異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、異世界A5肉 その1

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イラスト:NOGI先生

 私が慌てて下着を身につけていると、ベッドの下の布団では、リンシンさんがラニィさんとエミリアを2人まとめて抱き枕よろしく抱きしめて寝ておられるのに気が付きました。
 気のせいか、ラニィさんとエミリアが気絶しているような顔をなさっているような、いないような……

 どうにか服を身につけ終えた私は、床の上に散らかっているバテアさんの服をまとめていきました。
 ベッドの中で寝息をたてておられるバテアさんは当然のように素っ裸でございます、はい……
 とはいえ、バテアさんくらいナイスバディですと、裸で寝ておられても絵になりますけど……はぁ、どうして私の体はこうメリハリがないといいますか……

 こ、こほん

 それはさておきましてですね、バテアさんの枕元にまとめた衣服を置いた私は、一階の厨房へ降りていきました。
 いつものようにさわこの森の皆さん用に朝ご飯を作成し、冒険者の皆様や、なぜか今朝も当然のように加わっているご近所のツカーサさんと一緒にそれをいただいていきました。

 朝食後、さわこの森へお戻りになられる皆さんと、狩りに出かけられるリンシンさんを加えた冒険者の皆様をお見送りした私は、ラニィさんとエミリアと一緒にまずお店の掃除から始めていきました。
「そういえば、昨夜のお客様達がどこかの都市でタテガミライオンのお肉を食べたことがあると言われていたのですけど、ラニィさんやエミリアは、その都市にお心当たりがありませんか?」
 厨房を拭きながら、私は2人に声をかけました。
 すると、テーブルと椅子を拭いてくださっていたラニィさんが私の方を向かれました。
「ナカンコンベやブラコンベって言ってたと思うのですけど……確か、東の方にそのような名前の都市があったように思いますわ」
 ラニィさんの言葉を聞いたエミリアが、魔法道具のお店の棚を片付けていた手を止めてこちらへ視線を向けてまいりました。
「そうね、ここから南にあるバトコンベに出て、そこから街道沿いに東へ向かったところにあるのがナカンコンベよ、OK?」
「へぇ、そうなのですね」
 エミリアの話ですと、このトツノコンベからバトコンベまでが馬車で2ヶ月少々、バトコンベからナカンコンベまでは馬車で半月程の行程なのだそうです。
 馬車で往復しようと思うと5ヶ月近くかかってしまう計算になります。
 
 これだけ距離があるとなりますと、あちら方面から行商の方がタテガミライオンのお肉を仕入れて売りにこられるということもまずないでしょうね。
 とは言いましても、昨夜あれだけ大人気だったお肉です。
 もし仕入れることが出来るのでしたら、なんとかしたいものでございます。
「ならさ、ちょっと行ってみる?」
 厨房で私がブツブツ言っていますと、ようやく起きてこられたバテアさんが大あくびをなさりながら素っ裸のまま……
「ば、バテアさん!? 枕元に服を置いておいたでしょう!?」
「あ? あらら……ごめんごめん、わさこの脱ぎっぷりがあんまりすごかったらついアタシも釣られて脱いじゃったみたいね」
「きゃーきゃーきゃー」
 笑いながら2階に戻っていかれるバテアさんの言葉を、私は悲鳴で必死にかき消していきました。
 そんな私を、ラニィさんとエミリアがジト目で見つめています。
「さわこ……あなたまたやってしまったのですの?」
「ストリップはBooね、さわこ」
 2人はどうやら私が酩酊して脱ぎ始める前に、リンシンさんに抱き枕にされて気を失っていたようですね……私が素っ裸になってしまったことを知らないようです。
「ち、ちがうんです!……ほ、ほら、バテアさんはまだ寝ぼけているんですよ、ほら、私の事を『わさこ』って呼んでいらっしゃったじゃありませんか! ね、ね」
 私は、必死にごまかそうとして言葉を続けていったのですが……ラニィさんとエミリアのジト目が終わることはありませんでした……

