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連載
さわこさんと、ペット その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
居酒屋さわこさんに、新しいメニューが加わりました。
ジャッケを使った石狩鍋と、ジャッケいくら丼でございます。
いずれも、私の世界の料理ですけれども、その素材として使用しておりますのはこちらの世界の食材でございます。
大げさではございますけれども、こうやって私の世界の料理とこちらの世界の食材を融合させてまいりますのって、両方の世界の橋渡しが出来たみたいで、なんだかとても嬉しく思ってしまう次第でございます。
居酒屋さわこさんでは、私の趣向で日本酒を多く提供させていただいております。
同時に、私の親友・和音が、この世界の酒造り職人のワノンさんと一緒に開発しているパルマ酒も当然扱っております。
ワノンさんが今までに製造なさっておられましたお酒は、どちらかというとワインといいますか果実酒に近い風味のお酒でした。
それが、日本酒のことが大好きで、日本酒の造酒屋に就職していた和音が加わりまして、日本酒の技法を導入したことで、この世界にパルマ酒という名前の、全く新しい日本酒が出来上がった次第でございます。
いい日本酒には、いいお水といいお米も必要になるわけですが、バテアさんが見つけた小さな異世界、通称さわこの森には、綺麗な水が流れています。その水や、芳醇な大地を利用して栽培されているアミリア米がございます。
これらの偶然の出会いがあったからこそ、この世界にパルマ酒が生まれたわけでございます。
朝ご飯の準備をしていた私は、壁に置かれておりますパルマ酒の酒瓶を見つめながらそんなことに思いを巡らせていた次第でございます。
私とバテアさんの出会いにしても……本当に偶然だったわけですし、あの出会いがなかったら、アミリア米も、さわこの森も、パルマ酒も……そして、当然、居酒屋さわこさんも存在しなかったと思われます。
私の世界には、『一期一会』と言う言葉がございますけれども……あの日、あの時の出会いが積み重なって、今があるわけでございます。
これからも、出会いを大切にしながら日々精進していきたいものですね。
◇◇
ジャッケが食材に加わりましたことで、さわこの森の皆様に提供させていただいております朝食にも早速使用させていただいております。
今朝の献立は、
ジャッケの切り身
厚焼き卵とカリカリベーコン
ほうれん草の白和えと自家製のお漬物
ジャッケとダルイコン ー大根もどきー のお味噌汁
カゲ茸ご飯
と、ジャッケをしっかりと利用させていただいております。
このジャッケの料理ですが、お店のメニューといたしましても、皆様の食事のメニューといたしましても大変好評でございまして、
「あは! ジャッケのお味噌汁だ! さわこ、これお代わりある?」
食が細くて、滅多にお代わりなさらないアミリアさんが満面の笑顔でそう言われるほどでございます。
そんなアミリアさんに私は、
「はい、もちろんですよ。いっぱい召し上がってくださいね」
そうお答えさせていただいたのですが、
「やったー! ラッキー!」
と、アミリアさんではなく、その後方におられた、近所にお住まいのツカーサさんが嬉しそうになさっておいででして……なんといいますか、ホントにさわこの森の皆様の一員として普通に食事に参加なさっている次第でございます。
皆様に配膳を終えた私・バテアさん・リンシンさん・ラニィさん・エミリアの4人は、カウンターに座って自分達の朝食を食べ始めました。
「今日も、森で少し狩りをしたら……ジャッケを狩ってくる」
「じゃ、リンシン達が森から戻ってくるまでの間に魔法薬の精製を終わらせておくわね」
リンシンさんとバテアさんがそのような会話をかわされておられますように、私達は毎日のようにジャッケ狩りにでかけている次第です。
何しろ、ジャッケってばすごい数、遡上してきておりますので、狩っても狩っても切りが無いのでございます。
川の周辺には多くの亜人種族の皆様が住んでおられるのですが、ジャッケのせいでこの時期だけ別の場所へ転居なさる方々も少なくないそうです。
何しろ、騒音だけでなく、下手をしたらあの古代怪獣族の方々までやってきかねないのですからね……お気持ちはよくわかります。
◇◇
この日、ジューイさん達と一度森におでかけになったリンシンさん。
お戻りになられたリンシンさん達は、クッカドウゥドルやマウントボアなどを多数仕留めておられました。
それを受け取った私は、早速下ごしらえをしておきました。
ちなみに、クッカドウゥドルはトサカ、マウントボアは右耳を切り取って冒険者組合に提出すれば、報奨金を受け取ることが出来ます。
ジューイさん達に、その部位をお渡ししているのは言うまでもございません。
リンシンさんを含めた冒険者の皆様が、その分配作業を終えられましたのと同時に、
「おまたせ、済んだわよぉ」
魔法薬の入った瓶を大量にかかえたバテアさんが2階から降りてこられました。
その魔法薬の瓶を、エミリアと一緒にお店の棚に並べ終えられたバテアさん。
これで、メンバーが揃いましたので、私達はそのままジャッケ狩りに出かけた次第でございます。
◇◇
ジャッケ狩りはあまり人気ではありません。
ジャッケ自身はそんなに強くはないそうなのですが、その騒音はとんでもありません。
下手をしたら、鼓膜がやられてしまいかねませんからね。
しかも、運が悪いと古代怪獣族の方々に出くわす危険性もございます。
確かに、特別報奨金がかけられているとはいいましても、リンシンさんのお話によりますと、
「……命の危険をともなう狩りにしては……報償安い……」
とのことらしく、そのため、不人気なのだそうです。
もっとも、私達にはバテアさんがおられます。
バテアさんの魔法で、遡上してくるジャッケを一気に陸にあげていただきまして、そこに冒険者の方々が一斉に駆け寄りまして、その口を切り取りながら回収していくわけなのですが、バテアさんの魔法のおかげで、とにかく効率よくその作業をこなすことが出来ているわけでございます。
しかも、巨大な古代怪獣族が迫ってくれば即座に近くに避難いたしまして、バテアさんに防壁魔法を展開してもらうことも可能です。
「ジュ、バテアおかげで命の危機にさらされることなく、いい儲けが出来てるジュ」
嬉しそうにそう言われておられますジューイさん。
そんなジューイさんのマントも、新しい物になっていた次第でございます。
川に到着いたしました。
……♪ ……♪
ちょうど、川下から、いつものメロディーが聞こえてきております。
「さぁ、来たわよ! みんな用意はいいかしら?」
「ジュ!」
「……うん!」
「はいよぉ!」
バテアさんの言葉に、ジューイさん・リンシンさん・クニャスさん達が一斉にお返事を返されました。
同時に、みなさん耳栓を耳にはめられました。
程なくすると、
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
お馴染みになりましたあの音楽が聞こえて参りました。
魔法の耳栓をしておりますのに、しっかり聞こえてきております。
耳というよりも、これは体が感じて、骨を通じて聞こえている……そんな感じでございます。
そんな中、バテアさんが右手を上げられました。
同時に、大量のジャッケが川岸に打ち上げられていきます。
そこに、ジューイさん達が一斉に駆け寄られまして、ジャッケの口を切り取りはじめました。
さぁ、私も頑張らないといけません。
腕力や体力には、とんと自信がございませんけれども、包丁仕事でしたらおまかせください。
私は、身近に落下していたジャッケに駆け寄ると、その口を右手に持っていた包丁で切断いたしました。
「……あれ?」
その時、私はあることに気が付きました。
私の周囲が真っ暗になっているのです。
私は、おそるおそる振りかえりました。
そこに……ティラノの顔があったのでございます……
ーつづく
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