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この悪役令嬢顔のせいでっ……!
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「わ、私が王女殿下を睨みつけていたっ……?」
クラスメイトであり友人であるエレナから告げられた言葉にキャスリンは驚愕の表情を浮かべた。
「ええ……マルティナ王女殿下と取り巻きの令嬢令息たちがキャスリンの彼氏にそう訴えているのを聞いたの」
「え?そ、そんなっ、睨んだ事なんて一度もないわっ……というかお話した事もないのにっ……」
「そうよね、私ら平民はたとえ同じ学校に通う生徒同士だとしても、会話はおろか近づく事すら無いわよね。あなたの彼氏は別だけど」
「うっ……だって、ル、ルーターはお世話役に指名されてるからっ……」
付き合いはじめて早々に半年間の留学に行っていたルーター=ヒギンズが美少女を伴って戻って来たのが三日前。
その間その美少女を遠巻きに眺める事はあっても一度も接した事のない相手を睨んでいたと聞かされて、キャスリンは驚くばかりである。
あの日、魔法学校に戻ってきたルーターがエスコートしていた美少女はマルティナという名のクルシオ王国第七王女であった。
ルーターと同じく特待生として東和学園に留学していたが、ルーターを通してハイラント魔法学校に興味を持ったらしく、そのままスライドで臨時留学してきたらしいのだ。
同じ留学生として友人となったルーターが側にいれば馴れない異国の地でも安心だと言って、王女は魔法学校在学中の生徒側の世話役としてルーターを指名した。
いくら魔力が高く聡明で優秀な魔術師の卵だとしても、平民が王族の世話役に抜擢されるのはかなり異例らしい。
従ってそこから早くも、憶測めいたとある噂が流れ出す。
東和に留学中、ルーター=ヒギンズとマルティナ王女殿下は恋仲だったのではないかと。
王女と平民の道ならぬ恋。
少しでも長く共に在れるようにマルティナ王女はハイラントへ来たのだと。
噂の“う”の字が流れ出すや否や当のルーター自身がそれを公然と否定したが、それが返って怪しいと噂は更に加速して学校内に広がっていった。
当然その噂はキャスリンの耳にも届いている。
留学から戻ってすぐに会いに来てくれたルーターの様子を見ればそれが根も葉もない噂だとキャスリンにはわかるのだが……。
「だからヤキモチも焼かずに大人しくしているのにどうして私が睨んだとかそういう話になるのっ?やっぱりこの顔っ?この悪役顔がダメなのっ?わーーんっ」
キャスリンは顔を押さえてエレナの胸に飛び込んだ。
「落ち着きなさいキャスリン。確かに貴女の顔は目ヂカラが強くて印象的よ?でもだからといって悪役顔だなんて……」
エレナがキャスリンの頭を撫でながらそう言うと、目に涙を浮かたキャスリンが訴えた。
「だって昔からクラスメイトに平民なのに悪役令嬢顔だって言われ続けてきたんだもの……っ」
「あらまぁなんて酷いことを言う奴らなのかしら。そいつらを国籍ごと抹消してやりたいわ」
「エレナ、やざじい……っ」
キャスリンは魔法学校に入学して初めて出来たこのエレナという友人が大好きであった。
懐深くて情に篤い。平民だというがかなり育ちが良いお嬢様なのは、一緒に居てなんとなく感じられるミステリアスな友人だ。
ルーターがいない半年間もエレナともう一人、彼女の婚約者であるシヴァル(♂)が居てくれたからなんとか乗り切れた。
二人ともキャスリンと同じクラスでもある。
「うっ…うっ…それで、ルーターは王女様たちになんて答えていたの……?」
キャスリンはハンカチで涙を拭きながら訊ねた。
「キャスリン=メイトは訳もなく人を睨みつけるような生徒ではない。少々目ヂカラがあるだけなのだから誤解しないでやってほしいと言っていたわ」
「ル゛、ルーダァァ~ッ」
ルーターが庇ってくれたと知り、キャスリンの涙が再び溢れ出す。
「あらあらまぁまぁ。キャスリンはホントに泣き虫さんね。彼氏なんだから彼女を庇うのは当然だと思うけど。でもね、取り巻き連中は納得していない様子だったから気を付けた方がいいわ」
