異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、他の酒場 その4

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イラスト:くくみす先生

「では、調理していきましょう」
 前方の席に戻った私は、皆さんにそう声をかけていきました。

 油を入れた鍋を魔石コンロで十分に熱し、そこに玉ねぎを入れて炒めます。
 次に、コカウドンの肉を加えてさらに炒めます。色合いがよくなってきたらニルンジーン、ジャルガイモを加えてさらに炒めてまいります。
 ここで作り置きしておいた出汁を加えていきます。
 鍋の中の材料がひたひたになる程度加え、煮込んでいきます。
 沸騰したらアク取りをしていきまして、しょうゆ、みりん、蜂蜜を加えて落し蓋をしていきます。
 再び沸騰いたしましたら弱火にしましてし、味をしみこませるために煮込んでいきます

 調理の指導をしていると、ジュチさんが
「なんだこの味付け……こんなに調味料使ったことなんてないぞ……」
 そう言いながら目を丸くなさっていました。
「ジュチさんは、普段はどのような味付けをなさっているのですか?」
「味付け? そんなもん、素材の味をそのまんまが一番だろ?」
 ジュチさんの言葉に、他の皆さんもうんうんと頷いておられます。
 そんなみなさんの様子を拝見しながら、私は苦笑をお返しするのがやっとでした。

 ……あぁ、だからあの料理が出来上がるのですね……

 素材の味そのままを否定はしません。
 ですが、この世界の野菜は痩せているため総じて味そのものが薄いのです。
 その、味が薄い野菜の味をそのまま使用しても、味の薄い料理しか出来上がらないといいますか……

 ただ

 ジュチさん達中級酒場組合に加盟なさっている酒場の皆さんは、そういった味の薄い野菜しか使用したことがないのかもしれません。
 となると、その味が基準になってしまっているといっても過言ではないのかもしれません。

 とにもかくにも、まずはこの料理をみなさんに作っていただいて、その味を体感していただこうと思います。

◇◇

 ほどなくして、皆さん無事料理を完成させることが出来ました。

 今回作成したのは『肉じゃが』です。
 シンプルですが、十分メインのおかずになりうる料理だと私は思っております。

 早速皆さんに試食していただきました。
 バテアさんには、私が作成した肉じゃがを食べていただきます。
「ほんと、さわこの肉じゃがは最高なのよねぇ……こう、胃袋をわしづかみにされちゃったっていうかさ」
 バテアさんは笑顔でそう言ってくださりながら、私の肉じゃがを食べてくださっています。
 ……そうですね、その言葉を意中の男性の方に言っていただけたなら……私は、ふとそんなことを思ってしまいました……いっそバテアさんが男性の方だったらと、思わずにいられません。
 
 そんな私の後方では、ジュチさん達が一斉に歓声をあげておられました。
「うわ!? なんだこりゃ!? こんなうまい料理、このアタシが作ったってのか?」
「ちょっとこれ……信じれないくらい美味しいわ」
 皆さん、歓声とともにご自分がお作りになった肉じゃがをすごい勢いで食べておられます。
 その光景に、私も思わず笑顔になりました。

 ……ですが

 その光景を見つめながら、私の胸に一抹の不安がよぎりました。

 確かに肉じゃがを作ることには成功いたしました。
 その手つきを拝見させていただいた感じから判断いたしますに、皆さん料理の腕前はなかなかの物をお持ちだと思います……ただ、きちんと料理を習った経験がなかったのでは?……そう思わざるをえなかったわけです。
 この調子でしたら、料理教室を重ねていけば、皆さんのお店のメニューも充実していくことと思います。

 ……ですが

 ここで根本的な問題が……はい、あのお酒です。
 いくら美味しい料理をお出ししても、一緒に飲むのがあのうす~いお酒では、はっきりいって台無しです。
(……なんでこの世界には、あんなに薄いお酒しか存在しないのでしょうか……)
 私は腕組みをしながら少し考えこんでいきました。

 その時です。

「せっかくだ、これで乾杯しようぜ!」
 ジュチさんがそう言いながら、お酒の瓶を取り出されました。
 どうやらそれはお店でお出しされているお酒のようです。
 グラスを取り出したジュチさんは、その中にお酒を1mmずつ注いでいき、それを水で薄め始めました。

 ……すいません、少しお待ちください……

 1mm?

 私は一度自分の目を両手でこすり……そして、まだ水が注がれていないグラスを凝視いたしました。

 ……間違いありません……1mmです

 確かに、お酒は水で割って飲むこともあります。
 ですが……あれはいくらなんでも薄めすぎではないでしょうか?

