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ある日、婚約者たちは
「………………良かったです」
「なんだ、人を見るなり藪から棒に」
「カメムシと化したこの国の第二王子を見ずにすんで……」
「エクトル、お前いくら幼馴染とはいえ不敬過ぎんか?……一応、義姉上に相談したんだ。今夜の装いの事を」
その言葉を聞きエクトルは思わず拍手をした。
「ご英断にございました、殿下」
「本当にムカつくな、お前」
「いつもよりこれ見よがしにグリーンの配色が多いとはいえ、それが嫌味なくバランスよく纏まっている……さすがは妃殿下。プリムたち高位令嬢がオシャレ番長と呼んで崇拝するだけの事はありますね。見事なコーディネートだと思います」
「お前は一体どこから目線でものを言ってるんだ?」
王太子妃の懐妊を祝う宴が、今夜いよいよ開催される事となった。
宴の会場となるのは王太子宮にあるホールだ。
そのホールの入り口付近。来賓客用の休憩室にエクトル、ルドヴィック、コラールの姿があった。
皆それぞれ、自身の婚約者の到着を待っているのである。
「……しかしコラールはやはりレモンケーキなんだな」
エクトルが残念そうに言うと、コラールが照れくさそうに言う。
「母上にも同じような残念そうな視線を向けられたけど、形から入るのも悪くはないだろう?フランシーがひと目見ただけで僕の気持ちが伝わるようにしたいんだ」
「それぞれドレスはちゃんと届けてあるのですか?」
エクトルがルドヴィックとコラールに訊ねると、二人は声を揃えて答えた。
「「もちろん」」
「しかしプリムからの情報によると、レントン公爵令嬢もフランシーヌ嬢も『何故ドレスが贈られてきたのかしら』と首を傾げていたそうですよ。しかも全身婚約者カラーのドレスを見て『何かの罠かしら?』と言っていたそうです」
「「ぐっ……」」
「そして宴当日は違うドレスを着ると言っていたとプリムから聞いています」
「「うっ……」」
「二人が婚約者の姿を見てショックを受けないように事前にプリム情報を開示しておきます」
「こいつのこの余裕が本当にムカつく……」
妬ましそうに言うルドヴィックに、エクトルは眉根を寄せて告げる。
「俺がどれだけ東和で振り回されたと思ってるんです。この余裕はその対価ですよ。自分の足を動かして駆けずり回ったご褒美です」
「くっ……初動の差がっ……」
そんな事を男三人でわちゃわちゃとしているところに、王太子宮に勤める侍従が伝えてきた。
「レントン公爵家の馬車がじきに到着されるとの事です。キャスパー伯爵令嬢、ラモレー伯爵令嬢もご同乗されているよしにございます」
「「「来たか………」」」
三者三様、同時に発した言葉は同じなれど、それぞれの心持ちは違ったようだ。
三人は緊張した面持ちで婚約者たちを出迎えるべくエントランスへと向かった。
◇◇◇
一方、エリザベスの提案でレントン公爵家の馬車にて王太子宮へと向かう事になったプリムローズたち。
ロザリーは父親にエスコートをして貰うとの事で自邸の馬車で向かうそうだ。
馬車の中でエリザベスがプリムローズに言った。
「素敵なドレスねプリムローズ。それはもちろんエクトル様から?」
優しいペールブルーのドレスに身を包んだプリムローズがはにかみながら頷く。
「ええそうです。エクトルがなるべく自分の瞳の色に近い発色に拘ってオーダーしたみたいなの」
「まぁ……素敵ね」
うっとりと吐息と共に言葉を漏らすフランシーヌとエリザベスを見てプリムローズは言った。
「やっぱりお二人は贈られたドレスは着なかったのですね」
「クルージングから戻ってみても未だ婚約解消の手続きがされていないから、どうせ義務的にドレスを贈ってきたのでしょうけど。もしかしたら断罪が早まって今夜になるかもしれないというのに、バカみたいに婚約者カラーのドレスなんて着られるわけがないわよ」
