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ジョシュア=ハリスの足取り
「リゼットさん、これこれ、東和の料理といえばコレを食わなきゃ始まらんですよ。是非このおでんを食ってみてください。箸休めには水茄子の浅漬けがこれまた良いのです」
「はい。いただいてます。美味しいです」
「お、このあん肝、絶品ですなぁ。これは幾らでも呑めてしまいますよ」
「お酒、お強いんですね」
「そうでもないですよ。私が仕えていたバカ…じゃない若なんてザルですよザル、いやあれは枠だな枠だけだ。ははは」
「枠ですか。呑んでも呑んでもキリがないですね」
「まったくもってそうなんです。酔わずにいてなんの為の酒なのか」
「人のお酒の呑み方なんてどうでもよくないですか?」
「ご内儀、塩いですなーー」
「可愛いだろ?ウチの奥さん。外見も内面も可愛いんだよ」
「旦那は甘いなーー。俺は何を見せられてるんだ?」
夫レイナルドが捜査の協力を要請した同期の桐生主水之介とそんな会話をしながら、先に食事を和気あいあいと済ませ、その後にゆっくりと彼からの報告を聞いた。
「容疑者は十三年前、結構不可解な行動をしている事がわかった」
「不可解な行動?」
「アデリオールの他、近隣諸国にもちょくちょく渡航して至る所に出没している」
「その出没した場所は魔力奪取の被害があった地域と該当するのか?」
「する所もあればしない所もある。しかし該当する街の宿の宿泊記録に必ずジョシュア=ハリスの名があった。もちろんあんた達の故郷、クロウ子爵領にもだ」
「じゃあ……」
やはりジョシュア=ハリスが犯人と断定出来るのかとリゼットが期待すると、釘を刺すように桐生主水之介が言った。
「それだけで特定するのは正直難しいかもですなぁ。ジョシュア=ハリスが行った場所全てで事件が起きたわけでもねぇですし、渡航先の他国では事件は起きていない。別の理由でそれらの場所へ行ったと言い逃れされちゃあお終いだ」
「何かもう一つ、奴が犯人だと示唆するようなものがあれば上官をつっついて任意で取り調べは可能なんだが……」
レイナルドが顎に手を当て思案しながら言うと、その言葉を受けて主水之介が答えた。
「ひとつ、これはかつて奴さんが図書館で調べていた書籍の閲覧記録で気になった事があるんだが」
その言葉にレイナルドが身を乗り出す。
「何の本を借りていた?」
「色々だ。有名な絵描きの画集やら他国の風土記。外国語の辞書に宗教画の画集。それと、児童文学書と教会の洗礼についての本」
「!……児童文学書と教会……」
レイナルドが目を見開き、呟くように復唱した。
リゼットはそんなレイナルドを見て訊ねた。
「それがどうかしたの?」
「リゼ、魔力を奪われた被害者は子どもばかりだっただろ?当時の被害者数名の供述では、子どもに人気の児童文学書の話をしていて犯人に魔力を奪われたとあった。それにリゼ、キミが襲われたのは教会でだ」
「……!」
息を呑むリゼットを見ながら、主水之介は話を続けた。
「犯人はご内儀を襲ったのを最後に魔力奪取をピタリとやめ、その後足取りが掴めなくなった。そして十三年前を境にジョシュア=ハリスは王都から一歩も出ていない」
これは……もう間違いないのではないだろうか。
とこの場にいる全員がそう思った。
それを踏まえて、主水之介が言う。
「どうする?適当に理由をつけ任意同行を願って、体内から証拠となる魔力を取り出すか?それを証拠として逮捕するというのが一番手っ取り早いんじゃねぇか?」
「そうだな……」
レイナルドが熟考している。
顎に手を当て、何を見ているわけでもなく一点を見据えている。
リゼットは夫と主水之介の判断に従うと決めているので黙って結論を待っていた。
そしてややあって、レイナルドが告げた。
