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ルゥカ、再会する
交代制の昼休憩中、中庭のベンチで自作のランチを食べているルゥカに突然聖女ルリアンナが声をかけてきた。
「ルゥカ、なにを食べているの?」
「ふひはんにゃひゃみゃっ?」
今まさに大きな口をあけてサンドイッチにかぶりついたルゥカはそんな話し方になってしまう。
この小さな中庭は使用人エリアにあり、聖女教会の主である聖女が来ることなど滅多にない。
それなのに突然声をかけられたものだから驚いて無作法をしてしまっても仕方ないだろう。
そんな慌てふためくルゥカを見て、ルリアンナは優しげな表情を浮かべた。
「ふふ。驚かせてごめんなさい。とっても美味しそうに食べていたものだから気になってしまったの」
そう告げるルリアンナの話を聞きながらルゥカは必死に咀嚼して嚥下してから答えた。
「いえ!大丈夫です。でもなんてことないただのサンドイッチですよ?」
ルゥカの膝の上にあるランチボックスに目をやりながらルリアンナが再び訊いてきた。
彼女は意外と好奇心が旺盛な女性なのだ。
「それで?何のサンドイッチなの?」
「今日はローストしたチキンとお野菜をサンドしたものです」
「まぁ美味しそうだわ!もしかしてあなたが作ったの?」
「そうですよ。とはいっても昨夜の残りものを挟んだだけですが」
「凄いわ!お料理が出来るなんて、ルゥカの手は魔法の手ね」
あらゆる怪我や病気も癒してしまう“聖なる手”を持つルリアンナが真剣な顔をしてそんな事を言うものだからルゥカは思わず笑ってしまった。
「ふふ。魔法の手ではないですけど、小さい頃からやっていたので慣れっこです」
ルゥカはチラリとルリアンナの後ろに控える聖騎士を見る。
二人いる護衛のうち一人はフェイトだった。
凛々しい立ち姿にきゅんとする。
そしてフェイトは昼食はまだ食べてないのかな~とそんな事を考えた。
フェイトにも同じサンドイッチの入ったランチボックスを渡している。
もう一人の騎士がルリアンナに告げた。
「ルリアンナ様。今日は午後から“癒しの施し”がございます。ルリアンナ様もお早めに昼食を召し上がられませんと」
「そうだったわね。わざわざ今日のために遠方から訪れる方もいるのだもの。お待たせするわけにはいかないわ」
“癒しの施し”とは週に一度、事前に申し込みのあった者が教会へ訪れ、聖女から治癒魔法や浄化魔法の施しを受ける事をいう。
これらの施しは無料で行っており、病気や怪我の具合によっては繰り返し治癒を受ける事もできる。
いわば神聖力の無償提供、悪く言えばただ働きであるがルリアンナはそれを意に介する事もなく真摯に取り組んでいた。
そんな彼女の事を尊敬しているからこそ、フェイトがルリアンナを好きになってしまっても仕方ない……とルゥカは思うのだ。
ルゥカは努めて明るくルリアンナに言った。
「今日の施しには私もお手伝いに参ります。ルリアンナ様、頑張ってくださいね!」
「ありがとうルゥカ。頑張ってみんなを元気にしてみせるわ」
そう言ってルリアンナは建物の中へと戻って行った。
ルリアンナについて立ち去って行くフェイトの背中を黙って見送る。
護衛中のフェイトは絶対にルゥカとは目を合わさない。
今も一度も視線が絡む事なくフェイトは行ってしまった。
それにももう慣れてしまったが。
ルゥカは食事を再開し、サンドイッチを頬張った。
◇◇◇
午後からは予定通り癒しの施しが行われた。
今日の治癒希望者は10名。
国中からあつまった傷病者だ。
中には精神的な疾患を抱える者もいる。
稀に傷病者の家族を装い、聖女に触れようとする不埒な者もいる為に、聖騎士たちは付かず離れず聖女を守っていた。
ルゥカたちメイドは治癒を受ける者とその家族たちのお世話を担当する。
その他水を替えたり清潔なタオルや包帯を用意したり、お茶を出したり。
教会の他の仕事もあるので毎回担当するメイドをシフト制で決めている。
今日はルゥカと他二名のメイドが当番に当たり、ぱたぱたと忙しく働いていた。
