73 / 343
連載
さわこさんと、異世界A5肉 その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
私が慌てて下着を身につけていると、ベッドの下の布団では、リンシンさんがラニィさんとエミリアを2人まとめて抱き枕よろしく抱きしめて寝ておられるのに気が付きました。
気のせいか、ラニィさんとエミリアが気絶しているような顔をなさっているような、いないような……
どうにか服を身につけ終えた私は、床の上に散らかっているバテアさんの服をまとめていきました。
ベッドの中で寝息をたてておられるバテアさんは当然のように素っ裸でございます、はい……
とはいえ、バテアさんくらいナイスバディですと、裸で寝ておられても絵になりますけど……はぁ、どうして私の体はこうメリハリがないといいますか……
こ、こほん
それはさておきましてですね、バテアさんの枕元にまとめた衣服を置いた私は、一階の厨房へ降りていきました。
いつものようにさわこの森の皆さん用に朝ご飯を作成し、冒険者の皆様や、なぜか今朝も当然のように加わっているご近所のツカーサさんと一緒にそれをいただいていきました。
朝食後、さわこの森へお戻りになられる皆さんと、狩りに出かけられるリンシンさんを加えた冒険者の皆様をお見送りした私は、ラニィさんとエミリアと一緒にまずお店の掃除から始めていきました。
「そういえば、昨夜のお客様達がどこかの都市でタテガミライオンのお肉を食べたことがあると言われていたのですけど、ラニィさんやエミリアは、その都市にお心当たりがありませんか?」
厨房を拭きながら、私は2人に声をかけました。
すると、テーブルと椅子を拭いてくださっていたラニィさんが私の方を向かれました。
「ナカンコンベやブラコンベって言ってたと思うのですけど……確か、東の方にそのような名前の都市があったように思いますわ」
ラニィさんの言葉を聞いたエミリアが、魔法道具のお店の棚を片付けていた手を止めてこちらへ視線を向けてまいりました。
「そうね、ここから南にあるバトコンベに出て、そこから街道沿いに東へ向かったところにあるのがナカンコンベよ、OK?」
「へぇ、そうなのですね」
エミリアの話ですと、このトツノコンベからバトコンベまでが馬車で2ヶ月少々、バトコンベからナカンコンベまでは馬車で半月程の行程なのだそうです。
馬車で往復しようと思うと5ヶ月近くかかってしまう計算になります。
これだけ距離があるとなりますと、あちら方面から行商の方がタテガミライオンのお肉を仕入れて売りにこられるということもまずないでしょうね。
とは言いましても、昨夜あれだけ大人気だったお肉です。
もし仕入れることが出来るのでしたら、なんとかしたいものでございます。
「ならさ、ちょっと行ってみる?」
厨房で私がブツブツ言っていますと、ようやく起きてこられたバテアさんが大あくびをなさりながら素っ裸のまま……
「ば、バテアさん!? 枕元に服を置いておいたでしょう!?」
「あ? あらら……ごめんごめん、わさこの脱ぎっぷりがあんまりすごかったらついアタシも釣られて脱いじゃったみたいね」
「きゃーきゃーきゃー」
笑いながら2階に戻っていかれるバテアさんの言葉を、私は悲鳴で必死にかき消していきました。
そんな私を、ラニィさんとエミリアがジト目で見つめています。
「さわこ……あなたまたやってしまったのですの?」
「ストリップはBooね、さわこ」
2人はどうやら私が酩酊して脱ぎ始める前に、リンシンさんに抱き枕にされて気を失っていたようですね……私が素っ裸になってしまったことを知らないようです。
「ち、ちがうんです!……ほ、ほら、バテアさんはまだ寝ぼけているんですよ、ほら、私の事を『わさこ』って呼んでいらっしゃったじゃありませんか! ね、ね」
私は、必死にごまかそうとして言葉を続けていったのですが……ラニィさんとエミリアのジト目が終わることはありませんでした……
◇◇
その後、服を着て戻ってこられたバテアさんは、改めて私の前に移動してこられました。
「とりあえずナカンコンベに行ってみるのがいいと思うわ。都市の規模としてはバトコンベの方が大きいけど、あそこは傭兵都市として有名だからね。ナカンコンベは商業都市として知られているから、タテガミライオンの肉を扱っているお店があるかもよ」
