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連載
さわこさんと、市場と上級酒場組合 その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
周囲を見回してみました。
やはり、見覚えのない部屋の中です。
私は改めて記憶を遡ってみました。
……そうですね
ジュチさんに用事があって、お店を出て……街道を歩いていて
どうも、その途中で記憶が途切れているように思います。
私は改めて周囲を見回してみました。
木造の建物のようです。
部屋には窓がないため、室内は薄暗いです。
木の壁の隙間から差し込んでいる光りのおかげで、どうにか室内の様子を伺うことが出来ております。
そんな中、私はですね……椅子に座らされているようなのですが、身動きすることが出来ません。
どうやら椅子に縄で固定されているようです……口も布で覆われているらしくて言葉を発することが出来ません。
こ、これって、私……連れ去られたってことなのでしょうか!?
誰が?
なんのために?
頭の中にいくつものクエスチョンマークが飛び交っておりますけど……何ひとつとして答えが見つかりません。
と、とにもかくにも、どうにかしてここから逃げださないと……そう思った私は、必死に腕を動かしはじめました。
とはいうものの、両手も後ろ手に縛られているため、ほとんど動かすことが出来ません。
それでも、私は必死に体を動かしました。
そのせいで椅子がガタガタ動いてしまいます。
その時でした。
「あら? 目が覚めちゃったのかしら、お嬢ちゃん?」
部屋の鍵が開く音とともに部屋のとが開き、同時にそのような声が聞こえてまいりました。
中に入っていらしたのは、女性の方でございます。
背が高く、非常にメリハリのあるお体をなさっておられる……そうですね、バテアさん並み、と申しましょうか……そのようなご立派なお体のその女性は、椅子に固定されている私を見下ろしておられます。
「『なんで自分がこんなところに?』そう思っているみたいね……ふふ。まぁ、そう心配しなくてもいいのよ。あなたにはね、しばらくの間ここでおとなしくしてもらうことになってるの。その間、危害は加えないから心配しなくてもいいわよ」
その女性はそう言われると、その後方から小柄な女性が室内に入ってこられました。
身長は私よりも低く……そうですね、エミリアくらいでしょうか。胸のサイズも、私やエミリア並といえます。
その女性は、そのまま私の近くに寄ってこられると、右手を私の額に向かって伸ばしてこられました。
「向こうにも魔法使いがいるから……意識を切らせてもらう……意識をたどって、ここにたどり着く可能性がある……」
その女性の右手の先に、魔法陣? のような物が光り輝きはじめました。
同時に、私の意識が急速に混濁してまいった次第です。
……あ……この感覚……街道を歩いている時にも感じた気が……
私は、急速に薄れ始めた意識の中で
『バテアさん』
そう、呟きました。
「さ――わ――こ――」
その時でした。
どこか遠くの方からバテアさんの声が聞こえた気がしました。
次の瞬間
薄れていた私の意識が一気にはっきりいたしました。
そんな私の目には……バテアさんにぶん殴られて壁まで吹き飛んでいる、小柄な女性の姿が飛び込んでまいりました。
「な……なんでここがわかったのよ!? この建物の周囲には結界も張ってあるのよ……なのに……」
大柄な女性の方が、困惑した表情をその顔に浮かべておられます。
バテアさんは、その女性を睨み付けておられます。
「なめんじゃないわよ。親友のさわこのことくらい、簡単に見つけることができるってのよ」
そう言うと、バテアさんは右手を大きく振りかぶられました。
「あんたもくらいな、物理魔法デラマウントボア突進パンチ!」
次の瞬間、光りをまとったバテアさんの右腕が大柄な女性の顔面に、あり得ないほどめり込んでいきました。
そのあまりの衝撃映像を前にして、私は目を丸くしながら固まっておりました。
そんな私の視線の先で……大柄な女性は、小柄な女性がめり込んでいる壁の真横へとめり込んでいかれました。
小柄、大柄、両方の女性がピクリともしなくなったことを確認なさったバテアさんは、私の元へ駆け寄ってきてくださいました。
「さわこ、大丈夫? このクソ馬鹿どもになにもされてない?」
そう言いながら、バテアさんは私を拘束している紐をほどいてくださいました。
そして、ようやく椅子から開放された私は、
「バテアさん、こ、こわかったです」
そう言いながら、バテアさんに抱きついていきました。
