異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、みはるさんのお店 その1

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 おかげさまで、居酒屋さわこさんは連日大勢のお客さまにお越し頂けております。

 料理では、クッカドウゥドルの焼き鳥がすっかり定番化していまして、ご来店くださった皆様は必ずご注文くださいます。
 大皿料理では肉じゃがが特に人気です。
 私の得意料理でもありますので、この料理が人気になっているのはホントにうれしいです。
 旬の野菜、茄子を使った炒め物もよくつくっておりますが、これもとても人気です。
 こちらの皆様は、お肉と一緒の料理、味の濃いめの料理を好まれる方が多いように感じておりますので、茄子を調理する際にも豚肉と合わせたり、お味噌で炒めたりするように心がけています。

 ただ、すべての料理が受け入れられているわけではございません。
 麻婆茄子をお出ししたところ、食べることが出来ないお客様が、結構な数おられたんです。
 どうも、豆板醤がお口にあわなかったようですね。
 色々試してみて、苦手な方が多めの料理は大皿では提供しないよう、気をつけております。

 ただ、中にはこの麻婆茄子をお食べになって
「これは気に入った! こんな旨い料理は始めてだ」
 そうおっしゃってくださるお客さまもおられました。
 そのお客さまは、来店なさる度に麻婆茄子をご注文くさいますので、私はその都度一品料理扱いで対応させていただいております。
 
 お店でお出ししている料理は、今のところ大皿料理が中心なのですが、注文頂いてお作りする一品料理も少しずつ充実させているところです。
 お値段は、みなさんが気兼ねなく注文出来るように、火を使った料理はすべて同じ料金で提供させていただいております。

 新しい料理をお店でお出しする前には、まずバテアさんとリンシンさんに味見をしてもらっています。
 そこでOKが出ましたら、ドルーさんやクニャスさんのような常連さんにお試し頂きます。
 そこでさらにOKが出て、食材の仕入れにも問題がないようでしたらお店のメニューに加えるようにしています。

 今は、追加された料理は、私が半紙に筆書きして壁に貼らせて頂いているのですが、時々気合いが入りすぎて達筆になりすぎてしまいまして、お客さまに
「……これ、なんて書いてあるの?」
 と、不思議がられてしまうこともしばしばでございます。

 一応、書道四段でございます、はい……お恥ずかしながら……

 ちなみに、かなり不思議だったのですが……この世界の言語や文字は、私の世界の物とほとんど同じだったのです。
 ただ、漢字に関しましてはかなり違うといいますか、複雑怪奇な感じといいますか……
 なので私は、メニューを書く際にはすべてひらがなで書くようにしております。

◇◇

 今日は3日に一度の、私の世界に仕入れに行く日です。
 狩りにいかれるリンシンさんにお弁当の握り飯をお渡しして、お見送りをしてから私とバテアさんは私の世界へ移動いたしました。
 転移ドアをくぐると、いつもの路地の奥へ出ました。
「さわこ、今日もいつものギョウムヨウスーパーかしら?」
「はい、まずはそこでお酒を買います。それからみはるのお店に行こうと思っています」
「ふ~ん。わっかったわ、案内はお願いね」
「はい」
 そんな会話を交わしながら、私とバテアさんは移動を開始していきました。

 路地を出てすぐのビル。
 そこの一階で、私は数年間居酒屋を営んでおりました。
 閉店した後、がぁるずばぁ? らしい看板が出ていたお店には、『売店舗』の張り紙がなされていました。
 どうやら、私の後に始まったお店……もう閉店してしまったようですね。
 少し複雑な気持ちを胸に抱きながら、私はもう一度だけお店を眺めてから移動していきました。

 いつもの業務用スーパーで日本酒の仕入れを行っていきます。
 お店で使用している野菜などは、バテアさんの世界の市場などで仕入れることが出来るようになっていますので、今日は購入いたしません。
 ですが、善治郎さんのお店には後で顔を出しておこうと思っております。
 お話をするだけでも喜んで頂けますし、私も嬉しいですので。

 買い物をしていると、
「さわこ、あれも買ってね、あれ」
 バテアさんがそう言いながら指さされているのはアイスクリームのコーナーでした。
 先日、抹茶アイスをお出しして以降、バテアさんはこれがすっかりお気に入りになられたご様子でして、お店用に購入しておいた物まですっかり食べてしまわれたのです。

 ……ここで私は一言申し上げたいのです。

 最近のバテアさんは、就寝前に相当量のアイスを食べられて、同時に相当量のお酒も飲まれているのです。
 なのに、どうして体型がまったく変わらないのでしょうか?
 今も、チューブトップのトップスでヘソ出しをなさっているのですが、スラッとしていて贅肉のかけらも見つけることが出来ません。
 その食生活にお付き合いさせていただいております私は、先日自己最高体重を更新してしまいました。
 お気に入りのジーパンが……少々お腹が苦しい状態でございます。

 理不尽です。
 抗議します。
 
 私が頬を膨らませながらそう言いましたところ、バテアさんは
「あら、私もお肉がついたのよ? こことか」
 そう言いながらバテアさんが指さされたのは、そのお胸でした。
 女性の私が拝見しても、うらやましいと思ってしまう、そのお胸です。

 もう絶対理不尽ですよね!
 もう絶対に抗議しますよ!

 私はさらに頬を膨らませてそっぽを向きました。
 
◇◇

 そんなやりとりの後、私はお酒を購入していきました……はい、アイスクリームもしっかり購入いたしました。
 例によって、何度か駐車場に移動するふりをしては魔法袋の中に荷物を詰め込んでいった次第です。

 業務用スーパーでの買い物を終えた私達は、その足でショッピングモールへと移動していきました。
 少し距離がありますので、バスに乗ります。
「バス? 駅馬車みたいな物かしら?」
 そう言いながらバテアさんは私の後についてこられたのですが、

「何!? この鉄の塊に乗るの?」
「え? 街道を動いてた鉄の塊って、乗り物だったの?」
「ちょっと、何これ、結構早いじゃないの?」
 
 バス初体験だったバテアさんは、終始このような感じで、私の肩や腕を掴んでは声をあげておられました。
 ただ、私的にはバテアさんの転移ドアや、魔法袋、飛翔魔法などの方が何倍もすごいと思うのですが、こういったところはやはり今までの経験の差のようなものが関係するのでしょうね。

 10分ほどでショッピングモールへと到着いたしました。
 バス停に停車したバスから降りたバテアさんは、自動で開閉しているドアをマジマジと見つめながら、
「魔法……とは違うようね……へぇ」
 と、ここでも感心しきりのご様子でした。

 そして、ショッピングモールへ視線を向けられると
「……転移ドアの近くにあったビルっていう建物も結構大きかったけど、このしょっぴんぐもぉるって建物も大きいのねぇ……」
 びっくりしたような声を上げられながら、ショッピングモールの外観を見回し続けておられました。
 私は、そんなバテアさんににっこり微笑むと、
「はい、この大きな建物の中にたくさんのお店が入店しております。みはるのお店もその一軒なんですよ」
 そう言いながら、ショッピングモールへ入っていきました。
 バテアさんも慌てて私の後を追いかけてこられました。

 途中、エスカレーターや、巨大な吹き抜けなどにびっくりなさるバテアさんと一緒に、私は店内を移動していきました。
 二階の一角、ショッピングモールの中央に近いあたりにみはるのパワーストーンのお店
『プレシャスストーン』
 がございます。
 ちょうど店頭で接客をしていたみはるが、私達に気付いて笑顔で手を振ってくれています。
 私達も手を振り返しながらお店に入っていきました。

ーつづく
 
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