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エレナとシヴァル
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夜も更けきった男子寮の一室のテラスで
月明かりが二人の生徒の影を色濃く落としていた。
「お、やはり居たか」
「……待ち伏せするような形となり申し訳ございません。日中はなかなか時間が取れず」
「あの可愛らしい王女のお守役だもんな。羨ましいな~」
「思っても無い事を態とらしく仰らないでください。それに誰の指示で……」
「すまん、すまん。で?ここに来たという事は、俺のものになる覚悟が出来たという事だな?」
「誤解を招くような言い方はやめていただけますか。ですが、ええはい。あの話をお受けさせて頂きます」
「ふ、交換条件は何かあった時の後ろ盾か?」
「それと彼女の保護を」
「あの子のことは言われなくても守るつもりさ、我が婚約者のお気に入りだからな。まぁお前はとりあえず、そのまま側に張り付いて見張っていてくれ。本当の狙いは間違いなく……」
「で、しょうね」
「大切なものを守りたい、それが俺とお前の共通の行動理念だ。しばらく不自由をかけるが、よろしく頼む」
「承知しております。その代わり殿下、彼女の事をよろしくお願いいたします」
「心得ている、と言いたいところだが、あの子は突拍子もない行動をするからなぁ……」
「………」
十七夜の月に棚引く雲がかかる。
二つの影はそのまま無言のうちに別々の方向へと流れて行った。
───────────────────────
「ルーターが足りない……圧倒的ルーター不足だわ……」
魔法植物の授業中、マドンラゴラに魔法薬をかけながらキャスリンがため息と共につぶやいた。
「そう感じているのなら、素直に会いに行けばいいのに」
クラスメイトであり友人のエレナがマンドラゴラの鉢を清めながらそう言った。
「でも……顔を合わせてしまったら交際はなかった事にって言われるかもしれないのよっ?」
「言われないと思うのだけれど……」
「はぁ……私の事はもういいの。それよりシヴァルはどうしたの?昨日帰寮したんでしょう?」
キャスリンはエレナの婚約者であるシヴァルの話題を振る。
「話をすり替えたわねこのプリンゃんめ。まぁいいわ。そうよ、ご実家の用向きでしばらくハイラントを離れていたのだけど昨日戻られたの。今日は午後から授業に出るはずよ」
エレナは少しはにかみながら自身の婚約者の事を話した。
エレナもシヴァルも裕福な商家の子息、息女だと聞いている。
キャスリンの実家も商売をやっているがきっと比べ物にならないほど大きな商会に違いない。
二人とも所作や言葉使いがとても洗練されていて、貴族と肩を並べてもなんら遜色ない教育を受けてきた事がわかる。
それをエレナに言ってみたところ、
「まぁそれなりに家庭教師に厳しくはされたわね」と答えが返ってきたのでキャスリンの予想は当たっていたようだ。
そしてエレナが言っていた通り、
午後の授業から参加するためにシヴァルが教室へと入ってきた。
彼はエレナとキャスリンの姿を見つけると嬉しそうな笑顔を浮かべて近づいてきた。
「やぁエレナ。それにキャスリン、十日ぶりだね」
「シヴァル、お家の用事は大丈夫だったの?」
エレナがシヴァルにそう訊ねると、彼はエレナの手をすくい取り、指先にキスを落とした。
クラスのあちらこちらから黄色い悲鳴が聞こえる。
「心配してくれてありがとう。なぁに、大した用事じゃなかったよ」
自身の指にキスをしたシヴァルの顔をジト目で睨めつけながらエレナが言う。
「学校でそういう事はやめてと何度言ったらわかるのかしら。私の婚約者の耳はただの節穴なのかしら?」
「愛しいエレナを前にして指先だけで我慢している努力を認めて欲しいなぁ」
そう言って悪戯っぽく笑うシヴァルを見て、また周囲から黄色い悲鳴が上がった。
「きゃーー♡」
「キャスリン、どうしてあなたまで黄色い悲鳴をあげているのよ」
「だってだって、二人ともお似合いで本当に素敵なんだものっ!まるで王子さまと王女さまみたいよっ!」
「……ありがとう」
有名歌劇のワンシーンのような光景を見たと感極まってい喜ぶキャスリンに向け、エレナは小さく笑みを浮かべた。
その側でシヴァルが教室の入口に視線を向けて二人に告げる。
「あれ?どうやらタイミングよく本物の王女さまが来たみたいだよ?」
「え?」
「何しに来たのかしら……」
なんと特進クラスであるはずのマルティナ王女が、取り巻きを従えてキャスリンたちの教室へと入ってきたのであった。
