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セィラ、キレる
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その日、産院の定期検診から帰ったセィラは変わり果てた寝室を見て、呆然と立ち尽くしていた。
セィラの帰宅に気付いた夫ラペルが笑顔で妻を出迎える。
「あ、おかえりセィラ。検診はどうだった?」
セィラは呆然としながらもラペルに問う。
「ラ、ラペル……これは、一体……?」
そう言ってセィラは再び寝室を見て、その次に客間へと視線を向ける。
セィラと同じ視線を辿り、ラペルは肩を竦めながら答えた。
「サーニャがね、妊娠中のセィラは身体が大変だから一人部屋の方がいいんじゃないかって。それなら客間と交換すると言ってね」
兄夫婦の家の客間を“私の部屋”と呼ぶのがキモいんですけど~っという誰か(読者)の声が聞こえた気がしたが、夫の口から信じられない言葉を聞いたセィラはそれどころではなかった。
「え……?それじゃあサーニャさんが私たちの寝室へ移るの……?」
「まぁそういうことになるよね」
「……ちょっと待って……?私たちのベッドで貴方とサーニャさんが一緒に寝るの?……貴方はそれを受け入れたの……?」
「いやまさか俺もこの年になって妹と同じ部屋で寝るようににるなんて思いもしなかったけどさ。でもセィラの心身のためだってサーニャに言われたら仕方ないよな」
「……兄妹で一緒に寝る云々を受け入れる前に、それならしばらく家には来るなと伝える考えは持ち合わせていないの……?」
「なぜだい?キミはこれからどんどんお腹が大きくなって体が大変になるだろう?そんな時、同性のサーニャが居てくれたら心強いと思うんだ。俺は男だからどうしても女性の体については解らない事だらけだし……」
ラペルが言葉を発する度に、セィラの頭と心が妙に冷えていく。
夫の考えを素直に善意としてだけで受け止めれば、全てはセィラの身を慮るが故なのだろう。
だけどそうじゃない。そうじゃないのだ。
全てが根本的に間違っているのだ。
部屋を分ける事がセィラのためでもなければ、サーニャの滞在を許す事がセィラのためでもなんでもない。
ラペルには悪意がない、純粋な善意なだけにどう説明をすればよいのか。
それはここ最近ずっとセィラが思い悩んでいたことなのだ。
その答えが出ないまま、こんな事態を引き起こしてしまった。
その時、私物の整理をしていたサーニャが寝室から出て来た。
そしてセィラが産院から帰宅しているのを知り、満面の笑みを向ける。
「あらセィラさん、早かったのね。良かったわね?今夜から一人でぐっすり眠れるわよ。やっぱり他人と一緒に寝るのはストレスだったでしょう」
「……は?」
サーニャの言葉を聞き、セィラは思わず自分でも信じられないくらい低い声が出た。
その声と同時にラペルが軽口を叩くように妹に抗議する。
「おいおい、他人だなんて酷いな~。俺たちは夫婦だぞ」
「でもまだ夫婦になってたった一年でしょ?私たちコルト家が重ねてきた時間とは比べものにならないじゃない」
「それはそうだけどさ~」
「…………」
“私たちコルト家”
サーニャのその言い方は、セィラはコルト家の家族ではないと言外に示していた。
そしてその意味を、今の言葉の含みを深く理解もせずに肯定したラペル。
セィラの中で何かがぷつりと切れた音がした。
この夫が……ラペルがこのまま父親になったらどうなるのだろう……?
自分も、もしかしたら生まれてくるお腹の子も。
可愛い妹の言葉ばかりに耳を傾ける彼では、自分たちは守って貰えない。
そう思った瞬間に、セィラはもう全てがバカバカしくなってしまった。
そして冷えてしまった心で、仲良し兄妹に告げる。
「……なら、まだ一年ぽっきりで家族でも何でもない私はお暇しますから、あとは仲良し“コルト家”の皆さんでよろしくやってくださいな」
いつものセィラとは違う、突き放すような物言いに、ラペルが驚く。
「セィラ……?え?なに?今の、どういうこと……?」
「私の事を明後日の方向に慮って満足するならどうぞご勝手に?私は私を正しく慮る事にしますから。寝室を一緒にするだけでなく、もういっそこの家で兄妹で暮らせばいいのよ。私は出て行ってあげますから」
微笑みをたたえながらも静かな怒りを滾らせるセィラに、ラペルはわかりやすく狼狽える。
「セ、セィラッ……お、落ち着くんだ。どうして急に怒り出すんだ?そんなに感情を昂らせたら体に良くないよっ……」
一方サーニャは不敵な笑みを浮かべながらラペルに言う。
「大丈夫よお兄ちゃん。妊婦さんてホルモンバランスの乱れのせいで感情的になる時があるそうよ?どうせ私とお兄ちゃんが仲良しなのを僻んでるんでしょ?」
「そ、そうか。ホルモンバランスかっ……さすがは女同士、サーニャが居てくれて良かったよ」
「えへへ、お兄ちゃん大好き!」
そう言ってサーニャはラペルに体当たりするように抱きついた。
華奢な妹を難なく受け止めたラペルが次にセィラを宥めようと視線を向ける。
「あれ?……セィラ?」
だがそこに妻の姿はなく、はっとしたと同時に玄関のドアが閉まる音がした。
