3 / 12
こんばんは、レイ
しおりを挟む
「だから、他者から摂取した魔力を過去に遡っても識別できるようにしたいんだ。それにはこの術式では不十分だと思う」
「でもその遡る年数を減らした方がより確実に摂取した魔力を特定しやすくなるわ。これ以上の術式の追加は無意味だと思う」
研究室からリゼットの夫レイナルドと彼のバディであるジョルジュエッタ=ナンオイザウが論争しながら出て来た。
どうやら確証術式の構築について意見が分かれているらしい。
フィリミナに変身しているリゼットはその様子を離れた所から見ていた。
そんなフィリミナに同室の職員が話し掛けてきた。
「レイナルド=クロウが一番本腰を入れて取り組んでいる術式の構築が上手くいっていないようだな。近頃ああやって二人で論議している姿をよく見るよ」
「術式の構築?どのような術式なんですか?」
フィリミナが訊ねるとその職員は顎に手を当て思考を整理しながら答えてくれた。
「うーん…よくはわからないけど、魔法律に抵触する犯罪である魔力奪取をした犯人の、体内から被害者の魔力の残滓を取り出して?それを証拠として立証して?検挙できるようにするとかなんとか?」
「魔力奪取……」
そう呟いたフィリミナを他所にレイナルドとジョルジュエッタは尚も口論を続けている。
「どうしてそんなに過去の魔力採取に拘るのっ?ある程度の妥協は必要だと貴方なら分かるでしょう?」
「それじゃこれまでの立証の仕方と何ら変わらないじゃないか。過去に遡っても調べられるようにしないと、これまでの被害者は泣き寝入りをし続ける事になる」
「じゃあ具体的に何年まで遡りたいと思っているの?実際の年数を示してよ」
「……十三年」
「十三年っ?冗談でしょっ?物質逆行(物の時間を戻す魔術)を専門とする私でも八年が限度だというのにっ!」
「だからキミのスキルを底上げ出来るように魔術で補助して、尚且つバックアップしているんじゃないか。体内からサルベージした魔力の分析解読の術式は完成しているんだ、後はそれに物質逆行の術式を組み込んで構築すればいいだけの段階なんだよ」
「だからその組み込む術式が無理だって言ってるの!」
上級魔術師資格を持つリゼットは、今の二人の会話で概ね理解した。
レイナルドは他者から魔力を奪った犯人の体内から、僅かに残った被害者の魔力残滓を取り出し、それが被害者の魔力に間違いないと立証する魔術を作り出したいのだ。
その為の術式を開発中という訳なのか。
レイナルドは赴任前に調査に携わりたい案件があると言っていた。
それはあの魔力強奪事件の証拠を挙げる為だったのか……。
ちなみに術式というのは数学で言うところの方程式だ。
魔力を含む古代語を組み合わせて一つの式を組み立てる。
それを術式と呼び、その組み合わせが上手くいって初めて魔術は形となって発動されるのだ。
例えば、火柱をあげる魔術を使いたいとしよう。
その魔術を発動させる為には、“炎”の古代語と“柱”の古代語、その他“大”か“小”かサイズの古代語や火柱の高さを設定する古代語、それらから派生する反作用を相殺する古代語などを組み合わせたものを術式(国によっては呪文と呼ぶ)として詠唱し、魔力を形にして顕現させる。
それが魔術だ。
術式はただ組み合わせればよいというものではない。
順番や用いる古代語やその繋げ方により、それが“術式”となるかただ言葉を並べただけの“文章”になるかが分かれるのだ。
レイナルドは術式師の国家資格を持つ。
そのスキルを活かして過去のあの事件の犯人を捕まえようとしているという事か……。
十三年前、魔力を持つ子どもを狙っての魔力強奪事件が起きた。
当時数多くの子どもが魔力を奪われ、中には落命した被害者もいる。
当時も懸命な捜査が行われたにも関わらず、犯人は未だに捕まっていない。
ーーレイ……レイナルド、あなたは……。
リゼットは思わずレイナルドをギュッと抱きしめたくなった。
だけど今の自分はフィリミナ=ハリス。
そんな事をすればとんでもない事になる。
術式について論争を続けるレイナルドとジョルジュエッタに、通りがかった他の職員が彼らに向かって囃し立てた。
「よっ!ご両人!夫婦喧嘩は他所でやってくれよ~?仲直りでイチャつくなら余計にな!」
その揶揄いの野次を受け、レイナルドは冷めた目で相手を睨め付け、そして言った。
「……だから、僕には故郷にちゃんと妻がいると何回言ったら分かって貰えるんですか……?」
「イヤぁね!夫婦喧嘩なんかじゃないわよっ!ちゃんと仲良くやってるんだから余計な心配しないでよね!犬も喰わないものに首を突っ込むなんて野暮よ野暮♡」
