異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、忘年会の気配

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「忘年会……ですか?」
 そんなお話を役場のヒーロさんから打診されたのは、本日の営業時間のことでした。

「うん、この居酒屋さわこさんは役場にも常連が多くてね、もし可能ならここで忘年会をさせてもらえたらと思っているんだけど」
 カウンター席に座っておられるヒーロさんは、お酒を飲みながら笑顔でそう言われました。
 その横には、同じ役場の同じ部署で働かれていますシウアさんのお姿もありまして、
「はい、僕をはじめ、このお店のファンがすごく多いんですよ」
 満面の笑顔でそう言ってくださいました。

 ちなみに、シウアさんはヒーロさんの直属の部下になられるそうなんです。

「それはとてもありがたいお話なのですが……」
 そう言いながら、私は少し困惑いたしました。

 ……この居酒屋さわこさんは、そんなに広いわけではございません。
 
 バテアさんの魔法雑貨のお店のスペースをフルに使用させて頂きましても、総勢で40人入れればいい方と申しますか、それだけの方々を招き入れてしまいますと、ぎゅうぎゅう詰めになってしまいかねません。
 役場全体の忘年会ともなりますと、確か100名近い方々がおられたはずなのですが……
 そのことを思案しながら、私は首をひねってしまいました。

 すると、そんな私に気が付かれたのか、
「あぁ、お邪魔するのは僕の部署の者達だけで、総勢20名ですから」
 ヒーロさんはそう言って笑ってくださいました。

 そうですね……その人数でしたら十分対応可能ですね。

 当日は、バテアさんの魔法雑貨のお店のスペースを間仕切りしまして、そこを個室状態にすればヒーロさん達にも忘年会を気兼ねなく楽しんで頂けるでしょうし、いつもの常連客の皆様には居酒屋さわこさんのスペースでいつものようにお酒と料理を楽しんでいただけます。

「はい、そういうことでしたらよろこんでお受けさせていただきます」
 私は笑顔でそうお答えさせていただきました。

◇◇
 
 その翌日のことでした。

「さわこ、私達もこのお店で忘年会してもいいかな?」
 そう言ってこられたのは冒険者のクニャスさんでした。
 その横で、リンシンさんも頷いておられます。

「ほら、アタシ達ってさ、ここ居酒屋さわこさんに専属で雇ってもらってるじゃない? おかげでさ、すごく儲かったし、いい思いもさせてもらったしさ、そのお礼と、1年近く一緒に仕事をしたみんなの慰労を兼ねた忘年会をしたいなって思ってさ、今日の狩りの際にリンシンやみんなとも話しをしたんだ」
 クニャスさんは笑顔でそう言ってくださいました。

 そうなんですよね。

 クニャスさん達、居酒屋さわこさんの常連客になってくださっておられます冒険者の皆様の多くが、居酒屋さわこさんと専属契約を結んでくださっているんです。

 その皆様のおかげで、居酒屋さわこさんでは定期的にクッカドゥウドルやその他の魔獣を仕入れる事が出来ていましてお店としてもすごく助かっているのですが、冒険者の皆様にとっても
『長期で契約を結んでくれてて、値切りもしないし、しかも美味しい朝ご飯とお昼ご飯まで支給してくれるんだもん。お礼を言いたいのはこっちの方よ』
 クニャスさんは笑顔でそう言われました。

 これは後でバテアさんから教えて頂いたのですが……

「この世界ではね、冒険者と専属契約を結んでてもね、雇い主の気分次第で約束してた代金を支払わなかったり、契約期間を無視して解雇したり、まぁ、結構好き勝手してるやつらが多いのよ。そんな経験を嫌ってほどしてるクニャス達にしてみれば、さわこは女神様以外の何者でもないでしょうからね」

 とのことなのだそうです。

 私的には、契約をさせていただいたのですからその契約内容をお守りするのは当然のこととの思いしかなかったのですが……異世界でもいろいろあるのですね……

 人数的にも10名程度とのことでしたので、

「はい、喜んでお受けさせていただきますわ」
 私は、クニャスさんとリンシンさんに笑顔でお答えさせていただきました。

◇◇

 その、さらに翌日のことでございます。

「さわこ、私も仲間達との忘年会をこのお店でさせていただくわけにはいかないだろうか?」
 笑顔でそう申し出てこられたのは、ゾフィナさんでした。

 その申し出を受けた私は、
「え? ゾフィナさんも忘年会をなさるのですか?」
 と、思わず芽を丸くしてしまいました。

 あのですね……

 今は普通の女性の姿をなさっているゾフィナさんなのですが……その本来のお姿はですね、半分が幼い女の子の姿で、もう半分が骸骨でして、その背に大きな羽をお持ちの、神界の執行人とかなんとか言われるお方なのでございます。

 これを私の世界に当てはめますと……天国から使わされた天使さんとでも申しましょうか……

 そんな世界の方々が忘年会をなさると言うことに、少々びっくりしてしまった私なのですが……よく考えてみましたら、それもありうるお話ですよね、と、改めて納得してしまいました。

 何しろ、その神界の使者であられますゾフィナさんなのですが、居酒屋さわこさんのぜんざいをすごく気に入ってくださっていまして、週に5日は神界からこのお店まで転移魔法を駆使なさってご来店くださっているんですもの。

「はい、喜んでお受けさせていただきますよ」
 ゾフィナさんに、私は笑顔でお答えさせていただきました。

 するとゾフィナさんは嬉しそうに笑顔を浮かべられました。

「うむ、これで仲間達にも、この店のぜんざいを心ゆくまで味わってもらえるな」
 笑顔のまま、そう言われたゾフィナさん……

 えっと、ちょっと待ってください?

 そのお言葉ですと……なんだか料理はぜんざいだけでいい、と、聞こえなくもないのですが……

「ちょっとゾフィナ。あんたまさかぜんざいだけで忘年会する気なの?」
 まるで私の言葉を代弁してくださるかのように、バテアさんがゾフィナさんに話しかけてくださいました。
「何を言うか、そんな馬鹿なことがあるわけないであろう?」
 そんなバテアさんに、ゾフィナさんはそうご返事なさいました。

 そ、そうですよね、せっかくの忘年会ですものね、他の料理も当然味わってくださいますよね……

 私が安堵のため息を漏らしておりますと、そんな私の前でゾフィナさんはおっしゃいました。

「当然甘酒もいる! ぜんざいには甘酒がつきものだからな」
 
 そう言って楽しそうに笑われるゾフィナさん。

 ……この調子ですと、ゾフィナさん達が忘年会をなさる日は、居酒屋さわこさんの店内はぜんざいと甘酒の匂いであまったるくなってしまいそうですね……

 ……でも、それがお客様のご要望なのでしたら

「はい、よろこんでお受けさせていただきますよ」
 びっくりなさっているバテアさんの視線の先で、私はそう言いながら笑顔をうかべておりました。


ーつづく


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