異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、バテア青空市

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 居酒屋さわこさんがございます、バテアさんの巨木の家の裏側は、以前は空き地でした。
 バテアさんがここにお店を構えた時からずっと空き地だったそうです。

 バテアさんのお宅は商店街のやや外れにございますので、それもあって購入希望者がいなかったのかもしれません。

 そんな中、その土地を所有なさっていた方が亡くなったそうで、その際にバテアさんに
「よかったら買ってもらえないだろうか?」
 と、遺族の方から持ちかけられたそうなのです。

 あまり好立地でなかったこともありまして格安な値段を提示されたので、バテアさんも購入をお決めになったそうです。

 特に目的があって購入なさったたわけではなかったため、最初の頃はバテアさんも薬草を栽培する畑を細々と作っていた程度だったそうなのですが、

 今、この空き地にはバテア青空市が設置されています。

 かなり広かった空き地全体を使って建設されている青空市の建物は、最初は文字通り屋根もなく空き地に物を置くだけの状態で運営していました。

 それが、アミリアさんのアミリア米や各種お野菜、ワノンさんのお酒などの取り扱い量が増えるのに比例して手数料収入も増加していきました。

 収益を使って、この青空市をグレードアップさせております。

 まず屋根をつくり、
 次に、床を整備し、
 更に、荷物置き場を整備し、

 と、徐々に青空市はその姿を変えていっております。

 その工事はすべて大工のドルーさんにお願いしております。
「おぉ、さわこのためならいくらでも頑張ってやるぞい」
 そう言って、いつものようにガハハと笑いながら、ドルーさんはお弟子さん達と一緒に頑張ってくださいました。

◇◇

 そんな経緯がございましたバテア青空市は、今朝も朝早くから営業しております。

 さわこの森から転移ドアを使ってエミリアがやってくると、ほぼ同時刻に近所住んでいるショコラが出勤してきます。

 バテア青空市は、この2人によって運営されています。

「グッモーニンショコラ、さ、今日も頑張りましょう」
「おはようございますエミリアさん。はい、頑張りましょう!」
 笑顔で挨拶を交わし合うと、2人はまず青空市の掃除から開始します。

 ほどなくすると、バテア青空市の建物の奥に、バテアさんがさわこの森からの荷物搬入のために設置してくださった転移ドアをくぐって、元上級酒場組合の方々が、アミリアさんのアミリア米やお野菜、ワノンさんのお酒などが詰まっている木箱を荷車にのせてやってこられます。

 皆さんが、持参した荷物を青空市の所定の位置に陳列していると、青空市と契約してくださっているお店の方々が顔を出してこられます。

 このバテア青空の主なお客様は、ジュチさんが組合長を務めておられます中級酒場組合の酒場の皆さんです。

 当然、ジュチさんも朝一でお見えになるのですが、女性の方と一緒にお越しになることが多いそうです。
 エミリアによりますと、
「ジュチのお店のバイトのガールみたいなんだけどね、よく人が違うのよ」
 とのことでした。

 その言葉に、少々引っかかる物を感じた私ですが……具体的にそれが何なのかまでは理解出来なかったものですから、それ以上はあれこれ考えないことにした次第でございます。

 さてさて……

 徐々にお客様がお見えになられはじめたバテア青空市の入り口に、今日は私も立っております。
 先日、善治郎さんから頂きましただるまストーブを置きまして、その上で生姜湯を作成しております

 朝の冷え込みが日に日に厳しくなってきております。
 市場にやってこられている皆様の服装も徐々に厚着になっておられます。

 そんな皆様に少しでも暖かくなって頂こうと思い、今日からはじめて見たんです。

「あれ? さわこ?」
「ジュチさん、おはようございます」
 早速私に気付いてくださったジュチさんが、私の元に駆け寄ってきてくださいました。

 エミリアから聞いておりましたとおり、女性の方がご一緒です。
 小柄でショートカットの、可愛い感じの女性ですね。

 その方と2人して、私の元に駆け寄って来てくださったジュチさん。

「寒い中ご苦労様です。一杯いかがですか? お酒ではありませんけどあったまりますよ」
「さわこが勧めてくれるものなら何でももらうわよ!」
 ジュチさんは大喜びのご様子なのですが、その喜び具合と反比例するようにお連れの女性の方のご機嫌が悪くなっているような……

