異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、仕入れ その2

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 今日の私は、バテアさんの転移魔法で、元々私が暮らしていた世界へ買い出しに来ています。

 転移ドアをくぐると、いつものビルの合間の通路に出現しました。
 真正面には、かつて私が経営していた居酒屋酒話が入っていたビルがございます。

 最初の頃は、とても複雑な気持ちでそのビルを見ていたものでございます。
 私が居酒屋を手放した直後は、がぁるずばぁ? とかいう、少しアレなお店が入店なさっていたものですから余計だったのかもしれません。

 その後、そこは一度空き屋に戻った後、今は食堂が入店しているようですね。
 出入り口の横にはお品書きが書かれた看板が掲げられ、白いエプロンを身につけた可愛らしい感じの女性が掃き掃除をなさっている姿がありました。

「どうしたのさわこ? 早く行くわよ」
「あ、はい、すいません」

 バテアさんに声をかけられた私は、少し先に進まれているバテアさんの元へ駆け寄っていきました。
 バテアさんは、ミリーネアさんの手をしっかりと握っています。

 ……何しろ、ちょっとでも油断しようものなら、自らの好奇心に任せて突然いなくなってしまいますからね、ミリーネアさんってば。

 並んで歩いているバテアさんとミリーネアさん。
 歩道の通行の妨げにならないように、私は2人の後ろにつきました。
 
 いつものようにバスに乗って移動していきます。

 ここでもミリーネアさんは、

「あの乗り物、変わってる!」

 目を輝かせながら長距離高速バスに向かって駆け出そうとなさいまして、肝を冷やした次第です……ちょうどバテアさんが伸びをした瞬間だったとはいえ、一瞬にして10m以上先まで駆けだしていたミリーネアさん……いくらなんでも、本当に勘弁していただきたく……

「わ~……♪」

 そんな私とバテアさんの心労などお構いなしとばかりに、ミリーネアさんはバスの窓際の席に座って、流れていく景色を見つめ続けています。
 窓にべったりと顔をつけて、ぴくりともしていません。

「なんといいますか……子供を連れ歩いている母親の心境ですね」
「そうねぇ……それ、アタシも思ってた」

 私の言葉に、バテアさんも苦笑なさっておいでです。
 まだ目的の場所に1つとして到着していないのですが、すでに私とバテアさんは疲れを感じていました。
 でも……楽しそうに窓の外を見つめているミリーネアさんを見ていると

「……まぁ、ミリーネアさんが喜んでおられますし」
「……仕方ない、か」

 そんな言葉を交わしていた私とバテアさんでした。

◇◇

 その後……

 いつもの大手ショッピングモールへ移動し、親友のみはるが経営しているパワーストーンのお店へと移動。

「待ってたわよさわこ! それにバテアさん!」

 そんな私達を、満面笑顔のみはるが出迎えてくれました。

「ど、どうしたのよみはる!?」
「いえね、さわことバテアさんが持って来てくれるパワーストーンが大好評なのよぉ。アクセサリーに加工して店頭に並べる度に、すぐ売れてくの! こんなのはじめてよ!」

 みはるのパワーストーンのお店の一角には【MASEKI】と書かれたポップを中心に装飾された一角があるのですが、そこに並んでいるはずの商品は1つもありませんでした。みはるの言葉通りすべて売り切れているようですね。

 あ、ちなみにこの【MASEKI】ってネーミングは、バテアさんの魔法道具のお店で販売している魔石をみはるに買い取ってもらっていますので、そこからきているんです。
 以前は委託販売の形をとっていたのですが、今はすべて買い取ってもらっています。
 それをみはるがアクセサリーに加工して販売しているものですから、委託販売していた頃よりも私達が受け取るお金がたくさんになっているんです。

「そんなわけでさわこ、それにバテアさん! 次回からもっとパワーストーンを持って来てくれる? 今までの5割まし……いえ、倍でもいいわ! 買取額も2割アップしちゃうから!」
「か、買取額のアップまではしなくてもいいから……と、とにかくバテアさんと相談して持ってくる量を増やすわね」