エリザベスが憤りを感じながらそう言うとプリムローズが慌てて告げる。
「大変ですエリザベスお姉様っ、眉間にマゼトラン海峡のように深いシワが刻まれていますわ!何か挟めそうなくらい深いシワがっ……」
「お黙りなさいプリムローズ。そりゃシワも刻みたくなりますわよ、自分で出席を決めたとはいえ結局はこうして王宮へ向かっているのだから。小説との筋書きは違うけれど、やはり強制力が働いてこうなる運命なのね」
エリザベスのその言葉にフランシーヌが表情を固くする。
「やはり今夜、断罪されてしまうのでしょうか……?」
「わたくし達が学院を辞めて卒業式に出席をしないという筋書きを新たに作ってしまったわけだから、強制力が働いてそうなる可能性は高いと睨んでいるの」
「まぁ……!どうしましょう……」
怯えるフランシーヌの肩を抱きながらプリムローズが言う。
「でもエクトル情報によると、殿下もコラール様もエリザベスお姉様とフランシーの色を纏って宴に出席されるそうよ。カメムシがどうの、レモンケーキがどうのとか言っていたから……」
「それもとりあえずは義務や惰性的なものだと思うわ。とりあえずエスコートも今まで通りするみたいだけど、それもきっと会場入りするまでよ。どうせドビッチが来たらホイホイとそちらにベッタリになるのだから……それなのにどうして婚約破棄を突きつける相手のカラーを身につけようとするのかしら。意味がわからないわ」
「どうしましょう……私、怖いわ……」
怯えて顔色を悪くするフランシーヌにエリザベスは告げる。
「心配要らないわ。もし断罪された場合はすぐにそのまま国外へ出る手筈を我が家の影たちが行っているから」
「さすがはエリザベスお姉様ですわね!」
「あ、王太子宮が見えて参りましたわ」
フランシーヌが馬車の窓から外を見て皆に告げる。
馬車はそのまま滑るように王城の敷地内を走り、やがて会場となる王太子宮のメインエントランスの停車場へと到着した。
「なんだ、人を見るなり藪から棒に」
「カメムシと化したこの国の第二王子を見ずにすんで……」
「エクトル、お前いくら幼馴染とはいえ不敬過ぎんか?……一応、義姉上に相談したんだ。今夜の装いの事を」
その言葉を聞きエクトルは思わず拍手をした。
「ご英断にございました、殿下」
「本当にムカつくな、お前」
「いつもよりこれ見よがしにグリーンの配色が多いとはいえ、それが嫌味なくバランスよく纏まっている……さすがは妃殿下。プリムたち高位令嬢がオシャレ番長と呼んで崇拝するだけの事はありますね。見事なコーディネートだと思います」
「お前は一体どこから目線でものを言ってるんだ?」
王太子妃の懐妊を祝う宴が、今夜いよいよ開催される事となった。
宴の会場となるのは王太子宮にあるホールだ。
そのホールの入り口付近。来賓客用の休憩室にエクトル、ルドヴィック、コラールの姿があった。
皆それぞれ、自身の婚約者の到着を待っているのである。
「……しかしコラールはやはりレモンケーキなんだな」
エクトルが残念そうに言うと、コラールが照れくさそうに言う。
「母上にも同じような残念そうな視線を向けられたけど、形から入るのも悪くはないだろう?フランシーがひと目見ただけで僕の気持ちが伝わるようにしたいんだ」
「それぞれドレスはちゃんと届けてあるのですか?」
エクトルがルドヴィックとコラールに訊ねると、二人は声を揃えて答えた。
「「もちろん」」
「しかしプリムからの情報によると、レントン公爵令嬢もフランシーヌ嬢も『何故ドレスが贈られてきたのかしら』と首を傾げていたそうですよ。しかも全身婚約者カラーのドレスを見て『何かの罠かしら?』と言っていたそうです」
「「ぐっ……」」
「そして宴当日は違うドレスを着ると言っていたとプリムから聞いています」
「「うっ……」」
「二人が婚約者の姿を見てショックを受けないように事前にプリム情報を開示しておきます」
