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物理的距離
わたしはレオンとの関係を終わらせる準備を始めた。
準備というよりは練習?
少しずつ彼から離れて、彼の居ない時間に慣れてゆく為の練習。
まずは王宮ではなるべく顔を合わせないように注意した。
何も知らずに猛アプローチしていた時や、
何も知らずにキャッキャウフウフと交際していた時は少しでもレオンに会いたくて、
彼が居そうな場所をわざとウロウロしたりしていた。
だから大体のレオンの行動パターンはわかっている。
それを活かせば面白いくらいに顔を合わせる事がなくなるのだ。
ーー物理的に距離を置くのってこんなにも簡単……
だけど、心の距離はちっとも簡単じゃない。
レオンが恋しくて。
会いたくて。
日に日に胸が苦しくなる。
きっとそれも練習を重ねれば少しはマシになる筈。
でもやっぱり寂しくて苦しくて、次に会う約束の日には思いっきりレオン浴をさせて貰おう。
別れを告げるその瞬間までは恋人同士なのだから、そのくらいは許して欲しい。
「プリンメンタルのわたしの救済を希望する」
わたしはそう、ひとり言た。
「この頃、王宮で少しも会わないな?」
約束していたレオンの非番の日、一週間ぶりに会った彼がそう言った。
わたしは王宮文官の独身寮暮らしなので、会うのはいつも彼の部屋だ。
レオンのアパートへ来る前に買った食材をキッチンのテーブルに置きながら、
「そう?……たまたまじゃない?」と返事をする。
まさかレオンがそんな事を気にするとは思っていなかったので少しドキリとした。
「前までは一日に何回もリゼカに遭遇していたのに、近頃は全然だ」
そりゃそうでしょ、わたしが足繁くレオンの視界に入るように行動していたんだから。
「……仕事、大変なのか?」
レオンが気遣うようにわたしに言う。
その表情は本当に心配してくれている顔だ。
もう、優しいんだから。
………好き。
「まぁ少しだけね。後輩の指導を頼まれて、その関係かな」
これは嘘ではない。
騎士の恋人になりたい後輩の指導を上官から仰せつかっているから。
「レオンも哨戒が増えて、王宮の外に出る事が増えたから会わなくなったんじゃない?ランチも外で摂る事が多いんでしょう?」
同じ哨戒班の人たちと、サーラさんと。
ミルクの瓶を袋から取り出しながら何気なくそう言うと、レオンがそのミルク瓶を受け取りざまに言った。
「哨戒の時間が昼に被らない時は、一緒に食べないか?」
「え?どうして?」
「どうしてってお前……この頃会う回数が減ってるだろ?だから……ちゃんと時間と場所を決めた方がいいのかと思ったんだ」
もう……この人は本当に誠実な人だなぁ。
きっとわたしが恋人で居続ける限り、こうやって大切にしようとしてくれる。
歩み寄る努力をしてくれる。
だから尚更、それにばかり甘えていてはいけない。
「ふふ、嬉しい。でもその後輩とパワーランチする事が多いから今は無理かな。もう少しして落ち着いたら、一緒に食べよう」
……その頃には別れているかもしれないけど。
「わかった。じゃあ落ち着いたら教えてくれ。俺も哨戒のシフト表を確認するよ。それで曜日を決めよう」
「うん」
わたしが笑顔でそう答えると、ふいに今ではすっかり馴染んだ香りに包まれた。
レオンがわたしを抱き寄せる。
わたしの体をすっぽり包み込むレオンの腕の中は無条件に安心出来る、大切な居場所だった。
早くに両親を流行り病で亡くし、育ててくれた祖父も数年前に他界した。
それ以来、寄る辺なく生きるわたしに出来た心休まる居場所。
それを知っているレオンだから、
会えば必ずこうやってわたしの事を抱きしめてくれる。
レオンは優しい。
ちゃんとわたしの事も大切にしてくれるから。
でもね、知ってるんだ。
恋人と別れてから、サーラさんが弟とジョージと一緒にこのアパートに何度か来ている事を。
(もちろんジョージが頼んでもいないのに報告してくる)
三人で一緒に食事をして、昔みたいに楽しいひと時を過ごしてるって聞いたわ。
ごめんね。
でももう少し、もう少しだけ、この腕の中に居させて欲しい。
練習は順調に進んでいるから。
もうすぐ、もうすぐ。
わたしはそう思いながら、レオンの厚い胸板に顔を埋めた。
準備というよりは練習?
