夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集

キムラましゅろう

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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集

不安の種

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私の父は騎士団が秘密裏に抱える諜報員だった。

騎士達が表立って動けない事、調べられない事を陰で行う事を生業とする仕事だ。

決して誰にも明かせない職業。
妻を病気で亡くし、たった一人の家族となった私にすら言えない職業。
それが父の仕事だった。

私は父に薬の行商をしていると教えられてそれを信じて育った。

でもそれが嘘だった事が、父が死んで初めて分かった。

父は諜報活動中に殺された。

何か情報を掴んでの口封じか騎士団に対しての腹いせの為の見せしめか。

そのどちらかは分からないが、父は狭い路地裏で刺されて死んだ。

父を使っていた騎士団の人達が、突然の事で戸惑い呆然とする私の代わりに葬儀やら何やらの手配をしてくれた。

そして埋葬が終わって一人ぼっちで家に居た私の元に、あの人は訪れた。

彼は父と直接やり取りをしていた騎士の一人だそうで、葬儀の手伝いやら何かと動いてくれていた。

「全てが終わってから渡そうと思っていたんだ、返すのが遅くなってすまない」

と言いながら彼が手渡した物を見て、私の涙が溢れ出た。

それは私が昔、父の誕生日のプレゼントとして贈ったハンカチだった。

下手な刺繍が刺してある木綿のハンカチ。

こんな拙い物をまだ持っていてくれたのか。

ハンカチを贈った時の、父の嬉しそうな顔が脳裏に浮かぶ。

ハンカチには何かの染みがあり、彼はそれを申し訳無さそうに告げた。

「泥水が……染み付いてしまっていて、何とか綺麗に落とそうと洗ってみたんだが落ちきれず……申し訳ない」

それを聞き、私はハンカチを胸元に引き寄せ一層泣いた。

父が帰って来てくれた、何故かそんな気がしたのだ。

ハンカチを届けてくれた彼は私が泣いている間中ずっと、
私の肩を抱いて側に居てくれた。




父がいなくなっても、

私は生きてゆかねばならない。

私がしっかり生きてゆく事で父が安心して眠れると思うから、私は懸命に生きていく事に決めた。

父が亡くなる前と変わらない生活を繰り返す。

朝起きて顔を洗い身支度を整える。

植木に水をやって朝食の支度をする。

そして食べ終わったら片付けをして勤めている縫製工房に行く。

何も変わらない、今までと同じ暮らし。

変わったといえば……


「おはよー……いい匂いだ……」

寝室から寝癖頭で出てくる彼。

彼の名はオリバー=テイラー。
あの日、父のハンカチを渡してくれた騎士だ。

あれから彼は一人遺された私を心配して何かと気にかけ、親切にしてくれた。

そして気付けば……恋人になっていた。

気弱になっていたと言えばそうかもしれない。

でも不安で寂しくて蹲りそうになった時、いつも側に居て寄り添ってくれた彼に心惹かれるのは当然の事のように思える。

彼の優しさや温かさに触れ、彼の側の居心地の良さに幸せを感じた。
そしていつしかそれが恋情に変わっていた。

貴族と違い、我々平民は結婚前からわりと恋愛はフランクだ。

むしろ結婚後の方が貞淑さを重視される。
当たり前の事だ。
夫婦となったのだから相手を唯一とし、絆を大切にする。

むしろ結婚後に自由に恋愛を楽しむ貴族の考えの方が分からない。

まぁ平民には関係ない貴族社会の事などどうでもいいけど。


オリバーが朝食を並べたテーブルの椅子に座る。

私は淹れたてのカフェオレを彼の前に置いた。

「ありがとう」

「食べましょ」

「「いただきます」」

私達は一緒に暮らしているわけではない。

彼はいつもは騎士団の寮住まいだ。

だけど非番の時やシフトが昼からの時など、こうやって私の部屋に泊まるのだ。

「ニナ、納品前だっけ?」

