異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
26 / 343
連載

さわこさんと、農場 その1

しおりを挟む
 その後ショッピングモールをバテアさんと少し見て回った私達は、善治郎さんに挨拶をしてからバテアさんの世界へと帰って参りました。

 お店に戻ると、狩りから戻ったリンシンさんがお戻りだったのですが、一緒にエミリアがいました。
 リンシンさんのお昼に、と思って準備しておいた握り飯のお弁当を2人で食べながら待っていてくれたようなのですが、
「マーベラス! さすがさわこね……お姉ちゃんのお米をこんなに美味しくしちゃうなんて……」
 そんなことを口にしながら、握り飯を一心不乱に食べているところでした。

 エミリアとは週に一度アミリア米を運んできてもらう約束になっていまして、今日はその日ではないのですが、
「ザッツライ! さわこのお店が普段どんな感じで営業してるのか見に来てあげたのよ」
 エミリアはそう言ってにっこり微笑みました……ですが、
「バイザウェイ、なんで今日は午前中閉めてたのよ? 私、お店が潰れたのかと思って焦ったわ」
 エミリアはそう言いながら不思議そうな顔をしていました。
 リンシンさんによりますと、
「私が、狩りから戻ったら……お店の前で『リアリィ!? 潰れた!? ありえないし!』って、大騒ぎしてた……」
 と、まぁ、そのような事になっていたそうです。
 ひょっとしたらですが……エミリアは、居酒屋さわこさんが、バテアさんのお店と一緒に営業していると思い込んでいたのかもしれませんね。
「居酒屋さわこさんは、こちらのバテアさんの魔法道具のお店を間借りさせていただいて営業しているんです。ですので、魔法道具のお店が閉店してから開店するのですが、今日は仕入れの都合で魔法道具のお店をお休みしていただいたんです」
「へぇ、そうだったのね。アイシー、理解したわ。次からは間違えないから!」
 エミリアさんはそう言いながら、手にしている握り飯を見つめています。
「……ちょっといいかしら」
「はい?」
「お店がまだやってないってことは……このニギリメシのお代わりをイートしたいっていっても……無理ってことなのかしら?」
 エミリアは、おずおずとした感じで私へ視線を向けています。
 あぁ、そういうことですか。
 私は、エミリアににっこり微笑み返しました。
「お米ならすぐ炊くことが出来ますのですぐにお代わりを準備しますね」
「り、リアリィ! なんて今日は素敵な日なの!」
 私の言葉を聞いたエミリアは満面の笑顔を浮かべながら両手を胸の前で組み合わせ、祈りを捧げるような仕草をしていきました。

 私は、夜、すぐ炊き始めることが出来るようにと、土鍋に水とともにいれて1時間少々経った状態で魔法袋に保存しておいた土鍋を取り出し、早速炊き上げていきました。
 お店の中に、お米の炊けていくいい匂いが立ちこめていきます。
 エミリアは、カウンターの席から身を乗り出すと、その匂いを思いっきり吸い込んでいきました。
「これよこれ! お米の炊ける時のこの匂いが最高なのよね! マーベラス!」
 エミリアは、頬を赤くしながら歓声をあげていました。
 一応成人しているそうですが、私より一回り以上若い上に、かなり小柄で幼い顔立ちのエミリアのそんな仕草は、とても可愛い印象です。
 私は、そんなエミリアの仕草に癒やされながらお米を炊きつつ、おかずの料理も進めていきました。
 せっかくの時間ですからね。
 皆さんとお話しながら、夜の仕込みもしておこおうと思った次第です。

 あ、そうそう、その前に……

「バテアさん、さわこの森にまた行きたいのですが……」
 私は、バテアさんにそう言いました。
「それは良いけど……何? クッカドウゥドルを回収にいくの?」
 バテアさんがそう言うと、リンシンさんが元気に立ち上がりました。
「さわこ、私行くよ! 何羽?……」
「あ、いえ……今日の分はもう仕込み終わっていますので、追加は大丈夫です。それよりも、これを植える畑を作ろうかと思いまして……」
 私は、そう言いながらカウンターの上に、紙袋をいくつか並べていきました。