「やろう。奴が犯人だと示すそれ以上のものが何も出ないのであれば、それを足掛かりにもう行動に移そう」
主水之介がレイナルドに言う。
「理由付けはなんにする?さすがにこの段階で容疑者としてしょっ引くわけにはいかねぇだろ」
それもそうだ。
もし万が一証拠が検出できなければ、勝手に犯人扱いをした責を問われる可能性が高い。
そしてその後の捜査にも影響を及ぼしかねない。
レイナルドは主水之介の質問に答えた。
「新たな供述が出てきたという体で捜査協力を願う、という方向でいこう。彼がクロウ子爵領をはじめその他の被害者の住む街へ行っていたのは確かなのだから」
「そうだな。それしかないな」
主水之介も肯定すると次はいつどのようなタイミングで捜査協力をし掛けるか、という相談に移った。
お茶を口に含んだ後に主水之介が言う。
「まぁ任意かけるのは特務課でするか……今から捜査一課に話を通すのは面倒いし、ここは一発ドカンと手柄を立ててお姫様に『もんどのちゅけしゅごい!』と言って貰いてぇですからねぇ」
「下ゴコロアリアリじゃないですか」
リゼットがそう言うと、主水之介は今日一番の良い顔で笑った。
そうしてまずは主水之介が特務課長に話を付け、特務課長の権限にて捜査の承認を得た。
その時点でこの事件は捜査一課から特務課へと移管される。
任意でジョシュア=ハリスに捜査協力を願い出る当日、
特務課からは桐生主水之介とトミー=コーディ。
検査技師として術式開発者のレイナルドが担当する事に決まった。
リゼットも立ち会いたいと願い出たが、精神的に影響が出るかもしれないと夫のレイナルドが強く反対したのだ。
「頼むリゼ。直接犯人と対峙するなんて記憶を失っているキミの精神にどんな影響を及ぼすかわからない。いい子だから俺たちを信じて待っていてくれ」
憂いを滲ませた真剣な眼差しでそう告げられて、リゼットはそれ以上の我儘は言えなかった。
そしてその日は休みを取り、フィリミナの変身を解きリゼットとして結果が出るのを待ったのだった。
「はい。いただいてます。美味しいです」
「お、このあん肝、絶品ですなぁ。これは幾らでも呑めてしまいますよ」
「お酒、お強いんですね」
「そうでもないですよ。私が仕えていたバカ…じゃない若なんてザルですよザル、いやあれは枠だな枠だけだ。ははは」
「枠ですか。呑んでも呑んでもキリがないですね」
「まったくもってそうなんです。酔わずにいてなんの為の酒なのか」
「人のお酒の呑み方なんてどうでもよくないですか?」
「ご内儀、塩いですなーー」
「可愛いだろ?ウチの奥さん。外見も内面も可愛いんだよ」
「旦那は甘いなーー。俺は何を見せられてるんだ?」
夫レイナルドが捜査の協力を要請した同期の桐生主水之介とそんな会話をしながら、先に食事を和気あいあいと済ませ、その後にゆっくりと彼からの報告を聞いた。
「容疑者は十三年前、結構不可解な行動をしている事がわかった」
「不可解な行動?」
「アデリオールの他、近隣諸国にもちょくちょく渡航して至る所に出没している」
「その出没した場所は魔力奪取の被害があった地域と該当するのか?」
「する所もあればしない所もある。しかし該当する街の宿の宿泊記録に必ずジョシュア=ハリスの名があった。もちろんあんた達の故郷、クロウ子爵領にもだ」
「じゃあ……」
やはりジョシュア=ハリスが犯人と断定出来るのかとリゼットが期待すると、釘を刺すように桐生主水之介が言った。
「それだけで特定するのは正直難しいかもですなぁ。ジョシュア=ハリスが行った場所全てで事件が起きたわけでもねぇですし、渡航先の他国では事件は起きていない。別の理由でそれらの場所へ行ったと言い逃れされちゃあお終いだ」
「何かもう一つ、奴が犯人だと示唆するようなものがあれば上官をつっついて任意で取り調べは可能なんだが……」