その時、ふいに声をかけられる。
「あれ?キミは………」
「え?」
その声に聞き覚えがありルゥカは振り向く。
するとそこには先日、図書館で会ったメガネの青年司書パトリス=ダーヴィンがいた。
「あら、ダーヴィンさん」
「へ?」
名を知っていたので思わずそう言ってしまったが、向こうはルゥカに名を呼ばれ目を丸くしていた。
「あ、ごめんなさい。図書館でお会いした時に名札を見て覚えてたの」
「ああなるほど。あなたは聖女教会にお勤めだったんですね」
「はい。メイドをしてます。そういえばどうしてこちらに?」
ルゥカがそう訊ねるとパトリスは答えた。
「聖女様と同じ日に生まれた姉がいるとお話したでしょう?今日はその姉に治癒を受けさせるために来たのです」
「まぁ……そうなんですね、失礼ですがお姉様はご病気ですか……?」
「いえ、一年前に制御を誤った馬車の転倒に巻き込まれて足を。切断は免れましたが二度と歩けくなってしまいました」
我が事のように辛そうに話すパトリスを見てルゥカの胸が酷く痛んだ。
「お気の毒に……でも!ルリアンナ様の神聖治癒力は素晴らしいですよ!きっとお姉様の足を治して下さいます!」
パトリスに希望を持って欲しくてあえて力強く言うとパトリスは目を細めて柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。7か月前に申し込みをしてようやくこの日を迎える事が出来ました。僕も姉の足が治ると信じています……貴女のお名前をお聞きしても?」
「もちろんです。ルゥカ=フィンチと申します」
「ルゥカさん、ありがとう。じつは少しだけ不安だったんです。もし、ダメだったらどうしようと。でもルゥカさんのおかげで気持ちが楽になりました」
それを聞き、ルゥカは心から嬉しくなった。
自分でもルリアンナのように…とまではいかなくとも、少しでも人の心を楽にしてあげられたと思うだけで奇跡のように感じたのだ。
「良かった!」
心からそう言って微笑むルゥカを見て、パトリスは小さく息を呑んだ。
「ルゥカさん、あのっ……」
パトリスが何か言いかけたその時、彼の姉が治癒を受ける順番であると告げられた。
「予約番号五番のサリナ=ダーヴィンさん、こちらへどうぞ」
「はいっ……行かねば」
パトリスは教会の者に返事をし、ルゥカにそう言った。
「お手伝いしますね」
「ありがとう」
パトリスはルゥカに礼を告げ、姉の元へと向かった。
そして姉を抱き上げてルリアンナが待つ治療台の上まで連れていく。
ルゥカもその後ろに付き添った。
ルリアンナの護衛としてフェイトの姿もそこにあった。
パトリスは姉を治療台の上に下ろし、その額にキスをする。
「姉さん、大丈夫だ。きっと良くなるよ」
「パトリス……ありがとう……聖女様、よろしくお願いします……」
パトリスの姉サリナがそう言うと、ルリアンナは慈愛に満ちた温かな眼差しで彼女を見た。
そしてサリナの手を優しく包み込み、こう告げた。
「良いご家族ですね。貴女を治したいというご家族の思いもきっと神聖力の後押しとなりますよ。でははじめますね」
ルリアンナは自身の手を動かなくなった足の方へと移動させ、目を閉じて神聖治癒魔法の術式を唱えはじめた。
やわらかな、聖なる光と称される光がサリナの足を包む。
緊張した面持ちで拳を握るパトリスにルゥカは小さな声で囁いた。
「大丈夫。パトリスさん、絶対に大丈夫です」
「ルゥカさん……」
ルゥカの励ましにパトリスは肩の力を抜いた笑みを返した。
ややあってルリアンナがサリナに告げた。
「寝台から降りてみて下さい。きっと歩けるようになっているはずですよ」
「「えっ……」」
パトリスとサリナ、二人の声が重なった。
そしてサリナは弟の手を借りて寝台を降りる。
おそるおそる両足を床に付けた時点でサリナもパトリスもある事に気付く。
「足が動いてる……」
「本当だ……姉さん、今自分で足を動かしていたよ……!」
信じられないといった表情を浮かべる姉弟にルリアンナは言った。
「歩いてごらんなさい」
「は、はいっ……」
