恋人が聖女のものになりました

キムラましゅろう

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魔力対神聖力

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新女王デルフィータの勅令を受けたアマンディーヌと共にバレスデンへ訪れた勅使の東方人。

名は大東賢人おおひがしけんと

彼がこれから聖女ルナリアの魅了と同等の神聖力を封じ、精神干渉を受け傀儡に近い状態となった者の洗脳を解くという。


「そ、そんな神がかり的な事が出来るというのですかっ?この東方人にっ?」

誰かが大東を指してそう言った。

アマンディーヌは大東をちらりと見遣り、それに答える。

「女王陛下がこの方の助力を切望されたそうザマス。魔導学にも精通した女王陛下がお望みになられる程の人物なら、可能であるとワタクシは考えるザマス」

その言葉を受け、大東は東方人特有の“お辞儀”をした。

それがしに全て、お任せくだされでゴザル」

「アラ?貴方、そんな話し方だったザマスか?」

アマンディーヌが指摘すると大東は鷹揚に笑う。

「ハハハ、何を言うでゴザル。某は元々こういう話し方だったではゴザランか」

「そうだったザマス?」

怪訝そうにするアマンディーヌを脇目に、もう一人の勅使の男がボソっと呟いた。

「夫人の語尾に触発されただけでしょう。絶対に羨ましくなっただけだ……」

「おや?彼は何か言ったザマス?」

アマンディーヌがその勅使に視線を向けると、大東が告げた。

「あぁ、彼は某の弟子で胡留部有人こるべありひとという者でゴザル。魔道具の装着はこの者が致すでゴザル」

「大東さんではないザマスか?」

「この有人ありひとの妻が作った魔道具ゆえにこの者が行う方がよいのでゴザル」

「なるほど、了解ザマス。では胡留部こるべさん、よろしくお願いするザマス」

「承知した」

胡留部という勅使が聖女の元へと向かうべく足を踏み出すと、聖女の騎士達は剣を構えて威嚇して来た。

「聖女様に近付くなっ!!」
「これは脅しではないぞ、それ以上側に寄れば叩っ斬る!!」

自分に剣の切っ先を向けてくる騎士たちを、胡留部は心底面倒くさそうに見た。

「………鬱陶しいな」

そしてそう言って右手をかざす。

騎士達が魔力の波動を肌に感じた。
と、そう思った途端に糸の切れた操り人形のように騎士達がバタバタとその場に崩れ落ちた。

中には膝から崩れ落ち、半月板が危ぶまれる者もいる。

「きゃあっ!?えっ?えっ?」

自分の盾となり守っていた騎士達が次々と倒れ、それを見ているだけしか出来ないルナリアはその場でただ狼狽えていた。

胡留部はゆっくりとルナリアに語りかけながら近付いてゆく。

「怖がる必要はない。騎士たちはちょっと眠ってるだけだし、あんたにはブレスレット状の魔道具を腕に着けさせて貰うだけだ」

「いやっ…!いやっ!来ないでっ!!」

その途端、ルナリアから密度の高い神聖力が噴き出す。

「……」

その力は胡留部に纏わり付くように彼の体を包み込んだ。

それを見た大東が感心して言う。

「ほぅ。聖女と認定されるだけあって、なかなかの魔力量でゴザルな」

ルナリアが頬を膨らましながら言い返した。

「魔力じゃないわっ!聖なる力、神聖力よっ!」

「それは聖職者側が勝手に名を変えただけでゴザル。元は全く同じ力でゴザルよ」

「違うわよっ!わたくしを魔術師なんかと一緒にしないで!」

ヒステリックに声を荒げてルナリアは力を強めた。

胡留部は自身に集る蝿を追い払うかのように鬱陶しそうに手を振る。

すると一瞬でルナリアの神聖力は掻き消された。
胡留部の魔力で相殺されたのだ。

「えっ!?」

ルナリアがこれ以上ないほど大きく目を見開く。
胡留部はルナリアに視線を戻し、言った。

「なるほどな。これは確かに厄介な力だ。たった僅かな時間で深部まで精神干渉を受けた」

「ほほぅ」

キラン、と大東が興味深そうに目を光らせる。

胡留部が冷たい視線をルナリアに向けた。

「あんた、これまでどれほどの人間の精神を侵してきた?しかも全く罪の意識も無く。躊躇いなど微塵も感じない、手慣れた無遠慮な力の使い方だ」

「な、なによっ……」

その瞳の凍るような冷たさにルナリアは恐怖を感じ、一歩二歩と後退る。

胡留部は自身の師であるという大東に訊いた。

「コイツはただ魔道具を着けてハイ終わりで済まさない方がいいんじゃないですか?」

「うむ。ちもそう思うでゴザルか」

「いい加減その話し方やめろ」

「きゃいんでゴザル」

この師弟はいつもこんな感じなのだろうか。
それとも東方人がこんなノリなのだろうか?