「そうなの。シーラ伯爵家のご令嬢のドレスの納期が迫っていて、今日も忙しくなりそう」

「頑張って」

「うん」

そうやって何気ない会話をしながら二人で楽しく朝食を食べる。

昨夜の情熱的な夜の余韻を引き摺りながらも、新しい一日の始まりを柔らかい光に包まれて穏やかにすごす。

私にとって、何よりも大切で幸せなひと時だ。

だけど季節が一つ過ぎた頃から、

彼の様子がおかしくなり出した。

一緒に居ても気もそぞろで落ち着きがない。

いつも何かを言いたそうにしているかと思えば、急に考え込むようにして寡黙になる。

一体どうしたというのだろう。

仕事で何かあったのか。

どうしたのだろうと気にしていた時、ふいにオリバーが告げてきた。

「……ニナ。変に誤解されたくないから先に白状しておく」

神妙な、というよりは不安そうな顔をして彼は私を見つめていた。

「なあに?」

「……見合いをする事になった」

「……え……」

「勘違いするなよっ?俺の意思じゃない、何度も何度も断っているんだ。でも上官の姪ごさんで、その上官が一度だけでいいから会ってやってくれと言われて仕方なくだ。上官経由で断っても本人が納得しないから、もう直接会って言ってくれと泣きつかれたんだ……」

「そ、そうなの……」

「だから……その……」

「分かったわ。ちゃんと話してくれてありがとう」

私は微笑んでそう言った。

オリバーはほっと胸を撫で下ろしたように小さく息をひとつ吐いた。

ずっと言いたそうにしていたのはこの事だろうか。

私を不安にさせると心配して?

だけどわたしには分かる。

彼が私に告げたい言葉はこれじゃない。
不思議だけど、何故か分かってしまう。


この時、オリバーは私の中に一つ、不安の種を蒔いた。


そんな中、取引先の一つに納品に行った帰り道で、私はある光景を目の当たりにした。

オリバーが一人の可愛らしい女性と馬車から降りて来たのだ。

女性は貴族の令嬢のようだ。

馬車から先に降りたオリバーが手を差し出し、その手を取って女性が馬車から降りる。

今のオリバーはどこから見ても完璧な騎士で、まるで私の知らない人だった。

そしてオリバーは女性をエスコートして、共に宝石店へ入って行く。

ーー今日が会う日だったのかな……

彼女がオリバーに一目惚れをしたという上官の姪ごさんだろうか。

それともまた別の女性?

近頃様子がおかしかったのはその人の所為?

指先が氷のように冷えてゆく。

女性を見つめるオリバーの優しげな笑顔が瞼に刻みつけられた。

目を閉じても浮かんでくる。

紳士的で、相手を敬う特別な顔。
普段の彼からは想像もつかないような美しい微笑みだった。

私は堪らず店に駆け寄る。

そして店のショウウィンドウからこっそり中を伺った。

オリバーと女性は熱心に宝石が並べられたガラスケースを見ていた。


ーーもしかして。

私の中に一つの考えが浮かぶ。

その考えに、心の中に転がっていた不安の種が芽を出した。
そしてみるみる芽を伸ばしてゆく。

そうであって欲しくない。

でもやはりそうなのかもしれない。

彼に確認しなくては。

それなのに、いざオリバーを目の前にすると怖くて何も聞けなかった。

そうだと認められる事が、
彼を失う事が怖い。

父を失い、彼も失う。
完全に一人になってしまう事を恐れた。

私と目が合って、何かを迷っているような眼差しが私の中の不安の種をさらに育てる。

それはいつしか根を張り、葉を広げ、蔦を絡ませて広がってゆく。

上手く息が出来ない。

お父さん、私はどうしたらいい?

このまま何も気付かないふりをしていればいい?

そうしたらあともう少しくらいは彼の側にいられる?


それからしばらくして、夜にオリバーと食事をする事になった。

仕事を早めに上がらせて貰い、お気に入りのワンピースに着替える。

軽くお化粧と髪を直して早めに家を出た。

私の方が時間があるのだからたまには迎えに行こう。
いつもはオリバーが来てくれるけど、私の方が騎士団まで迎えに行けばその分早く会える。
一時は騎士団という存在に怖さを覚えたけと、今はもう平気だ。
そう思いながら家を出た。

