフィーナの夫であるロシュフォードから内密に面談を望む文がハリエットに宛てに届いた。
なぜ王配が人目を忍んで秘密裏に会いたいと言ってきたのか、ハリエットにはその理由がわからない。
いや、ひとつだけ思い当たる節があるのだが、王配が同じ考えであるかは会ってみないとわからない。
したがってハリエットは、ロシュフォードが望む面談とやらに応じる事にした。
もちろんルキウスには内緒である。
普通の高位貴族夫人であるなら、親交のある夫人同士の茶会でもない限り夫の同伴無しでの外出は難しいのかもしれない。
だけどハリエットは伯爵家の当主である。
夫を伴わずしての外出理由は幾らでもあるのだ。
と、いうわけで生後半年で腰が据わりつつある双子を、子煩悩で積極的に育児に参加しているルキウスと彼の執務中はナニーに任せ、ハリエットは僅かな時間で戻るつもりで邸を出た。
指定された場所は王都の二等住宅街……中産階級の裕福層が居宅を構えるエリアの一画にある閑静な邸宅であった。
訪いを告げ、応じてくれたその家の管理人らしき者の説明では、この邸宅はロシュフォードの乳母の生家であるという。
今は乳母である女性が所有していて、今回の密談のために場所を提供したのだとか。
アイボリーとモスグリーンの色調で統一され、落ち着いた雰囲気の設えの邸宅内を歩き、ハリエットは応接室へと通された。
そしてそこには既に、王配ロシュフォードの姿が在った。
入室したハリエットの姿を認めたロシュフォードがソファーから立ち上がる。
そしてハリエットの側まで来て、紳士らしくソファーまでエスコートしてくれた。
「今日は無理な願いを聞き届けてくれてありがとう。互いに夜会などで挨拶くらいしか言葉を交わしたことはないから、正直に言うと内密な面談など応じてくれないかと懸念していたんだ」
「本日はお招きありがとうございます。オーラウン伯ハリエット、殿下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しいのは無しにしよう。貴女はルキウスの妻なのだ、僕のことはロシュフォードと読んでくれたまえ」
「承知いたしましたわ」
とりあえず挨拶を済ませ、二人は用意された紅茶を口にして喉を潤した。
優雅な所作で茶器をローテブルに音もなく戻すロシュフォードがハリエットに言う。
「今日、夫人にここまで足を運んで貰った理由はひとつ、お互いの伴侶の今後について話合いたいと思ってね」
やはりか。
とハリエットは思った。
まだ彼の口からそれが告げられたわけではないが、おそらくロシュフォードもハリエットと同じ考えであると予想できた。
なので単刀直入にハリエットは切り出した。
間怠っこしいのは嫌いな性分だ。
ましてや本心では身を切るような辛い内容なら尚更だ。
「そのお話とは、女王陛下と我が夫ルキウスが愛を育めるよう、私たちが後押しをする……というものにございますね?」
歯に衣着せぬ(ハリエット的には充分にオブラートに包んだつもり)物言いにロシュフォードは一瞬瞠目したが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。
「そうだ。……貴女も同じ考えであったと判断してもいいのかな?」
その問いかけに、今度はハリエットが頷いた。
「はい。女王陛下はともかく、ルキウス様は望まぬ婚姻を強いられた被害者ですから……。婿としての一番の責務を果たしてくれた後であるならば、彼を自由にさせてあげたいと思っておりました。……もっとも、子ども達の父親としての役目を疎かにしないという約束の下でとなりますが……」
国婿であるロシュフォードがハリエットの言葉を聞き、美しい顔を悲しげに綻ばせる。
「この場において僕が言うのもなんだが……貴女はそれで良いのか?」
「良いも悪いも。わたくし個人でもずっとそうするべきだと思っておりましたし、ロシュフォード殿下はわたくしにその旨を承諾させるために面談を希望されたのでございましょう?」
「ああそうだ。ミラフィーナは王家のために僕を伴侶として選んだ。彼女は自身の幸せよりも国の安寧を望み、そして今も臣民のために身を粉にして国政の舵取りをしている。僕はそんな彼女に、心からの癒しが必要であると考えているんだ」
そう言ったロシュフォードからは、王配としての立場と、愛する女性の真の幸せを心から願うひとりの人間としての感情の狭間で葛藤してきた気配を漂っていた。
彼は悩み抜いた末に、ハリエットにこの提案を持ちかけてきたのだろう。
ロシュフォードの提案はこうだ。
表立っての名目は、ルキウスに王族の側付きという役職を与え、ミラフィーナの側に配すること。
そしてミラフィーナがルキウスを男性の公妾とできるよう、周囲がそれを暗黙の了解とするように誘導し、サポートするというものであった。
どちらも簡単ではないだろうが、王配であるロシュフォードの手に掛かればその通りに事が運ぶはずだ。
ハリエットの仕事はそれを認め、決して異を唱えることなく夫の背中を押してやることだけだ。
つきつきと痛む胸の痛みに蓋をして、
ハリエットはロシュフォードのその提案に首肯したのであった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
ごめんなさい。
明日の更新はお休みです。
(*;ω人)ゴメンネ...
