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初恋は妻となった人 (ルキウスside)③
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自らの失言で招いた波乱の初夜を終えてルキウスが理解したことは、
妻となった人が初恋の相手ともなったという事である。
物心つく前から将来の王配候補としてミラフィーナの側に置かれたルキウス。
そのミラフィーナに感じていた情は、親愛もしくは忠誠心といったものであったのだ。
ミラフィーナ以外の令嬢や女性と必要以上に親しく接する機会がなかったために、今まで知らずに……感じずにきたのだ。
他者に、とくに異性に感じる情に種類があることを、ルキウスはハリエットと出会って初めて知った。
……ということに気付いたのが初夜であったのだが。
思えば弔辞を述べた時から既に惹かれていたのだ。
だが自分は王配候補。
ミラフィーナ以外に心を傾けるなんて以ての外であったし、ミラフィーナ以外にそんな心情を持つなんて有り得ないと思っていたのだ。
ただ、敬服するハリエットに自分は相応しくない……だけど夫婦となったのであれば少しでも彼女を支えられる男になるように努める。
そしてゆっくりと愛情を育んでいけばいい、だからそれまで少しだけ猶予を……と思っていたのに初夜は慣行された。
そして蓋を開けてみれば最初からハリエットに惹かれていた自分がいたことに気付くという体たらくだった。
──僕って……チョr…
いやその先は考えるまい。
きっかけなんて、何時からだったかなんてどうでもいい。ハリエットに恋情を抱いているのは間違いないのだからそれを受け入れ、彼女の夫として毅然としていよう。
と、思うのにルキウスの言動は毅然と真逆の落ち着きのない挙動不審なものとなってしまう。
──だって仕方ないよっ……ハリエットを前にすると胸がドキドキして、声を聞くだけで幸せ過ぎて頭がどうかなりそうなんだからっ……
齢十八にしてようやく初恋を迎えた男のその挙動不審さが、愛する妻に誤解を与えている事に気付かない。
そんな中で迎えた新女王の即位式と婚姻の儀。
かつては誰よりも近くに居て、今では君主と臣下の距離となったミラフィーナを遠くから見つめる。
婚姻式当日は少しは複雑な心境になるのではないかと思っていたが、不思議なくらい凪いだ心でミラフィーナとロシュフォードが結ばれる様を眺める事が出来た。
それは偏に、隣に立つハリエットのおかげだろう。
彼女への恋心が無ければ、きっと今頃ミラフィーナに対する親愛を恋情と勘違いして、苦い思いをしていたかもしれない。
そしてその夜、初めて夫婦として祝賀の夜会に出席した際に、ミラフィーナ直々から忘れ物があると告げられる。
──なんだろう?忘れ物をした覚えはないんだけど。
不思議に思いながらも、それを放置して帰るわけにはいかず、ルキウスは勝手知ったる王宮の来賓客の控え室でハリエットに待ってて貰うことにしてその忘れ物とやらを取りに行った。
以前王宮で与えられていた部屋へ行くと、王配となったばかりのロシュフォードがそこに居た。
ルキウスは怪訝そうな表情を浮かべ、かつてライバルでもあった友人に尋ねる。
「……これから初夜を迎えようという男がなぜこんな場所にいるんだ?」
するとロシュフォードは困ったように肩を竦めながら口の端を上げた。
「今、ミラフィーナ様はある人と面談中でね。それで手持ち無沙汰となった僕は、キミのところに来たというわけさ」
「面談?こんな夜に?」
「こんな夜だからさ。ご自身の心にけじめをつけたいのさ、あの方は」
「けじめ?」
何のけじめなのだろう。
そう疑問に思うルキウスにロシュフォードが言う。
「だから、僕もキミに会うべきだと思ったんだ。ルキウス、スタンリーには夜会で告げたんだが……僕は改めて誓うよ。己の人生全てを懸けてミラフィーナ様を守り、そして支えていくと……」
その決意に満ちた眼差しにルキウスは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
元より憂いなどない。
彼は自分なんかより遥かに優秀な男だ。
何より人格者である。
きっとより多くの者の意見に耳を傾け、拾うべきものは拾い、その言葉を正しく女王に届けるだろう。
「ロシュー……いや、ミドラス公、」
(婚姻を機にロシュフォードには公爵位が叙爵されている。ミドラスはこの国の代々の王配公爵が名乗るミドルネームである)
ルキウスは友人の呼び名を改めて、彼を見据えた。
「ならば私は、妻であるオーラウン女伯と共に陛下と貴方様に忠誠を誓い、そしてその御代をお支えすると誓います」
そう告げて、ルキウスは臣下の礼を執った。
それをどこか寂しげに頷くロシュフォードの胸の内に何があったのか、その時のルキウスには解るはずもなく。
そしてその真意を理解した時は、ハリエットに女王の愛人となる事を勧められた時であった。
愛する妻と共に秘密裏にルキウスを女王の男性公妾に迎えようとしたロシュフォード。
それに対し物言いたい事は多々あれど、まずは腕の中で切なげに泣く妻の誤解を全身全霊かけて解き、謝罪せねばならないと思うルキウスであった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
本来ならショートと呼べる文字数のお話。
マイペースにのんびり続けてきた物語もラストを迎える段階になりました。
あともう少し、お付き合いいただければ幸いです。
と、言いつつ明日はるちあんの方を更新させたいのでお休みさせていただきます。