レイナルドの訴える声よりも大きな声でジョルジュエッタがそう返すと周りにいた者たちから笑いが起こった。
その職員たちの中で常識のある者だけがレイナルドの訴えをちゃんと聞いているようだ。
疲れたように眉間を摘むレイナルドの肩を叩いて労ってくれている。
レイナルドは乾いた笑みを浮かべ、力なくデスクに戻って行った。
そしてフォトフレームを手に取り、リゼットのイケテナイ写真をぼんやりと眺めている。
ちなみにフォトフレームはもう一つ増えて現在四つになっていた。
四つ目のフォトフレームの写真はリゼットが手紙と一緒に同封したものだから比較的マシなものである。
ーー……レイ、疲れてる?
自分の写真を生気なく見つめている夫の姿を見て、リゼットは何やら思案していた。
そしてひと言、
「会いに行くか」と呟いた。
その日の夜の事である。
レイナルドが寝泊まりしてる魔法省の寮の窓を叩く音がした。
部屋についている小さなバルコニーに繋がる窓からだ。
気のせいかと思えばもう一回、トントンとノックする音が聞こえた。
「………?」
不思議に思ったレイナルドが訝しみながらカーテンを開けると……
「えっ!?」
窓の向こう、小さなバルコニーにクロウ子爵領にいるはずの妻が立っていた。
「こんばんはレイ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはストーカーヒーロー初出となった、
いつぞやのワルターのオマージュみたいな展開になっちゃったぞ☆
なのでサブタイもオマージュで?
「でもその遡る年数を減らした方がより確実に摂取した魔力を特定しやすくなるわ。これ以上の術式の追加は無意味だと思う」
研究室からリゼットの夫レイナルドと彼のバディであるジョルジュエッタ=ナンオイザウが論争しながら出て来た。
どうやら確証術式の構築について意見が分かれているらしい。
フィリミナに変身しているリゼットはその様子を離れた所から見ていた。
そんなフィリミナに同室の職員が話し掛けてきた。
「レイナルド=クロウが一番本腰を入れて取り組んでいる術式の構築が上手くいっていないようだな。近頃ああやって二人で論議している姿をよく見るよ」
「術式の構築?どのような術式なんですか?」
フィリミナが訊ねるとその職員は顎に手を当て思考を整理しながら答えてくれた。
「うーん…よくはわからないけど、魔法律に抵触する犯罪である魔力奪取をした犯人の、体内から被害者の魔力の残滓を取り出して?それを証拠として立証して?検挙できるようにするとかなんとか?」
「魔力奪取……」
そう呟いたフィリミナを他所にレイナルドとジョルジュエッタは尚も口論を続けている。
「どうしてそんなに過去の魔力採取に拘るのっ?ある程度の妥協は必要だと貴方なら分かるでしょう?」
「それじゃこれまでの立証の仕方と何ら変わらないじゃないか。過去に遡っても調べられるようにしないと、これまでの被害者は泣き寝入りをし続ける事になる」
「じゃあ具体的に何年まで遡りたいと思っているの?実際の年数を示してよ」
「……十三年」
「十三年っ?冗談でしょっ?物質逆行(物の時間を戻す魔術)を専門とする私でも八年が限度だというのにっ!」
「だからキミのスキルを底上げ出来るように魔術で補助して、尚且つバックアップしているんじゃないか。体内からサルベージした魔力の分析解読の術式は完成しているんだ、後はそれに物質逆行の術式を組み込んで構築すればいいだけの段階なんだよ」
「だからその組み込む術式が無理だって言ってるの!」
上級魔術師資格を持つリゼットは、今の二人の会話で概ね理解した。
レイナルドは他者から魔力を奪った犯人の体内から、僅かに残った被害者の魔力残滓を取り出し、それが被害者の魔力に間違いないと立証する魔術を作り出したいのだ。
その為の術式を開発中という訳なのか。
レイナルドは赴任前に調査に携わりたい案件があると言っていた。
それはあの魔力強奪事件の証拠を挙げる為だったのか……。
ちなみに術式というのは数学で言うところの方程式だ。
魔力を含む古代語を組み合わせて一つの式を組み立てる。
それを術式と呼び、その組み合わせが上手くいって初めて魔術は形となって発動されるのだ。
例えば、火柱をあげる魔術を使いたいとしよう。
その魔術を発動させる為には、“炎”の古代語と“柱”の古代語、その他“大”か“小”かサイズの古代語や火柱の高さを設定する古代語、それらから派生する反作用を相殺する古代語などを組み合わせたものを術式(国によっては呪文と呼ぶ)として詠唱し、魔力を形にして顕現させる。
それが魔術だ。
術式はただ組み合わせればよいというものではない。
