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ハイゼル、副司教に告解する
「はあぁぁ……」
大陸国教会の本部に次いで大きく、権威のあるこの地方支部の廊下で、ハイゼルが大きなため息をひとつ吐いた。
すると後ろからふいに声をかけられる。
「おやおや、若い騎士はため息ひとつも力強いですねぇ。肺活量の高さが窺えます。筋肉量も物を言うのでしょうね」
「ふ、副司教様っ……大変失礼致しました!」
声をかけてきた相手が副司教だったために、ハイゼルは慌てて姿勢を正し、胸に手を当て礼を執る。
副司教は柔らかな笑みを浮かべてハイゼルに言った。
「まだランチ休憩中なんですから気にする必要はありませんよ。それにしてもどうしたんです?何か悩み事ですか?私で良ければ話を聞きますが」
「そんな!滅相もございません!私は副司教様に告解を受けていただけるような身分ではありませんからっ……」
司教や副司教に告解、もしくは懺悔や祈祷を受ける事ができるのは王族、もしくは侯爵位以上の高位貴族である。
いくら副司教専属の護衛騎士といえど、平民で一介の新人聖騎士であるハイゼルにそのような事が叶うはずもない。
「私の耳は二つしかありませんし、目も両手も二つずつしかありません。そのために残念ながら全ての人間の声に耳を傾け、手を差し伸べる事はできないのです」
そう言って副司教は自身の大きな手に視線を向けた。
「だから便宜上、制限をかけているだけであって、この手が届く範囲内にいる救える者は等しく救いたいと思っているのですよ。だから気にせず話してみなさい。幾分か気持ちが楽になるかもしれませんよ?」
「副司教様……」
穏やかに微笑む副司教の白い歯に魅入られるように、ハイゼルはぽつりぽつりと思いの丈を吐露し始めた。
永遠の愛を信じて駆け落ちまでした両親が時の流れと共に心変わりをして、罵り合いながら別の人間を選んだこと。
同じような境遇で育ての親の元で共に暮らした幼馴染が居ること。
その幼馴染の真っ平らだった胸が成長と共にブラウスを押し上げていく様を無意識に注目していたこと。
そしてそれが、異性として邪な目を幼馴染に向けていたと気付いた時にショックを受けたこと。
それらから目を背けたくて、ちょうど志していた聖騎士予科練学校への入学が決まり、逃げるようにその幼馴染と距離を取ったこと。
大切に思うが故に失う事を恐れ、結果傷付けて幼馴染を失ったこと……それらを具に副司教に話した。
副司教は黙って、時折ゆっくりと頷きながらハイゼルの話に耳を傾けていた。
「そんな俺が……今さら彼女に何を望むことが出来ましょうか。でも、どうしても、せめてアユの……彼女の側にいたいんです。彼女を守りたい、その思いだけは本当に昔から何も変わらない」
「ふむ……」
「俺が弱虫だったばかりに彼女を傷付けた。それを償っていかなくてはならないのに、再び彼女の顔を見て会話をして、笑顔を見られるのが嬉しくて……これじゃあ償いではなく褒美を貰っていると言っても過言ではありません……」
「ふむふむ」
「しかも、彼女に会う度に貪欲になっている自分に気が付いたんです。あの笑顔がもっと見たい自分だけを見て欲しい。以前のように……俺の事を好きだと言って欲しい……俺は、俺は本当に大バカ野郎です……」
「ふむふむなるほど。結構拗らせてますねぇ……だけど複雑に感じても単純明確なのは自明の理。しかしこればかりは、タイミングを待つより仕方ないでしょうね」
副司教は顎に手を添えながらそう言った。
ハイゼルは副司教の言葉を反芻する。
「タイミング、ですか……?」
「私が言えることはひとつ。若人よ大いに悩み、考え、答えを導きなさい。若く柔軟な心で感じ、行動し、そして自分なりの答えを得るまで藻掻きなさい。懸命に生きる者に、未来は真摯に応えてくれます」
「藻掻き、懸命に生きる……」
「しかし考え過ぎてはいけません。悶々鬱々と思い悩み過ぎては良い答えに辿り着けません。適度に体を動かし、頭の中をリセットするのです。それには筋トレ。筋トレが良いですよ。筋肉は裏切りません」
「はいっ……!体を動かすのは性に合ってます!」
「よろしい。では私の筋トレメニューを特別に伝授しましょう」
「ありがとうございます!」
「でもその前に腹ごしらえですね。健全な体が健全な思考を生みます。そのための食事は重要ですよ。私は今から美味しい食事を買いに行きますが、キミも来ますか?」
「是非!ご一緒させてください!」
「よろしい。というかキミは私の専属護衛騎士なのですから、どのみち一緒に行くことになりますね」
「そうでした」
そう言って、ハイゼルと副司教が共に笑い合う。
そして二人はその美味しい食事とやらを買い求めるために支部を後にしたのであった。
◇───────────────────◇
