今さら悪役令嬢とか言われましてもネ

キムラましゅろう

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シュガー、カクノチガイを見せつける?

「………あら?」

わたしの声に古代文学の先生が反応する。

「どうかしましたか?ハイトさん」


古代文字エンシェントスペルの授業の時間。
最初に提出する宿題を出そうとして、その宿題のノートが無い事に気付いた。

「おかしいですわ、確かにさっきまで鞄の中にノートが有りましたのに」

先生は眉根を寄せてわたしに言う。

「ノートを忘れたのですか?」

「いえ、さっきクラスメイトに翻訳を見せた時は確かにありましたもの」

でも何故今は無いのかしら?
まるでノートに羽が生えて何処かに飛んで行ってしまったみたい☆
え、それなら見てみたかったわ。
ノートさん、どうして待ってくれなかったのかしら。

わたしがそれに思考を持って行かれていると、
クラスメイトの令嬢の一人が挙手をして発言した。

「それは確かですわ先生。わたくし、シュガー様と翻訳の見せ合いっこをいたしましたもの。彼女はきちんと宿題をして、ノートも持って来られていましたわ」

そうよね?ちゃんと有ったわよね?

その発言を聞き、先生はわたしに言った。

「でも今ノートがないのであれば提出は出来ませんものね……残念ですが忘れ物で減点の対象となります」

「げひょーん……」

わたしが項垂れると、クスッと微かに笑う声が聞こえた。
エヴィ男爵令嬢だ。

それを見たオリエが「貴様の仕業か……」と呟いた後に、挙手をして発言する。

「先生。宿題というものは、きちんとやった上で内容を理解する事が大切なのですわよね?」

「そうですね、アッペルさんの仰る通りです。いくらノートを提出したとしても、意味を理解していないのであれば宿題をしたとは言えませんね」

「それでしたら、要はその事を証明すれば良い訳ですわよね?」

「え、ええ勿論。でもどの様に証明するというのです?」

オリエはわたしの方を向いた。

「シュガー、翻訳した内容は覚えている?」

「ええ。とっても面白いお話だったから一章まるまる翻訳しちゃった☆」

「その内容をそらじられる?」

「?モチロン」

オリエは再び先生に向き合った。

「今からハイト嬢が宿題に出た部分を暗唱します。その内容が正しく翻訳されたものであれば、きちんと宿題をした証明になるのではないでしょうか?」

オリエのその提案に、先生は少し考えから答えた。

「いいでしょう。その代わり一文でも間違っていたのなら減点対象の上、ペナルティを出します。それでもよろしいですか?」

「シュガー、どうする?」

「やるわ!」

わたしはそう返事して、直ぐに暗唱を始めた。

この西方大陸にかつて存在した古の国の物語。
わたしはそれをつらつらと誦じ、しかもそれをテーマに作られた歌劇の劇中歌まで歌った。

全てを終えると、クラスメイト達が一斉に拍手をしてくれた。

「凄いわシュガー様っ!!お歌もお上手なのですね!」

「翻訳も完璧だったのではないかしら、どうでしたか?先生」

先生は大きく頷いてくれた。

「大変素晴らしかったです。専門的な難しい文体も用いられて、とても興味深く尚且つ斬新な翻訳でした。ハイトさん、あなた翻訳家の才能があるのかもしれませんね」

「えー♪そんなぁ照れますわ~♪♪♪」

みんなに褒めて貰えたし、宿題忘れで減点にならずに済んでご満悦なわたしの様子を、エヴィ男爵令嬢とルント子爵令息が歯軋りをして見ていた……そうだ。

するとオリエがわざとらしく言った。

「それにしても何故ノートが無くなったのかしらぁぁ?でも確かシュガーの持ち物には全て“了承も得ずに持ち出した者の手が腫れる”というまじないを掛けていた筈だから、盗んだ者はきっと酷い目に遭うわね~」

そんなまじないを掛けた覚えはないけれど?
とは、『黙ってろ』と言いたげなオリエの鋭い眼光に睨まれて言えなかった☆

それにしてもアラ?
エヴィ男爵令嬢が真っ青な顔をして両手を見ているわ、どうしたのかしら?


