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本当の夫婦に
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大丈夫。R15です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家を出で直ぐに夫ハルジオに捕獲されたミルル。
いきなり横抱きにされ、ミルルは驚いて思わずハルジオにしがみ付いた。
「ひゃあっ」
ミルルの狼狽を他所にハルジオはすたすたと歩き出す。
「ハ…ハ、ハルさん……?どこに?」
狭いアパートだ。
ハルジオの返事を聞く前に目的地に着いた。
「え?し、寝室?な…なぜ……?」
ハルジオはそっとミルルを寝台の上に置く。
ただならぬハルジオの気配にミルルは思わずベッドボードの方に後退る。
「あのっ……ハルさん…「俺はねミルル」
ミルルの言葉をまたもやハルジオは遮った。
魔法省の職員である証のローブを脱ぎ、椅子に掛けながらハルジオは言う。
「反省しているんだ。今までキミに何も告げずに来た自分が悪かったと」
「は、反省……?告げず、に……?」
「ミルル、キミは俺が事件の責任を取って結婚したと思っているのだろうがそれは違うよ」
「えっ?」
「責任を取ったんじゃない、怪我で弱ってるミルルに付け入って結婚したんだ」
「えっ?えぇっ?」
ハルジオの口から紡がれる信じられない言葉にミルルは目を見張る。
「確かにあの時、傷跡と後遺症が残ったキミに責任を取って娶るべきだという声は多数あった。内心俺はその声に拍手を贈りたい気分だったよ。責任ではなく、ミルルに結婚を申し込むきっかけが出来たんだから。だってその時は俺の一方的な片想いだと思っていたからね」
「……ハルさんの片想い?」
ーーえ?誰に?
「その他大勢の声に背中に押される気持ちで、自分に勢いをつけてミルルにプロポーズしたんだ。キミを俺のものにする為に」
ーーえ、わたし?
ハルジオはさっきから一体何を言っているのだろう。
それじゃあまるで、ハルジオがミルルを自ら望んで妻に迎えたと言っているようなものではないか。
ミルルは聞き間違えで勘違いをしてはいけないと思い、恐る恐るハルジオに尋ねた。
「あの……ハルさん、その言い方だとわたしは自分の都合のいいように解釈してしまうわ。もうちょっと、わたしに解りやすく言って貰えると助かるのだけれど……」
ミルルのその言葉に、ハルジオは恍惚として微笑んだ。
「あぁごめんね?俺としては随分ストレートに言っているつもりなんだけど、ミルルにはこれでも解り辛かったか」
「……へ?」
ハルジオがゆっくりとベッドに上がって来た。
膝立ちで、両手をつきながら。
ミルルを追い詰めるように。
自らの体の下に取り込んでしまおうとするように、ゆっくりと近付いてくる。
「ミルル。俺はキミが後輩だった時からキミを愛している。結婚してからは分かりやすく態度で示して来たつもりだけど、ミルルにはやはり、言葉と態度と行動、この三つで分からせないといけないようだね」
ハルジオからの圧というかもう…漂ってくる色気がヤバい。
ミルルはそれに当てられて、気をやってしまいそうだった。
「ハルさんっ、ハルさん…落ち着いて?一体どうしたのっ?」
ミルルはなんとか抗おうと試みるも、ハルジオにとうとう組み敷かれてしまう。
「ハルさっ……」
「好きだよミルル。本当に愛してる。俺はキミから離れてはもう生きていけないと思っているのに、ミルルはそうではなかったの?」
「そんなっ…違っ……」
ハルジオの為に離別を選んだが、それはミルルの本意ではない。
ミルルだってハルジオから離れて、平気でいられるわけはないのだ。
それを伝えたくて分かって貰いたくて言葉を必死に探す。
その瞬間、ハルジオに口づけされた。
そっと触れるだけの口づけを。