 私は、ジュチさんの元へと歩みよりました。
「お、さわこ! お前も飲めよ」
 そう言ってジュチさんは私に薄め終わったグラスを手渡してくださいました。
 私はそれを受け取ると、口に含みました。

 ……間違いありません……間違いようがありません……ジュチさんのお店でいただいた、あのうすーいお酒です

 私は、おもむろにジュチさんが手になさっているお酒の瓶を手に取りました。
「え? あ? さ、さわこ?」
 困惑なさっているジュチさんの前で、私は新しいグラスにそのお酒を注ぎ、そのまま口にいたしました。

 ……まずくはありません……このままいただけば

 果実酒といいますか……甘い甘さが口の中に広がるお酒です。
 私の世界のお酒に比べれば洗練具合が若干劣っている気がいたしますが……十分美味しく頂けるお酒です……このままいただけば……
 
 私は、おもむろにジュチさんへ視線を向けました。
「……あの、ジュチさん」
「な、なんだいさわこ」
「なんでこのお酒をそんなに薄めておられるのですか?」
「へ?……な、なんでって言われても……アタシの親父の代から、この酒はこれぐらい薄めてから出してたぜ。早く客が酔っ払うようにアルコールだけ足してさ……中級酒場組合の酒場じゃ、みんなこうしてるけど?」

 ……ぷつん

◇◇

 え~……
 大変お恥ずかしいお話ですが……ここからしばらくの間、私の記憶が少々混乱しておりまして……
 バテアさんからお聞きしたお話を改めて思い返してみますと……

「『ジュチさんも皆さんも最低です!
  いいですか? このお酒はストレートでお出しするのがちょうどよくなるように作られています!
  それをなんですか?
  薄める?
  アルコールを足す?
  なんという罰当たりなことをなさっておられるのですか!
  あなた方がなさっている行為はですね、今皆さんがお作りになった肉じゃがを、水がいっぱいに入ったボールに突っ込んでお客様にお出しするのと同じ行為なのですよ?
  そんな料理が美味しいとお思いですか?
  そんなお酒が美味しいとお思いですか?
  お酒を造ってくださった方に申し訳ないと思わないのですか?
  お酒の神様にいますぐ土下座して謝ってください!』
 ってさぁ……すっごい剣幕でまくしたててさぁ……
 そんなさわこの迫力に推されたジュチ達は……」

 ……はい
 ジュチさん達は今、私に向かって土下座なさっておられます。
 ようやく意識がはっきりした私は、バテアさんのお話を聞いて真っ青になってしまいました。

 また、やらかしてしまいました……

 以前にもあったのです……
 お酒を粗末に扱っているお店で我を忘れて激怒してしまい、そのまま厨房に乗り込んで、お店の皆様に向かって大絶叫を噛ましてしまったことが……

 私は、真っ青になったまま口元を両手で押さえることしか出来ませんでした。

◇◇

 ……数日経ちました。

 ジュチさん達、中級酒場組合に加盟なさっているお店のメニューに軒並み「肉じゃが」が加わっています。
 どのお店でも肉じゃがは好評とのことでした。

 そして、皆さんのお店では、お酒をストレートでお出しするようになったそうです。
「いや、さわこに言われてハッとなったよ。いくら親父の代からやってたからって、結果的にそんなひどいことをしてたなんてさ……ホント、お酒の神様に土下座しなきゃなんないよな」
 ジュチさんはそう言って笑ってくださったのですが……私的には、そのお言葉をお聞きしながら私の方が土下座させていただかないと、と思いつつ脂汗が背中をつたいまくっていたわけでございまして……

 ただですね……その影響もあってか、中級酒場組合の皆さんのお店にお客さんが戻ってきているそうなんです。
 やはり、美味しい物をお出しして誠実に商売をしていれば……きれい事かもしれませんが、神様は見ていてくださると、私は思っています。

 ジュチさん達も頑張っておられるのです。
 私も負けてはおれません。

 今日も居酒屋さわこさんは、元気に営業しております。

 今日のお客様には、日本酒「月の井」をお勧めしております。
 口に含むと、果物を思わせる甘みが口いっぱいに広がるのですが、飲み干すと同時に爽やかな後口を楽しむ事が出来るお酒です。
 肉じゃがや焼き鳥といった、味が濃いめの料理にもとてもあうお酒です。

 常連のドルーさんや、頭に竜の角の生えている亜人さんや、いつもお昼の握り飯弁当を購入してくださるりょうがさん、頭が鍋の形をなさっている亜人さん達は、美味しそうに月の井を飲んでおられます。
「さわこ、この酒はいいな! よっしゃ肉じゃがと焼き鳥をもう1人前ずつじゃ」
 ドルーさんのお言葉に、私は
「はい、喜んで!」
 そう、笑顔でお答えしていきました。

ーつづく
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