なんでも副司教様にはいきつけの惣菜屋があるそうな……。
大陸国教会の本部に次いで大きく、権威のあるこの地方支部の廊下で、ハイゼルが大きなため息をひとつ吐いた。
すると後ろからふいに声をかけられる。
「おやおや、若い騎士はため息ひとつも力強いですねぇ。肺活量の高さが窺えます。筋肉量も物を言うのでしょうね」
「ふ、副司教様っ……大変失礼致しました!」
声をかけてきた相手が副司教だったために、ハイゼルは慌てて姿勢を正し、胸に手を当て礼を執る。
副司教は柔らかな笑みを浮かべてハイゼルに言った。
「まだランチ休憩中なんですから気にする必要はありませんよ。それにしてもどうしたんです?何か悩み事ですか?私で良ければ話を聞きますが」
「そんな!滅相もございません!私は副司教様に告解を受けていただけるような身分ではありませんからっ……」
司教や副司教に告解、もしくは懺悔や祈祷を受ける事ができるのは王族、もしくは侯爵位以上の高位貴族である。
いくら副司教専属の護衛騎士といえど、平民で一介の新人聖騎士であるハイゼルにそのような事が叶うはずもない。
「私の耳は二つしかありませんし、目も両手も二つずつしかありません。そのために残念ながら全ての人間の声に耳を傾け、手を差し伸べる事はできないのです」
そう言って副司教は自身の大きな手に視線を向けた。
「だから便宜上、制限をかけているだけであって、この手が届く範囲内にいる救える者は等しく救いたいと思っているのですよ。だから気にせず話してみなさい。幾分か気持ちが楽になるかもしれませんよ?」
「副司教様……」
穏やかに微笑む副司教の白い歯に魅入られるように、ハイゼルはぽつりぽつりと思いの丈を吐露し始めた。
永遠の愛を信じて駆け落ちまでした両親が時の流れと共に心変わりをして、罵り合いながら別の人間を選んだこと。
同じような境遇で育ての親の元で共に暮らした幼馴染が居ること。
その幼馴染の真っ平らだった胸が成長と共にブラウスを押し上げていく様を無意識に注目していたこと。
そしてそれが、異性として邪な目を幼馴染に向けていたと気付いた時にショックを受けたこと。
それらから目を背けたくて、ちょうど志していた聖騎士予科練学校への入学が決まり、逃げるようにその幼馴染と距離を取ったこと。
大切に思うが故に失う事を恐れ、結果傷付けて幼馴染を失ったこと……それらを具に副司教に話した。
副司教は黙って、時折ゆっくりと頷きながらハイゼルの話に耳を傾けていた。
「そんな俺が……今さら彼女に何を望むことが出来ましょうか。でも、どうしても、せめてアユの……彼女の側にいたいんです。彼女を守りたい、その思いだけは本当に昔から何も変わらない」
「ふむ……」
「俺が弱虫だったばかりに彼女を傷付けた。それを償っていかなくてはならないのに、再び彼女の顔を見て会話をして、笑顔を見られるのが嬉しくて……これじゃあ償いではなく褒美を貰っていると言っても過言ではありません……」
「ふむふむ」
「しかも、彼女に会う度に貪欲になっている自分に気が付いたんです。あの笑顔がもっと見たい自分だけを見て欲しい。以前のように……俺の事を好きだと言って欲しい……俺は、俺は本当に大バカ野郎です……」
「ふむふむなるほど。結構拗らせてますねぇ……だけど複雑に感じても単純明確なのは自明の理。しかしこればかりは、タイミングを待つより仕方ないでしょうね」
副司教は顎に手を添えながらそう言った。
ハイゼルは副司教の言葉を反芻する。
「タイミング、ですか……?」
「私が言えることはひとつ。若人よ大いに悩み、考え、答えを導きなさい。若く柔軟な心で感じ、行動し、そして自分なりの答えを得るまで藻掻きなさい。懸命に生きる者に、未来は真摯に応えてくれます」
「藻掻き、懸命に生きる……」
「しかし考え過ぎてはいけません。悶々鬱々と思い悩み過ぎては良い答えに辿り着けません。適度に体を動かし、頭の中をリセットするのです。それには筋トレ。筋トレが良いですよ。筋肉は裏切りません」
「はいっ……!体を動かすのは性に合ってます!」
「よろしい。では私の筋トレメニューを特別に伝授しましょう」
「ありがとうございます!」
「でもその前に腹ごしらえですね。健全な体が健全な思考を生みます。そのための食事は重要ですよ。私は今から美味しい食事を買いに行きますが、キミも来ますか?」
「是非!ご一緒させてください!」
「よろしい。というかキミは私の専属護衛騎士なのですから、どのみち一緒に行くことになりますね」
「そうでした」
そう言って、ハイゼルと副司教が共に笑い合う。
そして二人はその美味しい食事とやらを買い求めるために支部を後にしたのであった。
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