「グスッ……気をつけるって……?」
「また睨んでいたとか王女に不敬を働いたとか因縁を付けられないようによ。どうやらあなた、あの王女に目をつけられたらしいから」
「と、どうして私がっ……?私、何もしてないわっ」
「……そうよねぇ……」
確かにキャスリンは何もしていない。
たがその存在自体が王女は気に入らないのだろう。
マルティナ王女はルーター=ヒギンズに懸想している。
それはきっと東和に留学していた時から。
だからルーターの彼女であるキャスリンの存在が気に入らず邪魔なのだ。
キャスリンの印象を悪くしようと被害者面をして告げ口するのはその為だろう。
エレナは自分の推測は間違いないと考えている。
だけどメンタルがプリンすぎるこの友人にそれを告げるのは憚られた。
必要以上に怖がって気を遣い、萎縮して終いにはストレスで体調を崩すかもしれない。
マルティナ王女の魔法学校留学期間は半年間。
その間なんとか穏便にやり過ごせないものか。
エレナはそれを考える。
しかしキャスリンは独自の打開策を口にした。
「エレナぁ……私、決めたわっ……これ以上この悪役顔のせいでお世話役のルーターに迷惑が掛からないように、しばらく王女様と一緒にいるルーターには近寄らないようにするっ……うぅ…ホントは辛いけど……」
「近寄らないようにって……それじゃあ半年の間ずっと彼氏の側に行けなくなるって事よ?王女は世話役のルーター=ヒギンズにベッタリなんだから」
「うっ……でもっ半年間だけだしっ……頑張ってお役目を務めてるルーターの足を引っ張りたくないもの……」
「キャスリン……あなたって子は…….」
それを聞き、エレナは若干「プリンメンタルを発動させて逃げを打ったな」と思わなくもなかったが、健気な友人のその気持ちを汲むことにした。
そうやってせっかく戻ってきたルーターとまた泣く泣く物理的距離をとることになったキャスリン。
しかし最初は物理的だったその距離が、
心無い噂や王女側の作為によりどんどんと開いていってしまう事をこの時のキャスリンはまだ知らない。
クラスメイトであり友人であるエレナから告げられた言葉にキャスリンは驚愕の表情を浮かべた。
「ええ……マルティナ王女殿下と取り巻きの令嬢令息たちがキャスリンの彼氏にそう訴えているのを聞いたの」
「え?そ、そんなっ、睨んだ事なんて一度もないわっ……というかお話した事もないのにっ……」
「そうよね、私ら平民はたとえ同じ学校に通う生徒同士だとしても、会話はおろか近づく事すら無いわよね。あなたの彼氏は別だけど」
「うっ……だって、ル、ルーターはお世話役に指名されてるからっ……」
付き合いはじめて早々に半年間の留学に行っていたルーター=ヒギンズが美少女を伴って戻って来たのが三日前。
その間その美少女を遠巻きに眺める事はあっても一度も接した事のない相手を睨んでいたと聞かされて、キャスリンは驚くばかりである。
あの日、魔法学校に戻ってきたルーターがエスコートしていた美少女はマルティナという名のクルシオ王国第七王女であった。
ルーターと同じく特待生として東和学園に留学していたが、ルーターを通してハイラント魔法学校に興味を持ったらしく、そのままスライドで臨時留学してきたらしいのだ。
同じ留学生として友人となったルーターが側にいれば馴れない異国の地でも安心だと言って、王女は魔法学校在学中の生徒側の世話役としてルーターを指名した。
いくら魔力が高く聡明で優秀な魔術師の卵だとしても、平民が王族の世話役に抜擢されるのはかなり異例らしい。
従ってそこから早くも、憶測めいたとある噂が流れ出す。
東和に留学中、ルーター=ヒギンズとマルティナ王女殿下は恋仲だったのではないかと。
王女と平民の道ならぬ恋。
少しでも長く共に在れるようにマルティナ王女はハイラントへ来たのだと。
噂の“う”の字が流れ出すや否や当のルーター自身がそれを公然と否定したが、それが返って怪しいと噂は更に加速して学校内に広がっていった。
当然その噂はキャスリンの耳にも届いている。