その時、部屋の戸が再び開きました。
「さわこ、無事?……」
その戸から、いつもの巨大なハンマーを構えたリンシンさんを先頭に、ジューイさん達居酒屋さわこさんの常連客の冒険者の皆様が続々と室内になだれ込んでこられました。
あとでわかったことなのですが……
私は街道を歩いている最中に、あの小柄な女性~魔法使いの方だったそうなのですが、その方に後ろから魔法をかけられてしまい意識を失ってしまったんだそうです。
比較的人気のない場所で意識をなくされ、そのまま数人の男子に担ぎ上げられて運んでいかれたそうなのですが、それをたまたまツカーサさんが見かけておられたものですから、すぐさまそれをバテアさん達に伝えてくださったのだそうです。
そのおかげで、私はこんなに早く助かることが出来たのだそうです。
そうした経緯がございまして、私は無事に助けだしていただけたのでございます。
◇◇
その後、私はトツノコンベ役場と衛兵詰所で事情聴取をおこなわれました。
もっとも、大半の時間、意識を失っていた私は、ほとんど何もお答えすることが出来なかったのですが……
そんな私に、役場ではヒーロさんが事情聴取のお相手をしてくださいました。
「いや、さわこさん、今回は災難だったね、妙なことに巻き込まれて」
そう言われると、ヒーロさんは今の時点でわかっていることを私に教えてくださいました。
今回、私に話しかけてこられた大柄な女性、あの方はポルテントチーネさんだったそうです。
あの、ポルテントチップ商会のボスをなさっている方ですね。
そのポルテントチーネさんなのですが……バテアさんに吹き飛ばされた後、そのバテアさんが私を開放してくださっている間、リンシンさん達が室内になだれ込んでこられるまでのわずかな間に、またも逃げおおされたのだそうです……
そのため、私が監禁されていた建物の中で捕縛されたポルテントチーネさんの部下の方々や、私の意識を失わせようとなさった小柄な魔法使いの方からあれこれ事情を聞かれているのだそうです。
「そいつらの話によると……ポルテントチーネは、さる人達からさわこさんの拉致を依頼されたそうだ。そいつらはさわこさんの身柄を交換条件にして、何かをしでかそうとしていたようだね」
「何か……ですか?」
「残念ながら、それが何かまでは今回捕縛した連中も知らされていなかったみたいなんだ。依頼主に関する情報も逃亡したポルテントチーネしか知らなかったみたいでね」
ヒーロさんは、そう言われました。
私が拉致されてすぐに救出されたためか、私の身柄を利用して誰かが誰かに対して脅迫のようなことを行われたという事態はまだ発生してはいなかったようなのですが、重要参考人として上級酒場組合の方々と、卸売市場の方々全員からあれこれ事情を聞いておられるとのことでした。
◇◇
結局、この日の私は夕方近くまで事情聴取を行われておりました。
すべての事情聴取を終え、役場を後にすることになった私は、わざわざお見送りにきてくださったヒーロさんに
「色々ありがとうございました」
そう言って、深々と頭を下げました。
ヒーロさんは、そんな私に向かって優しく微笑みかけてくださいました。
「さすがにもう大丈夫とは思うんだけど、念のためにしばらくは衛兵にお店の近くを警らさせるから……」
そう言ってくださったヒーロさんなのですが、そのお言葉をお聞きしていた私の肩を、後方から歩みよってこられたバテアさんが抱き寄せてくださいました。
「それなら心配無用だよ、しばらくはこのアタシがさわこの身辺警備をするからさ」
そう言って笑ってくださるバテアさん。
その後方には、リンシンさんやアミリアさん、エミリア、ラニィさん、ワノンさん、そして和音の姿までありました。
ただ、和音の着ているシャツに書かれている文字……『犯人ブッコロ』は、ちょっと物々しいので勘弁してほしいなと、思ったのですが……
私は、皆さんを見回すと、
「ご心配おかけしてもしわけありませんでした」
そう言って、頭を下げました。
そんな私は、みなさんは
「いやぁ、ホントさわこが無事でよかったわ」
「犯人見つけたらフルボッコですね」
「ううん、殺そう……」
「ノーノー、リンシンさんまで犯罪者になってどうするのですか」
「とにかく、本当に無事でよかったわ」
口々にそう言ってくださいました。
私は、みなさんと一緒に帰路についたのですが、私の周囲を皆さんが取り囲むようにして歩いてくださいました……あ、あの、う、嬉しいのですが、ちょっと警戒しすぎなのでは……
ーつづく
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