無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
148 / 161
ミニ番外編

三年後 リズムの夢



「ノエル。私、決めたの。初等学校を卒業したらアデリオール魔術学園に進学する」

リズムはその日、
幼馴染であり親友であり他人性双子の片割れであるノエル・ワイズ伯爵令嬢にそう告げた。
今日は学校帰りにノエルがリズムの家に寄り、二人で放課後お茶会を楽しんでいた最中さなかのことである。

共に十二歳になったリズムとノエル。
二人ともアデリオール魔術学園の付属校である王立初等学園ではなく、私立の初等学校に通っていた。
その主な理由としては、ノエルは既に大賢者バルク・イグリードの弟子(の妻)に師事していたし、リズムに至っては……

「私は低魔力保持者だから、高度な魔術を学ぶ魔術学園への進学は諦めて私学に通っていたけど……やっぱり私、ママみたいに魔法薬剤師になりたいの。だからそのためにちゃんと魔術を学びたいのよ」

そう。残念ながらリズムは保有する魔力はかなり少ない体質であった。
そのため魔術学園付属の初等学園には入学しなかったのだ。
だがやはり、リズムには叶えたい夢がある。
そのためには無理だとか諦めるだとか、自分の歩みを止めてしまうような考えは捨てようと思ったのだ。
そんなリズムがノエルに言う。

「生みの親がどんな人間かもわからない私が、僅かにでも魔力を持って生まれてきて良かった、と考えることにしたの。そして、僅かにでも可能性があるなら魔術学園で沢山勉強して、魔力高める努力もして、夢を叶えたいと思ったのよ」

クッキーを片手にリズムの話を目を丸くして聞いていたノエルが、やがてハッとして急いでそのクッキーを口に放りこむ。
それから急いでもぐもぐと咀嚼して、濃いめのミルクティーで流しこんだ。
そしてキラキラと目を輝かせ、リズムに羨望の眼差しを向けた。

「すごいわリズム!諦めないリズムがリズムらしくてステキよ!わたし、全力で応援するから!」

「ありがとノエル。……も~ほら、お口の端にクッキーのカスが付いてるわよ」

リズムはそう言ってノエルの口元をハンカチで拭いてやった。

「ふふ。ありがとリズム。でも嬉しいな。リズムが魔術学園に来てくれるなんて」

「ノエルはすでに魔術学園進学が決まってるものね」

「うん。ホントはね、魔術学園で学ぶ内容はツェリ先生から教わってて、すでに履修済みなの。でもママとパパが、何も学問のためだけが学園に通う理由じゃないって。友人をつくり、学生時代にしか得られない時間を過ごすのも大切なことだって言ってね」

「なるほどね。ノエルのご両親らしいわ。お二人とも魔術学園卒業だったわよね?とくにハノン小母さまは魔法薬学を専攻されてたって。私もそうしたい」

「メロディちゃんもそうでしょ?ママと同じ……ママは今は専業伯爵夫人だけど、魔法薬剤師なんだもの」

ノエルがそう言うとリズムは頷いた。

「そうよ。ママ(メロディ)も魔法薬学を専攻してたって。まぁでも魔術学園には男爵令息として本名で通っていたから、卒業生名鑑に載っているのは別人だって言っていたけれど」

「ふふふ。名鑑を見たらメロディちゃんだってすぐにわかるかな?」

「見てみたいわよね」

「うん!」

「あははは!」「うふふふ」

そんな会話を楽しんでいると、
階下から「ビエィックションッヌ……!」というメロディが盛大にクシャミした声が聞こえた。

それを聞き、ノエルとリズムは更に笑いが込み上げた。

「じゃあリズムちゃんとダンノ小父さまにはもう相談したのね?魔術学園に進学したいって」

一頻り二人で笑った後、ノエルがそうリズムに尋ねた。
リズムはノエルのためにお茶のおかわりをティーカップに注ぎながら頷く。

「うん。……魔術学園の学費は上級学園や淑女女学院に比べるとお安いけれど、在学期間が長いでしょう?ハイラント魔法学校は学費も良心的で在学期間も短いけど、遠方だから下宿か寮生活になってしまうの。どちらにせよお金がかかってしまうから……」

リズムがメロディ夫婦の実子ではなく養子であることは、彼女が十歳の誕生日を迎えた日にきちんと説明をされていた。
メロディが元は男性だったと知った時に血の繋がりはないと何となくわかっていたリズムだが、「ケジメだから!」とメロディが言って、リズムに話したのであった。

きちんと正確に事実を聞かされたリズムだが、その時はショックよりも感謝の気持ちの方が大きかった。

縁もゆかりも無い、ただ勤め先の魔法薬店の店先に捨てられていた自分を引き取り、親になってくれた。
それだけでなく、実の親子に負けないくらい惜しみない愛情を注いでくれた。
当時はまだ十歳だったが、そんな幼いリズムがそう思えるほどにメロディダンノは大切に育ててくれたのだ。

だからこそ、それを当たり前だと思ってはいけない。
両親二人の愛情の上に胡座をかいてはいけないと、しっかり者のリズムはそう思った。

「でも、メロディちゃんのことだから『子どものくせに生意気言ってんじゃないわヨ!行きたければ行けばいいじゃない!学費くらいドドーンっと出してあげるわヨ!』とか言ったんじゃない?」

メロディの口調を真似したノエルにリズムが感心する。

「よくわかったわね。さすが、ママのもう一人の娘」

まぁ正確には、
『子どものクセにおナマ言ってんじゃないわヨ!あ、おナマとは生意気のことヨ?くれぐれもじゃないからネ?え?ワケがわからない?アラヤダそうよね、十二歳でわかってたら困っちゃうワ……コホン、イキたければイケばいいじゃない!イクと言っても……アラヤダ、ダーリンたら睨まなくてもわかってるわヨ♡リズムの前でシモいコト言わないってば♡え?既にイッタって?ウフフ♡ついね、つい♡……っと、……リズム、学費のコトなんて心配しなくてもイイの!学費くらいドドーンっと出してあげるわヨ!』
と間に下ネタが挟まったのだが。

そしてメロディはこうも言ってくれたのだ。

『アンタは魔力が少ないことを気にして魔法薬剤師になれないとか思ってるみたいだけど、そんなの関係オネェだからネ!アンタはこのアタシ、天才魔法薬剤師と謳われるメロディ様の娘なんだから!アタシが処方した処方箋レシピがあれば、少ない魔力で絶大な効能がある魔法薬が作れちゃうのヨ!それを全部アンタにくれてやるわヨ。一子相伝ヨ。だからアンタは絶っっ対に魔法薬剤師になれる!国家試験はクリアしなきゃだけどそんなコトは心配してないの。アンタはアタシに似て地頭がイイしダーリンに似て手先が器用だからネ♡だからなんの心配もなくアデリオール魔術学園に通っちゃいなさい!』

と、唾を飛ばしながら言ってくれた。

それを思い出し、リズムは気が付けば吹き出していた。

「ぷっ……関係オネェって何よ……も~ママったら」

そのひとり言を聞き、ノエルも吹き出した。

「ふふ。さすがはメロディちゃんの娘ね。リズムもビーフなのね」

その時、階下で再び「ビエィックションッヌ……!」というメロディのクシャミが聞こえ、リズムとノエルはまた声に出して大笑いした。

とにもかくにも、リズムとノエルは今秋からアデリオール魔術学園に進学するのであった。




感想 3,580

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。