少しずつ彼から離れて、彼の居ない時間に慣れてゆく為の練習。
まずは王宮ではなるべく顔を合わせないように注意した。
何も知らずに猛アプローチしていた時や、
何も知らずにキャッキャウフウフと交際していた時は少しでもレオンに会いたくて、
彼が居そうな場所をわざとウロウロしたりしていた。
だから大体のレオンの行動パターンはわかっている。
それを活かせば面白いくらいに顔を合わせる事がなくなるのだ。
ーー物理的に距離を置くのってこんなにも簡単……
だけど、心の距離はちっとも簡単じゃない。
レオンが恋しくて。
会いたくて。
日に日に胸が苦しくなる。
きっとそれも練習を重ねれば少しはマシになる筈。
でもやっぱり寂しくて苦しくて、次に会う約束の日には思いっきりレオン浴をさせて貰おう。
別れを告げるその瞬間までは恋人同士なのだから、そのくらいは許して欲しい。
「プリンメンタルのわたしの救済を希望する」
わたしはそう、ひとり言た。
「この頃、王宮で少しも会わないな?」
約束していたレオンの非番の日、一週間ぶりに会った彼がそう言った。
わたしは王宮文官の独身寮暮らしなので、会うのはいつも彼の部屋だ。
レオンのアパートへ来る前に買った食材をキッチンのテーブルに置きながら、
「そう?……たまたまじゃない?」と返事をする。
まさかレオンがそんな事を気にするとは思っていなかったので少しドキリとした。
「前までは一日に何回もリゼカに遭遇していたのに、近頃は全然だ」
そりゃそうでしょ、わたしが足繁くレオンの視界に入るように行動していたんだから。
「……仕事、大変なのか?」
レオンが気遣うようにわたしに言う。
その表情は本当に心配してくれている顔だ。
もう、優しいんだから。
………好き。
「まぁ少しだけね。後輩の指導を頼まれて、その関係かな」
これは嘘ではない。
騎士の恋人になりたい後輩の指導を上官から仰せつかっているから。
「レオンも哨戒が増えて、王宮の外に出る事が増えたから会わなくなったんじゃない?ランチも外で摂る事が多いんでしょう?」
同じ哨戒班の人たちと、サーラさんと。
ミルクの瓶を袋から取り出しながら何気なくそう言うと、レオンがそのミルク瓶を受け取りざまに言った。
「哨戒の時間が昼に被らない時は、一緒に食べないか?」
「え?どうして?」
「どうしてってお前……この頃会う回数が減ってるだろ?だから……ちゃんと時間と場所を決めた方がいいのかと思ったんだ」
もう……この人は本当に誠実な人だなぁ。
きっとわたしが恋人で居続ける限り、こうやって大切にしようとしてくれる。
歩み寄る努力をしてくれる。
だから尚更、それにばかり甘えていてはいけない。
「ふふ、嬉しい。でもその後輩とパワーランチする事が多いから今は無理かな。もう少しして落ち着いたら、一緒に食べよう」
……その頃には別れているかもしれないけど。
「わかった。じゃあ落ち着いたら教えてくれ。俺も哨戒のシフト表を確認するよ。それで曜日を決めよう」
「うん」
わたしが笑顔でそう答えると、ふいに今ではすっかり馴染んだ香りに包まれた。
レオンがわたしを抱き寄せる。
わたしの体をすっぽり包み込むレオンの腕の中は無条件に安心出来る、大切な居場所だった。
早くに両親を流行り病で亡くし、育ててくれた祖父も数年前に他界した。
それ以来、寄る辺なく生きるわたしに出来た心休まる居場所。
それを知っているレオンだから、
会えば必ずこうやってわたしの事を抱きしめてくれる。
レオンは優しい。
ちゃんとわたしの事も大切にしてくれるから。
でもね、知ってるんだ。
恋人と別れてから、サーラさんが弟とジョージと一緒にこのアパートに何度か来ている事を。
(もちろんジョージが頼んでもいないのに報告してくる)
三人で一緒に食事をして、昔みたいに楽しいひと時を過ごしてるって聞いたわ。
ごめんね。
でももう少し、もう少しだけ、この腕の中に居させて欲しい。
練習は順調に進んでいるから。
もうすぐ、もうすぐ。
わたしはそう思いながら、レオンの厚い胸板に顔を埋めた。
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