この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう

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王宮騎士の彼と文官のわたし

「先輩、騎士団の事務方に書類を届けるの、ワタシに任せてください!」

今年から王宮に勤め出した新人女性文官がわたしに告げて来た。

それを聞き、口を開いたのはわたし、リゼカ=リューズではなく同期であり友人のジェナ(20)だった。


「アンタ、他の省に持って行くのは嫌がるくせに騎士団の詰め所となると途端に張り切るんだから」

ジェナがそう言うと、後輩はあけすけに答える。

「だってぇ~、騎士ってみんなカッコいいじゃないですか~。逞しくて長身でわりとお給金もイイ。ワタシ、未来の旦那サマを見つけたいんです~」

「まぁ気持ちはわからなくはナイわね。私達のような平民文官は自分で出会いを見つけなくちゃ婚期なんてあっという間に逃しちゃうもんね~」

頷きながらそう言うジェナを尻目に、後輩はわたしをジト目で見つめてくる。

「その点リゼカ先輩はいいですよね。恋人が王宮騎士団の騎士サマなんですも~ん。どうやったら騎士を恋人に出来るんですか~?秘訣を教えて下さ~い!」

「秘訣も何も……ただの偶然だったから。もうホラ、書類を届けるの任せるから、さっさと詰め所に持って行って」

勤務中だし、彼との馴れ初めを根掘り葉掘り聞かれても困るので、わたしは後輩に書類を手渡した。

「やったぁ!では言って来ま~す!」

上機嫌で部屋を出て行く後輩を見遣りながら、ジェナがため息を吐く。

「……十八か……若いわねぇ、いいわよねぇ~」


なんとも年寄りじみた言い方をする同期。
同い年としてはいささか黙っていられず意見させて頂く。

「何言ってんの。わたし達と二つしか変わらないだけじゃない」

「そう……いつの間にか勤め出して二年よ、二年!近頃同期がこぞって寿退職していく光景ばかり目にしているのよ……なのに婚約者はおろか恋人すら居ない私はどうすればいいの……?さっきの後輩じゃないけどさ、どうやったら素敵な恋人と出会えるのか教えて!ねぇ教えてよリゼカ先生っ!」

ジェナはそう言ってわたしの両肩を掴み、ガックンガックン揺さぶった。

「ちょっ……やめっ、ジェナ~~」

為すすべもなく揺さぶられ続けるわたしの後ろから、咳払いが聞こえた。

「オホンっ」

わたしが所属する総務省の先輩文官のヘレン女史がこちらを睨め付けている。

「すみませんっ」「仕事に戻ります!」

それを見て、わたしとジェナは慌てて自分のデスクに戻ったのだった。


でも助かった。

騎士との出会いとか恋人の見つけ方とかそんな事聞かれても本当に困るのだ。


一応まだ恋人であるレオン=カーティス(22)との出会いは本当にただの偶然だったのだから。

文官として王宮に勤め出した頃、段差を踏み外して転んだ拍子に派手に書類をぶち撒けたわたしを助けてくれたのがレオンだった。

彼は書類を拾い集めるのを手伝ってくれ、尚且つ膝を擦りむいたわたしをわざわざ医務室まで連れて行ってくれたのだ。

その親切で騎士道精神溢れる誠実な人柄に、ハートを鷲掴みにされた当時十八歳のわたし……。

今思えば若さって怖い。

年上の、しかも王宮騎士を務める男性に猛アプローチをして告白までしたんだから……。

当然やんわりとお断りの言葉を述べられたけど。

でもやっぱり彼の事が大好きで諦められなくて。
もう必死にアタックし続けた。

そして半年後くらいだったか、とうとうレオンが根負けした。

そう。もう何度目かわからない告白をした時に、「負けたよ。俺でよければ」と言ってOKしてくれたのだ。

わたしは信じられなくて、でも本当に嬉しくて。
思わず泣いてしまった。

そしてその時初めて見せてくれたレオンの、どこか砕けた優しい眼差しが今でも忘れられない。


それから一年半、彼との交際は今も続いているのだけれど……。


思えばその時に感じ取る事は出来なかったのだろうか。


わたしは心の機微に聡いわけではないけど、疎いわけでもないと思う。

きっとその時はレオンに恋するあまり、盲目になり過ぎていたんだろう。


だって落ち着いてよく見てみればすぐに分かったのに。

彼には無意識に目で追っている女性がいる事に。

昔も今も変わらずその女性を想い続けている事に。

たとえその女性が先輩の恋人であったとしても、

レオンの心からその女性が居なくなる事は決してない事に。


今こうやって悶々鬱々と過ごすくらいなら、
気付いた時に諦めるという選択をとれば良かったのだ。


でも当時も、そして今もわたしはレオンの事が大好きで、側に居られるならそれでもいいと思ってしまったから。

そうやって彼の側に居続けて、いつか少しでも同じ想いになってくれればそれでいい。

そう思っていたから………。


まさか彼女が恋人と別れるなんてその時は想像もしなかった。


つい先日、その事を知ってしまったわたし。


そして運命のイタズラか、
レオンが所属する哨戒班に王宮魔術師である彼女が配属されて来た事もまた、知ってしまったのだった。










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