そしてもちろん、その中には愛しルーターの姿もあった。
「ル、ルーター……」
月明かりが二人の生徒の影を色濃く落としていた。
「お、やはり居たか」
「……待ち伏せするような形となり申し訳ございません。日中はなかなか時間が取れず」
「あの可愛らしい王女のお守役だもんな。羨ましいな~」
「思っても無い事を態とらしく仰らないでください。それに誰の指示で……」
「すまん、すまん。で?ここに来たという事は、俺のものになる覚悟が出来たという事だな?」
「誤解を招くような言い方はやめていただけますか。ですが、ええはい。あの話をお受けさせて頂きます」
「ふ、交換条件は何かあった時の後ろ盾か?」
「それと彼女の保護を」
「あの子のことは言われなくても守るつもりさ、我が婚約者のお気に入りだからな。まぁお前はとりあえず、そのまま側に張り付いて見張っていてくれ。本当の狙いは間違いなく……」
「で、しょうね」
「大切なものを守りたい、それが俺とお前の共通の行動理念だ。しばらく不自由をかけるが、よろしく頼む」
「承知しております。その代わり殿下、彼女の事をよろしくお願いいたします」
「心得ている、と言いたいところだが、あの子は突拍子もない行動をするからなぁ……」
「………」
十七夜の月に棚引く雲がかかる。
二つの影はそのまま無言のうちに別々の方向へと流れて行った。
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「ルーターが足りない……圧倒的ルーター不足だわ……」
魔法植物の授業中、マドンラゴラに魔法薬をかけながらキャスリンがため息と共につぶやいた。
「そう感じているのなら、素直に会いに行けばいいのに」
クラスメイトであり友人のエレナがマンドラゴラの鉢を清めながらそう言った。
「でも……顔を合わせてしまったら交際はなかった事にって言われるかもしれないのよっ?」
「言われないと思うのだけれど……」
「はぁ……私の事はもういいの。それよりシヴァルはどうしたの?昨日帰寮したんでしょう?」
キャスリンはエレナの婚約者であるシヴァルの話題を振る。
「話をすり替えたわねこのプリンゃんめ。まぁいいわ。そうよ、ご実家の用向きでしばらくハイラントを離れていたのだけど昨日戻られたの。今日は午後から授業に出るはずよ」
エレナは少しはにかみながら自身の婚約者の事を話した。
エレナもシヴァルも裕福な商家の子息、息女だと聞いている。
キャスリンの実家も商売をやっているがきっと比べ物にならないほど大きな商会に違いない。
二人とも所作や言葉使いがとても洗練されていて、貴族と肩を並べてもなんら遜色ない教育を受けてきた事がわかる。
それをエレナに言ってみたところ、
「まぁそれなりに家庭教師に厳しくはされたわね」と答えが返ってきたのでキャスリンの予想は当たっていたようだ。
そしてエレナが言っていた通り、
午後の授業から参加するためにシヴァルが教室へと入ってきた。
彼はエレナとキャスリンの姿を見つけると嬉しそうな笑顔を浮かべて近づいてきた。
「やぁエレナ。それにキャスリン、十日ぶりだね」
「シヴァル、お家の用事は大丈夫だったの?」
エレナがシヴァルにそう訊ねると、彼はエレナの手をすくい取り、指先にキスを落とした。
クラスのあちらこちらから黄色い悲鳴が聞こえる。
「心配してくれてありがとう。なぁに、大した用事じゃなかったよ」
自身の指にキスをしたシヴァルの顔をジト目で睨めつけながらエレナが言う。
「学校でそういう事はやめてと何度言ったらわかるのかしら。私の婚約者の耳はただの節穴なのかしら?」
「愛しいエレナを前にして指先だけで我慢している努力を認めて欲しいなぁ」
そう言って悪戯っぽく笑うシヴァルを見て、また周囲から黄色い悲鳴が上がった。
「きゃーー♡」
「キャスリン、どうしてあなたまで黄色い悲鳴をあげているのよ」
「だってだって、二人ともお似合いで本当に素敵なんだものっ!まるで王子さまと王女さまみたいよっ!」
「……ありがとう」
有名歌劇のワンシーンのような光景を見たと感極まってい喜ぶキャスリンに向け、エレナは小さく笑みを浮かべた。
その側でシヴァルが教室の入口に視線を向けて二人に告げる。
「あれ?どうやらタイミングよく本物の王女さまが来たみたいだよ?」
「え?」
「何しに来たのかしら……」
なんと特進クラスであるはずのマルティナ王女が、取り巻きを従えてキャスリンたちの教室へと入ってきたのであった。
そしてもちろん、その中には愛しルーターの姿もあった。
「ル、ルーター……」
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