◇───────────────────◇
次回、荒れるぞ~
セィラの帰宅に気付いた夫ラペルが笑顔で妻を出迎える。
「あ、おかえりセィラ。検診はどうだった?」
セィラは呆然としながらもラペルに問う。
「ラ、ラペル……これは、一体……?」
そう言ってセィラは再び寝室を見て、その次に客間へと視線を向ける。
セィラと同じ視線を辿り、ラペルは肩を竦めながら答えた。
「サーニャがね、妊娠中のセィラは身体が大変だから一人部屋の方がいいんじゃないかって。それなら客間と交換すると言ってね」
兄夫婦の家の客間を“私の部屋”と呼ぶのがキモいんですけど~っという誰か(読者)の声が聞こえた気がしたが、夫の口から信じられない言葉を聞いたセィラはそれどころではなかった。
「え……?それじゃあサーニャさんが私たちの寝室へ移るの……?」
「まぁそういうことになるよね」
「……ちょっと待って……?私たちのベッドで貴方とサーニャさんが一緒に寝るの?……貴方はそれを受け入れたの……?」
「いやまさか俺もこの年になって妹と同じ部屋で寝るようににるなんて思いもしなかったけどさ。でもセィラの心身のためだってサーニャに言われたら仕方ないよな」
「……兄妹で一緒に寝る云々を受け入れる前に、それならしばらく家には来るなと伝える考えは持ち合わせていないの……?」
「なぜだい?キミはこれからどんどんお腹が大きくなって体が大変になるだろう?そんな時、同性のサーニャが居てくれたら心強いと思うんだ。俺は男だからどうしても女性の体については解らない事だらけだし……」
ラペルが言葉を発する度に、セィラの頭と心が妙に冷えていく。
夫の考えを素直に善意としてだけで受け止めれば、全てはセィラの身を慮るが故なのだろう。
だけどそうじゃない。そうじゃないのだ。
全てが根本的に間違っているのだ。
部屋を分ける事がセィラのためでもなければ、サーニャの滞在を許す事がセィラのためでもなんでもない。
ラペルには悪意がない、純粋な善意なだけにどう説明をすればよいのか。
それはここ最近ずっとセィラが思い悩んでいたことなのだ。
その答えが出ないまま、こんな事態を引き起こしてしまった。
その時、私物の整理をしていたサーニャが寝室から出て来た。
そしてセィラが産院から帰宅しているのを知り、満面の笑みを向ける。
「あらセィラさん、早かったのね。良かったわね?今夜から一人でぐっすり眠れるわよ。やっぱり他人と一緒に寝るのはストレスだったでしょう」
「……は?」
サーニャの言葉を聞き、セィラは思わず自分でも信じられないくらい低い声が出た。
その声と同時にラペルが軽口を叩くように妹に抗議する。
「おいおい、他人だなんて酷いな~。俺たちは夫婦だぞ」
「でもまだ夫婦になってたった一年でしょ?私たちコルト家が重ねてきた時間とは比べものにならないじゃない」
「それはそうだけどさ~」
「…………」
“私たちコルト家”
サーニャのその言い方は、セィラはコルト家の家族ではないと言外に示していた。
そしてその意味を、今の言葉の含みを深く理解もせずに肯定したラペル。
セィラの中で何かがぷつりと切れた音がした。
この夫が……ラペルがこのまま父親になったらどうなるのだろう……?
自分も、もしかしたら生まれてくるお腹の子も。
可愛い妹の言葉ばかりに耳を傾ける彼では、自分たちは守って貰えない。
そう思った瞬間に、セィラはもう全てがバカバカしくなってしまった。
そして冷えてしまった心で、仲良し兄妹に告げる。
「……なら、まだ一年ぽっきりで家族でも何でもない私はお暇しますから、あとは仲良し“コルト家”の皆さんでよろしくやってくださいな」
いつものセィラとは違う、突き放すような物言いに、ラペルが驚く。
「セィラ……?え?なに?今の、どういうこと……?」
「私の事を明後日の方向に慮って満足するならどうぞご勝手に?私は私を正しく慮る事にしますから。寝室を一緒にするだけでなく、もういっそこの家で兄妹で暮らせばいいのよ。私は出て行ってあげますから」
微笑みをたたえながらも静かな怒りを滾らせるセィラに、ラペルはわかりやすく狼狽える。
「セ、セィラッ……お、落ち着くんだ。どうして急に怒り出すんだ?そんなに感情を昂らせたら体に良くないよっ……」
一方サーニャは不敵な笑みを浮かべながらラペルに言う。
「大丈夫よお兄ちゃん。妊婦さんてホルモンバランスの乱れのせいで感情的になる時があるそうよ?どうせ私とお兄ちゃんが仲良しなのを僻んでるんでしょ?」
「そ、そうか。ホルモンバランスかっ……さすがは女同士、サーニャが居てくれて良かったよ」
「えへへ、お兄ちゃん大好き!」
そう言ってサーニャはラペルに体当たりするように抱きついた。
華奢な妹を難なく受け止めたラペルが次にセィラを宥めようと視線を向ける。
「あれ?……セィラ?」
だがそこに妻の姿はなく、はっとしたと同時に玄関のドアが閉まる音がした。
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次回、荒れるぞ~
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