サリナはそう返事をしてゆっくりとベッドから立ち上がり、その一歩を踏み出した。
二本の足を交互に動かし歩く。
サリナの目から涙が溢れだしていた。
「歩ける……歩けます!聖女様、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
サリナに続き、パトリスもルリアンナに礼を告げた。
そして振り返り様にルゥカにも言った。
「ルゥカさんも!ありがとう!」
そう言ってパトリスはルゥカの手を握り、喜び勇んでぶんぶんと上下に振った。
「わわっ、ふふ。私は何もしてませんよ」
ルゥカがそう答えるとパトリスは本当に嬉しそうな表情で言った。
「でも、あなたのおかげで不安が拭えた。本当にありがとう……!」
ルゥカの手を握るパトリスの手が力強くなったと感じたその時、ふいに目の前が暗くなった。
ルゥカの視界がフェイトの背中で塞がれる。
フェイトが割り入った事で繋いでいたパトリスの手が離された。
フェイトは事務的な表情と声でパトリスに告げた。
「次の患者さんがお待ちですので移動を願います」
見ればサリナは教会の者に促され、ゆっくりと控え室の方へと歩きはじめていた。
「あ、姉さん……!」
パトリスは慌ててその後を追った。
そして振り返りながはルゥカに言う。
「ルゥカさん、本当にありがとう!それじゃあまた!」
「はい。さよなら!本当に良かったですね!」
パトリスの挨拶にルゥカも笑顔で返した。
「それじゃあ……?また?」
低い声でフェイトがそう呟いたのを聞き、ルゥカが答えた。
「図書館の司書さんなの。前に本を探すのを手伝って貰って」
「………」
「フェイト?」
「手、洗っとけよ」
「?わかってるわよ、癒しの施しの時は常に清潔を心がけているわ?」
「なら今すぐ洗ってこい」
「え?」
なぜそんなに手を洗いに行かせたがるのかルゥカにはわからないが、結局使用した食器の洗い物を頼まれたのでその言葉に従う事になったルゥカであった。
────────────────────────
次回、聖騎士の準則について触れられる?
キャラ紹介集に王弟アルフレッドとフェイトにお熱のミラが仲間入りしました。
よろしければご覧くださ(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))
「ルゥカ、なにを食べているの?」
「ふひはんにゃひゃみゃっ?」
今まさに大きな口をあけてサンドイッチにかぶりついたルゥカはそんな話し方になってしまう。
この小さな中庭は使用人エリアにあり、聖女教会の主である聖女が来ることなど滅多にない。
それなのに突然声をかけられたものだから驚いて無作法をしてしまっても仕方ないだろう。
そんな慌てふためくルゥカを見て、ルリアンナは優しげな表情を浮かべた。
「ふふ。驚かせてごめんなさい。とっても美味しそうに食べていたものだから気になってしまったの」
そう告げるルリアンナの話を聞きながらルゥカは必死に咀嚼して嚥下してから答えた。
「いえ!大丈夫です。でもなんてことないただのサンドイッチですよ?」
ルゥカの膝の上にあるランチボックスに目をやりながらルリアンナが再び訊いてきた。
彼女は意外と好奇心が旺盛な女性なのだ。
「それで?何のサンドイッチなの?」
「今日はローストしたチキンとお野菜をサンドしたものです」
「まぁ美味しそうだわ!もしかしてあなたが作ったの?」
「そうですよ。とはいっても昨夜の残りものを挟んだだけですが」
「凄いわ!お料理が出来るなんて、ルゥカの手は魔法の手ね」
あらゆる怪我や病気も癒してしまう“聖なる手”を持つルリアンナが真剣な顔をしてそんな事を言うものだからルゥカは思わず笑ってしまった。
「ふふ。魔法の手ではないですけど、小さい頃からやっていたので慣れっこです」
ルゥカはチラリとルリアンナの後ろに控える聖騎士を見る。
二人いる護衛のうち一人はフェイトだった。
凛々しい立ち姿にきゅんとする。
そしてフェイトは昼食はまだ食べてないのかな~とそんな事を考えた。
フェイトにも同じサンドイッチの入ったランチボックスを渡している。