レイナルドが顎に手を当て思案しながら言うと、その言葉を受けて主水之介が答えた。
「ひとつ、これはかつて奴さんが図書館で調べていた書籍の閲覧記録で気になった事があるんだが」
その言葉にレイナルドが身を乗り出す。
「何の本を借りていた?」
「色々だ。有名な絵描きの画集やら他国の風土記。外国語の辞書に宗教画の画集。それと、児童文学書と教会の洗礼についての本」
「!……児童文学書と教会……」
レイナルドが目を見開き、呟くように復唱した。
リゼットはそんなレイナルドを見て訊ねた。
「それがどうかしたの?」
「リゼ、魔力を奪われた被害者は子どもばかりだっただろ?当時の被害者数名の供述では、子どもに人気の児童文学書の話をしていて犯人に魔力を奪われたとあった。それにリゼ、キミが襲われたのは教会でだ」
「……!」
息を呑むリゼットを見ながら、主水之介は話を続けた。
「犯人はご内儀を襲ったのを最後に魔力奪取をピタリとやめ、その後足取りが掴めなくなった。そして十三年前を境にジョシュア=ハリスは王都から一歩も出ていない」
これは……もう間違いないのではないだろうか。
とこの場にいる全員がそう思った。
それを踏まえて、主水之介が言う。
「どうする?適当に理由をつけ任意同行を願って、体内から証拠となる魔力を取り出すか?それを証拠として逮捕するというのが一番手っ取り早いんじゃねぇか?」
「そうだな……」
レイナルドが熟考している。
顎に手を当て、何を見ているわけでもなく一点を見据えている。
リゼットは夫と主水之介の判断に従うと決めているので黙って結論を待っていた。
そしてややあって、レイナルドが告げた。
「やろう。奴が犯人だと示すそれ以上のものが何も出ないのであれば、それを足掛かりにもう行動に移そう」
主水之介がレイナルドに言う。
「理由付けはなんにする?さすがにこの段階で容疑者としてしょっ引くわけにはいかねぇだろ」
それもそうだ。
もし万が一証拠が検出できなければ、勝手に犯人扱いをした責を問われる可能性が高い。
そしてその後の捜査にも影響を及ぼしかねない。
レイナルドは主水之介の質問に答えた。
「新たな供述が出てきたという体で捜査協力を願う、という方向でいこう。彼がクロウ子爵領をはじめその他の被害者の住む街へ行っていたのは確かなのだから」
「そうだな。それしかないな」
主水之介も肯定すると次はいつどのようなタイミングで捜査協力をし掛けるか、という相談に移った。
お茶を口に含んだ後に主水之介が言う。
「まぁ任意かけるのは特務課でするか……今から捜査一課に話を通すのは面倒いし、ここは一発ドカンと手柄を立ててお姫様に『もんどのちゅけしゅごい!』と言って貰いてぇですからねぇ」
「下ゴコロアリアリじゃないですか」
リゼットがそう言うと、主水之介は今日一番の良い顔で笑った。
そうしてまずは主水之介が特務課長に話を付け、特務課長の権限にて捜査の承認を得た。
その時点でこの事件は捜査一課から特務課へと移管される。
任意でジョシュア=ハリスに捜査協力を願い出る当日、
特務課からは桐生主水之介とトミー=コーディ。
検査技師として術式開発者のレイナルドが担当する事に決まった。
リゼットも立ち会いたいと願い出たが、精神的に影響が出るかもしれないと夫のレイナルドが強く反対したのだ。
「頼むリゼ。直接犯人と対峙するなんて記憶を失っているキミの精神にどんな影響を及ぼすかわからない。いい子だから俺たちを信じて待っていてくれ」
憂いを滲ませた真剣な眼差しでそう告げられて、リゼットはそれ以上の我儘は言えなかった。
そしてその日は休みを取り、フィリミナの変身を解きリゼットとして結果が出るのを待ったのだった。
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