その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう

文字の大きさ
12 / 26

あの後の事〜求婚〜

しおりを挟む
今朝更新した分のサブタイトル、一つ間違えてつけちゃっておりました。
正しくは今回のお話のタイトルです。
シレっと修正しておきましたが、
お気付きの方…ごめんなしゃい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)ボケマクリ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハルジオに誘われて病院の外へ散歩に出たミルル。
不自由な足を引き摺りながらも、頬にあたる風が心地よくて気持ちが浮き立つ。

まだまだどこまでも歩いて行きたい気分だったが、足はそろそろ限界のようだった。

するとハルジオは、
「ミルルに教えたい場所があるんだ。まだもう少し先だから、俺が連れて行ってもいい?」と訊いてきた。

教えたい場所とはどんな所だろう。
もちろん行ってみたいと思うミルルだが、はて?連れて行くとは?と笑みを浮かべたまま考えていたら、肯定と捉えられたのかふいに足下が宙に浮いた。

「きゃっ?」

驚いて思わず何かにしがみ付く。
だけどしがみ付いた先にハルジオの顔が間近にあって、これまたミルルは驚いた。
それもそのはず、ハルジオはミルルを横抱きに抱き上げたのだから。

「ハル先輩っ?」

「しっかり捕まってて。杖も持っててね」

そう言ってハルジオは軽い足取りで歩いて行く。
尋常じゃなく近い距離にドキドキが止まらない。
以前酔っ払って負ぶって貰った記憶はあるが今は素面だし、向かい合ってのこの至近距離はヤバいと思った。

ミルルは自分人生上最速で動いているであろう心臓の音がハルジオに聞こえないかと心配になった。

少し歩いて、ハルジオはミルルを池の畔にある東屋のベンチに下ろしてくれた。
鬱蒼とした木々に囲まれ、まるで個室のような雰囲気の東屋。
落ち着いて本を読むのにいい場所だなとミルルは思った。

池から少し水気を含んだ爽やかな風も吹いてくる。
小鳥の囀りも耳に心地よく、ミルルは別世界に来たような気分になった。

「素敵な所ですねハル先輩、連れてきてくれてありがとうございます」

素直な気持ちでお礼を言うと、ハルジオは優しい笑みを浮かべた。

「どういたしまして。一世一代の告白をするのに、病室のベッドの上じゃあ嫌だなと思ったんだ」

「一世一代の告白?」

あら何かしら?と思ったミルルだが、瞬時に嫌な予感がして慌ててハルジオの手を取った。

「っハル先輩っ!思い留まってくださいっ」

「えっ?思い留まらなくてはいけないのっ?」

ミルルの言葉を別の意味で捉えたのか、大きく目を見開いたハルジオを無視してミルルは一気に言い募った。

「ハル先輩が責任を取って魔法省を辞める必要なんてありませんっ、責任があるというのならわたしにだってあります。バディは運命共同体です、それならわたしも一緒に辞めますからっ」

ハルジオは目をぱちくりさせてミルルを見ていた。

「ハル先輩は何も悪くない、最初からそう言っているでしょう?周りの人が言う責任とやらなんて、無視してください」

「ミルル……」

「ハル先輩お願い、辞めないで……」

辞めたら、もう一緒にいられなくなる。
職場の先輩後輩、仕事仲間、なんでもいい。
ハルジオの側にいられるならどんな形でも構わない。
ミルルはそう思った。

ハルジオの大きな手を握っていたミルルの手が今度は逆に包み込まれた。

「ハル先輩?」

「ミルル、俺は魔法省は辞めないよ。辞めただけで責任を取れたと思うなんて、烏滸がましいからね」

「ホント?」

「うん。本当だ。ミルル、責任云々はちょっと置いといて、俺の話を聞いて欲しいんだけど、いい?」

辞めるつもりはないとハルジオから聞き、
ミルルは安堵しながら答えた。
自然と笑みが溢れる。

「はい。お聞きします」

「ミルル……」

ハルジオのさらさらな前髪が風に揺れている。
その下の深緑の双眸がミルルを真剣に捕らえていた。

ハルジオの手に僅かだが力が篭る。
それでも初めて包み込まれたその手の温かさに、ミルルは心地よさを感じた。

ーーずっとこのまま握っていて欲しい

それは叶わぬとわかっていても、そう願わずにはいられなかった。


「ミルル。キミは俺にとって魔法省の理念の下で共に働く仲間で、信頼出来るバディで、可愛い後輩だ。だけど俺はもうそれだけの関係ではイヤなんだ。これからもキミの側にいるために、もっと相応しい存在になりたいんだ」

「相応しい存在……?」

ミルルはハルジオの瞳から目を逸らす事が出来なかった。
深い泉の底を覗くような、食い入るようにその瞳を見入ってしまう。

ハルジオの瞳に自分が映っている事に、どうしようもない喜びを感じる。

「俺は…キミより五つも年上だからオッサンで恋愛対象外なのは分かってる…でも結婚相手としてなら、五つくらい年が離れてる方が何かと上手くいくと思うんだ。俺はもちろんキミを大切にするし、幸せにすると誓う。これからまだまだリハビリを頑張るミルルを公私共に支えたいと思ってる。その立場を他のに譲りたくないし、譲る気もない。だけどミルルの許しもなしにそれはやはり出来ないから……」

「ハル…先輩……?」

「だからミルル、俺と結婚して欲しい。ミルルのこれからの人生に、誰よりも近くで寄り添える権利が俺は欲しい。ミルル、俺はキミが可愛くてたまらないんだ……!」

ハルジオはそう言って、そっとミルルを抱き寄せた。

ミルルの背中に添えられた手が小さく震えているのを感じる。

ミルルには今、自分の身に起こっている事が信じられなかった。

ーー今…ケッコンって、先輩が言ったような気がするんだけど……

ケッコンってアレ、なんだか“結婚”と響きが似ているわ。

でもハル先輩が言うケッコンが“結婚”ではないと思うし……

だけど待って、
五つ年上の方が結婚相手としては良いだとか、
誰より近くで寄り添える権利が欲しいとか、
わたしが可愛くてたまらないとか、
どう考えても“結婚”の方を連想させる言葉よね……
まるで……プロポーズみたいな……
それにこうやって抱きしめられているって……

えっ?抱きしめっ……!?

ここへきて漸く自分がハルジオの腕の中にいる事を自覚するミルル。

「ハ、ハル先輩っ……もしかして今、わたしにプロポーズして、くれ、ました……?」

ハルジオの腕の中で小さく身動ぎしながらミルルが言った。

ハルジオはさらに力を入れて腕の中のミルルを閉じ込めて言った。



「そうだよミルル。大好きだ、どうか俺と結婚して欲しい」










しおりを挟む
感想 325

あなたにおすすめの小説

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

処理中です...