その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう

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俺の妻が可愛すぎる②〜ハルジオside〜

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皆さん覚悟はいいですか?



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寝言でミルルが抱えていた秘密を全て知ったハルジオ。

その後も逐一寝言尋問をしつつ、変わった事がないかをチェックする。

ミルルには初夜で既にマーキング済み。
そして念の為にと仕込んでおいたハルジオの魔力を結晶化した石を嵌め込んだ結婚指輪がある。
それがミルルの感情の起伏をいち早く感知して、直ぐにハルジオへ伝わるのだ。

それがあれば、ミルルの身に何事かが起きたとしても直ぐに駆けつける事が出来る。

そしてその指輪を外した瞬間も分かるようになっていた。

ハルジオも我ながらやり過ぎだとも思うが、“我が道”という独自のルートを突っ走るミルルを逃さない為にはこのくらいは必要なのだ。

あとその他にミルルの思考や行動を把握する為に、彼女が図書館で閲覧した本が分かるようにしている。

なんと通院歴も直ぐに分かるように手を打ってあるという徹底ぶり。

これらは友人のレガルドに依頼している。
レガルドが勝手に“カワイコチャン”というコードネームをミルルに付けているのは気に入らないハルジオだが、嫌な顔一つせず協力してくれているのだからと好きに呼ばせている。

そしてリッカの事は彼女が地方局こっちに戻って来る前に仕込みは済ませてあった。

ハルジオとの復縁を望んでおきながら今も関係を続けている、本省の高官の妻へ秘密裏に匿名で密告をした。

更に復讐と離婚が有利に進む為にと、小型録画魔道具を送り付けてある。

旦那の持ち物に忍ばせておけば、事前に登録しておいたワードを感知すると自動的に起動して録画を始める……という魔道具だ。

情事の際に交わされるワードなんて大体の予測がつく。
そのワードを幾つか魔道具に教え込ませておけばいいのだ。

高額な魔道具だが仕方ない。
これもレガルドのおかげで手に入れる事が出来た。

こんな私情にまみれた行動を取っておいてなんだが、つくづく魔法省の職員で良かったとハルジオは思ってしまう。

ーー職権濫用、上等だ。
それでミルルを、彼女との将来を守れるのなら裏でどんな汚い事だろうがやってやる。


ハルジオが陰でこんな事をしているとは知る由もないミルル。

ミルルはハルジオの枷にならないようにと懸命にリハビリを頑張り、少し引き摺るが杖がなくとも普通に歩けるまでに回復した。

歩けないとも言われていた足で、本当によく頑張ったと思う。

ーーその頑張りの目的が俺との離婚の為と思うとかなり泣けてくるが……。

それでもハルジオは信じている。

ハルジオがミルルの手を離す事が出来ないように、
彼女もハルジオの手を離したくないと思ってくれる事を。



そしてとうとう、結婚して二年となる。

当初の予定通りリッカが地方局へ法務部次長という肩書きで戻ってきた。

その頃からミルルの寝言はさらにエキサイトしている。

「ムニャ…もうすぐお別れしなくちゃ……ハルさんの温かい手をリッカ先輩に返さなきゃ……」

ーーミルル………!(泣)返さなくていいんだよっ!
やっぱり嫌だと我儘を言ってくれ!!

ミルルのハルジオと離婚する意思は変わってはいない。

彼女の同期の結婚式に出た後からは、更にその思いが強くなったようなのだ。

今住んでいる部屋を出て一人で暮らす為のアパートを見つけ、賃貸契約を結んでしまった。

ーーやはり結婚式での出来事が原因か。

式の終盤で急に元気を失くしたミルル。

トイレに行くミルルから目を離さざるを得ない、ほんの少しの隙間をリッカに突かれた。

時間にして数分。涙一つでいとも簡単にミルルの心に揺さぶりをかけるとは……

しかもリッカはミルルの行動を見張り、接触までするという暴挙に出た。

マーキングのおかげでその日ミルルが職業斡旋所に行った事は把握していた。

どんな職を見つけようとも、契約した賃貸アパートのように裏で話を潰すだけなのだが。

そのミルルの感情に大きな起伏があった事をミルルの指輪にはめ込んだ魔力の結晶石が知らせてくる。

ハルジオは急いでミルルの元へと転移した。
ミルルには体内に魔力を植え付けてマーキング済みなので何処にいようと居場所は直ぐに分かる。

ミルルの元に飛ぶと、そこにはリッカ=ロナルドの姿があった。

しかし何故かミルルはリッカに対して目をキラキラさせてその手を握っている。
尚且つ食事にまで誘おうとしたので慌てて口を塞いで止めた。

「ふぁひゅひゃん!」

ーーくっ……可愛いっ、この小悪魔めっ……!

