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奈落
ツェリシアが早起き出来たか出来なかったのか……
やはり無理であった。
「……ほらツェリ、頭をフラフラさせないで。ブラシを入れにくいだろ」
「…………………どうして覚醒魔法が発動しなかったのかしら」
「覚醒魔法なら発動してたよ?」
「え゛」
「それはもう、けたたましく」
「え゛」
「おそらく魔塔中に響き渡るくらい」
「え゛」
「それでも起きない事に逆に天晴れだと思ったよ」
「え゛ーー……」
ツェリシアは結局、自ら掛けた覚醒魔法で目覚める事が出来ず、アルトに起こして貰う羽目になった。
そして今、そのアルトに髪を梳いて貰っている状態だ。
いつもはただ下ろしているだけの髪だが今日は結った方がいいと、アルトが言ったのだ。
そういえば幼い時もよくこうやって髪にブラシを入れて貰った。
「自分が情けない……」
ツェリシアが珍しくしょげると、アルトはポツリと呟いた。
「今だけだよ」
「え?なんて言ったの?」
アルトが何か言ったのは聞こえたのだが、何を言ったのかまでは分からなかった。
「いや、よく眠れるというのはいい事だよ。俺の師匠なんて酷い不眠症でさ、自分が寝ないからってよく朝までボードゲームやカードゲームに付き合わされたんだから」
「わぉ大迷惑」
「ホントだよ。そしてゲームに負けると拗ねるんだ」
「子どもか」
「ははは。それにしてもツェリの髪は相変わらず細くて柔らかくてフワフワだな」
「昔より猫っ毛が増してるかも。色も地味でやんなっちゃう」
「俺は昔からツェリの黒髪が好きだけどね、ターコイズブルーの瞳も、よく見ないと気付かない目元のホクロも全部好きだ」
すぐ後ろから聞こえる低くて優しい声にツェリシアは思わず目を閉じて聞き入ってしまう。
「……アルトは昔から息をするようにわたしの事を褒めてくれるわよね」
「だって本心だからね。ホラ出来た」
アルトはツェリシアの髪をポニーテールに結い上げてくれた。
◇◇◇◇◇
今回(?)の噴出口は人里離れた山の奥、切り立った崖の真下に突如出現した。
今から3年前の事だ。
岩と岩の隙間、ひび割れたような裂け目から既に少しずつ“負”の魔力が漏れ出している。
噴出口の出現場所に規則性はない。
どの時代も思いも寄らない場所に突然現れる。
前代は街中のとある商家の庭先であったという。
前々代は湖の中。
第一“負”の魔力がどこに溜まるのか、それさえも分からないのだ。
地下なのか地表のどこかなのか、何かの因果なのか要因は無いのか必然なのか偶然なのか、全て解明されていない。
わかっているのは魔鉱石から発生しているという事だけ。
あまりにも未知であまりにも不確かなもの。
それが厄災の原因となる“負”の魔力だった。
魔塔主バイヤージが強力な結界魔法で塞いでいるが、厄災を引き起こすほどの魔力が噴出するのはそう遠い未来ではないだろう。
バイヤージほどの魔術師が張った結界でさえ、“負”の魔力を完全に抑えきる事は不可能なのだ。
その少しずつ漏れ出した魔力の影響により、
この付近にいる精霊達に異変が起きた。
“負”の魔力に当てられた精霊が突然変異を起こし、仲間の精霊を喰らい出したのだ。