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )ゴメンナサイ
妻となった人が初恋の相手ともなったという事である。
物心つく前から将来の王配候補としてミラフィーナの側に置かれたルキウス。
そのミラフィーナに感じていた情は、親愛もしくは忠誠心といったものであったのだ。
ミラフィーナ以外の令嬢や女性と必要以上に親しく接する機会がなかったために、今まで知らずに……感じずにきたのだ。
他者に、とくに異性に感じる情に種類があることを、ルキウスはハリエットと出会って初めて知った。
……ということに気付いたのが初夜であったのだが。
思えば弔辞を述べた時から既に惹かれていたのだ。
だが自分は王配候補。
ミラフィーナ以外に心を傾けるなんて以ての外であったし、ミラフィーナ以外にそんな心情を持つなんて有り得ないと思っていたのだ。
ただ、敬服するハリエットに自分は相応しくない……だけど夫婦となったのであれば少しでも彼女を支えられる男になるように努める。
そしてゆっくりと愛情を育んでいけばいい、だからそれまで少しだけ猶予を……と思っていたのに初夜は慣行された。
そして蓋を開けてみれば最初からハリエットに惹かれていた自分がいたことに気付くという体たらくだった。
──僕って……チョr…
いやその先は考えるまい。
きっかけなんて、何時からだったかなんてどうでもいい。ハリエットに恋情を抱いているのは間違いないのだからそれを受け入れ、彼女の夫として毅然としていよう。
と、思うのにルキウスの言動は毅然と真逆の落ち着きのない挙動不審なものとなってしまう。
──だって仕方ないよっ……ハリエットを前にすると胸がドキドキして、声を聞くだけで幸せ過ぎて頭がどうかなりそうなんだからっ……
齢十八にしてようやく初恋を迎えた男のその挙動不審さが、愛する妻に誤解を与えている事に気付かない。
そんな中で迎えた新女王の即位式と婚姻の儀。
かつては誰よりも近くに居て、今では君主と臣下の距離となったミラフィーナを遠くから見つめる。
婚姻式当日は少しは複雑な心境になるのではないかと思っていたが、不思議なくらい凪いだ心でミラフィーナとロシュフォードが結ばれる様を眺める事が出来た。
それは偏に、隣に立つハリエットのおかげだろう。
彼女への恋心が無ければ、きっと今頃ミラフィーナに対する親愛を恋情と勘違いして、苦い思いをしていたかもしれない。
そしてその夜、初めて夫婦として祝賀の夜会に出席した際に、ミラフィーナ直々から忘れ物があると告げられる。
──なんだろう?忘れ物をした覚えはないんだけど。
不思議に思いながらも、それを放置して帰るわけにはいかず、ルキウスは勝手知ったる王宮の来賓客の控え室でハリエットに待ってて貰うことにしてその忘れ物とやらを取りに行った。
以前王宮で与えられていた部屋へ行くと、王配となったばかりのロシュフォードがそこに居た。
ルキウスは怪訝そうな表情を浮かべ、かつてライバルでもあった友人に尋ねる。
「……これから初夜を迎えようという男がなぜこんな場所にいるんだ?」
するとロシュフォードは困ったように肩を竦めながら口の端を上げた。
「今、ミラフィーナ様はある人と面談中でね。それで手持ち無沙汰となった僕は、キミのところに来たというわけさ」
「面談?こんな夜に?」
「こんな夜だからさ。ご自身の心にけじめをつけたいのさ、あの方は」
「けじめ?」
何のけじめなのだろう。
そう疑問に思うルキウスにロシュフォードが言う。
「だから、僕もキミに会うべきだと思ったんだ。ルキウス、スタンリーには夜会で告げたんだが……僕は改めて誓うよ。己の人生全てを懸けてミラフィーナ様を守り、そして支えていくと……」
その決意に満ちた眼差しにルキウスは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
元より憂いなどない。
彼は自分なんかより遥かに優秀な男だ。
何より人格者である。
きっとより多くの者の意見に耳を傾け、拾うべきものは拾い、その言葉を正しく女王に届けるだろう。
「ロシュー……いや、ミドラス公、」
(婚姻を機にロシュフォードには公爵位が叙爵されている。ミドラスはこの国の代々の王配公爵が名乗るミドルネームである)
ルキウスは友人の呼び名を改めて、彼を見据えた。
「ならば私は、妻であるオーラウン女伯と共に陛下と貴方様に忠誠を誓い、そしてその御代をお支えすると誓います」
そう告げて、ルキウスは臣下の礼を執った。
それをどこか寂しげに頷くロシュフォードの胸の内に何があったのか、その時のルキウスには解るはずもなく。
そしてその真意を理解した時は、ハリエットに女王の愛人となる事を勧められた時であった。
愛する妻と共に秘密裏にルキウスを女王の男性公妾に迎えようとしたロシュフォード。
それに対し物言いたい事は多々あれど、まずは腕の中で切なげに泣く妻の誤解を全身全霊かけて解き、謝罪せねばならないと思うルキウスであった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆
本来ならショートと呼べる文字数のお話。
マイペースにのんびり続けてきた物語もラストを迎える段階になりました。
あともう少し、お付き合いいただければ幸いです。
と、言いつつ明日はるちあんの方を更新させたいのでお休みさせていただきます。
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )ゴメンナサイ
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