◇◇

 その後、服を着て戻ってこられたバテアさんは、改めて私の前に移動してこられました。
「とりあえずナカンコンベに行ってみるのがいいと思うわ。都市の規模としてはバトコンベの方が大きいけど、あそこは傭兵都市として有名だからね。ナカンコンベは商業都市として知られているから、タテガミライオンの肉を扱っているお店があるかもよ」
 バテアさんはそう言うと、魔法陣を展開されましてそこに転移ドアを出してくださいました。
 そのドアをくぐると、私達はある街の中へと移動しておりました。

 そこは街道だったのですが、トツノコンベの街道よりも非常に大きな街道ですね。
 しかも、その街道をとても多くの方々が行き来なさっておられます。
 街道沿いに多くのお店が軒を連ねておられまして、とても賑やかな声が街道に溢れています。
「ここが……商業都市のナカンコンベなのですか?」
「えぇ、正確には辺境都市ナカンコンベね。このあたりでは一番大きな商業都市だと思うわ。バトコンベの南に最近辺境都市になった商業が盛んな都市があるみたいだけど、現状ではまだまだここが群を抜いているわね」
 バテアさんの説明をお聞きしながら私達は街道を歩いていました。
 すると、街道の一角にすごい行列が出来ているお店がありました。
「バテアさん……あそこは何のお店なんでしょう?」
「えっと……あれ? あんな店あったかしらね?」
 バテアさんも、そのお店を見つめながら首をひねっておられます。
 私達は、そのお店に近づいていきましてお店の看板を見上げていったのですが……
「え?」
 その看板の文字を見た私は思わず目を丸くしてしまいました。

『コンビニおもてなし 5号店』

 ……間違いありません。
 そこには、赤い看板に「コンビニおもてなし」と書かれています。
 えっと……確か、私の世界でですね、私が暮らしていた街の少し北にある草社市ってところに、そんな名前のコンビニエンスストアがあったような気がしないでもないのですが……
「どうしたのさわこ? ひょっとしてこのお店、知ってるの?」
「え? ……えぇ……その……知っているようなといいますか、知らないような、といいますか……」
 そう言いながら、私は苦笑を浮かべていくのが精一杯でした。

 そうですよね……い、いくらなんでも私と同じ世界の、しかも結構ご近所にあったお店が異世界でお店を開店しているなんて……ありえませんよね……

 私は、自分で自分を納得させると、大きく頷きました。

 すると、そんな私とバテアさんの側に、一人の女性が歩みよってきました。
「そこのお2人さんもコンビニおもてなしにご来店ですか? 今なら夏バテ解消間違いなしなウルムナギ弁当がお勧めですよぉ、どうですか、試食をお一つ」
「あ、は、はい、ありがとうございます」
 その女性が差し出してくれた試食を手にした私とバテアさんは、その小さな容器の中を見つめていきました。
 試食だけありまして小盛りですが……これは、鰻の蒲焼きと同じ感じがしないでもありません……
 容器の中を見つめている私の横でバテアさんは顔をしかめておられます。
「ウルムナギぃ? あの泥臭いやつでしょ? ちょっと食えたもんじゃないわよあれ」
「おや? お客様はご存じないようですね、まぁ騙されたと思って食べてみてください。間違いなく良い意味で騙されますから!」
 先ほどの女性がニコニコ笑いながらそうバテアさんに話しかけていきました。
 それを受けまして、バテアさんは渋々といった感じで試食を口に入れていかれたのですが、
「ちょ!? な、なにこれ!? これがあのウルムナギなの!? すっごく美味しいじゃない」
 そう言って目を見開かれました。
 私も続いて試食を口に入れていったのですが……間違いありません、これ、鰻の蒲焼きそのものです。しかも私の世界の調理方法と同じ方法で調理されています。
「これは……ホントに美味しいですねぇ」
「でしょでしょ? さ、良かったらよってらっしゃいみてらっしゃいですよ」
 その女性はにっこり笑っておられます。
「驚いた……ウルムナギをこんなにおいしく調理出来るお店があったなんてね……まぁ、タテガミライオンの肉には劣るけどさ」
「そりゃそうですよ、タテガミライオンのお肉のお弁当は別格ですからね。コンビニおもてなし一番の売れ筋商品ですもの」
 バテアさんの言葉に、その女性はそう言って胸をはられました。
 その言葉に、私とバテアさんは再び目を丸くいたしました。

 い、今確かにこの女性、タテガミライオンのお肉のお弁当って言われましたよね!?

ーつづく
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