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連載
さわこさんと、ラニィさん その5
しおりを挟むイラスト:くくみす先生
ラニィさんがいなくなり、私が塩をまくことに満足した頃、
「さぁ、そろそろ私達の出番かしら?」
「準備ならもう出来てるんだわ」
バテアさんが魔法道具のお店の奥に常設なさっている転移ドアからアミリアさんとワノンさんが姿を見せました。
お2人はそう言うと、その足でバテアさんのお店の裏へと回っていきました。
そこには、大きなテントのような建物が出来上がっていました。
少し大きいのですが、バテアさんによりますと隠蔽魔法? というものがかけられているそうでして、そのおかげで周囲にはその存在がまったくわからなくなっているんだそうです。
私や、ジュチさん達中級酒場組合の皆さんは、除外設定されているので見ることが出来るんだそうです……すいません、自分で言っていてもよく理解出来ていない感じです……いけませんね、もう少し魔法という物を勉強いたしませんと……
そのテントの中にはですね、木箱に入った大量の野菜、大量のお酒、大量のお肉が並んでいます。
「すげぇな、これ。これを1週間で準備したってのか」
ジュチさん達は、木箱の中身を確認しながら感嘆の声をあげておられました。
その後方では、中級酒場組合の皆さんもジュチさん同様に感嘆の声をあげておられます。
そんな皆さんの前で、アミリアさんとワノンさんは互いに肩を組みながら笑っておられます。
「ふっふっふ、野菜はこのアミリアさんにおまかせよ! さわこが提供してくれた種を研究してね、この世界の野菜の品種改良に大成功したんだから!」
アミリアさんがそう言われておられますように、木箱に入っている野菜は市場で流通しているような痩せている野菜ではなく、私の世界で流通しているように丸々とした、大きな野菜ばかりでした。
「へっへっへ、酒も全部新商品なんだわ。ワー子と2人で開発した新しい酒、パルマ酒なんだわ。ポルテントチップ商会に販売しているワノン酒とは段違いだわよ」
ワノンさんがそう言っておられますように、木箱に入っているお酒は、以前の果実酒ではなく、日本酒造りに精通しているワー子こと和音がワノンさんと二人三脚で開発し、この世界で産声をあげたばかりの日本酒、パルマ酒の瓶が満載になっていました。
ワノンさんのこのお酒は、アミリアが生産しているアミリア米を使用して作成されています。
そのため、ワノンさんはアミリアさんの研究所と畑があります、さわこの森のある異世界に新しい酒蔵を作り、そこでこのお酒を製造なさっておられます。新しい酒造工房はドルーさん達が一昼夜かけて作り上げてくださいました。
和音曰く、
「ワノン酒はね、基礎がしっかりしていて日本酒とよく似た製造方法をしていたからね、おかげで作業は順調だったよ。アミリア米もね、パルマ世界の山田錦って言っても過言じゃないほどお酒造りに向いてたもんだから、私まで嬉しくなっちゃった」
とのことでした。
ちなみに、そんな和音が着用しているシャツには、手書きで「パルマ酒」と書かれていました。
アミリアさん・ワノンさん・和音達はこの1週間、さわこの森で、不眠不休で頑張ってくださいました。
そこでとても重要な役割をなされたのがバテアさんさんでした。
バテアさんは、アミリアさんが品種改良した野菜の種を畑に植えると、その種に成長促進魔法をかけてすぐに実がなるまで生長させてくださいました。
ワノンさんと和音がお酒を仕込むと、時間短縮魔法を使用なさって一気にお酒を完成させてくださったのです。
ワノンさんと和音は、その味を確認しては再度仕込みを行い、そこにバテアさんが再び魔法を……それを繰り返し、ついに昨日ワノンさんと和音の2人がともに納得出来るお酒が出来上がったのです。
これらの商品の詰め込み作業は、バテアさんが生成なさったゴーレムの皆様が頑張ってくれています。
さわこの森の土を使って生成されたゴーレムの皆様は、バテアさんやアミリアさん、ワノンさんや和音の指示をよく聞いて、テキパキと作業を行ってくれています。
お肉に関してましては、居酒屋さわこさんの常連客の冒険者の皆様が頑張ってくださいました。