 これ、先ほど私の世界で買ってきた野菜の種なんです。

 クッカドウゥドルの放牧用のスペースが出来たわけですけど、そこではクッカドウゥドルを広大なスペースを使用して放牧しているのですが、それでもあの世界には未使用のスペースがいくらでもあるのです。
「そこに、この種を植えて、野菜を育ててみようかな……と思っているんですよ」
「へぇ……これ、さわこの世界の野菜なのね……聞いたことのない名前ばかりねぇ」
 バテアさんはそう言いながら種の袋を手に取って、それを不思議そうに眺めていらっしゃいました。
 この種、バテアさんと一緒に行ったショッピングモールのスーパーコーナーで購入したのですが、その際のバテアさんは、アイスやスナック菓子のコーナーに夢中でしたので、あまり印象に残っていなかったようですね。

 ……しかし、バテアさんってば……私の世界に行く度に、私の世界の食べ物を開拓なさっている感じですね。
 いままでは、異世界にいかれてもあまり現地の方とは接触なさっていなかったバテアさん。
「だってしょうがないじゃない。その世界の人がさ、異世界から来たアタシに対してどんな対応するかなんてわかんないし、面倒なことに巻き込まれたくないしね」
 バテアさんは、そう言いながら私を見つめておられました。
「……まぁ、さわこのようなめんどくさい人なら、むしろ大歓迎なんだけどね」
 そう言ってクスクス笑うバテアさんに、私は苦笑を返すことしか出来ませんでした。

 そんな会話を交えながら、私達が種の袋を見ていると……そこにエミリアが顔を寄せてきました。
「ホワット……これ何? 野菜なの?」
「えぇ、私のいた世か……あ、いえ、国の野菜の種なんです」
 私がそう言うと、エミリアは、バテアさんが手になさっている種の袋をジッと見つめ続けています。

「何? これに興味があるの?」
「イエス!」
 バテアさんの言葉に即答するエミリア。
 そこでバテアさんは、種の袋をエミリアに手渡しました。
「さわこ、なんかお酒ちょうだい。種の袋、しばらく返してもらえそうにないしさ」
 バテアさんは、そう言いながらその顔に悪戯っぽい笑みを浮かべています。

 エミリアをお酒を飲む口実に利用したのは明らかです。

 ……ですが、エミリアはバテアさんの言葉が耳に入らないほど、その種の袋に集中しています。
 確かに、少し時間がかかりそうですね。

 そこで私は、日本酒を並べている棚へと向き直りました。
 今、バテアさんが口になさっているのは、個人的に購入なさったポテトチップスです。

 そこで私が準備したのが純米吟醸の淡緑(うすみどり)でした。
 このお酒、最初は少し酸味を感じて、油っこくなっている口の中をキリッと引き締めてくれます。
 そして、フルーティな甘みが口の中に広がりながら口の中の味覚を一変させてくれます。
 それでいて、過度に主張することなく、口の中をまるで綺麗に洗い流しながら喉を落ちていく……そんな爽快なお酒です。
 ポテトチップスと一緒に口に含むと、そのハーモニーを楽しむ事が出来ること請け合いなんです。

 私がそのお酒をお注ぎすると、バテアさんは嬉しそうに微笑みながらそれを口に運んでいきました。
 リンシンさんも、飲みたそうになさっていたので一杯お注ぎしました。
 リンシンさんは、いつものようにまず自分の前にグラスを置いてそれを嬉しそうに眺めています。
 まず、色を楽しまれる、そんな感じですね。
「……綺麗……」
 リンシンさんは、うっとりしたような表情をその顔に浮かべています。
 その横では、バテアさんが早くも3杯目を飲みながら、同時に2袋目のポテトチップスを開けようとしておられます。
「まったく、そんなにのんびりしてたらアタシがそれも飲んじゃうわよ……っしかしまぁ、このポテトチップスとあうわね、このお酒。もちろんこれだけで飲んでも美味しいけどさ」
 バテアさんはそう言いながらグラスを傾けておられます。

 その時、予想外の出来事が発生したのです。

 それまで、野菜の種をじっと見つめていたエミリアが……リンシンさんが眺めているグラスを掴んだかと思うと、そのまま一気に飲み干してしまったのです。
 エミリアは、野菜の種にいまだに集中していて、無意識のうちに近くにあった飲み物を飲んでしまった……そんな雰囲気です。
 ですが、さぁ飲むぞ!と思われていたリンシンさんは、まるでムンクの叫びのようなポーズをしながら、空になったグラスを見つめておいでです……

 そんな中、おもむろに私へ視線を向けたエミリアが言いました。
「さわこ、この野菜の種の栽培……ぜひ、私とアミリア姉さんも参加させてもらいたいんだけど……」

ーつづく
しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。