自分だと分かり嬉しそうにするミルルに、ハルジオは内心身悶えしながらも平静を装った。

今はそれどころではない。

ハルジオを堕とせないと踏んでミルルにターゲットを変更したリッカに理解させねばならないのだ。

お前は…俺を本気で怒らせた、という事を。
この場で息の根を止められるものなら止めてやりたい。

ハルジオはその殺意を視線に乗せてリッカを見た。
ハルジオの怒気を察知したリッカがぶるぶると震え出す。

ハルジオはそんなリッカを一瞥してミルルをその場から引き離した。

しかしミルルはリッカの様子をまた別の意味で誤解しているようだった。

ーーもうダメだ。きちんと伝えねば、待つだなんて悠長な事は言っていられない。

ハルジオはそう思い、ミルルの考え違いを告げようとした。

それなのに、なんと間の悪い事だろう。

近くで魔道具が暴発しそうになるという騒ぎが起きたのだ。

ーーくそぅっ!!

魔法省の者として、特にこのローブを着ている時に、それを見て見ぬフリは出来なかった。
ハルジオは断腸の思いでミルルに先に帰るように告げて現場へと向かって行った。

状態保持魔術と防御結界を同時展開させて暴発は防げたが、初期処理をした者として、事故の捜査と後処理を押し付けられた。

しかも最悪な事に魔道具は闇売買された不正品だったのだ。

ーー何て事してくれたんだ!
闇売買のルートの捜査までしなくてはならなくなったじゃないかっ!!

こうなったら秒で終わらせてやる。

ハルジオは驚異的な速さで仕事を片付けた。
早くミルルの元に戻ってちゃんと話し合わねばならない。

ーーこんな事になるのなら、カッコつけて待つなんてせずに、もっと早く想いを伝えておけば良かった。

ハルジオはそう後悔しながらもバリバリ仕事をこなした。

しかしそんな中でも、リッカへの報復とそして排除する事も忘れずに総仕上げに取り掛かる。
また匿名で、高官の妻へ連絡し、魔道具を使用した公開処刑の効果的な方法と場所と時間を教えた。

出来るだけ大勢の職員に魔道具の映像を見て貰い、リッカと高官の不貞を知らしめねばならない。

場所はリッカが勤める地方局のエントランス。
時間は始業時間が決まっている限り、多くの者が同じ時間に登省する朝の通勤時間帯。

そこで大々的に映像を流せば成すすべもなく、決して言い逃れも出来ないと教えたのだ。

そして高官の妻は良い仕事をしてくれた。 

ハルジオの姿は一切表立つ事なく事を成し遂げてくれた。

リッカも高官も、これで失脚するのは間違いない。

懲戒免職か、運が良くて閑職への左遷。

いずれにせよ二度とハルジオの前に姿を見せる事はないだろう。

それでもまだウロチョロするというのなら、物理的に目の前から消えてもらうだけだ。

ーーじゃあな、リッカ。心を入れ替えれば、あるいはまだ人生はやり直せると思うぞ。


ハルジオは清々していた。

後は早く家に帰ってミルルと話し合うだけだ。

しかしその時、ミルルが指輪をその身から離した事を結晶魔石が知らせて来た。

ーーミルル?
まさかもう、俺に何も言わずに去るつもりかっ!?

俺に何も告げさせないまま、俺から離れてゆくつもりなのかっ……!


そんな事は絶対にさせない。

ハルジオは直ぐに自宅アパートへと転移した。

そして涙を零しながら部屋の鍵を閉めるミルルを見つける。

ーーどこへ行く気だミルル。行かせる訳がないだろう。


ハルジオは悲しみと静かな怒りがない交ぜになった笑みを浮かべてミルルの名を呼んだ。

「どこに行く気?ミルル、買い物?」

そして突然戻ったハルジオを見てしどろもどろになるミルルの体を抱き寄せて部屋の中へと転移した。


ミルルは分かりやすいくらいに動揺している。

ーーかわいそうにこんなに狼狽えて。
でもキミは最後まで思い留まってはくれなかった。
俺から離れる道を選んだ。

まぁ、こちらは逃す気はさらさらないが。


さてミルル。

互いに腹を割って話そう。


でもその前に。

俺がどれだけキミの事を愛しているのか、

その身を以て知って貰おうか。




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次回、妻はとうとう夫のヤンでデレな姿を知る……。

ミルル……甘~いお仕置きタイム?




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