「こいつのこの余裕が本当にムカつく……」
妬ましそうに言うルドヴィックに、エクトルは眉根を寄せて告げる。
「俺がどれだけ東和で振り回されたと思ってるんです。この余裕はその対価ですよ。自分の足を動かして駆けずり回ったご褒美です」
「くっ……初動の差がっ……」
そんな事を男三人でわちゃわちゃとしているところに、王太子宮に勤める侍従が伝えてきた。
「レントン公爵家の馬車がじきに到着されるとの事です。キャスパー伯爵令嬢、ラモレー伯爵令嬢もご同乗されているよしにございます」
「「「来たか………」」」
三者三様、同時に発した言葉は同じなれど、それぞれの心持ちは違ったようだ。
三人は緊張した面持ちで婚約者たちを出迎えるべくエントランスへと向かった。
◇◇◇
一方、エリザベスの提案でレントン公爵家の馬車にて王太子宮へと向かう事になったプリムローズたち。
ロザリーは父親にエスコートをして貰うとの事で自邸の馬車で向かうそうだ。
馬車の中でエリザベスがプリムローズに言った。
「素敵なドレスねプリムローズ。それはもちろんエクトル様から?」
優しいペールブルーのドレスに身を包んだプリムローズがはにかみながら頷く。
「ええそうです。エクトルがなるべく自分の瞳の色に近い発色に拘ってオーダーしたみたいなの」
「まぁ……素敵ね」
うっとりと吐息と共に言葉を漏らすフランシーヌとエリザベスを見てプリムローズは言った。
「やっぱりお二人は贈られたドレスは着なかったのですね」
「クルージングから戻ってみても未だ婚約解消の手続きがされていないから、どうせ義務的にドレスを贈ってきたのでしょうけど。もしかしたら断罪が早まって今夜になるかもしれないというのに、バカみたいに婚約者カラーのドレスなんて着られるわけがないわよ」
エリザベスが憤りを感じながらそう言うとプリムローズが慌てて告げる。
「大変ですエリザベスお姉様っ、眉間にマゼトラン海峡のように深いシワが刻まれていますわ!何か挟めそうなくらい深いシワがっ……」
「お黙りなさいプリムローズ。そりゃシワも刻みたくなりますわよ、自分で出席を決めたとはいえ結局はこうして王宮へ向かっているのだから。小説との筋書きは違うけれど、やはり強制力が働いてこうなる運命なのね」
エリザベスのその言葉にフランシーヌが表情を固くする。
「やはり今夜、断罪されてしまうのでしょうか……?」
「わたくし達が学院を辞めて卒業式に出席をしないという筋書きを新たに作ってしまったわけだから、強制力が働いてそうなる可能性は高いと睨んでいるの」
「まぁ……!どうしましょう……」
怯えるフランシーヌの肩を抱きながらプリムローズが言う。
「でもエクトル情報によると、殿下もコラール様もエリザベスお姉様とフランシーの色を纏って宴に出席されるそうよ。カメムシがどうの、レモンケーキがどうのとか言っていたから……」
「それもとりあえずは義務や惰性的なものだと思うわ。とりあえずエスコートも今まで通りするみたいだけど、それもきっと会場入りするまでよ。どうせドビッチが来たらホイホイとそちらにベッタリになるのだから……それなのにどうして婚約破棄を突きつける相手のカラーを身につけようとするのかしら。意味がわからないわ」
「どうしましょう……私、怖いわ……」
怯えて顔色を悪くするフランシーヌにエリザベスは告げる。
「心配要らないわ。もし断罪された場合はすぐにそのまま国外へ出る手筈を我が家の影たちが行っているから」
「さすがはエリザベスお姉様ですわね!」
「あ、王太子宮が見えて参りましたわ」
フランシーヌが馬車の窓から外を見て皆に告げる。
馬車はそのまま滑るように王城の敷地内を走り、やがて会場となる王太子宮のメインエントランスの停車場へと到着した。
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