 私の首に抱きついて満面笑顔のみはる。
 そんなみはるに、私は苦笑しながら返事を返していました。

 ちなみに……バテアさんによりますと、

「……うちの魔法道具のお店の売れ残りをさわこに買い取ってもらっているんだけど……何が評判になるかわからないもんねぇ」

 とのことでして、次回からは、もう少し質のいい魔石も一緒に回してもらえることになりました。

「さっすがバテア姉さん! 即断即決最高! あ、ゆきかちゃん、あれ持って来て!」
「あ、はいはい」

 みはるの言葉を受けて、パワーストーンのお店の店員さんのゆきかさんが冷蔵庫から出してきたのは……大きなお皿に山盛りになっているバニラアイスでした。
 それを見るなり、満面笑顔のバテアさん。

「さっすがさわこの親友ね! みはるってばよくわかってるじゃない」

 そう言うなり、スプーン片手にバニラアイスを豪快に食べ始めました。
 お酒が大好きなバテアさんなのですが……私の世界のバニラアイスも大好きなんですよね……あはは。

「で、こっちのおチビさんにはこれでいいかしら?」

 ミリーネアさんに、みはるが差し出したのはメロンクリームソーダでした。
 これは、ベルやエンジェさんが大好物なんです。

「ほわぁ!? 緑でしゅわしゅわ~……」

 それを見つめながら、満面笑顔のミリーネアさん。
 グラスを手に持つと、中のジュースを眺めたり、上にのっているバニラアイスをつついたりしながら興味津々な様子です。

 ……とりあえず、これを食べている間は、迷子の心配をしなくて済みそうですね。

 そんなことを考えながら、私はほうじ茶を口に運んでいました。
 さすがみはるです。私の好みもしっかり把握してくれています。

◇◇

 ミリーネアさんなのですが、メロンクリームソーダがすっごく気に入ったご様子でして、その後、私とバテアさんが業務用スーパーや善治郎さんのお店を回っている間中、

「緑……しゅわしゅわ……ひんやり……」

 メロンクリームソーダのことを思い出しながら、何やら紙の束を取り出して、それにあれこれ書き込みし続けていたんです。
 そのおかげで、大人しく私とバテアさんと一緒に行動してくださったものですから、本当に助かりました。

「次回からは、ミリーネアにメロンクリームソーダをあげとけばいいかもね」
「ホントですね」

 転移ドアをくぐってバテアさんの巨木の家に戻ってきた私とバテアさんは、顔を見合わせながら笑い合っていました。

◇◇

 その夜……
 今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業しております。

 店内の端の席には、今夜もミリーネアさんが座っています。
 吟遊詩人のミリーネアさんは、ここで歌を歌ってお店の雰囲気を盛り上げたり、お客様のリクエストにお応えして冒険譚なんかを歌っておられるんです。

 ポロロン♪

 ミリーネアさんは、ご機嫌な様子で小型のハープをかき鳴らしています。
 お店の雰囲気を乱さないように、控えめに奏でられる音楽。
 それに合わせて、歌を歌っていくミリーネアさん。

 異国のお店の一角に~♪

  緑のしゅわしゅわの秘宝がひとつ~♪

   口にいれれば、たちまちとろけ~至福の時間がはじまる~♪

「おいおいミリーネア、それは何か財宝の歌なのか?」
「詳しく教えてくれよ」

 その歌を聞きつけた冒険者の方々が興味津々な様子でミリーネアさんの周囲に集まっておられます。

 ……でも

 冒険者の皆さんが期待している答えは返ってこないでしょうね。
 だって、あれ……間違いなくメロンクリームソーダの歌ですもの。

 思わず苦笑しながらも、私は料理をしながらミリーネアさんの方へ時折視線を向けていました。

 幸い、皆さんもミリーネアさんのお話を楽しそうに聞いておられたのですが……あ、あれ? なんでしょうか……冒険者の方々が一斉に私の方に向かって駆け寄ってこられました!?

「さ、さわこさん! あんためろんくりぃむそうだっていう飲み物を作れるのかい?」
「え?」
「ミリーネアが『さわこならつくれるかも』って言ってたんだけど……なぁ、なんとかならないか?」
「あんな歌を聴かされたら、たまらないよぉ」

 私の前で懇願し続けている冒険者の方々。

「え、えっと……まったく同じ物は無理ですけど、似たものなら……」

 そう言いながら、私は魔法袋のウインドウを表示させまして、中身を確認していきました。

 ……バニラアイスはありますし……そうですね、ソーダ水をベースにして……

 予想外の展開になりましたけれども、こういうのもなんだか楽しいですね。

ーつづく
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