彼氏が留学先から女付きで帰ってきた件について

キムラましゅろう

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マルティナ王女、何故か来たる

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「ごきげんよう、普通クラスの皆さま」

マルティナ王女が突如、キャスリンたち普通クラスにやって来た。

マルティナと同じ特進クラスの男子生徒を数名つき従えて。
その中には当然、ルーターの姿もあった。

王女という身分やその類まれなる容姿のため、学校内で最も注目されているといってもよいマルティナの登場にキャスリンのクラスは俄に騒然となる。

それをさして気にする様子もなく、マルティナは一直線にキャスリンたちの元へとやってきた。

いや、正しくはシヴァルの元に、といった方がいいのかもしれない。

マルティナはキャスリンやエレナには目もくれず、シヴァルだけを見据えて話かけてきた。

「お久しぶりね、シヴァル。わたくしの事を覚えてらっしゃるかしら?」

え?シヴァルってマルティナ王女と面識があったの?と、キャスリンは思わず目を丸くして交互に二人を見る。

シヴァルは軽く首を傾げてマルティナに答えた。

「……はて?どこかでお会いしましたか?」

「いやね、忘れてしまったの?アデリオール魔術学園の見学会で同じグループで校内を巡ったではないの。ふふ、あの時は楽しかったわね」

マルティナがそう言うと、シヴァルは急に思い出したかのような素振りを見せた。

「ああ……!そうでしたね!おかしいなぁ、貴女のような可愛らしい方なら一度お会いしたら忘れられないと思うのだが……これは失礼しました。どうかお許しいただきたい」

「仕方ないわね。一度だけ許してさしあげますわ」

マルティナはそう言って手をすっ…とシヴァルの方へと差し出した。
挨拶をご所望らしい。

「……マルティナ王女殿下にご挨拶を申し上げます」

シヴァルはそう言ってマルティナの手をすくい取り、指先に口を近づける形だけの礼を取った。
先程のエレナの指先にキスを落したのを間近で見ていたキャスリンにはわかる。
エレナへしたものとは明らかに違う、かなりおざなりな感じであった。

エレナは表情を変えることなく淡々とした様子でその光景を眺めている。

マルティナは満足したのか花のかんばせを綻ばせ、シヴァルに言った。

「アデリオールで計測された貴方の魔力量は他者より抜きん出ていたというのに、どうして普通クラスなんかにいらっしゃるの?貴方なら特進クラスでトップの成績を、ここにいるルーターと競い合う事が出来るはずだわ。今からでもクラス編成を願い出てはいかがかしら?何ならわたくしから校長にお願いしてもいいのよ?」

その言葉を聞き、キャスリンはぱっと表情を明るくした。

───特進クラスでもトップの成績なんだ!さすがはルーターだわ!

感激しながら思わずルーターに視線を巡らせると彼はただ無表情でそこに立っているだけであった。

シヴァルが肩を竦めながら、

「生憎ですが私には気取らないこのクラスの方が肌に合っているのですよ」

と返事をすると、マルティナはちらりとエレナを見てすぐにシヴァルに視線を戻した。

「もったいないわ。貴方ならもっと高みを目指せるのに……成績も今後の人生も、そして伴侶の選択も、ね?」

可愛らしく小首を傾げてそう言うマルティナを見て、キャスリンは心の中で吐血してしまう。

───かはっ……!な、なんて愛らしい仕草が似合うのっ

見ればマルティナの取り巻きたちや、普通クラスの男子生徒たちもマルティナを見て頬を赤らめている。

これは間違いなくルーターもマルティナに見とれているに違いないと改めて彼を見ると、何故かバッチリと目が合ってしまった。
どういうわけかルーターはキャスリンを見ていたのだ。

───な、なんでっ?私なんて見ちゃダメよルーター、王女殿下を見た後じゃお目汚しになってしまうわっ!

キャスリンはそう心の中で叫んでこそこそとエレナの後ろに隠れた。
キャスリンは平均よりも身長が高めだが、エレナも同じように身長が高い女子なのでなんとか隠れられる……はずだ。
なんだかルーターの視線が痛い気もするが。

キャスリン一人がそうやって脱線している最中、シヴァルは満面の笑みを浮かべてマルティナに言った。

「私は昔から最善最良の選択しかしてきませんでしたよ。そしてそれはこれからも変わらないでしょう」

シヴァルのその言葉を聞き、マルティナは穏やかな笑みを浮かべる。

「……まぁいいわ。きっとすぐに気付くわ。輝かしい人生を送るためには何が必要かを。一度ゆっくりとお茶でも戴きながらお話しましょう」

そう言ってマルティナは来た時と同じように取り巻き達を従えて教室を出て行った。
もちろんルーターも。
だけどルーターは去り際にキャスリンの耳元で告げる。

「話しておきたい事があるんだ。頼むから逃げずに時間をくれ」

「へ?…….えっ!?」

キャスリンは至近距離で囁かれた言葉に動揺を隠しきれない。


王女一向を見送った後で、シヴァルがぽつりとつぶやいた。

「思った通り、あれは相当な女狐だぞ。なにが妖精なものか」

「……王女と面識があったなんて私は聞いていなかったのだけれど?」

エレナが冷ややかな目をシヴァルに向けてそう言うと、彼は途端に慌てた様子になる。

「隠していたわけではないぞっ?わざわざエレナの耳に入れて煩わせる必要もないと思ったからだぞっ?」

「どうだか!ご自国に戻られたのもそれが関係しているのではなくてっ?」

「エレナ、エレナ……いいのか?話し方が素に戻ってるぞっ」

「煩いわね!シヴァルの馬鹿っ!……これでいいのかしら?」

エレナはそう言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。
慌てふためいてエレナの機嫌を取ろうとするシヴァルと顔を背けたままのエレナ。

そんな二人の様子を尻目にキャスリンはルーターに囁かれた耳元を抑えて呆然としていた。

頭の中は大変な大騒ぎになっていたが。


───は、話しておきたい事があるってなんなのっ?それってやっぱり……別れ話なんじゃないの~っ!?





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