そしてその日は、その後も奇怪な事ばかりが起きた。

わたしのロッカーの中にカエルが数匹入っていたり、
机の引き出しの中に『ワード公子を解放しろ』と書いた手紙が入っていたり。

極め付けは魔術の実習で用いる杖がわたしの分だけ足りなかった。

まぁカエルは好きだし、
手紙はあまりにもスペルの間違いが多かったので添削して廊下に張っておいた。
書いた人が見て、スペルの間違いに気付いてくれるといいのだけれど。

杖が足りない事を知ったオリエが盛大にため息を吐く。

「まったく……今日はレイが学園を休むからシュガーの事を任されているというのに……どうしてこの日に限って色々と起きるのかしらっ」

「あらぁ、なんだかごめんあそばせ?」

「シュガーは悪くないわよ。クラスの中に阿呆がいるだけよ。よし、シュガー!こうなったらもうドカーンっと実力を見せつけてやりなさい!」

オリエがわたしの両肩を掴んで揺さぶってくる。
わたしは前後に揺さぶられ、ガックンガックンしながら尋ねた。

「ドドドカーンってててぇ?」

「あんた、杖は必要ないんでしょ?」

「うん、逆に使った事ないわ」

「よし!決まりっ!」

オリエはそう言ったかと思うと、実習場にいる皆に告げた。

「ハイ、皆さまご注目~~!!今日は特別にシュガー嬢が杖を用いず、しかも無詠唱で、炎の精霊魔術を展開させまぁぁす!」

え?今、ここで?

「ちょっとオリエ?」

「シュガー!この中に居る、あんたの実力を知らない舐め腐った奴に見せつけおやりなさいなっ!って奴を!!」

「えーー、面倒くさぁぁい☆」

「お黙りっ!やれと言ったらやるのよっ!」

そんなわたしとオリエのやり取りをクラスの皆んなが不思議そうに見ていた。

ルント子爵令息が鼻で笑ってバカにして来た。

「は、魔塔の魔術師でもあるまいし杖無しで無詠唱だと?バカも大概に……「シュガー!ファイヤーーッ!!」

ルント子爵令息の声に被せるようにしてオリエが叫んだ。

ええい、もうどうにでもなっちゃえ☆

「イフりん!炎の精霊サラマンドルレベルの火力でよろしく~~!!」

わたしがそう途端に、
わたしの魔力を媒介にして顕現した炎がトグロを巻いてわたしを囲む。

炎で熱せられた空気が上昇気流を巻き起こす。

わたしの髪も、セーラーのタイも、スカートも…はマズいから手で抑える、みんなみんな上へ上へと巻き上げられて行く。
わたしの炎は決してわたしを燃やさない。
そして熱くもなんとも無いのだ。

わたしの周りでトグロを巻いていた炎はやがてヘビのような姿になって上昇する。

そして今日の実習の課題の的当ての的を、わたしの炎が中心を射抜いた。

その瞬間、辺りに小さな爆発音が轟く。

「キャーーッ!シュガーっ!最高ーーッ!」

オリエがガッツポーズを取りながら歓喜した。

わたしは右手をかざし、炎を呼び戻す。
わたしの手の平の上に戻った炎はやがて精霊の姿へと変化する。

「イフりん、クラスの皆んなにご挨拶♪」

わたしがそう言うと、炎の精霊サラマンドルは胸に手を当て礼をした。

「はい、よく出来ました♡イフちゃん最高♡」

そしてわたしはわたしの精霊にキスをする。
昔、チェンジリングされた後にヒィお爺ちゃまがわたしにくれたわたしだけの精霊。

炎の精霊サラマンドルのイフちゃん。

イフちゃんの名の由来は……また今度説明しよう。

わたしのキスを受けて、イフちゃんは姿を消した。

わたしはオリエに言う。

「これでいいの?カクノチガイって奴を見せつけられたのかしら?」

オリエは親指を突き出して答えた。

「上等よっ!!」


クラスメイト達が唖然としてわたしを見ている。
オリエが誰とは言わないが2名の生徒に告げた。

「今のを目の当たりにしてわかっただろうけど、シュガーを舐めてかかったら痛い目……いえ、熱ぅい目に遭うわよ?もう二度と、バカな真似はしない事ね」

射抜かれた後に燃えて灰になった的を見て、
ルント子爵令息はゴクンと生唾を呑み、エヴィ男爵令嬢はへなへなと腰を抜かして座り込んだ。

「フン、ざまぁですわっ!」

髪を後ろに流し、二人を一瞥するオリエがカッコ良すぎて、わたしは目をキラキラさせる。

「やだオリエ……カッコいい……!お姉さまって呼んでいい?」

「なんでよっ!!」

盛大にツッコミを入れられてもわたしは諦めなかった。
オリエの細い腰に抱きつく。

「オリエお姉さまぁぁっ!」

「ちょっ……もうバカシュガー!」


そんなわたし達のやり取りをクラスメイトも、
魔術実習の先生も口をあんぐりと開けたまま見ていた。

まぁそのおかげかその日以降、
奇怪な出来事は起きていない。

それどころかエヴィ男爵令嬢もルント子爵令息も、
わたしの顔を見ると慌てて逃げるようになったのだった☆

でもせめて、

逃げる時に「ヒィッ」と言うのはやめて貰えないかしら?








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