順番や用いる古代語やその繋げ方により、それが“術式”となるかただ言葉を並べただけの“文章”になるかが分かれるのだ。
レイナルドは術式師の国家資格を持つ。
そのスキルを活かして過去のあの事件の犯人を捕まえようとしているという事か……。
十三年前、魔力を持つ子どもを狙っての魔力強奪事件が起きた。
当時数多くの子どもが魔力を奪われ、中には落命した被害者もいる。
当時も懸命な捜査が行われたにも関わらず、犯人は未だに捕まっていない。
ーーレイ……レイナルド、あなたは……。
リゼットは思わずレイナルドをギュッと抱きしめたくなった。
だけど今の自分はフィリミナ=ハリス。
そんな事をすればとんでもない事になる。
術式について論争を続けるレイナルドとジョルジュエッタに、通りがかった他の職員が彼らに向かって囃し立てた。
「よっ!ご両人!夫婦喧嘩は他所でやってくれよ~?仲直りでイチャつくなら余計にな!」
その揶揄いの野次を受け、レイナルドは冷めた目で相手を睨め付け、そして言った。
「……だから、僕には故郷にちゃんと妻がいると何回言ったら分かって貰えるんですか……?」
「イヤぁね!夫婦喧嘩なんかじゃないわよっ!ちゃんと仲良くやってるんだから余計な心配しないでよね!犬も喰わないものに首を突っ込むなんて野暮よ野暮♡」
レイナルドの訴える声よりも大きな声でジョルジュエッタがそう返すと周りにいた者たちから笑いが起こった。
その職員たちの中で常識のある者だけがレイナルドの訴えをちゃんと聞いているようだ。
疲れたように眉間を摘むレイナルドの肩を叩いて労ってくれている。
レイナルドは乾いた笑みを浮かべ、力なくデスクに戻って行った。
そしてフォトフレームを手に取り、リゼットのイケテナイ写真をぼんやりと眺めている。
ちなみにフォトフレームはもう一つ増えて現在四つになっていた。
四つ目のフォトフレームの写真はリゼットが手紙と一緒に同封したものだから比較的マシなものである。
ーー……レイ、疲れてる?
自分の写真を生気なく見つめている夫の姿を見て、リゼットは何やら思案していた。
そしてひと言、
「会いに行くか」と呟いた。
その日の夜の事である。
レイナルドが寝泊まりしてる魔法省の寮の窓を叩く音がした。
部屋についている小さなバルコニーに繋がる窓からだ。
気のせいかと思えばもう一回、トントンとノックする音が聞こえた。
「………?」
不思議に思ったレイナルドが訝しみながらカーテンを開けると……
「えっ!?」
窓の向こう、小さなバルコニーにクロウ子爵領にいるはずの妻が立っていた。
「こんばんはレイ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはストーカーヒーロー初出となった、
いつぞやのワルターのオマージュみたいな展開になっちゃったぞ☆
なのでサブタイもオマージュで?
223
あなたにおすすめの小説
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
エレナは分かっていた
喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。
本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
ガネット・フォルンは愛されたい
アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。
子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。
元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。
それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。
私も誰かに一途に愛されたかった。
❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。
❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。
完結 愛される自信を失ったのは私の罪
音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。
それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。
ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる