【完結】お察し令嬢は今日も婚約者の心を勝手にお察しする

キムラましゅろう

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中編

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次の登城の日、わたくしは早速エル様に話し合いを申し出ました。

「エルリック殿下、お話がございますの」

「うん。奇遇だね、私もキミに話があったんだ」

キュピーン!

──はっ!お察し!

エル様も婚約解消のお話をわたくしにしようとされているのだわ。
今後の事を考えれば、婚約解消は一分一秒でも早い方がいいのですから。
わたくしが知らないだけで、じつは婚約解消に向けて水面下で動かれていたのかもしれないわ。
優秀なエル様なら有り得ますもの。

そう察した途端、またつきつきとわたくしの胸が痛みました。
覚悟を決めたはずなのに、彼を解放すると決めたはずなのに、いざエル様の方から言われると辛いものがあるわ……。

だけどわたくしは長年の王太子妃教育の賜物である鉄壁の淑女スマイルで、痛みを伴う胸の内を覆い隠しました。

「……エルリック殿下、ご安心くださいませ。わたくしは全て察しておりますから」

そうエル様に告げると、彼は笑みを浮かべたまま、若干低くなった声色でわたくしに尋ねられました。

「ん?今日は何を察したというの?オフィーリアはいつも色々と察してくれるけど、それが正解な時ととんでもなく不正解な時があるんだよね。それにさっきからエルリック殿下だなんて他人行儀な呼び方をして……。これはどうやら不正解の方だね」

「だって、もうすぐわたくしは愛称でお呼びする資格を失うのですもの。今のうちから慣れておく方がいいと思いましたの……」

「……やはり明後日の方向にお察ししてくれているようだ。とにかくここで話しをするのはよそう。私の部屋へ行くよ、おいでオフィーリア」

エル様はそう言ってわたくしに手を差し伸べられました。
婚約者で無くなるわたくしがこの手を取ってよいものか迷いましたが、正式な手続きが済むまではまだ婚約者同士であるのだからと、わたくしはそっとエル様の大きな手に自分の手を重ねました。

エル様はいつものように、わたくしの指先を一瞬だけ力を込めてきゅっと握ります。

──エル様の癖のようなもの?

これはいつからかしら。多分わたくしたちがそれぞれ思春期お年頃と呼ばれる年齢になった頃からだったと思いますわ。

わたくしはエル様に手を引かれ、彼の部屋へと行きました。
エル様はわたくしを二人掛けのソファーに座らせると、侍従にはお茶の支度を、側近には午後からの仕事の指示をしてから、わたくしの隣に腰かけられましたわ。

長いお御足を優雅に組まれ、エル様はわたくしの方へとその美しいかんばせを向けられました。

「それで?オフィーリアは昨日、庭園で隠れて私を見ていたね。オフィーリアの話とはそれと関係あるのかな?」

「あら、バレていましたの?変ね、ちゃんと木の陰に隠れていましたのに」

「側に付いている侍女と護衛騎士が隠れていなければ意味がないよね」

「まぁ、確かにその通りですわね。わたくしとしたことが失念しておりましたわ」

その後エル様が「まぁ喩え姿が見えなくても、オフィーリアならどこにいるのかすぐにわかるんだけどね」と言ったのは、『わたくしのうっかり屋さん』と心の中でてへぺろっとしていたわたくしの耳には届きませんでしたの。

わたくしは気を取り直して本題に入ることにしました。

「……でも、わたくしが見ていたのをご存知なのでしたら話は早いですわ。エルリック殿下、」

「エル、だよ。オフィーリア」

「ではエル殿下、」

「……なんだい?オフィーリア」

エル様の灰色の瞳がわたくしを見据えます。
思わず目を伏せたくなってしまいました。
でも、わたくしはエル様のお幸せのために言わなくてはならないのです。
喉がヒリつきそうになるのをなんとか堪え、わたくしはエル様に告げました。

「……っ、わたくしと、こ、こ、「婚約解消なんてしないよオフィーリア」……え?」

わたくしが告げた婚約解消という言葉を同時にエル様が声を被せて言いました。

わたくしは驚いてしまって二の句が継げません。
なぜエル様はわたくしが言おうとした事がわかったのかしら?

「昨日、私とバネッサ嬢が一緒に居るところを見て変にお察しをしなければいいと思っていたが、やはりしていたか……。公務に穴を空けてでもロッテンフィールドの屋敷へ赴くべきだった」

「え、え?どういう意味ですの?」

「あのねオフィーリア。私とバネッサ嬢はキミが考えているような関係ではないよ」

「でもあんなに楽しそうに……」

「うん、彼女とは共通の話題で盛り上がっていたらね」

「共通の話題……」

「その事についてキミに話たいと思っていたんだよ。……どうした?」

エル様はわたくしにお話する最中に近付いて来た側近の方に、目線だけ向けられてそう尋ねました。
側近の方が何やらエル様に耳打ちをされています。
それを聞いているエル様の表情は何一つ変わりませんが、きっとご政務の事で何やらございましたのでしょう。

ええ。わたくしはここでもちゃんとお察しいたしますわ。
婚約解消に向けて具体的にお話を進めたかったけれど、大切なご政務の邪魔をしてはいけません。

わたくしがすくとソファーから立ち上がると、エル様も続いて立ち上がられましたわ。
エル様は紳士ですもの。
淑女レディを立たせて自分は座ったままだなんて事はなさいません。
本当はそれが許されるご身分であるというのに、
いつもわたくしを敬ってくださるのです。
わたくしはエル様のそんなところも大好きなのですわ。

「エル様、お忙しいご様子なので本日はこれで御前を失礼いたしますわ」

わたくしがそう告げるとエル様はわたくしの片手を掬い上げ、申しわけなさそうなお顔をされました。

「……すまないオフィーリア。本当はキミの誤解を解くために話をしたかったんだが、シンドリックの事で直ぐに対応しなければならなくなってしまった」

「シンドリック様の?」

シンドリック様とはエル様の年の離れた弟君ですわ。
御歳十歳の、お可愛らしいこの国の第二王子であらせられますの。
そのシンドリック様の身辺で何か起きたのかしら?と気にはなるものの、これ以上の長居は無用と察したわたくしは、ご挨拶をしてエル様のお部屋を後にしたのです。


今日はこの後王妃様とお茶を戴く約束をしておりますので、少し時間は早いですが王妃宮へと向かうことにしました。
お約束の時間まで王妃宮の図書室をお借りして読書でもして過ごしましょう。

わたくしは侍女と護衛騎士を連れて静々しずしずと王宮内を歩いておりました。

すると前方から大きなお腹を揺らして、ジョンストン伯爵が歩いて来るのが見えました。
ジョンストン伯爵は、昨日エル様との逢瀬を見てしまったバネッサ様のご尊父そんぷ様ですわ。

大きなお腹と言っても妊婦さんではございませんのよ?
ジョンストン伯爵は男性ですからね。
あのお腹には少々たっぷりめのお肉が詰まっているのですわ。

相手が年上の男性とはいえ、わたくしは公爵家の娘。
そして今はまだ王太子殿下の婚約者という立場なのですから、わたくしの方が位が高いという事になります。
ですからわたくしの方から、向かい合ったジョンストン伯爵に声をおかけしましたの。

「ごきげんようジョンストン伯爵。良いお天気ですわね」

するとジョンストン伯爵はポケットからチーフを取り出され、お顔の汗を吹き吹きされました。

「これはこれは……!ご機嫌麗しゅう。ロッテンフィールド公爵令家が誇る大輪の花、美しきオフィーリア公女様にご挨拶を申しあげます」

「まぁお上手ですこと」

この賛辞を鵜呑みにしてはいけませんのよ。
これは女性に対する一般的な社交辞令、間違っても調子に乗って自分が超美人だと思ってはなりません。
これは伯爵がわたくしという人間をよく知らないために、当たり障りのない……むしろ耳触りの良い言葉を並べて挨拶をしたと察せねばなりませんわ。

それをきちんと察したわたくしは伯爵に尋ねました。
宮廷勤めではない伯爵がなぜわざわざ、お腹を揺らして王宮に来られたのか気になってしまったものですから。

「伯爵は今日はどのような用向きで参内されましたの?」

ジョンストン伯爵はまだまだ吹き出る汗をせかせかと吹きながら答えてくれました。

「本日は誠に光栄なお話のお返事を直接陛下と王太子殿下にさせていただくために、参った次第にございます。善は急げと言いますからな」

「光栄なお話とは?……わたくしが窺ってもよろしいのかしら?」

「ロッテンフィールド公爵令嬢は王家とも関わりのあるお方ゆえ、お話しても問題ないでしょうな。……じつはこの度、王太子殿下直々に我が娘バネッサに縁談を賜りまして」

「……まぁ、そうなのですか?」

ここで表情を一切変えずに平静を保てたわたくしを、わたくしは褒めてあげたいですわ。

だって……伯爵から出た言葉はわたくしにとって、とても衝撃的なものでございましたから。

「是非に妃にと、王太子殿下から請われましてな。バネッサもそれはそれは乗り気で。お返事をお待ちいただいておりますれば、吉報は早い方がよいと今日は突然の謁見を…… …… ..