騎士団の詰め所がある王宮まで歩いてゆく。

城壁で身分証を提示して王宮敷地内へ入る許可を得た。

オリバーが所属する隊の詰め所へ向かうと丁度入り口の所で彼の姿を見つけた。

「……!」

オリバーは一人ではなかった。

向かい合って談笑する相手を見て、私は立ち竦む。

楽しそうな笑い声が聞こえる。

近頃、私はオリバーのあんなに笑う姿を見ただろうか。
少し思い詰めたような何かを躊躇っているようなそんな顔しか見ていないような気がする。

もちろん彼は普通に接してくれているし柔らかな笑顔も見せてくれる。

だけどどこか、今までとは違う何かを感じてしまうのだ。

それが何か私には分からなかった。

だけどたった今、分かった気がする。

オリバーと談笑しているのは一度だけ会うと言っていた上官の姪ごさんだった。

あの日の彼の様子からもそうではないかと思っていたけど、今の笑顔を見て確信した。

彼はきっと、見合い相手のあの女性を気に入ったのだろう。

あんなに綺麗で上品そうな人だもの。

話し方や所作、そして身につけているもの全てが美しい完璧な女性だ。

私は思わず自分の着てるワンピースを見た。

淡いピンクベージュのワンピース。
私にとってはお気に入りだが、あの女性が着ているようなドレスには到底敵わない。

私はゆっくりと後退り、静かにその場を離れた。

今日はもうオリバーに会いたくない、そう思った。

あんなに素敵な人を見た後に私に会ってがっかりされるのが怖い。

外見で判断するような人ではないと思うけど、やはり男性は華やかな美しい女性を好むのではないだろうか。

もともと彼は同情から私の側にいた人。
私の想いとは温度差があるに違いない。

そして新たな出会いがあり、私との関係を後悔しているのかもしれない。

元諜報員の娘などと………

「……っ」

それ以上は考えたくなかった。
どんどんどんどん悪い方へと考えが引っ張られる。

もう考えたくない。
もう何も考えたくない。

このまま家に帰るとオリバーが迎えに来る。

今会えば絶対にこの無茶苦茶な感情をぶつけてしまい、そしてきっと、それで終わってしまう。

私はいつも職場の人と行く飲み屋へと向かった。
あそこなら私が一人でお酒を呑んでいても何も言われない。

お酒呑んで憂さ晴らしをしたところで何も変わらないのは分かっている。

でもせめて今夜くらいは酔って何も考えずに眠りたい。

そうしたらきっと、また明日から頑張れるから。

きちんと生活をし、仕事もして、オリバーとも決着を付けて、一人で頑張って生きていくから。

今夜ひと晩だけ、猶予が欲しかった。


「あらニナちゃん珍しいわね、一人?」

店に入ると女将さんが迎えてくれた。

「女将さん、今日はとことん呑みたい気分なんです。じゃんじゃん強いお酒を持って来て下さいっ!」

「あらまこれまた珍しい。どうしたの?失恋?恋人がいるんじゃなかったっけ?」

「もうすぐ“元”が付くであろう恋人なら一人いますね。でもいいんです、今日はもうパァッと呑むんです!」

「まぁほどほどにね?ホラ、カウンターこっちにおいで?変な男が寄って来たら追い払ってあげるから」

「ふふ、そんな心配は要らないだろうけど、ありがとうございます」

そうして私は呑んだ。とことん呑んだ。
とはいってもそんなにお酒は強くないからボトルワインを一本くらいだけど。

それでもフワフワ心地よくていい気分だ。
ふふふ……お酒って凄い……嫌な気持ちが薄れてゆく。
よし、もっと呑もう。

「女将さん、ボトルワインもう一本!」

と景気良く言った時に後ろから肩を掴まれた。

「ニナっ!!」

強い力……
大きくてゴツゴツとがっしりとした手が私の肩を掴んでカウンターの回転椅子ごと私を自分の方に向ける。

「………オリバー……?」

なーんでこの人がここにいるんだろう?

私が首をこてんと傾げると、オリバーは余裕のない声で言った。

「城門の門衛にニナが来たって聞いたんだ。でも王宮では会えていないし、家に迎えに行っても留守だ。職場に行っても今日は早めに上がったと言われて、それで方々探し回ったんだぞっ!!」

お酒に酔ったとろんと重い瞼で彼を見る。
額と頬を伝う汗を手で拭っている。

騎士服の詰襟を外し肩で息をしていた。

どうやら相当あちこちを探し回ってくれたらしい。


「よくここが分かったわね。でもオリバー別に探してくれなくて良かったのよ?あのご令嬢と一緒に過ごしたら良かったのに」

「は?何がだよ」

「だって二人でとってもいい感じにお話してたじゃなーーい。ふふふ、お似合いだったわよーー良かったわねオリバー、とっても素敵な人じゃない、上官の姪なら出世にもいい影響がありそうだし」