「あぁ泣かないでくれミルル。悪いのは俺だ、キミを責めたい訳じゃない。全て話すよ。これまでの事を全て……でも、その前に……」
ハルジオの言葉で、ミルルは自分が涙を浮かべていた事に気付く。
指の腹で涙を拭い、ハルジオに向き合う。
そしてハルジオの、熱を孕んだ瞳を見て息を呑んだ。
「………!」
ハルジオはミルルのブラウスの襟と一体化したデザインのリボンタイをするりと解く。
「その前にねミルル。キミにはしっかり理解して貰おうと思う。俺がどれだけミルルを愛しているのか、キミ以外は誰も要らない。何も望まない。ミルルさえ居ればそれでいい。そんな俺の本心を、まずはキミの体に刻み込む事にするよ」
そう言ってハルジオは自身のネクタイをぐいっと引き緩めた。
ミルルを劣情の瞳で見つめながら。
「~~~~~っ☆♤○◎◇□♡……!?」
その日は結局、ミルルは寝室から出させては貰えなかった。
♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎
次の日、休みをもぎ取っていたハルジオはベッドから起き上がれないミルルの為に朝食を用意してくれた。
ミルルは出て行くつもりだったので食材は何も買っていない。
キッチンにあるものを見繕って、何やら運んで来てくれた。
ベッドの上にトレイを置いて、そこで食べれるように至れり尽くせり。
カリカリのバケットを、塩を入れたオリーブオイルを付けながら食べる。
頂き物の缶詰スープと一緒に。
水分をしっかり摂るようにとすっきりとしたオレンジジュースも出された。
「い、いただきます……」
全身の倦怠感を抱えながら、ミルルは朝食を食べ始めた。
ハルジオはミルルの側に座り、もそもそと食べるミルルを微笑ましげに見つめている。
夫との体力の差をひしひしと感じながら、ミルルは体力回復の為に頑張って食べた。
「ごめんねミルル。キミがあまりにも可愛すぎて歯止めが利かなくなった。無理をさせたと反省している」
「む、むむむ……」
ハルジオにそう謝られ、ミルルは昨夜の目眩く情熱的な睦事を思い出し、恥ずかしさと居た堪れなさで小さく唸りながら真っ赤になった。
その様子を見てハルジオは立ち上がり、リビングのサイドボードから薬瓶を持って来る。
小さくて丸い錠剤が詰まった薬瓶。
ミルルがハルジオに内緒(のつもり)で服用していた避妊薬だ。
ハルジオはその薬瓶をミルルの前に翳しながら言う。
「これはもう、服用しなくてもいいね」
ミルルはそれを見て俯いた。
「ハルさん……ごめんなさい……」
「確かに初めて知った時はショックだった。でもキミにこんな事までさせた自分に情けなくなったんだ」
「ハルさんは悪くないわっ……」
弾かれたように顔を上げると、ハルジオと視線が重なった。
「どちらが悪いかの話はやめよう。いや…やっぱり悪いのは俺の方だな。最初に気付いて、直ぐに砂糖菓子と入れ替えてキミを騙してたんだから」
「え……?砂糖、菓子……?」
「うん。ミルルが調剤店で処方されたその日の内に俺に謝ってきたからね。次の日には入れ替えたから、キミは一度も避妊薬は服用した事がないんだ」
ーーどうりで甘くて美味しいお薬だと思ったわ。
しかしミルルは首を傾げる。
自分にはハルジオに謝罪した記憶はない。
「でもわたし、ハルさんに謝った覚えがないの。どうしてかしら?」
「お義母さんの言っていた通りだね、ミルルの寝言は天下一品だよ。ミルルが胸の内に抱えていた事を洗いざらい教えてくれたんだから」
「え、え、え、寝言っ?わたし、寝言で全部話しちゃったのっ?」
「うん。質問したらちゃんと答えてくれたりもしたよ。おかげでミルルの気持ちが分かった」
ハルジオはその後、寝言尋問やらマーキングやら結婚指輪に結晶石が入っていた事やらリッカとの関係やらを、全てミルルに暴露した。
最初はパンをむぐむぐと食べながら聞いていたミルルだが、ハルジオが明かすストー…監視…警護(?)システムの内容を聞くうちに、パンを落としたり、開いた口が(物理的に)塞がらなくて咀嚼出来なくなった。