ユラルは二人の東方人から目が離せなかった。

胡留部はアマンディーヌに向き直り、彼女に確認するように尋ねた。

「この聖女を深層心理の世界に閉じ込めてキツい罰を与えてもいいでしょうか?精神干渉がどれだけ罪深い事か、思い知らせてやりたいのです」

「ふむ……」

アマンディーヌは顎に手を当て思案した。
そして友の会メンバーの夫人達を見て、深く頷いた。

「よろしいザマス。例え魔道具によって力を使えなくなるとしても、二度とこんな真似をしないように、キツ~い罰を与えて欲しいザマス!」

「承知した」

アマンディーヌの是を得て、胡留部は再びルナリアを見た。

「ヒッ!!」

ルナリアは恐怖で竦み上がる。

そして自分の周りに倒れている騎士たちに縋りつき、体を揺さぶって必死に起こそうとした。

「お、起きてっ!わたくしの騎士達っ!起きてわたくしを守りなさいっ……!」

しかしどれだけ揺さぶろうとも騎士達は目覚めない。
当然だ。胡留部の催眠魔術で眠らされているのだから。

そしてルナリアは叩けど揺さぶれど起きない騎士達の向こう側にいるライルと目が合う。

瞬間、ライルが「げっ」と言った。

「ライルっライルっ……!貴方はわたくしの騎士なのよっ!お願いわたくしを助けてっ……」

と言いながらルナリアは駆け寄って来る。

それを見ながらライルは、
「いやぁ、聖女に剣を向けた俺は聖女の騎士失格なんで辞めます!」
と声高らかに宣言した。

しかりルナリアはそんなのお構いなしにこう叫ぶ。
媚びるような甘ったれた声で。

「許します!わたくしが許すと言っているのだから辞めなくいいのよっ!ライルっ!わたくしの騎士っ……!」

ルナリアがライルに向けて手を伸ばしたその時、
ユラルがすっ…とを聖女の前に掲げた。

「聖女様。彼は貴女のものではありませんよ?
わ・た・しの婚約者なんですけどね?なので聖女様にはこちらを差し上げますわ。せいぜい、ご自分の力で頑張って下さいませ」

ユラルはそう言ってそのをルナリアに手渡した。

それは、ユラル特製の釘バットくん三号であった。

「ヒッ!?何なのこれはっ!?」

「わたし愛用の釘バットくん三号と申します。か弱い乙女でも振り回せるように設計してありますからご安心を」

ユラルはそう言ってぐいぐいと釘バットをルナリアに押し付けようとした。
ルナリアは反射的に後退る。

「い、要らないわっこんな物騒な物っ!なんて野蛮な人なのっ?助けてライル!」

ルナリアがそう叫びながらライルを見ると、
彼はユラルを後ろから抱きしめてそのこめかみにキスをしていた。

「さすがは俺のユラだ。
聖女サマにナイスなプレゼント♡愛してるぞユラ♡」

「ライルっ!!…げゃっ」


ルナリアが悲鳴に近い声でライルの名を呼んだ瞬間、後ろから胡留部に当て身をされ、彼女はカエルが潰れた様な声を出して気絶した。

胡留部は嘆息しながら聖女を荷物担ぎで肩に担ぎ、
そしてユラルとライルに「失礼した」と言ってその場を離れる。


それから胡留部はアマンディーヌに言った。

「とりあえず聖女の部屋での幽閉にしましょう。私が術を解くまで決して目覚める事はない。そして眠り続けたまま悪夢を延々と見続けますので逃亡の恐れはありません。もちろん監視は必要ですがそれで充分でしょう。騎士やその他の精神干渉を受けた者は別室に集めて下さい。順に洗脳を解いてゆきます」

「承知したザマス。何から何までお手数をおかけして……感謝するザマス」

アマンディーヌは胡留部に礼を告げる。

胡留部は軽く会釈してその謝意を受け取った。
そして大東に声掛けをする。

「師匠もそれでいいですね?っておい゛」

見れば大東はユラル特製の釘バットくんに夢中になっていた。

「こ、これはっ……凄い武器でゴザルなっ!!
この凶悪なフォルム…堪らないでゴザルっ!
是非っコレを某に譲ってくださらんかっ!?」

ユラルは目を丸くしながらも首を縦にぶんぶんと振って承諾している。

胡留部は師の元へ行き、威圧感マシマシで言った。
地を這うよう恐ろしく低い声で。

「あんた結局何もしてねぇじゃねぇかっ…あぁ゛?
働けよオラ゛、てめぇが受けた仕事だろうがっ」

「きゃ、きゃいんでゴザル!!」

大東は慌てふためいてバタバタと騎士達の身柄確保に向かった。

手にはちゃっかり釘バットくん三号を持って。


その様子をユラルとライルをはじめとする、バレスデンの皆が呆気に取られて見ていた。





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東方の魔術師って変な人達なんですねぇ☆

いつもエールを送ってくださる皆サマに感謝を。








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