その現象は厄災の前触れとしては必ず起きると言っていい現象だそうで、今回もやはり精霊喰らいが発生した。
精霊は純粋で、他の影響を受け易いのだという。
精霊喰らいも元は地・水・火・風、普通の精霊だったのだ。
それが身の内と外から異変を来たし、精霊自身を別の生きものに創り変えられてしまう。
そして好戦的で凶暴な性質となり、同属の精霊を喰らい出した。
精霊喰らいとて厄災の被害者であった。
噴出口に近付くほどに、精霊喰らいの姿を多く見かけるようになる。
いや、精霊喰らいの姿しか見えない。
もはやこの周辺の普通の精霊は喰らい尽くされたか、精霊が全て変異してしまったかのどちらかだろう。
初めて精霊喰らいを見たであろう、アルトは眉間に皺を寄せて彼らを注視していた。
「……これはもう人の手では救えないな」
出来る事なら元の姿に戻してやりたかった……
そう呟くアルトにサポートとして同行したブルサスが聞いた。
「どうする?とりあえず目につく奴を片っ端から退治していくか?」
ツェリシアも続けて問う。
「精霊戦をするの?」
精霊戦とは文字通り精霊を使役して戦闘を行う事だ。
そういえばアルトの使役精霊は何だろう。
それに対し、アルトは少し考えてからこう答えた。
「いや、アイツらにわざわざ飯を与える必要はない。消し去るのは簡単だがそんな事はせず、送りつけて向こうでなんとかして貰おうと思う」
『送りつける?向こう?』
ツェリシアは首を傾げた。
向かいに立つブルサスの首も斜めに傾いでいる。
そんな二人を他所に、アルトは地面に魔法陣を出現させた。
直径5メートルはあろうか。
そこそこ大きな魔法陣だ。
一応魔術師であるツェリシアも初めて見る紋様や古代文字が刻まれていた。
アルトはローブの内ポケットから小さな小瓶を取り出し、その陣の中心に数滴垂らした。
何が始まるのだろう…そう思った瞬間、
この辺り一帯に居たであろう無数の精霊喰らいが一斉に飛び出して来た。
「「!?」」
ツェリシアとブルサスが目を見開いて上空を見上げる。
大量の精霊喰らい達が我先にと魔法陣目掛けて向かって来たのだ。
そしてまるで自ら好んで陣の中へと突っ込むように飛び込んで来る。
しかし陣の中へ突っ込んだ精霊喰らい達は布陣した地面に激突する事なく、吸い込まれるかのように消えて行く。
『蒸発した?……違う、どこかへ連れて行かれている?』
ツェリシアはその光景をまじまじと見て、そう推察した。
アルトは表情を変えずにそれらを見つめていた。
どのくらい時間が経過したのだろう。
おそらく半時ほどか、最後の一体が吸い込まれるのを視認した後、急に静かになった。
夥しい数の精霊喰らい達は全て魔法陣の中へと消え去ったようだ。
只々呆然として事の一部始終を見ていたツェリシアとブルサス。
アルトが気遣わしそうにツェリシアを見た。
「ツェリ、大丈夫?」
「わ…わたしは何もしてないもの、もちろん大丈夫よ。それよりも精霊喰らい達はどこへ消えたの?」
ツェリシアが魔法陣があった所を凝視しながら言う。
魔法陣は既に消えている。
「精霊喰らいも元は精霊だからな、あちらでなんとかして貰おうと思って魔法陣を使って運んだんだ、というより魔法陣に垂らした精霊の涙目掛けて自分から飛び込んで貰ったって感じかな」
涙!?精霊の涙!?