留学から戻ってすぐに会いに来てくれたルーターの様子を見ればそれが根も葉もない噂だとキャスリンにはわかるのだが……。
「だからヤキモチも焼かずに大人しくしているのにどうして私が睨んだとかそういう話になるのっ?やっぱりこの顔っ?この悪役顔がダメなのっ?わーーんっ」
キャスリンは顔を押さえてエレナの胸に飛び込んだ。
「落ち着きなさいキャスリン。確かに貴女の顔は目ヂカラが強くて印象的よ?でもだからといって悪役顔だなんて……」
エレナがキャスリンの頭を撫でながらそう言うと、目に涙を浮かたキャスリンが訴えた。
「だって昔からクラスメイトに平民なのに悪役令嬢顔だって言われ続けてきたんだもの……っ」
「あらまぁなんて酷いことを言う奴らなのかしら。そいつらを国籍ごと抹消してやりたいわ」
「エレナ、やざじい……っ」
キャスリンは魔法学校に入学して初めて出来たこのエレナという友人が大好きであった。
懐深くて情に篤い。平民だというがかなり育ちが良いお嬢様なのは、一緒に居てなんとなく感じられるミステリアスな友人だ。
ルーターがいない半年間もエレナともう一人、彼女の婚約者であるシヴァル(♂)が居てくれたからなんとか乗り切れた。
二人ともキャスリンと同じクラスでもある。
「うっ…うっ…それで、ルーターは王女様たちになんて答えていたの……?」
キャスリンはハンカチで涙を拭きながら訊ねた。
「キャスリン=メイトは訳もなく人を睨みつけるような生徒ではない。少々目ヂカラがあるだけなのだから誤解しないでやってほしいと言っていたわ」
「ル゛、ルーダァァ~ッ」
ルーターが庇ってくれたと知り、キャスリンの涙が再び溢れ出す。
「あらあらまぁまぁ。キャスリンはホントに泣き虫さんね。彼氏なんだから彼女を庇うのは当然だと思うけど。でもね、取り巻き連中は納得していない様子だったから気を付けた方がいいわ」
「グスッ……気をつけるって……?」
「また睨んでいたとか王女に不敬を働いたとか因縁を付けられないようによ。どうやらあなた、あの王女に目をつけられたらしいから」
「と、どうして私がっ……?私、何もしてないわっ」
「……そうよねぇ……」
確かにキャスリンは何もしていない。
たがその存在自体が王女は気に入らないのだろう。
マルティナ王女はルーター=ヒギンズに懸想している。
それはきっと東和に留学していた時から。
だからルーターの彼女であるキャスリンの存在が気に入らず邪魔なのだ。
キャスリンの印象を悪くしようと被害者面をして告げ口するのはその為だろう。
エレナは自分の推測は間違いないと考えている。
だけどメンタルがプリンすぎるこの友人にそれを告げるのは憚られた。
必要以上に怖がって気を遣い、萎縮して終いにはストレスで体調を崩すかもしれない。
マルティナ王女の魔法学校留学期間は半年間。
その間なんとか穏便にやり過ごせないものか。
エレナはそれを考える。
しかしキャスリンは独自の打開策を口にした。
「エレナぁ……私、決めたわっ……これ以上この悪役顔のせいでお世話役のルーターに迷惑が掛からないように、しばらく王女様と一緒にいるルーターには近寄らないようにするっ……うぅ…ホントは辛いけど……」
「近寄らないようにって……それじゃあ半年の間ずっと彼氏の側に行けなくなるって事よ?王女は世話役のルーター=ヒギンズにベッタリなんだから」
「うっ……でもっ半年間だけだしっ……頑張ってお役目を務めてるルーターの足を引っ張りたくないもの……」
「キャスリン……あなたって子は…….」
それを聞き、エレナは若干「プリンメンタルを発動させて逃げを打ったな」と思わなくもなかったが、健気な友人のその気持ちを汲むことにした。
そうやってせっかく戻ってきたルーターとまた泣く泣く物理的距離をとることになったキャスリン。
しかし最初は物理的だったその距離が、
心無い噂や王女側の作為によりどんどんと開いていってしまう事をこの時のキャスリンはまだ知らない。
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