「という訳でミルル、キミが俺の事を思って離婚しようとするのは大間違い。一歩間違えれば俺を誘拐や殺人などの犯罪者にしてしまう危険な行動だよ」
「は、犯罪者っ……?そ、それはイヤだわ。ハルさんが牢屋に入れられてしまうなんて、わたし悲しいわ」
ハルジオがミルルの手を取って両手で包み込む。
「それならもう俺から離れようなんて考えない事、分かってくれたね?」
ミルルは自身の手を包み込むハルジオの大きな手に目を落とした。
変わらず温かくて安心出来る手。
これまで頑なに、離さなくてはならないと自分に言い聞かせてきた手だ。
でもハルジオもミルルと同じ気持ちでいてくれた。
愛してると言ってくれた。
この手を離さないで欲しいと乞われ、その想いを昨夜散々ハルジオに刻み込まれた。
もう、何を恐れる事があろうか。
ミルルの瞳からほろりと涙が零れ落ちる。
「……じゃあ……わたし、ハルさんをリッカ先輩に返さなくてもいいの?」
「勝手に返品されたら困る。彼女とはもうとっくに終わってて、復縁の“ふ”の字も考えていないんだから。それに俺は、キミのものだよミルル」
「ハルさんの…ハルさんの側に居ていいの?ずっと一緒に居てもいいの?この手を、大好きなハルさんの手を離さなくても、いいの……?」
「ああ。離さないでくれ。まぁ俺は絶対に離すつもりはないからね。逆にミルルは二度と俺から離れられないよ」
ハルジオが少しだけ悪戯な表情を浮かべて微笑んだ。
それを見た途端、ミルルは堪らずハルジオに抱きついていた。
「離れないっ……!離れなくていいのなら、ハルさんが望んでくれるなら、絶対にハルさんから離れないわ……!」
ハルジオが目を閉じてミルルの背に手を回して彼女を抱きしめ返す。
「ミルル……望むよ。俺はキミと一生共に生きていきたいんだ。だから俺は、キミをずっと望み続ける」
「ハルさんっ……」
結婚して、夫婦として暮らして二年、
ある意味二人がようやく本当の夫婦になれた瞬間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
皆さま、ご心配をおかけしました。
次回、最終話です。
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家を出で直ぐに夫ハルジオに捕獲されたミルル。
いきなり横抱きにされ、ミルルは驚いて思わずハルジオにしがみ付いた。
「ひゃあっ」
ミルルの狼狽を他所にハルジオはすたすたと歩き出す。
「ハ…ハ、ハルさん……?どこに?」
狭いアパートだ。
ハルジオの返事を聞く前に目的地に着いた。
「え?し、寝室?な…なぜ……?」
ハルジオはそっとミルルを寝台の上に置く。
ただならぬハルジオの気配にミルルは思わずベッドボードの方に後退る。
「あのっ……ハルさん…「俺はねミルル」
ミルルの言葉をまたもやハルジオは遮った。
魔法省の職員である証のローブを脱ぎ、椅子に掛けながらハルジオは言う。
「反省しているんだ。今までキミに何も告げずに来た自分が悪かったと」
「は、反省……?告げず、に……?」
「ミルル、キミは俺が事件の責任を取って結婚したと思っているのだろうがそれは違うよ」
「えっ?」
「責任を取ったんじゃない、怪我で弱ってるミルルに付け入って結婚したんだ」
「えっ?えぇっ?」
ハルジオの口から紡がれる信じられない言葉にミルルは目を見張る。
「確かにあの時、傷跡と後遺症が残ったキミに責任を取って娶るべきだという声は多数あった。内心俺はその声に拍手を贈りたい気分だったよ。責任ではなく、ミルルに結婚を申し込むきっかけが出来たんだから。だってその時は俺の一方的な片想いだと思っていたからね」
「……ハルさんの片想い?」
ーーえ?誰に?
「その他大勢の声に背中に押される気持ちで、自分に勢いをつけてミルルにプロポーズしたんだ。キミを俺のものにする為に」
ーーえ、わたし?