さっき陣の中央に垂らしていたのは精霊の涙だったのか。
一体どこでそんな物を手に入れたんだ。
しかしそれよりも気になったのは……
「あちらってどちら?」
「精霊界だよ。精霊達の故郷、精霊界」
「精霊界!?そ、そ、そんな大それた所に勝手に送りつけて大丈夫なのっ!?」
「問題ない。精霊王とは最初から話がついてる」
『今、何気に凄いお方の名が出たような……』
ツェリシア達が住むこの世界とは違うフェーズにあるという精霊界。
この世界の創造の神と精霊王との盟約で、
最初に地・水・火・風とそれらに繋がる属性の精霊、数体を譲り受けた、らしい。
それがこの世界の精霊達の祖だという。
「精霊魔術師って凄いんだなぁ……っ!」
ブルサスが大いに感心して言った。
そして、
「ん?ひょっとして俺は必要なかったのでは?」
とまたまた首を傾げながらアルトに言った。
アルトはしれっとして答える。
「まあな」
「なんだよぉっ!最初から言ってくれよ!俺の至宝の筋肉達の出番は無しかよぉっ!!」
「知らん。文句なら魔塔主に言ってくれ」
「じゃあせめて今、俺の素晴らしい筋肉美を見てくれっ!!」
「断る」
「コ゛ルベール゛ぅぅ~~っ!!」
とうとうブルサスの泣きが入った。
しかしそれで引き下がる彼ではない。
「いや!見ろっ!貴様は見るべきだっ!!」
と言い、鎧も服も脱ぎ捨てて勝手に一人マッスルショーを始めた。
「ふんっ!はっ!どうだっ!!」
「………」
ぱちぱちぱち
アルトは半目になりながら渇いた拍手を贈っていた。
「ふふ」
そんな二人を尻目に、ツェリシアは厄災の噴出口を見遣った。
感じる。
微かな気の流れが。
昏く、重く、熱く、冷たい何かを感じる。
これが“負”の魔力か。
確かに万物においてマイナスの影響しか齎さない、そんな気配だった。
これはツェリシアが感じているのではない。
ツェリシアの中の[奈落]が感じているのだ。
ここに、今すぐ自分の中にソレを入れろとツェリシアに囁いてくる。
『奈落よ、お前はそんなにこの負のエネルギーを渇望するのか』
どうせこの肉体と共に屠られるというのに。
それとも奈落にとって、それは瑣末な事なのだろうか。
術式により奈落を体内に埋められて10年。
もはや自分の一部になったかの様な気がするのが滑稽だ。
『もうすぐよ、もうすぐお前の中をこれで満たしてあげるわ。だからそれまで、もうしばらく静かにお休み』
ツェリシアは内なる存在に囁いた。
そう、もうすぐ。
もうすぐ自分は死ぬのだ。
ツェリシアはちらりとアルトを見た。
その時、アルトは泣くだろうか。
どうか最後の瞬間まで、ツェリシアの運命をアルトに悟られなければいい。
ツェリシアは心からそう願った。
その時は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アレ?
ツェリのポニーテールも意味がなかったのでは……?
やはり無理であった。
「……ほらツェリ、頭をフラフラさせないで。ブラシを入れにくいだろ」
「…………………どうして覚醒魔法が発動しなかったのかしら」
「覚醒魔法なら発動してたよ?」
「え゛」
「それはもう、けたたましく」
「え゛」
「おそらく魔塔中に響き渡るくらい」
「え゛」
「それでも起きない事に逆に天晴れだと思ったよ」
「え゛ーー……」
ツェリシアは結局、自ら掛けた覚醒魔法で目覚める事が出来ず、アルトに起こして貰う羽目になった。
そして今、そのアルトに髪を梳いて貰っている状態だ。
いつもはただ下ろしているだけの髪だが今日は結った方がいいと、アルトが言ったのだ。
そういえば幼い時もよくこうやって髪にブラシを入れて貰った。
「自分が情けない……」
ツェリシアが珍しくしょげると、アルトはポツリと呟いた。
「今だけだよ」
「え?なんて言ったの?」
アルトが何か言ったのは聞こえたのだが、何を言ったのかまでは分からなかった。
「いや、よく眠れるというのはいい事だよ。俺の師匠なんて酷い不眠症でさ、自分が寝ないからってよく朝までボードゲームやカードゲームに付き合わされたんだから」
「わぉ大迷惑」
「ホントだよ。そしてゲームに負けると拗ねるんだ」
「子どもか」
「ははは。それにしてもツェリの髪は相変わらず細くて柔らかくてフワフワだな」
「昔より猫っ毛が増してるかも。色も地味でやんなっちゃう」
「俺は昔からツェリの黒髪が好きだけどね、ターコイズブルーの瞳も、よく見ないと気付かない目元のホクロも全部好きだ」
すぐ後ろから聞こえる低くて優しい声にツェリシアは思わず目を閉じて聞き入ってしまう。
「……アルトは昔から息をするようにわたしの事を褒めてくれるわよね」