それから後の記憶は、
お恥ずかしながらありませんの。

わたくしは気が付いたら王宮の庭園におりました。
幼い頃からよくエル様とお茶をしたり本を読んだりしたお気に入りのガゼボに来て、ベンチに座っていたのです。

あれからジョンストン伯爵はどうされたのかしら?
心配そうにわたくしを見守る侍女にその事を尋ねると、きちんと挨拶を交わして別れたそうだから無意識に普段通りしていたようね。
意識をせずとも幼い頃から身に染みついた行動をしていたということなのでしょう。

それにしても…………

エル様自らジョンストン伯爵にバネッサ様との縁談を申し込まれただなんて……。

の縁談かなんて、考えるだけ無駄ですわね。
そんなの、エル様ご自身しか有り得ませんわ。
だって弟君のシンドリック様はまだ十歳。妹君のアリアナ様においてはまだ七歳のおチビさんですもの。

「……やっぱり……バネッサ様こそを、エル様はお求めなのではないですか……」

妃にと自らこいねがうほど。
それほど心を寄せておられるのではないですか。

わたくしは何とも言えない虚しい気持ちになりました。

そうとおっしゃってくだされば。
もっと早くに胸の内を打ち明けてくだされば、わたくしはすぐにでも身を引きましたのに……。

辛くても悲しくても、エル様の幸せを心から応援しましたのに。

でも……

……でもやはり、順番が逆ではないかしら?

長年結んでいた婚約者のわたくしに遠慮して何も言えなかったにせよ、せめてきちんとわたくしとの婚約を解消してからバネッサ様に求婚するべきなのではないかしら。

なんだか温厚篤実なエル様らしくないわ……。

キュピーン……(弱々)

「そう、そうなのね……」

そこでわたくしは察しました。

順序を忘れるほど、ロッテンフィールド公爵家への……わたくしへの配慮を忘れるほど、それほどまでにバネッサ様への想いで頭がいっぱいになられたのね……。

人を愛するって、そういうことですもの……。


ぽたり、

ぽたり。

いつの間にか俯いていたわたくしの視界が涙で滲み、ぽたりぽたりと涙の雫が落ちてドレスに染みを作っていきます。
淡いミントグリーンのタフタがわたくしの涙を受け止めてくれている……。
優しい色合いが、今は悲しい色に見えますわ。
このドレスはエル様から贈られたものだから。

このドレスだけではなく、わたくしの衣装や装飾品は全て、エル様から贈られたものなのです。

でももう、わたくしにはそれを身に付ける資格がない……。

「うっ、うぅ……うっく……」

どうしましょう。
淑女たるもの、このような場所で泣くべきではないのに。
だけど涙が止まりません。
堪えきれず嗚咽も漏れだしてしまっています。
泣き止まなくては。王妃様とのお約束の時間が迫っているわ。
だけど泣き止まなくてはと思えば思うほどに、涙がどんどん溢れてきてどうしようもないのです。

「お嬢様……」
という、侍女と護衛騎士が気遣う声が聞こえても、わたくしにはこの涙を止めるすべが見つかりません。

もういっそこのまま涙と一緒に溶けてしまいたい。
そうすれば、わたくしが居なくなれば、エル様はなんの憂いもなく直ぐにでもバネッサ様と結ばれることが出来ますわ。

「うっく……ふっ……ひっく、」

この場所に誰も居なくてよかった。
それでも誰にも聞かれぬよう、わたくしは声を殺して泣き続けました。

その時、
そんなわたくしを大きな何かが包み込みました。

その途端に鼻腔を擽る、馴染みに馴染んだ香り。
シトラス系の爽やかな香りがわたくしを包んだのです。

誰かがわたくしを抱きしめています。
誰か、だなんて。
そんなの世界にひとりしかいません。

涙で霞む目を、わたくしを抱きしめるエル様に向けました。

「……エル様……」

「また勝手に察して泣いてるんだね。……いや、今回の事は全て私が悪い。説明するタイミングを逃したせいで、オフィーリアを悲しませてしまった」

「ごめん、ごめんね」
と言いながら、エル様はわたくしの涙をご自身の指の背で掬われました。

「オフィーリアが泣いてると知って、直ぐに飛んできたんだ」

「え……?」

何故わたくしが泣いているとわかったのかしら……?

でももういいわ。
わたくしはわたくしに出来ることをするだけ。

わたくしはエル様の腕の中で、彼を見上げながら告げました。

「もういいのです。皆までおっしゃらないで……。エル様、わたくし達、婚約を解消しましょう」



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