もう一人の騎士がルリアンナに告げた。
「ルリアンナ様。今日は午後から“癒しの施し”がございます。ルリアンナ様もお早めに昼食を召し上がられませんと」
「そうだったわね。わざわざ今日のために遠方から訪れる方もいるのだもの。お待たせするわけにはいかないわ」
“癒しの施し”とは週に一度、事前に申し込みのあった者が教会へ訪れ、聖女から治癒魔法や浄化魔法の施しを受ける事をいう。
これらの施しは無料で行っており、病気や怪我の具合によっては繰り返し治癒を受ける事もできる。
いわば神聖力の無償提供、悪く言えばただ働きであるがルリアンナはそれを意に介する事もなく真摯に取り組んでいた。
そんな彼女の事を尊敬しているからこそ、フェイトがルリアンナを好きになってしまっても仕方ない……とルゥカは思うのだ。
ルゥカは努めて明るくルリアンナに言った。
「今日の施しには私もお手伝いに参ります。ルリアンナ様、頑張ってくださいね!」
「ありがとうルゥカ。頑張ってみんなを元気にしてみせるわ」
そう言ってルリアンナは建物の中へと戻って行った。
ルリアンナについて立ち去って行くフェイトの背中を黙って見送る。
護衛中のフェイトは絶対にルゥカとは目を合わさない。
今も一度も視線が絡む事なくフェイトは行ってしまった。
それにももう慣れてしまったが。
ルゥカは食事を再開し、サンドイッチを頬張った。
◇◇◇
午後からは予定通り癒しの施しが行われた。
今日の治癒希望者は10名。
国中からあつまった傷病者だ。
中には精神的な疾患を抱える者もいる。
稀に傷病者の家族を装い、聖女に触れようとする不埒な者もいる為に、聖騎士たちは付かず離れず聖女を守っていた。
ルゥカたちメイドは治癒を受ける者とその家族たちのお世話を担当する。
その他水を替えたり清潔なタオルや包帯を用意したり、お茶を出したり。
教会の他の仕事もあるので毎回担当するメイドをシフト制で決めている。
今日はルゥカと他二名のメイドが当番に当たり、ぱたぱたと忙しく働いていた。
その時、ふいに声をかけられる。
「あれ?キミは………」
「え?」
その声に聞き覚えがありルゥカは振り向く。
するとそこには先日、図書館で会ったメガネの青年司書パトリス=ダーヴィンがいた。
「あら、ダーヴィンさん」
「へ?」
名を知っていたので思わずそう言ってしまったが、向こうはルゥカに名を呼ばれ目を丸くしていた。
「あ、ごめんなさい。図書館でお会いした時に名札を見て覚えてたの」
「ああなるほど。あなたは聖女教会にお勤めだったんですね」
「はい。メイドをしてます。そういえばどうしてこちらに?」
ルゥカがそう訊ねるとパトリスは答えた。
「聖女様と同じ日に生まれた姉がいるとお話したでしょう?今日はその姉に治癒を受けさせるために来たのです」
「まぁ……そうなんですね、失礼ですがお姉様はご病気ですか……?」
「いえ、一年前に制御を誤った馬車の転倒に巻き込まれて足を。切断は免れましたが二度と歩けくなってしまいました」
我が事のように辛そうに話すパトリスを見てルゥカの胸が酷く痛んだ。
「お気の毒に……でも!ルリアンナ様の神聖治癒力は素晴らしいですよ!きっとお姉様の足を治して下さいます!」
パトリスに希望を持って欲しくてあえて力強く言うとパトリスは目を細めて柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。7か月前に申し込みをしてようやくこの日を迎える事が出来ました。僕も姉の足が治ると信じています……貴女のお名前をお聞きしても?」
「もちろんです。ルゥカ=フィンチと申します」
「ルゥカさん、ありがとう。じつは少しだけ不安だったんです。もし、ダメだったらどうしようと。でもルゥカさんのおかげで気持ちが楽になりました」
それを聞き、ルゥカは心から嬉しくなった。
自分でもルリアンナのように…とまではいかなくとも、少しでも人の心を楽にしてあげられたと思うだけで奇跡のように感じたのだ。
「良かった!」
心からそう言って微笑むルゥカを見て、パトリスは小さく息を呑んだ。
「ルゥカさん、あのっ……」