ハルジオはさっきから一体何を言っているのだろう。
それじゃあまるで、ハルジオがミルルを自ら望んで妻に迎えたと言っているようなものではないか。
ミルルは聞き間違えで勘違いをしてはいけないと思い、恐る恐るハルジオに尋ねた。
「あの……ハルさん、その言い方だとわたしは自分の都合のいいように解釈してしまうわ。もうちょっと、わたしに解りやすく言って貰えると助かるのだけれど……」
ミルルのその言葉に、ハルジオは恍惚として微笑んだ。
「あぁごめんね?俺としては随分ストレートに言っているつもりなんだけど、ミルルにはこれでも解り辛かったか」
「……へ?」
ハルジオがゆっくりとベッドに上がって来た。
膝立ちで、両手をつきながら。
ミルルを追い詰めるように。
自らの体の下に取り込んでしまおうとするように、ゆっくりと近付いてくる。
「ミルル。俺はキミが後輩だった時からキミを愛している。結婚してからは分かりやすく態度で示して来たつもりだけど、ミルルにはやはり、言葉と態度と行動、この三つで分からせないといけないようだね」
ハルジオからの圧というかもう…漂ってくる色気がヤバい。
ミルルはそれに当てられて、気をやってしまいそうだった。
「ハルさんっ、ハルさん…落ち着いて?一体どうしたのっ?」
ミルルはなんとか抗おうと試みるも、ハルジオにとうとう組み敷かれてしまう。
「ハルさっ……」
「好きだよミルル。本当に愛してる。俺はキミから離れてはもう生きていけないと思っているのに、ミルルはそうではなかったの?」
「そんなっ…違っ……」
ハルジオの為に離別を選んだが、それはミルルの本意ではない。
ミルルだってハルジオから離れて、平気でいられるわけはないのだ。
それを伝えたくて分かって貰いたくて言葉を必死に探す。
その瞬間、ハルジオに口づけされた。
そっと触れるだけの口づけを。
「あぁ泣かないでくれミルル。悪いのは俺だ、キミを責めたい訳じゃない。全て話すよ。これまでの事を全て……でも、その前に……」
ハルジオの言葉で、ミルルは自分が涙を浮かべていた事に気付く。
指の腹で涙を拭い、ハルジオに向き合う。
そしてハルジオの、熱を孕んだ瞳を見て息を呑んだ。
「………!」
ハルジオはミルルのブラウスの襟と一体化したデザインのリボンタイをするりと解く。
「その前にねミルル。キミにはしっかり理解して貰おうと思う。俺がどれだけミルルを愛しているのか、キミ以外は誰も要らない。何も望まない。ミルルさえ居ればそれでいい。そんな俺の本心を、まずはキミの体に刻み込む事にするよ」
そう言ってハルジオは自身のネクタイをぐいっと引き緩めた。
ミルルを劣情の瞳で見つめながら。
「~~~~~っ☆♤○◎◇□♡……!?」
その日は結局、ミルルは寝室から出させては貰えなかった。
♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎♥︎
次の日、休みをもぎ取っていたハルジオはベッドから起き上がれないミルルの為に朝食を用意してくれた。
ミルルは出て行くつもりだったので食材は何も買っていない。
キッチンにあるものを見繕って、何やら運んで来てくれた。
ベッドの上にトレイを置いて、そこで食べれるように至れり尽くせり。
カリカリのバケットを、塩を入れたオリーブオイルを付けながら食べる。
頂き物の缶詰スープと一緒に。
水分をしっかり摂るようにとすっきりとしたオレンジジュースも出された。
「い、いただきます……」
全身の倦怠感を抱えながら、ミルルは朝食を食べ始めた。
ハルジオはミルルの側に座り、もそもそと食べるミルルを微笑ましげに見つめている。
夫との体力の差をひしひしと感じながら、ミルルは体力回復の為に頑張って食べた。
「ごめんねミルル。キミがあまりにも可愛すぎて歯止めが利かなくなった。無理をさせたと反省している」
「む、むむむ……」
ハルジオにそう謝られ、ミルルは昨夜の目眩く情熱的な睦事を思い出し、恥ずかしさと居た堪れなさで小さく唸りながら真っ赤になった。
その様子を見てハルジオは立ち上がり、リビングのサイドボードから薬瓶を持って来る。