「だって本心だからね。ホラ出来た」
アルトはツェリシアの髪をポニーテールに結い上げてくれた。
◇◇◇◇◇
今回(?)の噴出口は人里離れた山の奥、切り立った崖の真下に突如出現した。
今から3年前の事だ。
岩と岩の隙間、ひび割れたような裂け目から既に少しずつ“負”の魔力が漏れ出している。
噴出口の出現場所に規則性はない。
どの時代も思いも寄らない場所に突然現れる。
前代は街中のとある商家の庭先であったという。
前々代は湖の中。
第一“負”の魔力がどこに溜まるのか、それさえも分からないのだ。
地下なのか地表のどこかなのか、何かの因果なのか要因は無いのか必然なのか偶然なのか、全て解明されていない。
わかっているのは魔鉱石から発生しているという事だけ。
あまりにも未知であまりにも不確かなもの。
それが厄災の原因となる“負”の魔力だった。
魔塔主バイヤージが強力な結界魔法で塞いでいるが、厄災を引き起こすほどの魔力が噴出するのはそう遠い未来ではないだろう。
バイヤージほどの魔術師が張った結界でさえ、“負”の魔力を完全に抑えきる事は不可能なのだ。
その少しずつ漏れ出した魔力の影響により、
この付近にいる精霊達に異変が起きた。
“負”の魔力に当てられた精霊が突然変異を起こし、仲間の精霊を喰らい出したのだ。
その現象は厄災の前触れとしては必ず起きると言っていい現象だそうで、今回もやはり精霊喰らいが発生した。
精霊は純粋で、他の影響を受け易いのだという。
精霊喰らいも元は地・水・火・風、普通の精霊だったのだ。
それが身の内と外から異変を来たし、精霊自身を別の生きものに創り変えられてしまう。
そして好戦的で凶暴な性質となり、同属の精霊を喰らい出した。
精霊喰らいとて厄災の被害者であった。
噴出口に近付くほどに、精霊喰らいの姿を多く見かけるようになる。
いや、精霊喰らいの姿しか見えない。
もはやこの周辺の普通の精霊は喰らい尽くされたか、精霊が全て変異してしまったかのどちらかだろう。
初めて精霊喰らいを見たであろう、アルトは眉間に皺を寄せて彼らを注視していた。
「……これはもう人の手では救えないな」
出来る事なら元の姿に戻してやりたかった……
そう呟くアルトにサポートとして同行したブルサスが聞いた。
「どうする?とりあえず目につく奴を片っ端から退治していくか?」
ツェリシアも続けて問う。
「精霊戦をするの?」
精霊戦とは文字通り精霊を使役して戦闘を行う事だ。
そういえばアルトの使役精霊は何だろう。
それに対し、アルトは少し考えてからこう答えた。
「いや、アイツらにわざわざ飯を与える必要はない。消し去るのは簡単だがそんな事はせず、送りつけて向こうでなんとかして貰おうと思う」
『送りつける?向こう?』
ツェリシアは首を傾げた。
向かいに立つブルサスの首も斜めに傾いでいる。
そんな二人を他所に、アルトは地面に魔法陣を出現させた。
直径5メートルはあろうか。
そこそこ大きな魔法陣だ。
一応魔術師であるツェリシアも初めて見る紋様や古代文字が刻まれていた。
アルトはローブの内ポケットから小さな小瓶を取り出し、その陣の中心に数滴垂らした。
何が始まるのだろう…そう思った瞬間、
この辺り一帯に居たであろう無数の精霊喰らいが一斉に飛び出して来た。
「「!?」」
ツェリシアとブルサスが目を見開いて上空を見上げる。
大量の精霊喰らい達が我先にと魔法陣目掛けて向かって来たのだ。
そしてまるで自ら好んで陣の中へと突っ込むように飛び込んで来る。
しかし陣の中へ突っ込んだ精霊喰らい達は布陣した地面に激突する事なく、吸い込まれるかのように消えて行く。
『蒸発した?……違う、どこかへ連れて行かれている?』
ツェリシアはその光景をまじまじと見て、そう推察した。
アルトは表情を変えずにそれらを見つめていた。
どのくらい時間が経過したのだろう。
おそらく半時ほどか、最後の一体が吸い込まれるのを視認した後、急に静かになった。
夥しい数の精霊喰らい達は全て魔法陣の中へと消え去ったようだ。
只々呆然として事の一部始終を見ていたツェリシアとブルサス。
アルトが気遣わしそうにツェリシアを見た。
「ツェリ、大丈夫?」
「わ…わたしは何もしてないもの、もちろん大丈夫よ。それよりも精霊喰らい達はどこへ消えたの?」
ツェリシアが魔法陣があった所を凝視しながら言う。
魔法陣は既に消えている。
「精霊喰らいも元は精霊だからな、あちらでなんとかして貰おうと思って魔法陣を使って運んだんだ、というより魔法陣に垂らした精霊の涙目掛けて自分から飛び込んで貰ったって感じかな」
涙!?精霊の涙!?