なぜ王配が人目を忍んで秘密裏に会いたいと言ってきたのか、ハリエットにはその理由がわからない。
いや、ひとつだけ思い当たる節があるのだが、王配が同じ考えであるかは会ってみないとわからない。
したがってハリエットは、ロシュフォードが望む面談とやらに応じる事にした。
もちろんルキウスには内緒である。
普通の高位貴族夫人であるなら、親交のある夫人同士の茶会でもない限り夫の同伴無しでの外出は難しいのかもしれない。
だけどハリエットは伯爵家の当主である。
夫を伴わずしての外出理由は幾らでもあるのだ。
と、いうわけで生後半年で腰が据わりつつある双子を、子煩悩で積極的に育児に参加しているルキウスと彼の執務中はナニーに任せ、ハリエットは僅かな時間で戻るつもりで邸を出た。
指定された場所は王都の二等住宅街……中産階級の裕福層が居宅を構えるエリアの一画にある閑静な邸宅であった。
訪いを告げ、応じてくれたその家の管理人らしき者の説明では、この邸宅はロシュフォードの乳母の生家であるという。
今は乳母である女性が所有していて、今回の密談のために場所を提供したのだとか。
アイボリーとモスグリーンの色調で統一され、落ち着いた雰囲気の設えの邸宅内を歩き、ハリエットは応接室へと通された。
そしてそこには既に、王配ロシュフォードの姿が在った。
入室したハリエットの姿を認めたロシュフォードがソファーから立ち上がる。
そしてハリエットの側まで来て、紳士らしくソファーまでエスコートしてくれた。
「今日は無理な願いを聞き届けてくれてありがとう。互いに夜会などで挨拶くらいしか言葉を交わしたことはないから、正直に言うと内密な面談など応じてくれないかと懸念していたんだ」
「本日はお招きありがとうございます。オーラウン伯ハリエット、殿下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しいのは無しにしよう。貴女はルキウスの妻なのだ、僕のことはロシュフォードと読んでくれたまえ」
「承知いたしましたわ」
とりあえず挨拶を済ませ、二人は用意された紅茶を口にして喉を潤した。
優雅な所作で茶器をローテブルに音もなく戻すロシュフォードがハリエットに言う。
「今日、夫人にここまで足を運んで貰った理由はひとつ、お互いの伴侶の今後について話合いたいと思ってね」
やはりか。
とハリエットは思った。
まだ彼の口からそれが告げられたわけではないが、おそらくロシュフォードもハリエットと同じ考えであると予想できた。
なので単刀直入にハリエットは切り出した。
間怠っこしいのは嫌いな性分だ。
ましてや本心では身を切るような辛い内容なら尚更だ。
「そのお話とは、女王陛下と我が夫ルキウスが愛を育めるよう、私たちが後押しをする……というものにございますね?」
歯に衣着せぬ(ハリエット的には充分にオブラートに包んだつもり)物言いにロシュフォードは一瞬瞠目したが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。
「そうだ。……貴女も同じ考えであったと判断してもいいのかな?」
その問いかけに、今度はハリエットが頷いた。
「はい。女王陛下はともかく、ルキウス様は望まぬ婚姻を強いられた被害者ですから……。婿としての一番の責務を果たしてくれた後であるならば、彼を自由にさせてあげたいと思っておりました。……もっとも、子ども達の父親としての役目を疎かにしないという約束の下でとなりますが……」
国婿であるロシュフォードがハリエットの言葉を聞き、美しい顔を悲しげに綻ばせる。
「この場において僕が言うのもなんだが……貴女はそれで良いのか?」
「良いも悪いも。わたくし個人でもずっとそうするべきだと思っておりましたし、ロシュフォード殿下はわたくしにその旨を承諾させるために面談を希望されたのでございましょう?」
「ああそうだ。ミラフィーナは王家のために僕を伴侶として選んだ。彼女は自身の幸せよりも国の安寧を望み、そして今も臣民のために身を粉にして国政の舵取りをしている。僕はそんな彼女に、心からの癒しが必要であると考えているんだ」
そう言ったロシュフォードからは、王配としての立場と、愛する女性の真の幸せを心から願うひとりの人間としての感情の狭間で葛藤してきた気配を漂っていた。
彼は悩み抜いた末に、ハリエットにこの提案を持ちかけてきたのだろう。
ロシュフォードの提案はこうだ。
表立っての名目は、ルキウスに王族の側付きという役職を与え、ミラフィーナの側に配すること。
そしてミラフィーナがルキウスを男性の公妾とできるよう、周囲がそれを暗黙の了解とするように誘導し、サポートするというものであった。
どちらも簡単ではないだろうが、王配であるロシュフォードの手に掛かればその通りに事が運ぶはずだ。
ハリエットの仕事はそれを認め、決して異を唱えることなく夫の背中を押してやることだけだ。
つきつきと痛む胸の痛みに蓋をして、
ハリエットはロシュフォードのその提案に首肯したのであった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
ごめんなさい。
明日の更新はお休みです。
(*;ω人)ゴメンネ...
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