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さわこさんと、スノードロップ その1

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 今日は天気がいまいちですね……

 ここしばらくの間は晴天に恵まれていたのですが、今日は朝方から雨が降っております。

「う~ん……雨で済めばいいんだけど……」
 珍しく早起きなさっているバテアさんが窓の外を見つめながら首をひねっています。
「どうかしたのですか?」
「この時期の雨はちょっとねぇ……気にしすぎだといいんだけど」
 そう言いながら窓の外を見つめておられます。
 そのお言葉の意味がいまいちはかりかねた私……
「そうですね、とりあえず早くいい天気になってほしいですね」
 そうお答えすることしか出来ませんでした。

 リンシンさんは狩りに出かける準備をなさっています。
 乾いた長い草を編んだ雨除け装備を身につけておられるのですが……少しふくよかな体型のリンシンさんがこれを身につけられますと、まるで雪ん子のよう……と、でももうしましょうか、とても可愛らしい感じがいたします。

 お店の扉がノックされました。

「ジュ、リンシン準備出来たジュ?」
 外からジューイさんの声がいたします。

 居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆様がお越しくださったようですね。

「……じゃ、言ってくる」
 リンシンさんはそう言うと玄関へと向かって行かれました。

 私は、その後ろをついていきます。

 リンシンさんが扉をお開けになられますと、その向こうにはすでに冒険者の皆様が勢揃いなさっておられました。

「皆様、天気が悪い中ご苦労様です」
 私はそう言うと、いつもの魔法袋をリンシンさんにお渡しいたしました。

 この魔法袋の中には、皆様の朝ご飯とお昼のお弁当が入っております。

 この魔法袋という品物なのですが、握った拳程度の大きさしかないのですが、その内部が魔法的な空間になっているといいますか、ちょっとした宝物殿並の広さを誇っているのだそうです。
 しかも、この中に入れておくと、品物の劣化も防げるという、食品を扱っている私といたしましてはまるで夢のような品物でございます。
 本来ですとすごい高価な品物らしいのですが、バテアさんはこれをご自分で製造なさることが出来るそうでして、私はその品物をお借りしてあれこれさせていただいております。

 いつもですと、さわこの森で働いてくださっている皆様と一緒に朝ご飯をお食べになられてから狩りにでかけられる皆様なのですが、今日は少し遠出をなさるとのことで早めに出立なさるのです。
 そのため、朝ご飯も一緒に入れさせて頂いたのですが、今日はもう1つ……
「中に甘酒の入った水筒を入れております。寒さしのぎにお飲みくださいな」
 笑顔で皆様にお伝えいたしますと、

「うわぁ、ありがたいわ」
「今日みたいな日にはホント助かるよ」

 クニャスさんをはじめとした冒険者の皆様はそう言って笑顔を浮かべてくださいました。

 その後、手を振りながら出立なさっていく皆様を、私は街道まで出向きましてお見送りいたしました。

 少々濡れてしまいましたけど、冒険者の皆様はそれ以上ですものね。

◇◇

 お店に戻ると、バテアさんもお出かけの準備をなさっておいでです。
 
「ちょっとね、薬草採取で出向いている異世界で頼まれ事をしちゃってね」
「朝早くからご苦労さまです」
 いつもの外出着の、紫色のローブとトンガリ帽子を身にまとわれたバテアさん。
 鏡を前にして小指で唇と眉毛の下を一撫でなさいますと、綺麗な口紅とアイシャドーが……

 口紅は少し明るめで光沢のある紫

 アイシャドーは、ダークながらのその端にラメが入っておられます。

 どちらも、キリリとした美人さんのバテアさんによくお似合いです。

 思いっきり童顔な私には絶対似合わない大人のお化粧と申しますか……でも、少し憧れてしまうんですけどね。

 そんな事を考えている私の前で、バテアさんは右手を前に伸ばされました。
 その手の周囲に魔法陣が出現し、その前方にさらに大きな魔法陣が出現いたしました。
 その大きな魔法陣の中に、みるみる扉が出来上がっております。

「じゃ、行ってくるわね、さわこ。お店の時間までには帰ってくるわ」
 そう言われたバテアさんに、私はお弁当と飲み物が入った水筒をお渡しいたしました。
 バテアさんは、それをご自分がいつも身につけておられます魔法袋に入れられました。
「いつもありがとね、さわこ」
「いえいえ、これくらいなんでもありません」
「じゃ、行ってくるわ」
「はい、お気をつけて」
 手を振りながら転移ドアの向こうへ移動していかれるバテアさん。

 そんなバテアさんを私も手を振り替えしながら、笑顔でお見送りいたしました。

◇◇

「さて、そろそろさわこの森の皆様がおいでになられますし、準備をすませちゃいましょう」
 私はそう言いながら厨房へ移動していきました。

 これも、居酒屋さわこさんの大切なお仕事でございます。
 居酒屋さわこさんで使用しているお野菜やお酒などを、皆さんお作りくださっているのですもの。

「さわこさわこ」
 そんな私に、エンジェさんが声をかけてこられました。
 
 ベッドから起きだした後、居酒屋さわこさんのカウンターの端に移動させたクリスマスツリー。
 そのツリーに寄り添うようにして座っている天使のオーナメントの形をなさっているエンジェさん。

「はい、なんでしょう?」
「さわこ、ほらほら」
 そう言って、エンジェさんは窓の外を指さしておられます。

「あら」
 私は、そちらを拝見いたしまして、思わず目を丸くいたしました。

 その視線の先、窓の外に白い物が舞っています。

「……雪、ですかね」
 
 アンジェさんを肩にのせて、私は窓辺へ歩みよっていきました。
 そっと窓を開けます。

 冷たい風が店内に入ってまいります。

 その風と一緒に、雪の結晶がいくつか店内に……

 ふわりと舞った小さな塊達は、だるまストーブの熱ですっと消え去っていきました。

 その光景を、私は思わず笑顔になりながら見つめております。

「エンジェさん、雪ですね」
「えぇさわこ、雪ね」
「積もりますかね」
「そうね、積もるといいわね」
「あ、でも……積もったらリンシンさん達が困ってしまいますね」
「そうね、困るかもね」
「……積もってほしいですけど、皆様には困ってほしくありませんね」
「さわこって、時々とっても欲張りね」
「そうですね……確かに欲張りですね」
 エンジェさんの言葉に、私は思わず苦笑してしましました。

 雪は好きです。

 それなりの年齢をしている私ですが、みんなで雪合戦をしたりかまくらをつくるのは大好きです。
 私の世界で生活していた頃、親友のみはる達と一緒にスキーに行った際などでも、スキーそっちのけで雪合戦をみんなに懇願したり、1人で一心不乱にかまくらを作ったりしていたものです。

 ……でも

「では、みなさんに困ってほしくないので、雪は積もらないようにお祈りいたしましょう」
「そうね、さわこならそう言うと思ったわ」
「そうなのですか?」
「えぇ、私の大好きなさわこなら、きっとそう言うと思ったわ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」
 
 エンジェさんに軽く頭を下げた私は、窓を閉めると厨房へ戻っていきました。

 いつの間にか、ベルも降りてきていました。
 牙猫姿のまま、だるまストーブに一番近い椅子の上で丸くなっています。

「ベル、おはようございます」
「ふにゅう~……さーちゃんおあよ~……むにゃむにゃ」
 
 ふふ……ベルはまだお眠のようですね。

 では、私は朝ご飯の準備をしてしまいましょう。

ーつづく
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