さっき陣の中央に垂らしていたのは精霊の涙だったのか。
一体どこでそんな物を手に入れたんだ。
しかしそれよりも気になったのは……
「あちらってどちら?」
「精霊界だよ。精霊達の故郷、精霊界」
「精霊界!?そ、そ、そんな大それた所に勝手に送りつけて大丈夫なのっ!?」
「問題ない。精霊王とは最初から話がついてる」
『今、何気に凄いお方の名が出たような……』
ツェリシア達が住むこの世界とは違うフェーズにあるという精霊界。
この世界の創造の神と精霊王との盟約で、
最初に地・水・火・風とそれらに繋がる属性の精霊、数体を譲り受けた、らしい。
それがこの世界の精霊達の祖だという。
「精霊魔術師って凄いんだなぁ……っ!」
ブルサスが大いに感心して言った。
そして、
「ん?ひょっとして俺は必要なかったのでは?」
とまたまた首を傾げながらアルトに言った。
アルトはしれっとして答える。
「まあな」
「なんだよぉっ!最初から言ってくれよ!俺の至宝の筋肉達の出番は無しかよぉっ!!」
「知らん。文句なら魔塔主に言ってくれ」
「じゃあせめて今、俺の素晴らしい筋肉美を見てくれっ!!」
「断る」
「コ゛ルベール゛ぅぅ~~っ!!」
とうとうブルサスの泣きが入った。
しかしそれで引き下がる彼ではない。
「いや!見ろっ!貴様は見るべきだっ!!」
と言い、鎧も服も脱ぎ捨てて勝手に一人マッスルショーを始めた。
「ふんっ!はっ!どうだっ!!」
「………」
ぱちぱちぱち
アルトは半目になりながら渇いた拍手を贈っていた。
「ふふ」
そんな二人を尻目に、ツェリシアは厄災の噴出口を見遣った。
感じる。
微かな気の流れが。
昏く、重く、熱く、冷たい何かを感じる。
これが“負”の魔力か。
確かに万物においてマイナスの影響しか齎さない、そんな気配だった。
これはツェリシアが感じているのではない。
ツェリシアの中の[奈落]が感じているのだ。
ここに、今すぐ自分の中にソレを入れろとツェリシアに囁いてくる。
『奈落よ、お前はそんなにこの負のエネルギーを渇望するのか』
どうせこの肉体と共に屠られるというのに。
それとも奈落にとって、それは瑣末な事なのだろうか。
術式により奈落を体内に埋められて10年。
もはや自分の一部になったかの様な気がするのが滑稽だ。
『もうすぐよ、もうすぐお前の中をこれで満たしてあげるわ。だからそれまで、もうしばらく静かにお休み』
ツェリシアは内なる存在に囁いた。
そう、もうすぐ。
もうすぐ自分は死ぬのだ。
ツェリシアはちらりとアルトを見た。
その時、アルトは泣くだろうか。
どうか最後の瞬間まで、ツェリシアの運命をアルトに悟られなければいい。
ツェリシアは心からそう願った。
その時は。
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アレ?
ツェリのポニーテールも意味がなかったのでは……?
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