異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、秋の森 その1

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イラスト:NOGI先生

 ラパーナさんがご帰宅なさってから数日経ちました。

 滞在なさっている間中、私のことを
「さわこ師匠!」
 バテアさんのことを
「バテア師匠!」
 そう呼称なさりながら、常に2人のどちらかの後をついて回られていたラパーナさん。
 
 そんなラパーナさんがいなくなったわけですので、安堵してはいるものの、心のどこかで少し寂しく思っている私もいたりするものですから……ホントに、不思議なものでございます。

 それはベルも同じようです。
 
 ラパーナさんが私につきまとう度に、
「ふー!」
 っと、背中の毛を逆立てていたベルなのですが、
「……あの女、次はいつくるにゃ?」
 そんなことをたまに聞いてくる次第でございます。

 つきまとわれるのは少々あれではございましたけど、ラパーナさんがおられた間はとても賑やかでしたものね。

◇◇

 とはいえ、いつまでもラパーナさんの事を懐かしんでばかりいるわけには参りません。

 いつものようにさわこの森の皆様に朝ご飯を準備していく私。
 これが、最近の私の、毎朝最初のお仕事になっています。

 今朝の献立は、

 ジャッケの切り身とカゲタケのホイル焼き
 出汁巻き卵焼き
 肉じゃがと
 豚汁
 ご飯

 以上でございます。

「ジャッケとカゲタケのホイル焼きも美味しいけどさ、この肉じゃがもやっぱり美味しいのよねぇ」
 いつものように、さわこの森の皆様に混じって朝食を食べておられます、近所にお住まいのツカーサさんが満面の笑顔をその顔に浮かべておられます。
 本来ですと、ツカーサさんはさわこの森で働いておられませんので、この朝食に加わるべきお方ではないのですが、きちんと代金をお支払いくださっていますし、気が付いたら毎朝必ずといっていいくらいの頻度で朝食を食べておられるさわこの森の皆様の中に加わっておられるものですから……
 とにもかくにも、毎朝こんなに素敵な笑顔で食べてくださるのですから、私といたしましてもむしろありがたい次第でございます。

 私が、そんな言葉をツカーサさんへおかけしておりますと、

「さわこさん、もちろん美味しいですよ!」
「毎朝、こんなに美味しいご飯をありがとうございます」
「ホント、毎朝最高です!」
 さわこの森の皆様までもが、そのように申してくださりながら、私に向かって満面の笑顔を向けてくださった次第でございます。

「皆様、本当にありがとうございます」
 少々面食らいながらも、皆様にそうお返事させて頂きながら頭を下げさせて頂いたのですが……やはり、こういった言葉をかけて頂けますと、とても嬉しく思えてしまう次第でございます。

 皆様に向かって笑顔を向けながらそんな事を考えていた私。
 そんな私の耳に、

「あ、あれぇ!? 私のジャッケの切り身どこにいった?」
 ツカーサさんのそんな声が聞こえてまいりました。
 そちらへ視線を向けますと、困惑しながらジャッケの切り身がのっていたお皿を持ち上げては
「ここかな?」
 そう口になさっているツカーサさんのお姿とともに、その少し向こう……カウンターの端におかれている座布団の上で丸くなったまま、その口をもごもごさせているベルの姿があったのでございます。
「まったくもう、ベルったら……」
 私は、そんなベルを見つめながら、新しいジャッケの切り身を焼き始めました。

◇◇

 朝ご飯を終えた私は、さわこの森へ戻っていかれる皆様をお見送りいたしました。
 次いで、トツノコンベ近くの森へ狩りに向かわれりリンシンさん達、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆様をお見送りした私は、洗い物を終えると、
「では、まいりましょうか」
 バテアさんと、ベルと一緒に森に向かって出発いたしました。

 目的は、森の中に実っている秋の味覚を収穫するためでございます。

 私が住んでいた世界は、もうすっかり秋でございます。
 週に1度、仕入れと換金のために戻っておりますけれども、その度に気温が下がっているのを実感しております。

 それは、現在私が住んでおります、ここトツノコンベも同様でございます。

 バテアさんによりますと、
「このパルマ世界事態は割と温暖なんだけどね、ここトツノコンベがある大陸の北方地帯はね、これからの時期結構寒くなるのよねぇ」
 とのことでございます。
 そのような気候にあわせまして、森の中にございます秋の味覚もあれこれ実っているそうなのです。

 そのようなことをバテアさんにお聞きした私は、
「ぜひ収穫しに行ってみたいです」
 そう、バテアさんにお願いしていたのですが……本日、ついにその日がやってきた次第なのでございます。

「よう、バテアさんにさわこさんじゃないか。今日はどこまで行くんだい?」
「ちょっと城壁周辺の森をぐるっと回ってこようと思ってね」
「私とベルは、バテアさんのお供をさせていただきます」
 城壁の門番をなさっておられましたランスさんとそのような会話を交わしながら、私達は城壁の外へと出向いてました。

 ランスさんは狼人の方でございまして、居酒屋さわこさんの常連さんでもあります。
 ランスさんは、私達に笑顔を向けてくださいますと、
「また夜に寄らせてもらうからさ。くれぐれも気をつけて」
 私達にそう声をかけてくださいました。
 そんなランスさんに私は、
「はい、お待ちいたしております」
 笑顔でお返事をかえさせていただきました。

 ここ、辺境都市トツノコンベに限らず、辺境都市とよばれている多くの都市はこういった城壁でその周囲を囲まれているそうです。
 これは、森の中に棲息しています凶暴な魔獣達から住人の身を守るためのものでございます。
 もっと規模の小さい町や村、集落などにも、自衛のためにその周囲を木の柵などで囲っているそうです。

 今まで、そんな危険とは無縁の生活を送ってきていた私だけに、この城壁の存在にはいまだに違和感を感じてしまいます。

 そんな城壁を過ぎ、森の奥へと進んでいくと、ベルが嬉しそうに背伸びをしていました。
「森の中はやっぱり気持ちいいにゃ」
 猫の状態から人型へ姿を変化させたベルは、そう言いながら私の腕に抱きついてまいりました。
 
 トツノコンベの中では、基本的に猫の姿で過ごしているベル。
 そのため、居酒屋さわこさんの常連客の皆様も、ベルがこうして人型になれることをご存じない方も少なくありません。

 そんなベルに抱きつかれながら、私はバテアさんの後を追いかけて、森の中へと向かっております。

 ベルは、私に抱きつきながら笑顔を浮かべ続けているのですが……その頭頂部分から飛び出しています猫状の耳を忙しく動かし続けています。

 私達と一緒に暮らし始めるまでは、森の中での生活が長かったベルでございます。
 無意識のうちに周囲を警戒する癖が身についているのでしょうね・

 そんなベルを頼もしく感じながら、森の獣道を進んでいたのですが……
「あ」
 私達の前に、数本の木が出現いたしました。
 
 その木々には、オレンジ色をした実がたわわに実っていたのでございます。
 これ、柿にとてもよく似ております。

「ひょっとしたら食べられるかも」
 私は、その実に手を伸ばしました。
 すると、そんな私よりも早く、ベルがその実をもぎ取り、口に運んでいったのですが……次の瞬間、
「うえぇ……すっごく渋いにゃあ」
 そう言いながら、表情をゆがめていたのでした。

ーつづく 
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