小さくて丸い錠剤が詰まった薬瓶。
ミルルがハルジオに内緒(のつもり)で服用していた避妊薬だ。
ハルジオはその薬瓶をミルルの前に翳しながら言う。
「これはもう、服用しなくてもいいね」
ミルルはそれを見て俯いた。
「ハルさん……ごめんなさい……」
「確かに初めて知った時はショックだった。でもキミにこんな事までさせた自分に情けなくなったんだ」
「ハルさんは悪くないわっ……」
弾かれたように顔を上げると、ハルジオと視線が重なった。
「どちらが悪いかの話はやめよう。いや…やっぱり悪いのは俺の方だな。最初に気付いて、直ぐに砂糖菓子と入れ替えてキミを騙してたんだから」
「え……?砂糖、菓子……?」
「うん。ミルルが調剤店で処方されたその日の内に俺に謝ってきたからね。次の日には入れ替えたから、キミは一度も避妊薬は服用した事がないんだ」
ーーどうりで甘くて美味しいお薬だと思ったわ。
しかしミルルは首を傾げる。
自分にはハルジオに謝罪した記憶はない。
「でもわたし、ハルさんに謝った覚えがないの。どうしてかしら?」
「お義母さんの言っていた通りだね、ミルルの寝言は天下一品だよ。ミルルが胸の内に抱えていた事を洗いざらい教えてくれたんだから」
「え、え、え、寝言っ?わたし、寝言で全部話しちゃったのっ?」
「うん。質問したらちゃんと答えてくれたりもしたよ。おかげでミルルの気持ちが分かった」
ハルジオはその後、寝言尋問やらマーキングやら結婚指輪に結晶石が入っていた事やらリッカとの関係やらを、全てミルルに暴露した。
最初はパンをむぐむぐと食べながら聞いていたミルルだが、ハルジオが明かすストー…監視…警護(?)システムの内容を聞くうちに、パンを落としたり、開いた口が(物理的に)塞がらなくて咀嚼出来なくなった。
「という訳でミルル、キミが俺の事を思って離婚しようとするのは大間違い。一歩間違えれば俺を誘拐や殺人などの犯罪者にしてしまう危険な行動だよ」
「は、犯罪者っ……?そ、それはイヤだわ。ハルさんが牢屋に入れられてしまうなんて、わたし悲しいわ」
ハルジオがミルルの手を取って両手で包み込む。
「それならもう俺から離れようなんて考えない事、分かってくれたね?」
ミルルは自身の手を包み込むハルジオの大きな手に目を落とした。
変わらず温かくて安心出来る手。
これまで頑なに、離さなくてはならないと自分に言い聞かせてきた手だ。
でもハルジオもミルルと同じ気持ちでいてくれた。
愛してると言ってくれた。
この手を離さないで欲しいと乞われ、その想いを昨夜散々ハルジオに刻み込まれた。
もう、何を恐れる事があろうか。
ミルルの瞳からほろりと涙が零れ落ちる。
「……じゃあ……わたし、ハルさんをリッカ先輩に返さなくてもいいの?」
「勝手に返品されたら困る。彼女とはもうとっくに終わってて、復縁の“ふ”の字も考えていないんだから。それに俺は、キミのものだよミルル」
「ハルさんの…ハルさんの側に居ていいの?ずっと一緒に居てもいいの?この手を、大好きなハルさんの手を離さなくても、いいの……?」
「ああ。離さないでくれ。まぁ俺は絶対に離すつもりはないからね。逆にミルルは二度と俺から離れられないよ」
ハルジオが少しだけ悪戯な表情を浮かべて微笑んだ。
それを見た途端、ミルルは堪らずハルジオに抱きついていた。
「離れないっ……!離れなくていいのなら、ハルさんが望んでくれるなら、絶対にハルさんから離れないわ……!」
ハルジオが目を閉じてミルルの背に手を回して彼女を抱きしめ返す。
「ミルル……望むよ。俺はキミと一生共に生きていきたいんだ。だから俺は、キミをずっと望み続ける」
「ハルさんっ……」
結婚して、夫婦として暮らして二年、
ある意味二人がようやく本当の夫婦になれた瞬間だった。
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皆さま、ご心配をおかけしました。
次回、最終話です。
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