パトリスが何か言いかけたその時、彼の姉が治癒を受ける順番であると告げられた。
「予約番号五番のサリナ=ダーヴィンさん、こちらへどうぞ」
「はいっ……行かねば」
パトリスは教会の者に返事をし、ルゥカにそう言った。
「お手伝いしますね」
「ありがとう」
パトリスはルゥカに礼を告げ、姉の元へと向かった。
そして姉を抱き上げてルリアンナが待つ治療台の上まで連れていく。
ルゥカもその後ろに付き添った。
ルリアンナの護衛としてフェイトの姿もそこにあった。
パトリスは姉を治療台の上に下ろし、その額にキスをする。
「姉さん、大丈夫だ。きっと良くなるよ」
「パトリス……ありがとう……聖女様、よろしくお願いします……」
パトリスの姉サリナがそう言うと、ルリアンナは慈愛に満ちた温かな眼差しで彼女を見た。
そしてサリナの手を優しく包み込み、こう告げた。
「良いご家族ですね。貴女を治したいというご家族の思いもきっと神聖力の後押しとなりますよ。でははじめますね」
ルリアンナは自身の手を動かなくなった足の方へと移動させ、目を閉じて神聖治癒魔法の術式を唱えはじめた。
やわらかな、聖なる光と称される光がサリナの足を包む。
緊張した面持ちで拳を握るパトリスにルゥカは小さな声で囁いた。
「大丈夫。パトリスさん、絶対に大丈夫です」
「ルゥカさん……」
ルゥカの励ましにパトリスは肩の力を抜いた笑みを返した。
ややあってルリアンナがサリナに告げた。
「寝台から降りてみて下さい。きっと歩けるようになっているはずですよ」
「「えっ……」」
パトリスとサリナ、二人の声が重なった。
そしてサリナは弟の手を借りて寝台を降りる。
おそるおそる両足を床に付けた時点でサリナもパトリスもある事に気付く。
「足が動いてる……」
「本当だ……姉さん、今自分で足を動かしていたよ……!」
信じられないといった表情を浮かべる姉弟にルリアンナは言った。
「歩いてごらんなさい」
「は、はいっ……」
サリナはそう返事をしてゆっくりとベッドから立ち上がり、その一歩を踏み出した。
二本の足を交互に動かし歩く。
サリナの目から涙が溢れだしていた。
「歩ける……歩けます!聖女様、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
サリナに続き、パトリスもルリアンナに礼を告げた。
そして振り返り様にルゥカにも言った。
「ルゥカさんも!ありがとう!」
そう言ってパトリスはルゥカの手を握り、喜び勇んでぶんぶんと上下に振った。
「わわっ、ふふ。私は何もしてませんよ」
ルゥカがそう答えるとパトリスは本当に嬉しそうな表情で言った。
「でも、あなたのおかげで不安が拭えた。本当にありがとう……!」
ルゥカの手を握るパトリスの手が力強くなったと感じたその時、ふいに目の前が暗くなった。
ルゥカの視界がフェイトの背中で塞がれる。
フェイトが割り入った事で繋いでいたパトリスの手が離された。
フェイトは事務的な表情と声でパトリスに告げた。
「次の患者さんがお待ちですので移動を願います」
見ればサリナは教会の者に促され、ゆっくりと控え室の方へと歩きはじめていた。
「あ、姉さん……!」
パトリスは慌ててその後を追った。
そして振り返りながはルゥカに言う。
「ルゥカさん、本当にありがとう!それじゃあまた!」
「はい。さよなら!本当に良かったですね!」
パトリスの挨拶にルゥカも笑顔で返した。
「それじゃあ……?また?」
低い声でフェイトがそう呟いたのを聞き、ルゥカが答えた。
「図書館の司書さんなの。前に本を探すのを手伝って貰って」
「………」
「フェイト?」
「手、洗っとけよ」
「?わかってるわよ、癒しの施しの時は常に清潔を心がけているわ?」
「なら今すぐ洗ってこい」
「え?」
なぜそんなに手を洗いに行かせたがるのかルゥカにはわからないが、結局使用した食器の洗い物を頼まれたのでその言葉に従う事になったルゥカであった。
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