バテアさんはそう言うと、魔法陣を展開されましてそこに転移ドアを出してくださいました。
そのドアをくぐると、私達はある街の中へと移動しておりました。
そこは街道だったのですが、トツノコンベの街道よりも非常に大きな街道ですね。
しかも、その街道をとても多くの方々が行き来なさっておられます。
街道沿いに多くのお店が軒を連ねておられまして、とても賑やかな声が街道に溢れています。
「ここが……商業都市のナカンコンベなのですか?」
「えぇ、正確には辺境都市ナカンコンベね。このあたりでは一番大きな商業都市だと思うわ。バトコンベの南に最近辺境都市になった商業が盛んな都市があるみたいだけど、現状ではまだまだここが群を抜いているわね」
バテアさんの説明をお聞きしながら私達は街道を歩いていました。
すると、街道の一角にすごい行列が出来ているお店がありました。
「バテアさん……あそこは何のお店なんでしょう?」
「えっと……あれ? あんな店あったかしらね?」
バテアさんも、そのお店を見つめながら首をひねっておられます。
私達は、そのお店に近づいていきましてお店の看板を見上げていったのですが……
「え?」
その看板の文字を見た私は思わず目を丸くしてしまいました。
『コンビニおもてなし 5号店』
……間違いありません。
そこには、赤い看板に「コンビニおもてなし」と書かれています。
えっと……確か、私の世界でですね、私が暮らしていた街の少し北にある草社市ってところに、そんな名前のコンビニエンスストアがあったような気がしないでもないのですが……
「どうしたのさわこ? ひょっとしてこのお店、知ってるの?」
「え? ……えぇ……その……知っているようなといいますか、知らないような、といいますか……」
そう言いながら、私は苦笑を浮かべていくのが精一杯でした。
そうですよね……い、いくらなんでも私と同じ世界の、しかも結構ご近所にあったお店が異世界でお店を開店しているなんて……ありえませんよね……
私は、自分で自分を納得させると、大きく頷きました。
すると、そんな私とバテアさんの側に、一人の女性が歩みよってきました。
「そこのお2人さんもコンビニおもてなしにご来店ですか? 今なら夏バテ解消間違いなしなウルムナギ弁当がお勧めですよぉ、どうですか、試食をお一つ」
「あ、は、はい、ありがとうございます」
その女性が差し出してくれた試食を手にした私とバテアさんは、その小さな容器の中を見つめていきました。
試食だけありまして小盛りですが……これは、鰻の蒲焼きと同じ感じがしないでもありません……
容器の中を見つめている私の横でバテアさんは顔をしかめておられます。
「ウルムナギぃ? あの泥臭いやつでしょ? ちょっと食えたもんじゃないわよあれ」
「おや? お客様はご存じないようですね、まぁ騙されたと思って食べてみてください。間違いなく良い意味で騙されますから!」
先ほどの女性がニコニコ笑いながらそうバテアさんに話しかけていきました。
それを受けまして、バテアさんは渋々といった感じで試食を口に入れていかれたのですが、
「ちょ!? な、なにこれ!? これがあのウルムナギなの!? すっごく美味しいじゃない」
そう言って目を見開かれました。
私も続いて試食を口に入れていったのですが……間違いありません、これ、鰻の蒲焼きそのものです。しかも私の世界の調理方法と同じ方法で調理されています。
「これは……ホントに美味しいですねぇ」
「でしょでしょ? さ、良かったらよってらっしゃいみてらっしゃいですよ」
その女性はにっこり笑っておられます。
「驚いた……ウルムナギをこんなにおいしく調理出来るお店があったなんてね……まぁ、タテガミライオンの肉には劣るけどさ」
「そりゃそうですよ、タテガミライオンのお肉のお弁当は別格ですからね。コンビニおもてなし一番の売れ筋商品ですもの」
バテアさんの言葉に、その女性はそう言って胸をはられました。
その言葉に、私とバテアさんは再び目を丸くいたしました。
い、今確かにこの女性、タテガミライオンのお肉のお弁当って言われましたよね!?
ーつづく
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
