恋人が聖女のものになりました

キムラましゅろう

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叙任式の朝

「ユラル、あなた聞いていたの?ライルが聖女の騎士に志願したって話」

その日、ユラルは当日の朝になってようやくその事実を知ったのだった。

「え……何それ、聞いてないわ」

ユラルの実姉であるエミルが憂いげな表情を浮かべながら言った。

「今日の叙任式でライルが聖女から聖剣を賜るらしいの。アレンがライルから昨日、今日の叙任式にユラルに来るように伝えて欲しいと頼まれたって……」

アレンとは半年前に姉エミルと結婚して男爵家の入婿となった義兄の事だ。
大陸国教会で事務員をしている。

「あれほど聖女付きにだけはならないでとお願いしていたのに!しかも叙任式を見に来いだなんて、アイツ正気っ?」

ユラルは思わず頭を抱える。
それを見てエミルがを渡して妹に告げる。

「とりあえず行きなさい。じきに叙任式が始まるわ。それから後の事を考えましょう」

「……わかったわ。とにかく行って確かめて来る。ありがとうお姉さまっ」

ユラルは姉からを受け取り、急ぎバレスデン大聖堂へと向かった。

◇◇◇



大聖堂は既に叙任式を見ようと多くの人で賑わっていた。

正騎士に叙任される者や、そしてそこから更に聖騎士パラディンに任じられる者、とくに聖女付きの聖騎士の叙任式は滅多にない分、見物客も多い。

大聖堂の中はもはや座る席など見当たらないくらいの人で溢れかえっていた。

見物客たちの会話があちらこちらから聞こえてくる。

「二年ぶりの聖女様の騎士の誕生だな」

「聖女の為に生きる事を選ぶなんて殊勝な考えだ」

「盲信的な信仰心を聖女様のみに捧げるんでしょう?怖くない?」

「私の夫がそうなったら絶対に嫌だわ……」

「聖女の騎士には剣技だけでなく、見目も良くないとなれないらしいぞ」

「麗しの聖女と騎士……物語の一幕のようだな」

中には聖女の騎士に否定的な声が聞こえた。
それはやはり、女性の声だった。

聖女の騎士になった男たちの行く末を知っているからだ。

国が定める聖女の資質として挙げられるのがまず第一にその神聖力の高さだ。

この国に生を受けた者は誰しも生まれて直ぐに国教会の洗礼を受ける。

その時に神聖力、聖職者以外では魔力と呼ぶが、それの保有量を調べられるのだ。

その潜在する力が高い者は聖職者になるべく教育を施されてゆく。

中でも類い稀なる高い神聖力を持った女児を聖女候補と定め、ある一定の年齢まで聖女見習いとして養育する。
そして十五歳の時に再選定をして、規定を上回る神聖力を保有していたら、そこで聖女と認定されるのだ。

当代の聖女ルナリアは十九歳。
聖女に認定されて四年となる。

そのルナリアを守る聖騎士パラディン達。
バレスデン聖騎士団の中でも選りすぐりの者だけがその任に就く事が出来る栄誉ある騎士だ。
当然おいそれと誰もがなれる訳ではない。
現に今回、ライルが二年ぶりの聖女の騎士となるのだから。

……というのは建前で、本当は誰もあまりなりたがらない、というのが現実だ。

その原因はこの国の聖女が持つ独特の神聖力にある。

彼女から無意識に溢れ出る神聖力。

それを間近に触れ続ける事で、深層心理内が徐々にその神聖力の影響を受け、聖女の為なら命を投げ打ってもよいと思えるほどに心酔するようになるのだ。
それはもはや恋情、愛情と呼べるものだと言ってよいほど、聖女に心奪われる男になってしまう……。

今、聖女付きの騎士として側にいる四人は妻がいる者達らしいのだが、本来大切にしなればならない彼女達を放置して聖女に夢中になっているという。

同じ騎士仲間であればライルもその様子も知っているはず。

それを知っていて自ら望んで聖女の騎士になりたいなどと……

ーーライルはわたしとの将来を望まないという事なの?
わたしをお嫁さんにしたいって言ったのは嘘だったわけ?

ユラルは信じられない気持ちで祭壇を見つめていた。



そして叙任式が始まる。









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