夫はオシドリ夫婦と評される※ただし相手は妻の私ではない

キムラましゅろう

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こんばんは、レイ

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「だから、他者から摂取した魔力を過去に遡っても識別できるようにしたいんだ。それにはこの術式では不十分だと思う」

「でもその遡る年数を減らした方がより確実に摂取した魔力を特定しやすくなるわ。これ以上の術式の追加は無意味だと思う」

研究室からリゼットの夫レイナルドと彼のバディであるジョルジュエッタ=ナンオイザウが論争しながら出て来た。
どうやら確証術式の構築について意見が分かれているらしい。

フィリミナに変身しているリゼットはその様子を離れた所から見ていた。
そんなフィリミナリゼットに同室の職員が話し掛けてきた。

「レイナルド=クロウが一番本腰を入れて取り組んでいる術式の構築が上手くいっていないようだな。近頃ああやって二人で論議している姿をよく見るよ」

「術式の構築?どのような術式なんですか?」

フィリミナリゼットが訊ねるとその職員は顎に手を当て思考を整理しながら答えてくれた。

「うーん…よくはわからないけど、魔法律に抵触する犯罪である魔力奪取をした犯人の、体内から被害者の魔力の残滓を取り出して?それを証拠として立証して?検挙できるようにするとかなんとか?」

「魔力奪取……」

そう呟いたフィリミナリゼットを他所にレイナルドとジョルジュエッタは尚も口論を続けている。

「どうしてそんなに過去の魔力採取に拘るのっ?ある程度の妥協は必要だと貴方なら分かるでしょう?」

「それじゃこれまでの立証の仕方と何ら変わらないじゃないか。過去に遡っても調べられるようにしないと、これまでの被害者は泣き寝入りをし続ける事になる」

「じゃあ具体的に何年まで遡りたいと思っているの?実際の年数を示してよ」

「……十三年」

「十三年っ?冗談でしょっ?物質逆行(物の時間を戻す魔術)を専門とする私でも八年が限度だというのにっ!」

「だからキミのスキルを底上げ出来るように魔術で補助して、尚且つバックアップしているんじゃないか。体内からサルベージした魔力の分析解読の術式は完成しているんだ、後はそれに物質逆行の術式を組み込んで構築すればいいだけの段階なんだよ」

「だからその組み込む術式が無理だって言ってるの!」

上級魔術師資格を持つリゼットは、今の二人の会話で概ね理解した。

レイナルドは他者から魔力を奪った犯人の体内から、僅かに残った被害者の魔力残滓を取り出し、それが被害者の魔力に間違いないと立証する魔術を作り出したいのだ。
その為の術式を開発中という訳なのか。

レイナルドは赴任前に調査に携わりたい案件があると言っていた。
それは魔力強奪事件の証拠を挙げる為だったのか……。

ちなみに術式というのは数学で言うところの方程式だ。
魔力を含む古代語エンシェントスペルを組み合わせて一つの式を組み立てる。
それを術式と呼び、その組み合わせが上手くいって初めて魔術は形となって発動されるのだ。

例えば、火柱をあげる魔術を使いたいとしよう。

その魔術を発動させる為には、“炎”の古代語と“柱”の古代語、その他“大”か“小”かサイズの古代語や火柱の高さを設定する古代語、それらから派生する反作用を相殺する古代語などを組み合わせたものを術式(国によっては呪文と呼ぶ)として詠唱し、魔力を形にして顕現させる。
それが魔術だ。

術式はただ組み合わせればよいというものではない。
順番や用いる古代語やその繋げ方により、それが“術式”となるかただ言葉を並べただけの“文章”になるかが分かれるのだ。

レイナルドは術式師の国家資格を持つ。
そのスキルを活かして過去のあの事件の犯人を捕まえようとしているという事か……。

十三年前、魔力を持つ子どもを狙っての魔力強奪事件が起きた。

当時数多くの子どもが魔力を奪われ、中には落命した被害者もいる。
当時も懸命な捜査が行われたにも関わらず、犯人は未だに捕まっていない。

ーーレイ……レイナルド、あなたは……。

リゼットは思わずレイナルドをギュッと抱きしめたくなった。
だけど今の自分はフィリミナ=ハリス。
そんな事をすればとんでもない事になる。

術式について論争を続けるレイナルドとジョルジュエッタに、通りがかった他の職員が彼らに向かって囃し立てた。

「よっ!ご両人!夫婦喧嘩は他所でやってくれよ~?仲直りでイチャつくなら余計にな!」

その揶揄いの野次を受け、レイナルドは冷めた目で相手を睨め付け、そして言った。

「……だから、僕には故郷にちゃんと妻がいると何回言ったら分かって貰えるんですか……?」

「イヤぁね!夫婦喧嘩なんかじゃないわよっ!ちゃんと仲良くやってるんだから余計な心配しないでよね!犬も喰わないものに首を突っ込むなんて野暮よ野暮♡」

レイナルドの訴える声よりも大きな声でジョルジュエッタがそう返すと周りにいた者たちから笑いが起こった。

その職員たちの中で常識のある者だけがレイナルドの訴えをちゃんと聞いているようだ。

疲れたように眉間を摘むレイナルドの肩を叩いて労ってくれている。

レイナルドは乾いた笑みを浮かべ、力なくデスクに戻って行った。

そしてフォトフレームを手に取り、リゼットのイケテナイ写真をぼんやりと眺めている。
ちなみにフォトフレームはもう一つ増えて現在四つになっていた。
四つ目のフォトフレームの写真はリゼットが手紙と一緒に同封したものだから比較的マシなものである。

ーー……レイ、疲れてる?

自分の写真を生気せいきなく見つめている夫の姿を見て、リゼットは何やら思案していた。

そしてひと言、
「会いに行くか」と呟いた。



その日の夜の事である。

レイナルドが寝泊まりしてる魔法省の寮の窓を叩く音がした。
部屋についている小さなバルコニーに繋がる窓からだ。

気のせいかと思えばもう一回、トントンとノックする音が聞こえた。

「………?」

不思議に思ったレイナルドが訝しみながらカーテンを開けると……

「えっ!?」

窓の向こう、小さなバルコニーにクロウ子爵領にいるはずの妻が立っていた。


「こんばんはレイ」








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これはストーカーヒーロー初出となった、
いつぞやのワルターのオマージュみたいな展開になっちゃったぞ☆

なのでサブタイもオマージュで?












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