やったね!と私はガッツポーズをした。

オリバーは大きくため息を吐いてから言った。

「あれを見たのか……あれはその上官に会いに来た彼女にたまたま入り口で会って話をしていただけだ」

「“彼女”だってぇ。親密ね~だって最高にいい笑顔で笑ってたもんね。私はあなたのあんな笑顔を最後に見たのはいつだったかしらね~……」

「っ……!」

私の言葉を聞いた彼の顔色が一瞬変わったのを、酔った頭でも見逃さなかった。

お酒の力でホワホワといい気分だったのに急に頭と心が冷たくなる。

「………女将さん、お勘定ここに置いときますね」

「ハイハイ。ニナちゃんまたね」

「サヨウナラ」

女将さんに言ったのかオリバーに言ったのか自分でもよく分からないけどそう挨拶をして私はカウンターの椅子から立ち上がった。

「!」
「っニナ!」

頭は冷めてもお酒の影響は足に如実に出る。

膝に力が入らずに崩れ落ちそうになる私をオリバーが支えてくれた。

でも今は彼に触れられたくない。

「……離して、触らないで」

「ニナ」

「今日はもう帰って寝るわ。別れ話は明日にしましょ」

「なんで別れ話をしなきゃいけないんだよ」

「だってずーーっと何か言いたそうにしていたじゃない。迷った顔して、暗い顔をして。ホントは別れたいって、言いたかったんでしょっ」

「違うっ!」

「何が違うのよっ……って……アレ……?」

その瞬間、視界が揺れた。

私の目の前の全てが歪み、黒く染まってゆく。

「ニナっ!!」

「ニナちゃん!」

遠退いてゆくオリバーと女将さんの声を聞きながら、私は闇の中へと引き摺り込まれていった。





次に目を覚ますと、自宅のベッドの上だった。

「あれ……?私……?っ

ズキンと頭に響いた痛みからこれが二日酔いだと思い至り、昨日の出来事を思い出させた。

呑み慣れないお酒をいつもより沢山呑んだ上での感情が昂った口論。
その所為でどうやら意識を失ったらしい。

どうやってここまで……というのは愚問ね。

きっとオリバーが連れ帰ってくれたんだろう。

「何やってんの情けない……」

これで完全に嫌われたかな。

あの美しいご令嬢ならこんな無様な失態はなさらないんだろうなぁ。

私はベッドに蹲る。
消えてしまいたい……


でもその瞬間、鼻先を掠める香りに気付いた。

「…………いい匂い……」

キッチンの方からコーヒーのいい香りが漂ってくる。

「まさか……」

私は夜着の上からカーディガンを羽織り、寝室を出た。

狭いアパートだ。
寝室のドアを開けたらすぐにダイニングとキッチンが目に入る。

オリバーがキッチンでコーヒーを淹れていた。

「ニナ、起きたか。二日酔いはどうだ?」

「……頭が痛い……」

「だろうな。普段あまり呑まないのに急に呑むからだよ。熱いコーヒーで少しはスッキリするだろう」

そう言ってオリバーは私にコーヒーの入ったカップを手渡してくれた。

「……ありがとう……」

オリバーはそのまま私の片手を引いてソファーに座らせる。

私は黙ってそれに従いコーヒーを口に含んだ。
馥郁とした香りが鼻腔をくすぐる。
いつもより濃いめに淹れたであろうコーヒーが頭をスッキリとさせてくれた。

二人並んでソファーに座り、しばらく互いに黙ったままコーヒーを飲む。

私はとりあえず、昨日迷惑をかけた事を謝罪した。

「昨日はごめんなさい。色々と迷惑をかけて、約束もすっぽかしてしまって、本当にごめんなさい」

「いや……俺が全部悪いんだ。いつまでもくよくよウジウジ迷ってたからニナを不安にさせたんだ」

「………」

この後告げられるだろう言葉を聞く覚悟は出来た。

受け入れる覚悟もようやく出来た。

これ以上無様な姿を見せてしまう前に終わらせて欲しい。

私は一つ、深呼吸をした。

「ニナ」

「……はい」

「俺と……」

「……っ……」

「俺と結婚して欲しいっ……!」

「………………………………え?」

「ずっと迷ってたんだ。いつプロポーズをしようか。結局これ以上ニナを不安にさせたくなくてこんな形でアッサリ言う結果になったけど、本当はもっとシャレたシチュエーションとか考えてたんだ」

