異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、お漬物

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 異世界にありますここトツノコンベも、梅雨……なのでしょうか。
 ここ数日何やらジメジメした日が続いています。

「ツユとは言わないけど……そうねぇ、夏、暑くなる前に妙にムシムシジメジメする時期があるのは確かねぇ」
「あぁ、やっぱりそうなんですね」

 バテアさんの言葉に頷く私。

 この世界は、私が元いた世界ほど夏は暑くなりませんが、その分冬はとんでもなく寒くなります。
 何しろ、周囲の街道が雪で通行出来なくなってしまって、鳥系の亜人種族さん達が空輸で物資を届けてくださらないと食べる物がなくなってしまいかねないんです。

 ただ、役場のヒイロさんが教えてくださったのですが、

「バテアがこの街に定住してくれてからは、そこまでひどくなくなっているんだけどね。街中に積もった雪は毎朝溶かしてくれるし、食料が不足してきたら転移魔法で取り寄せてくれるし」

 ただ、この話をバテアさんにしようとすると、

「気まぐれでやってるだけよ」

 そう言って、すぐに話題を変えようとなさるんです。
 人一倍優しくて、困っている人がいるとほっておけない性格のバテアさんですが、それをひけらかすことは一切ありません。
 そんなバテアさんのことが、私は大好きです。
 もちろん友人として、ですよ。

◇◇

 今夜も居酒屋さわこさんの軒下に提灯の灯が灯っています。

「いやぁ……湿気がこんなにひどいと、やってられないねぇ」

 常連客のナベアタマさんが、おしぼりで顔を拭きながら苦笑なさっておられます。
 その言葉に、他のお客様達も大きく頷いています。

「過度の湿気は体調にもバッド影響を及ぼしますからね」

 来店なさったお客様を席に案内したエミリアが、眼鏡を拭きながら小さくため息をついています。
 確かに、ここ数日お客様だけでなく、エミリアや時々お手伝いに来てくれているショコラさんも少しお疲れのような気がいたします。
 こういう時は、元気の出るものを……と、思うものの、脂系の食べ物はむしろ逆効果といいますか……

「さわこさん、何かさっぱりしたものをお願い出来るかな」

 ナベアタマさんが右手をあげながら御注文。
 そうなんです、こんな注文がとっても多くなっているんです。
 
「そうですね、では少しお待ちください」

 一度地下倉庫へ移動した私は、樽で漬けているお新香を取り分けていきました。

 茄子に胡瓜、白菜に沢庵。
 最近、シロ達白銀狐の皆さんが見つけてくださったミョウガも持っていきましょう。
 すべて、こちらの世界で入手していますので、厳密に言えば、茄子ではなくてナルスだったり、白菜ではなくてハルクサイだったりしているのですが、しっかり味見もしていますので、問題はありません。
 
 厨房に戻った私は、持って来た漬物を切り分けていきました。
 味にはちょっと自信があるんです。
 亡き父に、高校時代から漬け物をまかせてもらっていましたからね。

「さ、お試しくださいな」

 お皿の上に、切り分けたお漬物。
 それを盛り付けた一品です。

「うん……このコリコリとした歯ごたえと味付けが、なかなか……」
 
 最初はゆっくりと食べ進めていたナベアタマさんなのですが、その速度が少しずつ早くなっています。
 そんなナベアタマさんの隣に、バテアさんが歩み寄っていかれました。

「さ、これも一緒に召し上がれ、結構あうんだから」

 そう言いながら、ナベアタマさんのコップにお酒を注いでいくバテアさん。
 こういう日は、しっかり冷やした純米吟醸酒が最高ですからね。
 それをしっかり理解してくださっているバテアさんが手にしているのは、まるで水のように飲みやすいと、私の世界でも人気の純米吟醸酒です。

「うんうん、これこれ。このお酒がまた美味いんだよね」

 嬉しそうにコップのお酒を飲み干していくナベアタマさん。
 そして、再びお新香を口に。

 クイッ

 ポリポリ

 クイッ

 ポリポリ

「……あれれ? もう漬物がなくなっちゃった……さわこさん、もう一皿もらえますか?」
「はい、よろこんで」

 ナベアタマさんに笑顔で返事を返す私。
 すると、

「さわこさん、こっちにも漬物を!」
「こっちにもお願い!」
「バテア、その酒をこっちにもくれ!」

 そんな声が店内のあちこちから上がっていきました。

「はいはい、よろこんで!」
 
 皆さんに、笑顔で返事を返していく私。

「そんなに焦らなくても、すぐに注ぎに行くってばぁ」

 バテアさんも、お酒を注文なさったお客さんの元へ、笑顔で歩み寄っておられます。
 気がつけば、どこかお疲れモードが漂っていた店内に、いつもの活気が戻ってきたような気がします。

「このお漬物ですけど、シメにお茶漬けと一緒に頂くとまた格別なんですよ」

 私が笑顔でそう言うと、

「さわこさんにそう言われたら、頼まないわけにはいかないな」
「シメの時にはぜひ頼ませてもらうよ」

 皆さん、笑顔で返事を返してくださいます。
 どうやら、まだまだ楽しんでくださるみたいですね。

「ふぅむ、あの漬物というのは、そんなに美味いのか?」

 カウンター席に座っているゾフィナさんが不思議そうな表情を浮かべながら店内を見回しておられます。

「よかったら、お出ししましょうか?」
「いや、私はこれで十分だ」

 そう言って、ゾフィナさんが手になさっておられるのは……はい、いつものぜんざいです。
 私の世界の言葉で言うと……そうですね、天国にあたる世界で働いておられるゾフィナさん。
 私のお店でお出ししているぜんざいのことを気に入ってくださって、こうして時折お店に来てくださっては、ぜんざいと甘酒だけを食べて飲んでいかれるんです。

「と、言うわけで、さわこお代わりを頼む」
「はい、よろこんで」

 何があってもまったくブレないゾフィナさん。
 そんなゾフィナさんに笑顔で返事を返すと、お餅を炭火コンロで焼きはじめました。

◇◇

 その夜。

 お店の片付けを終えた私達は、いつものように2階のリビングで晩酌をしていました。

「しかし、今夜は漬物がたくさん出たわねぇ」
「はい、ありがたいことです」

 バテアさんの言葉に、笑顔で頷く私。
 今夜の晩酌にも、お漬物の盛り合わせをお出ししています。

 それを見ていたリンシンさんが、何故か首をひねっておられました。

「あの……リンシンさん、どうかなさいましたか?」
「……うん……これ……美味しいんだと思う……思うけど……」

 そう言うと、私へ視線を向けるリンシンさん。

「……私、お肉を食べたい」

 あ、あぁ……そういえばそうでした。
 ジメジメしている最近ですが、リンシンさんは、汗こそいつもより多めにかかれていますけど、食欲はいつもとまったく変わっておられないんでした。

「わかりました、すぐに何かお肉の焼き物を作りますね」

 私が厨房へ移動していくと、リンシンさんが笑顔で私を見送ってくださっています。

「……ありがと、さわこ」
「いえいえ、おまかせくださいね」

 そんな会話を交わしながら、晩酌の準備をしていくのも、とても楽しい一時なんです。

 厨房から見えるベッドの上では、ベル・エンジェさん・シロ・ロッサさんの4人が眠っている姿が見えています。
 いつかこの晩酌に、あの4人も加わる日がくるのかもしれませんね。

ーつづく
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