異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、スノードロップ その2

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『では、みなさんに困ってほしくないので、雪は積もらないようにお祈りいたしましょう』

 そうお祈りした私だったのですが……

 雨に混じっていた雪は徐々にその数を増し始めまして、お昼過ぎには周囲を真っ白に染め上げていたのです。
「降り出してしまいましたねぇ……」
 窓から外を見つめて射る私。
「そうねさわこ、降り出したわね」
 肩にのっかっているエンジェさんもそう言いながら少し困り顔な様子です。

 今年、トツノコンベで初めての雪。

「ベリーホワイト! すっごく降り出したわね」
 バテアさんの魔法雑貨のお店の店番をしていたエミリアも私の側にやってきて窓の外を見つめています。

「エミリア、このあたりではこの時期に雪が降り始めるのですか?」
「そうね、そんなイヤーも無きにしも非ずだけど、ここ数年では一番早いと思うわ」
「まぁ、そうなんですね」
 
 エミリアとそんな会話を交わしておりますと、
「うう~寒いにゃあ」
 ベルがそんな声をあげながらだるまストーブの近くへ移動していました。

 だるまストーブの一番近くにある椅子の上にのぼって、その上で丸くなっています。

 そういえばそうですね……

 店内はバテアさんが設定してくださった室温調整用の魔石の力で一定温度に保たれているはずなのですが……気のせいでしょうか、少々肌寒く感じてしまいます。

「……あら?」
 違和感を感じまして、柱に設置されている室温調整用の魔石を確認に行ってみますと……気のせいでしょうか、魔石の色がすごく薄くなっている気がいたします。
 
 夏は、質温を下げるためでしょうか、青く光っているこの魔石。
 最近は室温を上げるためでしょうか、赤く光っていたのです。

 それが、今、私の目の前にございます魔石は、うすーい赤色をしておりました。
 室内にございます他の魔石を見て回りましたところ、全ての魔石がそのような状態です。

「エミリア……これってどういうことでしょう?」
「アンビリーバボー……これ、魔石の魔力が切れかかってるじゃないの」
 そう言うと、エミリアは慌てて魔法道具の店に戻っていきました。

 レジ横にあります棚を開けると、その中から魔石の入った小箱を取りだしてきました。

 私の前で、薄く輝いている室温調整魔石。
 エミリアは、それを手慣れた手つきで取り外しまして、小箱の中の新しい物に交換いたしました。

 すると……

 新しく設置された魔石が色濃く、力強く光り輝きはじめたのです。
 同時に、その魔石からすごく暖かな波動を感じ始めました。

 右手をかざしてみますと、熱いくらいの熱気を感じます。

「部屋が少しコールドだから、最初は過剰稼働すると思うわ」
 エミリアは、そう言うと、他の魔石も交換していきました。

「エミリアは、こういう作業に慣れているんですね」
「えぇ、アミリア姉さんがやってた温室の温度管理を任されていたこともあるのよ。だから私にとって魔石交換作業はベリーイージーな作業よ」
「まぁ、そうだったんですね」
 そんな会話を私と交わしながら、エミリアは最後の魔石に手を伸ばしています。
「あ、あのエミリア」
「ホワット、何かしらさわこ?」
「あの……もしよかったらその魔石の交換、私にやらせてもらえないでしょうか?」
 私がそう言いますと、
「OK、いいわよさわこ。私がいない日に交換しないといけなくなることがあるかもしれないものね」
 そう言いながら、エミリアは私に真新しい室温調整用の魔石を手渡してくれました。