「で…でも、それでどうして苦しそうに悩んでいたの?何かを躊躇うような……そんな表情をずっとしていたでしょ?」

「それは……怖かったんだ。プロポーズをして、ニナが俺の妻になるのは嫌だと言われる事が……」

「どうしてっ?」

「……ニナ、騎士が怖いと思う時があるだろう?」

「………!」

「親父さんの事があって、自分の父親を死に追いやった原因を作った騎士団を、快く思ってないだろう」

「…………」

「俺個人の事を見てくれているのはちゃんと分かってる。でも騎士である俺と結婚して家族になるのは無理だと言われたらどうしようと……その考えがストッパーになってどうしても告げられなかったんだ」

「でも…それじゃあ上官の姪ごさんは?とても気に入ったんじゃないの?一緒に宝石店にまで行って、宝石をプレゼントするくらい」

「それも見てたのか……。違うぞニナ、あれは一度だけ会ったあの日に、ご令嬢が母親のプレゼントを贈りたいから選ぶのを付き合って欲しいと頼まれたんだ。顔合わせしてすぐに縁談を断った気まずさもあったし、その日はノープランだったからそれに付き合って別れるくらいで丁度いい時間になると思って行ったんだ」

「紳士的で素敵な笑顔だったわよ」

「当たり前だ。初めて会うようなご令嬢に素の笑顔を見せるわけないだろう。砕けた顔を見せられるのは心を許した人だけだ」

「……恥ずかしそうに熱心にジュエリーを見ていたのは?」

私がそう言うとオリバーは徐に立ち上がり、上衣の内ポケットから小さな箱を取り出した。

そして私の前に跪く。

「オリバー……?」

オリバーはその小さな箱を私の前で開けた。

「……!」

中には小さな青い宝石が二つ並んで付いている指輪が入っていた。

「ニナに渡すこの指輪を真剣に見ていたんだ。下見、というかなんというか……」

オリバーは真剣な眼差しを私に向け、そして告げた。

「ニナ。もう一度改めて言う。俺は騎士だが、どうしてもニナを諦めたくはない。キミが嫌なら絶対に仕事の雰囲気は家に持ち込まないし団服も剣も見せないようにする!だから、だからどうか俺と結婚してくれ!俺の妻になってくれ……!」

そこまでしてくれるというの……
確かに一時期は騎士の姿を見るのが怖かった。

あの日突然、父の死と共に現れた騎士たち。

騎士を見るとどうしてもあの日の悲しみが思い出される。

でもそれを和らげてくれたのが、癒してくれたのが他ならぬオリバーだった。

今ではもう、どんな騎士を見ても平気だ。
だから王宮へも迎えに行けたのだから。

オリバーが、彼が居なかったら未だに私はあの日を思い出させる全ての物に怯え悲しんでいただろう。


だけど……

思い悩んいたのがプロポーズの為だったなんて……!

紛らわしい、とも思うけど彼にそれを迷わせたのは私だし、勝手に勘違いをして悶々としていたのも私だ………

でも………

それなら。

オリバーが私と共に生きたいと思ってくれているなら。

答えはもう、決まっている。



私はオリバーに左手を差し出した。

「……ニナ?」

「左手の薬指に、その指輪を嵌めてくれるんでしょう?」

「あ、ああ!」

そう返事したオリバーが指輪を私の薬指に嵌めてくれた。

私はその指輪を嵌めた手を大切に胸元に引き寄せる。

「喜んでお受けします。オリバー、私をあなたの、騎士の妻にしてください」

「ニナ……!」

オリバーが私を抱き寄せた。

力いっぱいに。
でも驚くほど優しく。

「ありがとうニナ!ありがとう!」

そう言ってからはオリバーのキスの雨が私を襲う。

額に瞼に頬にこめかみや首筋に。
何度も何度もキスを落としてくる。

そして最後に深く口づけをされた。


オリバーは言った。

父の死を告げられてから埋葬が済むまで一切涙を見せなかった私が、ハンカチを渡した瞬間に泣き崩れたのを見て、もう二度こんな悲しい涙は流させたくないと思ったと。

私を守り、笑顔にして、幸せにしたいとそう思ったらしい。


「キミの涙を見て惚れたなんて、ちょっと申し訳なくて今まで言えなかったんだ」

確かにね。
一瞬、私を悲しませたしね。

でももういい。

あなたが蒔いた不安の種は、

綺麗な花を咲かせて昇華していった。


今はもう何も残ってはいない。


その代わり、これからは互いに幸せの種を蒔いて、大切に育んでいこう。





            おわり




































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