「ちょうど上級酒場組合の酒場との専属契約も終わったしね、今後はこっちに協力させてもらうわよ」
そう言ってくださったクニャスさんや、
「居酒屋さわこさん専属契約の冒険者は、私……」
張り切っておられるリンシンさん、さらにマクタウロさん、ジューイさん、シウアさん、マイさん達もこの1週間狩りに明け暮れてくださりまして、大量の魔獣のお肉を提供してくださったのです。
さすがに、それだけのお肉を買い取るだけのお金は私は持ち合わせておりませんでした……何しろ、薄利多売で商っておりますもので……それはジュチさん達中級酒場組合の皆さんも同様だったのですが、
「お金ならアタシが立て替えておいてあげるから、ジュチ達はしっかり働いてとっとと返すのよ!」
そう言って、バテアさんが冒険者の皆様に一括でお肉の代金を全額支払ってくださったのです。
これは本当に助かりました。後でお支払いさせていただくつもりだったとはいえ、冒険者の皆さんにただ働きさせずに済みましたので。
ジュチさん達中級酒場組合の皆さんも
「バテアさん、格好いい!」
「一生ついていきます!」
口々にそう歓声をあげておられました。
そんなみなさんの汗と努力の結晶が、今、私達の前に並んでいる大量の木箱なのです
ジュチさん達中級酒場組合の皆さんは、その木箱を持参してこられていた荷車にどんどん積み込んでいます。
その積み込み具合をエミリアがきっちりチェックし、メモしてくれています。
「リッスン! 支払いは後払いで結構です。お帰り前に私から仕入れ伝票を受け取ってから帰ってくださいね。支払期限は必ず守ってください。万が一守れそうにないときは事前に報告してください。報告なく支払遅延した場合は以後の取引を停止しますからね、OK?」
エミリアの言葉に、ジュチさん達中級酒場組合の皆さんは一斉に返事をなさっておられます。
この市場は、私の発案で、「バテア青空市」と命名されました。
◇◇
バテア青空市で仕入れを行われたジュチさん達中級酒場組合の皆さんは、この日の夜から早速酒場の営業を再開なさいました。
その再開と同時に、多くのお客さんが押し寄せたそうです。
このお客様達は、私のお店やジュチさん達中級酒場組合の酒場が閉まっている間は上級酒場組合の酒場へ通われていたようなのですが、
「あそこの酒場は、確かに酒も料理もうまいんだけどとにかく高くてね、それに店員もどこか気取っているというか、あんまり愛想が良くなくて……店内で馬鹿話を始めるとすぐに店員がとんできて『他のお客様のご迷惑になりますのでお静かに』そう言われるからさ、酒を飲んだ気がしないんだ」
ナベアタマさんも、そう言いながら肩をすくめておられました。
そんなお客様達に、ジュチさん達中級酒場組合の皆様の酒場で振る舞われたのは、アミリアさんの作った野菜とリンシンさん達が狩って来たお肉で作成された料理と、ワノンさんと和音が作ったパルマ酒です。
お料理の指導は僭越ながら私がさせていただいております。
それらの料理を口になさったお客様達は
「なんだこりゃ!? 中級酒場組合の店でこんなにうまい酒と料理が口に出来るのか!?」
「おいおい、こりゃ上級酒場組合の店のよりもうまいぞ」
口々にそうおっしゃっておられました。
中級酒場組合の皆様と歩調を合わせてお店を再開した居酒屋さわこさんにも多くのお客様が来店くださいました。
「ジュ……やっぱりここが一番落ち着くジュ」
ジューイさんが嬉しそうにお手拭きで顔を拭いています。
その後方では、ドルーさんがお弟子さん達とテーブルを囲んでおられます。
店内は、おなじみの皆様であっという間に満席になっておりました。
そんなお客様達を、エミリアがお出迎えしてくださり、リンシンさんがお料理を運んでくださり、バテアさんがお酒をお酌してくださっています。
そんな中、
「さわこ、焼き鳥5人前お願いね」
注文を受けてくださったバテアさんが私に声をかけてくださいました。
私は、バテアさんに
「はい、喜んで!」
満面の笑みでお答えいたしました。
この夜、居酒屋さわこさんだけでなく、ジュチさん達中級酒場組合の皆さんのお店はすべて過去最高の売り上げを記録することになりました。
ーつづく
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