 その後、私はエミリアと、肩にのっかっているエンジェさんと一緒に最後の魔石が設置されている柱へ移動していきました。

 居酒屋さわこさんとバテアさんの魔法道具のお店の、ちょうど間にある柱の中程にその魔石は設置されていました。
 
 私は、その魔石に手を伸ばしました。

 暖かさはほとんど感じません。
 色合いも薄く、ほとんど透明でございます。

「そうよさわこ、その魔石をレフト、左にまわすの。90度よ」
「こ、こうかしら?」
 私は、エミリアの指示に従いながら魔石を左へひねっていきました。

 それを、きっちり90度回したところで

 カチリ

 そう、小さな音がいたしました。

 すると、同時にその魔石がコロンと台座から外れたのです。
 私の手のひらの中に転がってきたその魔石……まだ少しですが、輝きを放っているように見えます。

 私は、その魔石を見つめながら、
「今までありがとうございました。お疲れ様」
 笑顔でそう言いました。

 すると、

 魔石が一度、ぽうっと輝きを増したような気がいたしました。
 そして、次の瞬間……魔石は完全に透明になってしまったのです。

「その魔石がね、さわこに『ありがとう』って言ってたわ」
 エンジェさんがそう教えてくれました。

 ……きっと、最後の力を振り絞ってわたしにお礼を伝えてくださったのですね。

 エミリアの指示に従って、私は台座に新しい魔石をセットいたしました。
 
 カチリ

 右に90度回すと同時に、再び小さな音がいたしました。
 同時に、その魔石が赤く輝きはじめました。
「魔石さん、これからよろしくお願いしますね」
 私は、魔石に笑顔で語りかけました。

◇◇

「ふ~、あたかくなったニャ」
 室温調整魔石をすべて新しい物に交換したおかげで、急速に室温があがったおかげでしょう。
 ベルは、いつものカウンターの端にございます座布団の上に戻って丸くなっています。
 ベルにとって、居酒屋さわこさんの店内で一番のお気に入りの場所みたいですね。

 そんなベルを見つめながら、私は厨房で作業をはじめました。

 雪の中お戻りになられるリンシンさんをはじめとした冒険者の皆様。
 そんな皆様に、店内で暖を取って頂こうと思っている次第です。

 まず、日本酒を徳利にいれてだるまストーブで燗いたします。
 水をはったタライの中に、徳利をいくつか並べていきます。

 お酒は、雪中梅を使っております。

 新潟三梅に数えられる銘酒の1つ。
 淡麗辛口で、お米の旨みがしっかりと舌に伝わってくる大変美味しいお酒です。

 越乃寒梅や峰乃白梅も好きなお酒ですが、この新潟三梅の中で私はこの雪中梅が一番好きかも知れません。

 「しれません」と疑問形になっておりますのは、その日の気分や体調などによって変動する可能性を否定出来ないからでございます。
 それだけ、この新潟三梅のお酒はどれも美味しいということなんです。

 だるまストーブがしゅんしゅん音を立てる中。
 たらいから湯気があがり、徳利からも湯気が立ち上っています。
 燗によって舞い上がったお酒の香りが、ほどよく店内に漂っています。
 
 この香り……居酒屋独特の香りな気がして、私は大好きです。

 厨房の中。
 私はお鍋で粕汁を作成しております。

 この世界のお野菜ダルイコンやニルンジーン、それに私の世界で購入してきたこんにゃくと厚揚げなどを拍子切りにして、お出汁を張ったお鍋に入れます。あ、こんにゃくは少し遅れてからですね。
 醤油・塩・味噌で味を調えながら煮こんでいき、具材に味がしみこみ始めたところで酒粕をゆっくりと溶かしながら入れていきます。

 コトコトクツクツ

 いい匂いが漂ってくるそのお鍋をお玉でゆっくりかき混ぜます。
 最後に、醤油と塩でもう一度味を調えれば完成です。
 刻んだ青ネギを多めにのせてお出しいたします。

「……あら?」

 お店の前から、何やら話し声が聞こえてまいりました。

 どうやらリンシンさん達、冒険者の皆様がお戻りになったようですね。
「ベル、申し訳ないのですがバスタオルを持って来てもらえますか?」
「さーちゃん、わかったにゃ」
 ベルは、カウンターから駆け下りると、その姿を牙猫から人型に変化させてかけていきました。

「ベル、戻ってくる時には服を着てくるんですよ!」

 そうなんです……牙猫から人型に変化すると、ベルは素っ裸の状態になっているのです。

 脱衣所に向かって裸で駆けて行ったベル。
「さーちゃんわかったにゃ」
 そんな声をあげながら廊下の奥へ移動していきました。

 同時に、お店の扉が開きました。

 リンシンさんを先頭に冒険者の皆様が入ってこられました。

「皆様、雪の中お疲れ様でした。さ、温かい物を準備しておりますので、まずは一休みなさってくださいな」
 私は、笑顔で皆様に話しかけました。

 今日のさわこさんは、まずは冒険者の皆様の慰労から営業開始ですね。

ーつづく 
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