 とりあえず、私は、だるまストーブの上でくつくつ煮こんでおりました生姜湯を紙コップによそいました。
 仕上げといたしまして、はちみつをひとすくい加えます。

「はい、お試しくださいな」
 私は、紙コップを、まずジュチさん、次にお連れの女性の方にお渡しいたしました。

 2人は早速その生姜湯を口になさいました。
 熱いので、よく冷ましながらゆっくり飲まれていたのですが、
「ふぅ、これはいいわね。寒さが吹き飛ぶ気がするわ」
 ジュチさんは嬉しそうに笑っておいでです。
「ね。リカナ。あなたもそう思うでしょ?」
「……そうですね、はい」
「もう、何、不機嫌そうな顔をしてんのよ」
 相変わらず不機嫌そうな表情のお連れの方、リカナさんと言われるみたいですね。
 そのリカナさんの肩を笑いながら叩いておられるジュチさん。
 肝心のリカナさんですが、生姜湯は美味しそうに飲んでくださっているのですが……時折私へ視線を向けては不機嫌そうな表情をうかべておいでのような……

 ……はて? 私はリカナさんに何かしてしまったのでしょうか?

 少々困惑しながらも、
「お代わりご希望でしたら遠慮なくお申し付けくださいね」
 私は笑顔で、お2人に話しかけました。

◇◇

 その後、私が生姜湯を配布していることに気が付かれた他の方々が

「あら、さわこさんが何か配ってるわね」
「まぁ、さわこさんの近くは暖かいのね」

 そのようなことを口になさりながら。私の側に歩み寄ってこられました。

 そんな皆様に私は、
「寒い中ご苦労さまです。一杯いかがですか? お酒ではありませんけどあったまりますよ」
 笑顔でそうお声をかけていきました。

 いつしか私の周囲は、生姜湯を求める皆様と、だるまストーブで暖を取る方々でいっぱいになりました。

「寒くなってきたから、こういうのはホント助かるわ」
「中央卸売市場じゃ、こんなサービスなかったものね」

 私の周囲は、そんな声と皆様の笑顔で溢れておりました。

 お試しでやってみたこのサービスですけど、どうやら皆さんに喜んで頂けたようですね。
 冬の寒い間のサービスとして、しばらく続けてみようと思います。

 そんな中……
「ちょっとジュチ様! なんでリカナと一緒なんですか!」
「げ!? ポクミ!? い、いや、これはその……」
 バテア青空市に駆け込んでこられた女性が、ジュチさんに駆け寄っていきました。
 どうもお怒りモードのご様子です。
 そんな、その女性、ポクミさんを前にしてジュチさんはタジタジなご様子です。
 そんなジュチさんに変わってリカナさんがポクミさんの前に出て行かれました、
「私のジュチお姉様に難のご用ですか?」
「わ、私のって!?」
 
 そのような感じで何やら言い合いが始まってしまったのですが……


「あの……あれは一体……」
「あぁ、さわこさんほっとけばいいよ、ジュチの自業自得なんだから」
「自業自得ですか?」
「そ、ポクミと付き合ってるくせに、リカナにも手を出したもんだからさ」
「はい?」

 酒場組あの方のお言葉の意味が一瞬わからなかった私。

 ジュチさんは女性ですし、ポクミさんもリカナさんも女性ですし……

 そこまで考えたところで、私はようやく思い出しました。
 ジュチさんは女性の方とお付き合いなさる方だったのでした。

 じゃあ、リカナさんが私を見て不機嫌そうな表情をなさっていたのは、私をジュチさんの彼女を勘違いなさって……

 いたってノーマルな私といたしましては、大層戸惑ってしまうシチュエーションなのですが、とりあえずジュチさんには、目の前のお2人のケアをしっかりして頂きたいと思った次第です。

 一部でそんな修羅場もございましたものの、今日もバテア青空市は盛況でございました。

ーつづく
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